loading...

コンテンツマーケティングの現場からNo.6

マスの思考の癖から脱け出すための
3つのポイント
~Content Marketing Sydney 2015 速報

2015/04/22

2015年3月16日(月)から18日(水)、オーストラリア・シドニーで開かれた、コンテンツマーケティングのカンファレンス「Content Marketing Sydney」(米Content Marketing Institute主催)に参加してきました。公式ページの案内ではアジア・パシフィック最大のカンファレンスとうたわれていましたが、実際はオーストラリアのローカル色が強かったような…。とはいっても、まだまだコンテンツマーケティングの歴史が浅い私たちにとっては示唆に富むメッセージが多くありました。

コンテンツマーケティングは、戦略や企画のたて方が一見マス広告と同じように見えますが、実際は似て非なるところが多々あります。私たちはしばしばそのことに気がつかないまま、これまでのやり方や判断基準で進めてしまいがちです。どうやったらその罠に陥ることを少しでも避けられるのか。今日は、シドニーで得た情報の中から速報として3点ほどお話ししようと思います。

1. ターゲットの絞り込みを恐れていないか
  ~‘Fractal Marketing’

デジタルの時代はターゲットの細分化が重要だ、1to1のコミュニケーションだとよく言われます。ターゲットによってコンテンツやアドの出し分けをする、といったことも行われています。
ですが、コンテンツの企画の段階で、あるいはコンテンツプラットフォームのコンセプトを考える段階で、ニッチなターゲット設定をすることはあるでしょうか。

たとえば、30代女性、農業に興味がある人、平日はオフィスで働いていて週末は郊外で農業を楽しむ。そのあたりまでは設定するでしょう。でもさらに、農業といっても家畜を育てることに興味があって、その家畜も小さい生き物で、中でも鶏やアヒル、七面鳥を飼いたいと思っている人。そこまで設定を絞り込んで企画を提案したとき、打ち合わせで出てくる反応は「それって特殊な人だよねえ」「世の中に数千人とか数万人しかいない人を相手にしても、コスト合わないよねえ」というのが大半でしょう。

ところが、そこまで細分化して話題を集めたのが、この「The Chicken Whisperer®」。鶏の飼育に関するありとあらゆる情報(卵の産ませ方や鳥インフルエンザの情報から、鶏の世話の仕方を教えてくれるイベント、鶏小屋が当たるキャンペーンまで!)が配信されており、ここで放送しているラジオ番組には毎週聴くリスナーが2万人ほどいるそうです。

2万人という数字は、マスコミュニケーションに慣れてきた私たちから見ると決して多くはありませんが、これだけ情報があふれ、せっかくブランドと接点を持ってくれたユーザーも次の瞬間には新しいニュースに目を奪われ離れていってしまう現代に、何度も来てくれるリピーターを持っている、というのは、ブランドとして大きな資産になります。

大きな資産を得るために、より絞り込んだミクロなターゲットに向けてのコンテンツ、あるいはコンテンツプラットフォームをつくる。コンテンツの送り手としてはなかなか勇気のいることではありますが、ユーザーから見ればそんなにニッチで詳しい情報が集まっている場所は他にはないわけで、何度も訪れる理由は大いにあるのです。

2. メディアから考え始めていないか
  ~‘Story first, media second.’

「Facebookをやろう」「ブログを始めよう」。打ち合わせや提案のときに、私たちはついつい口にしがちです。けれど、Facebookやブログは「戦術」にすぎないのです。
戦術に至る手前にはまず、

①価値あるコンテンツ体験とはどんなものか。

②そのコンテンツ体験を提供することによって、発信場所である自社メディアが得られる「成功」とはどんなものなのか。そのコンテンツ体験を提供することによって自社のビジネスが得られる「成功」とはどんなものなのか。

③どうやって、つまりどのチャネルを使ってどれくらいの頻度で、そのコンテンツ体験を実際に提供していくのか。

④それをどうやって続けていくのか。

⑤価値あるコンテンツ体験を具体的に企画する。

というところまで考えてから初めて、ではブログをやろう、というふうに戦術にたどり着くべきなのに、この①から⑤のステップが抜けているケースが多い(これは日本でも同じだと思いますが)のだと、Content Marketing InstituteのRobert Rose氏は語っていました。

プロジェクトを始めるとき、私たちはまずは目に見えている「ハコ」から決め、中身に何を入れるか、を後回しにしがちです(というより、そのような順序で決めていることに気がつかない、ということさえあります)。

でも、一番最初に考えなければならないのが「中身」。すなわちコンテンツです。どんな情報ニーズに応えて、どんなコンテンツ体験を提供するのか。コンテンツの定着のカタチ(記事なのか動画なのかブログテキストなのか…)も戦略もまだ定まらない中で具体的な企画を考えるのはかなりやりづらい作業です。

少し話がそれますが、私はここで必要なのは、企画の最終形ではなく「企画のサンプル」のようなものだと考えています。商品でいえばプロトタイプのようなものです。そういう具体物の材料を目の前に置きながら、「価値あるコンテンツ体験」とはなんなのか、コンセプトを練り直し、それを具現化する企画サンプルをまた出していく。そうやって、コンセプトとプロトタイプを行ったり来たりする作業を続けると、自分たちが提供すべき価値がよりシャープに浮かび上がってくるように思います。

3. どんな場合でも通用する共通のものさしを求めていないか
  ~‘Purpose-Driven Content’

Content Marketing Instituteの調査によれば、オーストラリアでは、自分たちの組織は既にコンテンツマーケティングを手掛けていると答えたマーケターは89%。けれど、効果があると感じているのは29%、効果があるのかないのか、どちらともいえないと答えた人が50%だったそうです。

コンテンツマーケティングには、成功や失敗を決める客観的なものさしがあるわけではありません。成功かどうかを決めるのはあくまでも、クリアしたいゴールを持っている当事者です。言い換えれば、クリアしたいゴールを持たなければ、うまく進んでいるのかいないのか、効果があったのかなかったのか、の判断ができないということです。

カンファレンスでは「Purpose-Driven Content」という言葉が何度か出てきました。なぜそのコンテンツをつくるのか。その目的は何か。楽しいコンテンツ企画に入る前に、目的とその達成度合いを測るためのKPIを決めておく必要があります。

そうそう。つい流れで書いてしまいましたが、KPIの測定は「(そのコンテンツの)価値を証明する指標」と考えられがちだが実は「プロセスを改善していくためのものなのだ」という話も、あるセッションの途中にさらりと組み込まれていました。

コンテンツマーケティングは、「自分で決めた目的に向かって、プロセスを改善しながら進めていく」もの。その道中が順調で、途中に設定されているハードルをきちんとクリアできたり、時には失敗することで新たな学びを得ていく、そういうプロセスを体験して初めて「効果があった」と感じられるものです。「コンテンツがバズった」体験や「新規客をたくさんとれた」といった「点の成功」がすべてではないのです。

そのような効果を体験、獲得するために必要なのは、最初に立てた戦略の「文書化」。「コンテンツマーケティングの成功のためには、とにかく戦略を文書化しておくこと」、そして「その文書を見直しながら、コンテンツの企画や配信のやり方をゴールに向かって調節していくこと」これも本カンファレンスで何度か聞いたアドバイスでした。文書にしておく戦略書の内容は、たとえばこんなことです。

①ゴールは何か。

②どんなペルソナ(ユーザー像)の人間が、このゴールによって満足を得るのか。

③価値あるコンテンツ体験とはどんなものか。私たちは、ユーザーが購入するまでのシナリオの中に、その体験を盛り込むことができるだろうか。

④私たちのこの価値提案を、他とどう違うものにするのか。

⑤どうやって意見を述べるのか。どのチャネルで?どんな目的で?(編集方針・戦略)

⑥どうやってそれを可能にするか。プロモーション?テクノロジー?人?計測?

⑦時間をかけて価値を構築しながら、どうやってそれを確実に継続していくのか。

コンテンツマーケティングは期間限定のキャンペーンではないのでずっと続いていきます。ずっと続いているとあたりまえですが、その間に自社のトップが入れ替わったり、他部署から横やりが入ったり、商品の売れ行きが突然悪くなったり。とにかくいろいろなことが起きます。そのたびにチームも対応を迫られるわけですが、そんなときにも、基軸となる戦略が文書化されていないと戻るところが見えなくなり、知らぬ間に別の方角に向かっていってしまいます。そしてそんな「事情」が続くと(実際続きがちなのですが)、目的自体がぶれていって効果があったかどうか、なんだかよくわからなくなってしまうのです。

以上3つ。シドニーで改めて確認したポイントでした。
マスメディアのマーケティングコミュニケーションに携わった経験のある人間は、多かれ少なかれ、そのやり方に慣れています。その思考の癖からどうやって抜け出すか。今後コンテンツマーケティングの成否を決める重要なポイントになっていくことだと思います。