ろーかる・ぐるぐる #32

ぐるぐるの兄「デザイン思考」

ワラスの四段階説を母(第30回にリンク)に、野中郁次郎先生のSECIを父(第31回にリンク)に持つ「ぐるぐる思考」には兄のような存在があります。それが「デザイン思考」です。

『デザイン思考が世界を変える』

 

世界的に有名なデザイン・ファームIDEOのトム・ケリーらが著した『発想する会社!』によればそれは五つの基本的なステップを踏みます。


1.理解 市場、クライアント、テクノロジー、問題点について認識されている制約事項を理解すること。(中略)
2.観察 現実の状況のなかで現実の人びとを観察し、なぜ人がそうするかをみつけだす。(中略)
3.視覚化 全く新しいコンセプトと、それを使う顧客の姿を目に見えるかたちで描きだす。(中略)
4.評価とブラッシュアップ 短時間にいくつもプロトタイプをつくり、それを繰り返し評価し、練り上げていく。私たちは、初期段階のプロトタイプにあまり固執しないようにしている。それらが変わっていくことを知っているからだ。(中略)
5.実現 新しいコンセプトを市場にだすために、現実のものにする。

 

デザイン思考は「人間」を物語の中心に据えた思考法です。デザイナーの原研哉さんはデザインを「悲鳴に耳を澄ます」ことだ、「世界は技術と経済をたずさえて強引に先へ進もうとし、生活の中の美意識は常にその変化の激しさにたえかねて悲鳴をあげるのだ。」とおっしゃっています。デザイン思考の「2.観察」で行われるのは、まさにこの「悲鳴に耳を澄ます」行為そのものです。デザイナーでなくてもデザイナーのごとく考えよう、という指摘です。
もうひとつ特徴的なのは「4.評価とブラッシュアップ」の「ラピッド・プロトタイピング」です。正論を積み上げて具体策を開発するのではなく、具体策をつくりながら「両手を使った思考」をするところにデザイン思考の真骨頂があります。

目標課題アイデア具体策4つのフレーム


ぐるぐる思考とデザイン思考のもっとも大きな共通点は両者ともに「身体的な思考」だということです。どちらも理性だけでなく勘や経験といった感覚的なものまでを活用するための方法論であり、本質は同じです。その一方で大きく2つの相違点があるようです。
ぐるぐる思考は組織による知識創造モデルであるSECIを父としているため、アイデアを開発するには必ず「目標」を必要とします。企業で言えばビジョンや理念のようなものです。アイデアは課題を解決して目標に向かうための手段に過ぎないので、アイデアをつくる際は必ず「目標」を念頭に置かなければなりません。デザイン思考の場合、たとえば「企業のビジョン」は「1.理解」で制約要因として把握されますが、それ以上の積極的な役割を果たしていないように思われます。

もうひとつの違いは「ことば」の役割です。『知識創造企業』の共著者である竹内弘高先生は野中先生のことを、敬意を込めて「コンセプトおじさん」と呼んでいました。常々「なにより重要なのはコンセプトだ!」とおっしゃっていたからです。SECIを父に持つぐるぐる思考もその家風を受け継ぎ「どんな新しい視点でもことばにして把握したい!」という傾向があります。
また、広告づくりの方法論がベースになっているからでしょうか。コピーのような「実感のあることば」のチカラを使ってラピッド・プロトタイピングをすることすらあります。
わたし自身が十分な理解をしていない面もありますが、いろいろな話を見聞きする限り、デザイン思考が「ことば」に頼る割合は、これに比べるとずいぶん小さいようです。

メタメタ会メンバー。各務くん(中央)は今年読売広告大賞最優秀賞受賞。カッコイイね!


後輩の各務太郎くんは電通を卒業し、アメリカの大学院で建築を学び直すと言います。そして将来はいわゆる設計事務所ではなく、デザイン思考のコンサルティングファームで活躍したいということです。
彼の歓送会でのこと。各務くんに刺激を受けたのか、若手連中の議論はいつにもまして熱がこもっていました。「別に広告会社でもデザイン思考的なアプローチは身につくんじゃない?」「そうなんだけど、物事を一歩上の次元から見るためには、もう一度建築のような明確な技術・方法論を身につけようと思って」「たとえば自分でプログラムを組める人は大きなコンテクストの中で企画ができますもんね」「メタに考えられて初めて枯れた技術の水平思考もできるから」「メタだ」「メタだ」云々。お酒の勢いも手伝って、深夜までかなり青臭い意見をぶつけ合いました。
これから進む道は少し違うけれど、ぼくたちがやりたいのは悲鳴に耳を澄まし、その手があったか!のアイデアで解決すること。各務くん、またいつか一緒に仕事しようね!

これにてぐるぐるの家族紹介はお仕舞い。次回はまた地方の美味しいものから事例をご紹介しようと思います。

どうぞ召し上がれ!

 

プロフィール

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    山田 壮夫
    株式会社電通 第1CRプランニング局

    1969年生まれ。アイデアを核として広告キャンペーンはもちろん、店舗開発からテレビ番組の製作まで手掛ける。特に最近は全国の地方新聞社厳選お取り寄せサイト「47CLUB」と連携してローカルにおける商品開発作業にチャレンジしている。2009年カンヌ国際広告祭(メディア部門)審査員。慶應義塾大学(メディア・コミュニケーション)、明治学院大学(経営学)非常勤講師。著書に『〈アイデア〉の教科書 電通式ぐるぐる思考』(朝日新聞出版)。

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