DMCラボ・セレクション ~次を考える一冊~ #18

弱いつながり 検索ワードを探す旅

  • Take 02 6559 hirota
    廣田 周作
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター

今回は、作家・思想家の東浩紀氏の新刊『弱いつながり 検索ワードを探す旅』(幻冬舎)を取り上げたいと思います。東さんは、私が学生時代に、とあるプロジェクトで大変にお世話になった方でして、何年もたった後、こうした形で東さんの本を紹介できるのを、弟子の一人として、個人的にもとてもうれしく思います。

  作家・思想家の東浩紀氏の新刊『弱いつながり 検索ワードを探す旅』(幻冬舎)

さて、本書はこれまでの東さんの著作(哲学書、思想書、情報社会論、文芸批評、サブカルチャー論、小説)とは違うテイストを持った、独特の手触りのある、とても魅力的な本です。僕は、一読して大好きになり、何度も読み直しています。とても読みやすく、ごくごく平易な言葉遣いで、読者に話しかけるように文章が進んでいきます。初めて東さんの本を手に取った人でも、まさに旅に関するエッセーのように、ある意味ではさらさらと読めてしまうでしょう。といっても、そこには、あまたある素朴な自己啓発本のような単純なことが書かれているわけではありません。そこには、東さんの深い知見・経験と鋭い洞察に基づいた、新しい視座と、明快で説得力のあるメッセージとが用意されています。

東氏は、本の冒頭、アメリカの社会学者、マーク・グラノヴェッターの提唱した概念「弱い絆(ウィークタイ)」を紹介しながら、今、僕らを取り巻く情報環境(SNSで過剰につながった「強いつながり」の世界)の問題と、それを超えていくための旅(本書では「観光」という言葉が鍵となります)のあり方を、さまざまな旅先での「実体験」を元に考察されています。

私なりに、本書が提起している課題を整理してみたいと思います。

今、私たちは、誰もが知っているように膨大な情報に取り囲まれた生活をしています。何かを知りたいと思ったら、検索をすれば、すぐに答えが出てくる。何不自由のない世界が実現しているように思います。見たいものをすぐ見ることができる。知りたいことがすぐ分かる。それは、とても充足した自由な生活に思えます。しかし「その状態は、本当に自由なのか?」という、筆者の疑問から本書は始まります。

どういうことか?

確かにインターネット上にある情報は広大で豊かです。「何でもある」と言っても過言ではありません。だから私たちは思うがままに、検索をします。それは一見「自由」な行動に思えます。誰からも支配されている気はしない。しかし、よくよく考えてみれば、検索ワードとは自分の今いる環境の中からしか思いつけないということが分かります。検索という行為は、今自分がいる環境に大きく規定されています。つまり、「ネットは見たいものが見れる」ということは、裏返せば「ネットでは見たいものしか見ていない」ともいえるわけです。あなたの選ぶ検索ワードは、環境に規定されており、あなたの素直な欲望によって選ばれた検索キーワードと、その検索結果は、自己肯定を強化することはあれど、新たな気づきや、知見を手にすることができない、ということを著者は主張します。

いくつか、著者の言葉から、引用してみましょう。

ぼくらはいま、ネットで世界中の情報が検索できる、世界中と繋がっていると思っています。台湾についても、インドについても、検索すればなんでもわかると思っています。しかし実際には、身体がどういう環境にあるかで、検索する言葉は変わる。欲望の状態で検索する言葉は変わり、見えてくる世界が変わる。裏返して言えば、いくら情報が溢れていても、適切な欲望がないとどうしようもない。

ネットには情報が溢れていることになっているけど、ぜんぜんそんなことはないんです。むしろ重要な情報は見えない。なぜなら、ネットでは自分が見たいと思っているものしか見ることができないからです。そしてまた、みな自分が書きたいと思うものしかネットに書かないからです。
(太字は、作者=東氏によるもの)

では、情報検索の限界をどのように超えればよいのか?

東氏の出している答えは、実に明快です。物理的にあなたが今置かれている環境を変えること。すなわち「旅に出ること」だと言います。

本書では「若者よ旅に出よ!」と大声で呼びかけたいと思います。ただし、自分探しではなく、新たな検索ワードを探すための旅。ネットを離れリアルに戻る旅ではなく、より深くネットに潜るためにリアルを変える旅
(太字は、作者=東氏によるもの)

では、どのような旅が有効なのでしょうか?

本書では、自分探しに夢中な「旅人(バックパッカー)」ではなく、「観光」という旅のあり方の魅力が述べられていますが、具体的には、ぜひ本書を手に取って読んでみてください。

ところで、本書の指摘は、われわれ、日々企画を行っている広告会社の人間にとっても、非常に耳の痛いところがあります。企画の仕事を行う上でも、私たちはまず「検索」から始めることが多いからです。クライアントからオリエンを受けたら、まず、そのブランドに関することを検索し、過去の成功事例、失敗事例を検索し、その情報をストーリーとして整理し、アイデアを加えて企画にしていきます。しかし、往々にして、検索から始めてしまった企画は、自分たちが元々作りたいと思っていた欲望の範囲内での企画にしかなりません。デスクリサーチには限界があり、情報が情報を編み変えただけで、偶然性や驚き、新しい気づきが得られるものではありません。本当に良い企画、コミュニケーションとは、意外な他者との偶然の出会い、偶然であるのにそれが必然でしかなかったような、かけがえのないような出会い、気づきを提供することにあると思います。

最後に自分のことを書いて恐縮ですが、最近、企画をしていてもなかなかブレークスルーできなかったのですが、僕こそ旅に出る必要があるのかもしれないと思ったのでした。本当に良い本なのでオススメです。

【電通モダンコミュニケーションラボ】

 

プロフィール

  • Take 02 6559 hirota
    廣田 周作
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター

    2009年に電通入社。企業のソーシャルメディアの戦略的活用コンサルティングから、デジタル領域における戦略策定、キャンペーン実施、デジタルプロモーション企画、効果検証を担当。社内横断組織「電通ソーシャルメディアラボ」「電通モダン・コミュニケーション・ラボ」などに所属。著書に『SHARED VISION』(宣伝会議)。

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