仕事の創り方を変えよう!No.5
阿部真大×廣田周作:組織に属しながら自由に働く人の仕事術
2014/04/24
近未来の予測もできないほど、変化の激しい今の時代。前例、慣習にならうのではなく、自ら社会の中に新しい役割、働き方を見つけていく必要があります。広告業界に限らず、そんな新しい働き方を見つけ、実践する方に電通プラットフォーム・ビジネス局の廣田周作さんが話を聞きに行きます。
工学部出身の経歴も生かし、ソーシャル上のデータから消費者ニーズ、情報拡散の流れなどを分析。さらにその知見をコミュニケーション活動、クリエーティブ開発に生かしてきた廣田周作さん。現在は電通の中で、「コミュニケーション・プランナー」という新たな仕事のスタイルを開拓しようとしています。そんな廣田さんが今回、対談相手に選んだのは、社会学者の阿部真大さん。これまで、若者論や地方での働き方や暮らし方を研究されてきましたが、近著『「破格」の人』(角川SSC新書)では、組織に属しながら自由な働き方をしている人々を取り上げています。そこにどんな意図があるのか、今なぜ組織に注目しているのかを聞きます。
Theme① なぜ、今、組織が面白いと感じたのか
阿部:よくある議論というのは、「社畜」論にあるように、個人の自由と抑圧を二項対立的にとらえるものです。これは分かりやすいし、受けがいい。世の中の秩序をはね返す、という秋元康さんの歌詞の世界観です(笑)。秋元さんの詞は「後ろ指さされても、僕は自由に生きる」という、ものすごく近代的な、モダンな社会観を語ります。それがなぜ受けるかというと、分かりやすいから。特に社会経験が少ない、会社で働いたことがないような中学生や高校生には受け入れられやすい。それは一昔前のモデルで、今は全然違うわけですが、学生は働いたことがないから分からなくて、組織というのが巨大な悪の帝国みたいに見えるわけです。
廣田:大きな組織が個人に対する抑圧装置に見えているということですね。
阿部:分かりやすいからメディアもそれをあおって、対抗する自由な生き方みたいなものが推奨されます。
現実的に、これから働いていく上でそんなことを思っていても働けないし、時代は変わっています。実際に今、企業で働いている人がどんなふうに働いているのかを見ると、組織人であることは、企業である以上、当然求められます。ただ、そのような企業の中にも、ロバート・B・ライシュがいうところの「変人」的な人が活躍できる場所はあるということが言いたかったんです。
──阿部さんが組織に注目したのは、学生が持つ「働き方」に対する考え方を変えたいという思いと、元々優秀な彼らに興味があったのがきっかけでした。
Theme② 正しい学問のあり方
阿部:組織の中をどうやってハックしていくかという話になるんですけど、学問の世界で例えると、やっぱり基礎がなっていない学者はバカにされるわけです。
廣田:基礎練習は辛いものという前提があって、それを抑圧と感じる人もいるわけですよね。
阿部:ものすごい抑圧です。修士課程の2年間は、ひたすら先生と先輩に「何の意味があるんだ?」とか「どこが新しいんだ?」とやられるわけです。そんなときに自由に学問がやりたいなんて言っても、自由なんてないんだっていうことを言われる。
廣田:電通の研修に似ているかもしれません(笑)。
阿部:それが正しい学問のあり方で、まずは自由なんてないと、たたき込まれる。そうしてたたき込まれた上で次の一手を打てるかどうか。その一手を打てれば、面白いものになるだろうし、たたき込まれたものを踏まえているので、その後もそう変な手は打たないでしょう。結局、本人のことを考えても、学者人生を長く続かせていくためには基礎づくりの時間は必要だと思います。
それに近いものを電通の研修のお話を伺って感じました。君は自由ではない、電通の文化の上で生かされているということを身にしみて理解することが第一にあって、そこから自分らしさみたいなものをどうやって出すか。社会人の最初の数年は下積みです。高校時代、大学時代は変わり者で、ものすごく面白いことをやっていた人でも、社会人になるとすごい勢いで組織の抑圧を受ける。一旦、組織人としてたたかれて、10年くらいたって、やっと出てきたときに、変人であった学生時代の経験が生きてくるという感じです。だから今、僕と同世代の団塊ジュニアの人たちが面白いのは、その基礎づくりの時代を経た人たちが、ようやく表舞台に出てきているからだと思います。また、そういった意味では、基礎のできていない若い頃に注目されてしまった人と、基礎ができた上で花開いた人の間では、大きな違いがあるのかなという気もしています。
──自由ではないことを理解し、組織の抑圧を受ける基礎づくりの大切さを説く阿部さん。そして、それは学問の世界でも企業でも大きく差はないようです。
Theme③ 良い組織とは
廣田:阿部先生は良い組織ってどういう組織だと思いますか。
阿部:良い組織は、強い組織ですよね。良い悪いで言うと、多分、世の中で一番良い組織は、僕の地元の岐阜のヤンキーがつくる組織だと思いますけど、居心地の良い組織という意味で。岐阜のヤンキーは集まって、みんな同じようなことを考えて。
廣田:うぇーい! とか言っている。
阿部:集まってうぇーい! って言っているのが多分、一番居心地が良い。同じことを考えているから意思の疎通も簡単です。でも、岐阜のヤンキーは生産性は限りなく低い。新しいものを生み出さないからイノベーションを起こせない。
そう考えると、強い組織をつくるためには単に居心地が良いだけではまずいわけです。やっぱり緊張感があって、中できちんと競争が起きていて、ダイバーシティーがあってっていう組織が強い組織なんじゃないですかね。
廣田:居心地の良さと強さっていうのは、両立しないのかもしれないですね。どこかで緊張感が必要ということですね。
阿部:両立しないですね。
──良い組織は岐阜のヤンキーだという阿部さん。しかし、同時に居心地が良いだけでは強い組織ではないとも話し、居心地の良さと強さは両立しないと断言しました。
Theme④ 広告会社としてのスタンス
廣田:今、まさに広告業界の人が「マイルドヤンキー」が新しい消費を牽引していくから、これからはヤンキーを狙おうって言い始めていて、ちょっとお気楽すぎるだろうと思っています。特定の層に名前を付けて、そこに消費の可能性があればバンザイ、みたいなことに無責任さを感じています。つまり、ニーズを掘り当てて、そこに受ければいいという話と、ビジョンを持って世の中をこんなふうにしていこうよっていう提案のコミュニケーションと、二つあると思うんです。そこに広告に関わる人としてのスタンスとかあり方が問われている。自分たちで価値創造とか言っているだけに、何をもって価値としているのかというところもあると思います。
阿部:マイルドヤンキー層は、特に若い男性に関しては極めて権威主義的で、排外主義的で視野が狭い。投票行動は保守的な方向に傾いていて、自民党的なものと親和性が高い。これは多分、アメリカの田舎と似たような構造です。リベラルな考え方は、こういうところからはなかなか出てきません。
電通の人は学歴も高いし、リベラルな人が多いと思うんですけど、マイルドヤンキーのレベルまで降りていって売ることを考えるのか、それではまずいということで別のビジョンを見せて、彼らをよりましな方へ導いていくのかというのは、企業が何を目指すかにかかってくると思います。
学者だとある種の政治的信条をもって企業を批判することはできますが、企業と一緒に物を売っていこうという広告会社としては難しい。そういうスタンスの中で広告を作るときに、どこまで批評的な精神を埋め込めるかというのは、これからどれだけ気骨のある人が出てくるかというところにかかっていると思います。
廣田:今日はありがとうございました。最後にものすごくいい話が聞けました。
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