Communication Shiftについての往復書簡 #02

安田菜津紀(フォトジャーナリスト)

⇔並河進(電通ビジネス・クリエーション・センター)

  • 30
    並河 進
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター ソーシャルデザイナー/クリエーティブ・ディレクター/コピーライター
  • Yasuda
    安田 菜津紀
    フォトジャーナリスト

僕がこの3月に出した本、『Communication Shift 「モノを売る」から「社会をよくする」コミュニケーションへ』(羽鳥書店)の中で行った、広告の未来についての思索を、バトンのように、次の人につないでいくことはできないだろうか。
そんな思いから始めた、この往復書簡。「この人にこの本を読んでほしい」と思った人に、本といっしょに手紙を書く。そして、返事をいただく。

たった、それだけのことなのに。
ああ、それだけのことなのに。

連載開始前は、「手紙を送るだけで連載になるなんて、こりゃ簡単だ、楽勝だな」なんて思っていた僕のあさはかさ。
誰かに手紙を書くというきわめてプライベートな行為と、連載として一般に公開するという行為の矛盾に苦しんで、書いてはやっぱりやめて、書き直して、を繰り返し、もはや「Communication Shiftについての未投函書簡」という別連載をはじめようか、とすら思ったり。

 

往復書簡

というわけで、ずいぶん間があいてしまいましたが、第2回は、フォトジャーナリストの安田菜津紀さんです。
僕が出版した『ハッピーバースデイ 3.11』(飛鳥新社)についての感想を、安田さんに写真雑誌で書いていただいた、というのが最初の接点でした。

安田さんは、フォトジャーナリストとして世界中の子どもたちの取材を続け、そして、東日本大震災の後には、『ファインダー越しの3.11』(原書房、共著)を出版し、それからずっと「写真を通した復興支援活動」を進められています。
とても苦しい現場を目の当たりにしているはずなのに、それを撮影することの葛藤を感じているはずなのに、僕は、安田さんに初めてお会いしたときに、その太陽のような笑顔やオーラに驚きました。

いつも、僕は葛藤を感じていました。
社会のために何かを伝えようとしたときに、手段であるはずの「伝える」という行為が、いつのまにか自分の中で目的化し、伝えるその「対象者」や「対象物」を、その目的のために利用しているようなところがあるのではないか、という自分自身に対する疑念です。

その疑念を振り払いたくて、とりあえず、くたくたになるまで、何も考えられなくなるまで、がんばってみる、汗をかく、すると、その疑念が消える、そうすることしか自分はできない。

だから、安田さんに聞きたくなったのです。
そのまっすぐな笑顔の理由を。

でも、なかなかうまく書けなくて、どうにもこうにも回りくどい手紙になってしまったのですが、安田さんはまっすぐ返事を返してくれました。

   

安田菜津紀さん、こんにちは。

僕がなぜ、安田さんに手紙を書こうかと思ったかというと、
前からじっくり話したいなあと思いつつ、
じっくり話せていない人リストでいちばん上にいたからです。

安田さんも僕も、
「伝える」ということを仕事にしています。

安田さんは、フォトジャーナリストとして、
写真を通して、途上国や被災地の情報を伝えつづけています。

僕は広告という「伝える」という仕事を通して、
すこしでも社会のためになるようなことができないか、
とずっと悩みながら動き続けています。

いつからか、「伝える」だけでは課題を解決できないこともある、
と思うようになり、もうすこし「行動」に近い、
実際の支援活動的なこと、たとえば、個人的な活動ですが、
福島での除染活動などもはじめています。

どうも、だめなんですよね。

伝えるだけ、ではいられなくなってしまう。

困っている問題を前にすると、
自分のスキルだけでは解決できなくても、
いろんな人に声をかけて、それをなんとかしたくなってしまう。

それでも、自分のスキルは、伝える、という部分で、
やっぱり伝えることで解決できることもある、と思う日もあったり。

僕が、安田さんにうかがいたかったのは、
安田さんは写真というものを
どう考えているか、
「伝える」という以上のものだと
とらえているのではないか、ということです。

安田さんが、海外や東北で撮られているたくさんの笑顔を見ると、
もしかすると、この人は、極論、その写真が世に出なくとも、
「写真を撮る」という行為を通して、
被写体を笑顔にした、ということで
目的の半分以上を果たしているのかもしれない、とさえ
思ったりします。

写真というものを、
ある種のエネルギーを生み出す、
ひとつの装置のようなものと
とらえているのかもしれない、と。

安田さんの写真を見ていると、
誰かから受け取ったバトンを左から右に渡していくようなことが
「伝える」ということではなく、
バトンを受け取る、その瞬間こそ大事、その瞬間こそすべて、
なのかもしれないと思ったりもするのです。

とりとめのない文章ですいません。

「Communication Shift」を読んでいただいて、
感じられたことと合わせて、
お返事いただけるとうれしく思います。

2014.8.9 並河進

   

 

     

並河さんへ

素敵なお手紙、ありがとうございます。
私にとっても並河さんは、ゆっくりじっくりお話したい方で、
でも西へ東へ、北へ南へ、ときには地球をぐるりと回ってしまうくらいに飛び回られている様子を見て、なかなかお声かけする勇気がありませんでした。

だからこそ、こうして落ち着いて言葉を綴れる機会を頂いて嬉しいです。
(ちょっぴり照れくさい気持ちもまた、手紙の素敵なところですね。)

並河さんがおっしゃっていたように、
「わたし」と「あなた」という真正面からの関係性の中で、
「あなた」に喜んでもらえること以上の写真の価値はないと思っています。

それを切実に感じたのはやはり、東日本大震災でした。

並河さんにはお話ししたことがあったと思いますが、
一面の瓦礫に覆われた陸前高田で、子どもたちの入学式を撮影した、あの日。
うつむいていた子がカメラに向かって一瞬の微笑みをくれたとき、
集合写真を見つめる校長先生の目から涙が溢れつづけた、あのとき。

でもそれを越えるとやっぱり私も、それ以上のことをしたくなるんです。
その度に、写真では何も出来ないんじゃないか、と思うこともあるんです。

例え私がシャッターを切っても、瓦礫が除けられるわけではなくて、
避難所の人たちがお腹一杯になるわけでもなくて、誰かの怪我が治るわけでもない。
「伝えたい」と思っても、どこまで写真に力があるだろう、と。

だから時々、お医者さんを羨ましく思うんです。
目の前にいる人の命を、直接救うことが出来るから。

時々、音楽を羨ましく思うんです。
あの熱気と高揚感に、救われた人はきっと数知れないから。

そしていつも、広告の力を羨ましく思うんです。
こんなにも扉を広げられる仕事はほかにないから。

でもそんな羨ましい仕事こそ、
手を携えて、出来ることを持ち寄ることが大切だと気づきました。

それを一番実感したのが、並河さんが声をかけて下さった、「Yahoo!検索」の東日本大震災復興支援企画「Search for 3.11」でした。

写真と、音楽と、言葉と、ネットと、支援者と、届ける人と。
ジャンルを飛び越えて、融合して、化学反応を起こす。
それがまた「広告」の力なのだと改めて思ったのです。

「Communication Shift」の中で、“「満たされている」ところからは何も生まれない”と並河さんは書かれていましたが、つまり「ない、という状態からはじめて知恵は生まれる」ということなのだと私は解釈しています。

なにかしたいけれど、一人の力だけでは出来ないことだらけ。
そのもどかしさ、葛藤がある人間が取り組むからこそ、素晴らしい場が生まれる。

並河さんのお仕事はそんなお仕事ではないかと思っています。

「Communication Shift」には、たくさんの「ワクワク」が詰まっていました。
けれども「ああ、気持ちよかった」だけでは終わらない。心にいい意味での「引っかかり」が残るんです。

この引っかかりを上手く言葉で表現することが出来ないのですが、
それが心に可能性の「種」を植えることなのかもしれません。

次に並河さんからどんなアイディアが生まれるんだろう?
これからもこの“ワクワクを超えた何か”を築く仕事、楽しみにしています。

フル稼働の日々だと思いますので、
今度、三陸のお魚を食べて栄養をつけながら、ゆっくりお話させて下さい。

感謝を込めて。

2014.8.19 安田菜津紀

 

 

※「Search for 3.11」
Yahoo! JAPANによる東日本大震災復興支援企画。「Yahoo!検索」で「3.11」と検索すると、Yahoo! JAPANが検索したユーザー一人につき10円を復興支援のために寄付するしくみで、3月11日にあらためて被災地や復興について想いを寄せること、また、その想いを形に変えて復興支援につなげることを目的として実施された。安田菜津紀さんの写真とメッセージとともにプロジェクトの想いを伝えるムービー「ずっと忘れない篇」も制作した。
http://promo.search.yahoo.co.jp/searchfor311/

プロフィール

  • 30
    並河 進
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター ソーシャルデザイナー/クリエーティブ・ディレクター/コピーライター

    1973年生まれ。
    電通ソーシャル・デザイン・エンジン代表。
    社会貢献と企業をつなぐソーシャル・プロジェクトを数多く手掛ける。「電通ギャルラボ」代表。ワールドシフト・ネットワーク・ジャパン・クリエーティブディレクター。上智大学大学院、東京工芸大学非常勤講師。受賞歴に、ACCシルバー、TCC新人賞、読売広告大賞など。著書に『下駄箱のラブレター』(ポプラ社)、『しろくまくんどうして?』(朝日新聞出版)、『ハッピーバースデイ 3.11』(飛鳥新社)、『Social Design 社会をちょっとよくするプロジェクトのつくりかた』(木楽舎)他。

  • Yasuda
    安田 菜津紀
    フォトジャーナリスト

    1987年神奈川県生まれ。studio AFTERMODE所属フォトジャーナリスト。16歳のとき、「国境なき子どもたち」友情のレポーターとしてカンボジアで貧困にさらされる子どもたちを取 材。現在、カンボジアを中心に、東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で貧困や災害の取材を進める。東日本大震災以降は陸前高田市を中心に、被災地を記録 し続けている。2012年、「HIVと共に生まれる -ウガンダのエイズ孤児たち-」で第8回名取洋之助写真賞受賞。共著に『アジア×カメラ 「正解」のない旅へ』(第三書館)、『ファインダー越しの 3.11』(原書房)。上智大学卒。

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