ろーかる・ぐるぐる #40

for goodはイノベーションに欠かせない

大学を卒業するとき、なんとなくそのままビジネスの世界に没頭するのが怖くて、会社生活と並行してできそうなボランティアを探しました。そこでたまたま出合ったのが設立直前のJFC(Japanese-Filipino children)ネットワークでした。
当時、多くのフィリピン人女性が来日して日本人男性と出会い、子どもを産んでいました。多くの幸せな家庭ができた一方で、父親の養育放棄や国籍法の不備などから苦しい生活を余儀なくされていた子どもたち(JFC)を支援するために結成された団体です。
以来20年。出来の悪いボランティアが辞めることなく続けてこられた背景には「フィリピン料理」があります。

カレカレ
フィリピン料理「カレカレ」
 

タイやベトナムに比べてだいぶ地味な印象ですが、フィリピンにはタマリンドの酸味が利いたスープ「シニガン」、ピーナツソースベースのシチュー「カレカレ」(バゴーンという塩辛をつけて食べるとさらに旨い)など、個性的なメニューがあります。毎年クリスマスパーティーで母親たちがつくる料理を楽しみにしていたら、いつの間にか時間が過ぎていたという感じです。

JFCネットワークに所属してよかったのは、いろいろな場を通じて「正義って難しい」と経験できたことでした。例えばフィリピン人の母親が語る日本人の父親像はしばしば一方的です。「養育費を払わない彼が悪人だ」という主張に従ってDNA鑑定してみると、その日本人との間に生まれたはずの子どもには別に父親がいることが分かったりもします。
初代代表との関係からも多くのことを学べました。正直ぼくとは個人的な思想信条がまったく相いれないような方だったので、テーマによっては取っ組み合いのけんかになっちゃいそうなのですが、一緒にマニラへ旅行した時に触れたお人柄はとても柔らかくて魅力的でした。そのうち、信じる正義が違ってもJFCをサポートしたいという思いは共通なのだから、まぁ仕方がないのかなと感じるようになりました。
さらに最近のJFC問題もますます複雑になっています。かつては養育や国籍など、その幼い「子ども」が持つ当然の権利をサポートするのが主な役割でした。しかし時は流れ、彼らの多くが大人になりました。もはや「養育」される必要はない代わりに、自分の存在を確認するために認知や国籍取得をしたいと主張するようになりました。たしかに父親に見捨てられ、母国にも見放されたら、心の中でいちばん大切な自分を信じる気持ちを失いかねません。そこで「国籍が取れても、日本語ができないまま安易に日本に来たら、経済的にとても厳しい状況に陥るからね」と徹底的にオリエンテーションしてから法的支援をするのですが、実際には彼らの多くがその後来日し、貧困にあえいでいます。ある正義の下に心の問題を解決しても、新たな社会問題を生むジレンマがあります。

JFC
エッセイコンテストで受賞したJFCたち。
表彰式と20周年記念イベントは10月13日(月・祝)10時~@新宿NPO協働推進センターで開催予定。
 

来週から広告祭の「スパイクスアジア」が始まります。そこできっと議論になるのが「for good」です。リーマンショック以降世界中の広告業界でよく使われた言葉で、いわく「広告コミュニケーションのチカラを使って世界を良くするために何ができるかみんなで考えよう」「あらゆるビジネスは、それが世界をfor goodに導くものかどうかを厳しく問われる時代が来た」などなど。その結果、思わず涙が出ちゃうくらい分かりやすく人の心を動かすソーシャルテーマのキャンペーンが次々と大きな賞を獲得しました。
それが今年あたりから潮目が変わった(飽きた?)のでしょうか、for goodも良いけど、ちゃんと販促効果のあるキャンペーンをもっと褒めようよ」といった揺り戻しが目立ち始めています。これを聞くと個人的には「う~む」なのですが。

コンセプト開発
コンセプト開発の二軸
 

前回も書きましたが、経済動向にもソーシャルブームにも関係なく、以前から経営学の世界では、あらゆる企業に「単なるカネもうけを超えた基本的価値観と目的意識」が必要だと考えられています。その企業なりのfor goodを実現するために従業員は努力し、またそのfor goodがイノベーションを牽引するのです。

もちろんそこで語られる「正義」は人々の涙を誘い、広告賞を取りやすいような安易なテーマではありません。当たり前の話ですが、正義ってそんなに簡単なものじゃないからです。それは時に曖昧で、ぼくたちを迷わせるかもしれません。それでも常に「その広告コミュニケーションが世界を良くしているか?」考え続けなければならないし、「あらゆるビジネスは、それが世界をfor goodに向かわせるものかどうかが今も昔も問われている」のです。
ものごとの本質を考えずにfor goodが良いとか悪いとか一喜一憂するのは厳に慎みたいところです。

あれ?陽気なフィリピン人にケラケラ笑われちゃうくらいリキんじゃいました。次回は肩のチカラを抜いて、久々にぼくがお手伝いした新商品をご紹介しようと思います。

どうぞ召し上がれ!

プロフィール

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    山田 壮夫
    株式会社電通 第1CRプランニング局

    1969年生まれ。アイデアを核として広告キャンペーンはもちろん、店舗開発からテレビ番組の製作まで手掛ける。特に最近は全国の地方新聞社厳選お取り寄せサイト「47CLUB」と連携してローカルにおける商品開発作業にチャレンジしている。2009年カンヌ国際広告祭(メディア部門)審査員。慶應義塾大学(メディア・コミュニケーション)、明治学院大学(経営学)非常勤講師。著書に『〈アイデア〉の教科書 電通式ぐるぐる思考』(朝日新聞出版)。

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