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コンテンツマーケティングの現場からNo.7

コンテンツをどう届けるか。
コンテンツでどう集めるか。

2015/05/13

コンテンツマーケティングを現場目線からお伝えする本対談。第2弾は2回にわたり、アウトブレイン ジャパン社長の嶋瀬 宏さんとお話をします。今回は、コンテンツを作るだけでなく、流通させることの大切さを語ります 。なおアウトブレインについては、過去の記事でもご紹介しています。サービスについての概要は、そちらをご覧ください。今回は電通 ビジネス・クリエーション・センターでコンテンツマーケティングにおける有望なソリューションのビジネス開発を行っている青木 圭吾氏にも参加していただいています。
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左から、青木 圭吾氏(電通)、郡司 晶子氏(電通)、嶋瀬 宏氏(アウトブレイン ジャパン)

郡司:まずは、というよりいきなりなんですが、嶋瀬社長は「コンテンツマーケティング」ってどんなふうなものだと捉えていらっしゃいます?

嶋瀬:コンテンツマーケティングというのは非常に範囲が広い話なので、かなり広義な意味があると思っています。古くからあるコンテンツマーケティングとしては、例えばミシュランガイドのように、最終的な目的はタイヤを売ることですが、まずレストランなどユーザーにとって価値ある情報を提供する中でブランドのファンになってもらってゴールを目指す。これは、一消費者としても共感できます。

ただ、こうしたことを広くマスマーケティングでやっていこうとすると、非常にコストも時間もかかった。けれど、デジタル化が進むことで、こうした手法が手軽にできるようになってきています。

郡司:消費者にとっては、いきなり売りつけられなくて済むというか、むしろありがたい時代になりましたよね。

嶋瀬:消費者にとっては「価値ある情報」がかなり多様化し、しかも「価値」そのものも非常に速く変わっている。それに応えようとして企業が鮮度の高い情報をデジタル上で発信し続けるため、情報過多になる。

そうなってくると、ユーザーひとりひとり、そのときどきに価値ある情報をちゃんと届けるツールが必要になる。実は、これが見落とされがちですが、コンテンツマーケティングでは、良質なコンテンツを作ることと同じくらいに、どうやってコンテンツをユーザーに届けるかが大事なんです。

郡司:そのへんって「バナー張っておけばいいよね」で済まされるケースも多々あるので、嶋瀬さんにぜひしっかりお聞きしたいところです。

嶋瀬:わかりました。その話の前置きになりますが、アウトブレインのユニークなところはワールドワイドでコンテンツマーケティングのナレッジリソースを蓄積している点です。私がニューヨークで初めてアウトブレインのスタッフと会った2012年11月の時点で、既に彼らは前身のサービスも含めると10年近くコンテンツマーケティング的なアプローチをしていたんです。そのなかでさまざまな成功や失敗を経験し、そのノウハウをサービスに反映していました。現在までの数万クライアントの実績を集積し、コンテンツマーケティングの英知がつまっています。

アメリカで成功したことが日本などのアジアやヨーロッパでそのまま成功するわけでもないことは大前提ですが、デジタル領域におけるコンテンツマーケティングという概念を、日本においてこのサービスを通して支援していく中で、金太郎あめ的に同じことをやるというわけではなくて、こういうことが起きたときは、これはブラジルのマーケットと近いね、その分野なら米国に成功事例があるなど、グローバルの知見を活用してお客様をサポートできるところが魅力的で、日本のクライアントに対しても非常に有益な価値を提供できると確信しました。

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郡司:失敗とか成功が集約されてサービスになっているということですが、具体的にコンテンツマーケティングにおける失敗および成功はどう定義されますか?

嶋瀬:結論からいえば、KPI(重要業績評価指標)の設定の仕方と、それを実際にメジャーメント(計測)できるのかという点です。まずKPIがなければ、何が失敗なのか成功なのかがわからない。そして設定したKPIに対し、メジャーメントを行うことで、それを次にどう生かすかというPDCAサイクルになる。これを回すことを意識していないと、コンテンツを作り、認知されたけど、これでよかったんだっけで終わってしまう。それが失敗のひとつです。

郡司:アウトブレインを使うときは、そこのKPIの設定の仕方とか、ゴールの設定はどう考えるんですか。

嶋瀬:どのような商品・サービスなのか、購買ファネルにおいてどの段階のユーザーにリーチすることが目的なのかにより、大きく変わってくるため一言ではいえませんが、例えば誰もが持っている商品で、買い換えの需要を喚起するのなら、本当に奥深くの潜在のニーズを引き出してあげないと、「買う」というところまで自分事化されません。またコンテンツを出せば、それを見つけて消費者が買ってくれる商品やサービスもあるでしょう。そこはさまざまです。

KPIで大事な点は、認知なのか、その次の段階のファン化なのか、購買ファネル上のどのファネルにいるユーザーに対して何をさせたいのか。「目的」によって、どんなコンテンツで、どうエンゲージさせるかが変わるところです。

例えば滞在時間であったり、ユニークユーザーだったり、新規訪問率だったり、いろんな側面でKPIを設定していくという形になります。

青木:アウトブレインのユニークなところは、送り手側の都合ではなく、受け手つまりユーザーの視点に合わせてコンテンツのレコメンデーションを行う点だと思っています。どれだけのユーザーに拡散したか、ということに注力するのではなく、どれだけのユーザーに対してセレンディピティ(偶然の出会い)を届けることができるか、に注力している。世界的に見てもユニークなサービスです。

郡司:ユーザー側からいえば、雑多で多量な情報の中からきらりと光るコンテンツを見つけられるサービスである、ということですよね。

青木:そういうことです。なぜならばアウトブレインは毎月約2,000億回のコンテンツレコメンデーションを行っていて、これはGoogle、Facebook、Twitterに匹敵する量です。その約2,000億回の見た/見ない、を累積していくなかで、人が、一つのコンテンツに、いつ、どこで、どのように反応したかを分析し、それを彼らのレコメンデーションアルゴリズムに反映させています。さらに、それに加えて、このコンテンツ消費傾向を分析したデータを活用してどのようなコンテンツを作るべきかについてまでコンサルテーションするサービスを提供しています。つまりアウトブレインは、コンテンツマーケティングにおいて、コンテンツを作るところから、どのように配信し、どう改善していくかまでをトータルにサポートできるプラットフォームだと考えています。

郡司:データとコンテンツの企画をつなぐところもしばしばバトンタッチが上手くいかないポイントなのですが、ここの受け渡しの「バトンゾーン」があるのは心強いですね。

青木:私が電通にいる立場でアウトブレインが良いソリューションだと思った理由は、広告は、タイミングと伝えるべき相手が正しければ、とても有益な情報であるという強い思いがあったからです。アウトブレインのレコメンデーションを通じて、クライアントのコンテンツを、正確なタイミングで適切な人に届けられる環境がつくれたら、広告の価値が改めてきちんと評価され、ユーザーにとっても有益な環境が提供できると思っています。コンテンツマーケティングにおいて重要なのは、どれだけ多くの人に拡散するかではなく、どれだけの人に有益な情報としてコンテンツを届けることができたか、ということに主眼を置くことだと考えています。

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嶋瀬:具体的な事例を出すと、日本ではよくCTR(クリック率)はどれぐらい出ますかと聞かれます。それに対する我々の答えは「CTRよりもエンゲージを意識してください」なんです。引きの強いタイトルをつけてPV(ページビュー)の多寡を見るよりは、どのタイトルの記事がどうエンゲージをしているかを見ましょう、それが滞在時間なのか、他のページもたくさん見たかなのか、そちらのほうが重要ではありませんか、と提案します。極論すれば、クリック単価が上がってしまったとしても、入った後に想定したとおりの動きをしてくれる読者をより多く集められるタイトルこそが正解のタイトルなんですと。

郡司:担当者としては、なかなか勇気の要る決断ですよね。CTRで見ていくほうがわかりやすいですから。

嶋瀬:そうですね、ただ青木さんもおっしゃっていた通り、コンテンツマーケティングにおいて重要なのは、どれだけのユーザーにコンテンツに来てもらった、ではなく、どれだけのユーザーにコンテンツとエンゲージしてもらえたか、そしてその結果によって、購買ファネルの階層に進めることができたかだと思っています。例えば、妊婦さんに関係する商材で、妊婦さんに向けたジョギングのコツの記事を用意したとします。引きが良いのは「間違っていませんか?あなたのジョギング方法」のようなタイトルで、これだといっぱいクリックが集まる。母数も多いし、みんな興味を持つ。ただ、当然のことながら妊婦さんに向けた記事なので離脱率も多い。パッと見て、自分は関係ないから、じゃあいいや、と離脱してしまう人が多い。なので、高いCTRを獲得することを意識するよりも、タイトルが実際にエンゲージしてほしい人への招待状であることを意識して、「妊婦さんが安全に走るためのコツ」というようなタイトルこそが望ましい。タイトルの時点でデモグラフィーをターゲットするというところでいうと、そのコンテンツに合わせたタイトル設定というのが非常に重要です。これは本当に切り口の一例です。

郡司:広告出身の人間には難しいことですが、リーチではなくエンゲージで考える必要があるということですよね。

嶋瀬:これは入り口の入り口で、私たちは、グローバルなノウハウを持ちつつ、ローカルなインサイトも蓄積しているところです。

潜在的な新規市場を創出する方法がある

嶋瀬:「認知拡大」から「獲得」まで幅広いKPIをカバーした事例を一つ挙げてみましょう。従来のキャンペーンとは違い、コンテンツマーケティングでは、潜在顧客を顕在化させることも大きな目的である為、同一のコンテンツに対し、対象者の購買ファネルにおけるステージに合わせたKPI設定を行う場合が多いです。これはアメリカのケースで、ある自動車メーカーのブランドの事例です。

「とある3万ドルの車種が、価格が2倍の車種と同等性能がある」ということを紹介した記事があります。これを拡散したときのKPIは、購買ファネルでいう「認知」のステージのユーザーに対してはインプレッション。つまり、どれだけ多くの潜在顧客に認知させるというところがKPIですし、車種検討の際にブランドが想起されるかもKPIです。

既に車の「検討」の段階に入っているユーザーに関しては、好意度のブランドリフトがメインKPI。「獲得」ステージは、アメリカだとオンラインで車を買う人も結構いるので、ここまで見ます。この事例では、キャンペーンを打った後に購買意向がどれだけ上がるかを調査しましたが、コンテンツに触れたユーザーに関してはブランドリフトが生じました。日本においては、オンラインでの購入が一般的ではない為、最終的な購買ではなく販売店への集客の増加といったリアルな指標も出てくるかもしれませんが、その場合、重要となるのは、来客数の増加を単純に評価するのではなく、コンテンツによって潜在層がどの程度掘り起こせたのか、またどれだけ購買につながる優良な顧客を生み出せたのか、といった量より質の部分かと思います。

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青木:クライアントにアウトブレインが繰り返し使われる理由の一つに、新規ユーザーを多く獲得できるということもあるようです。案件によっては新規率が8割に達するケースもある。でも、キャンペーンの設計時に従来のターゲティング発想でメディアのプランニングをすると、その分野についてよく知っている人たちを中心にリーチしがちな傾向があります。ターゲティングを意識しすぎると、興味関心を持ってくれている人はすでに全員獲得してしまっていてパフォーマンスがなかなか上がらないということが起きてしまうのです。

郡司:そこのところは、とても大事ですよね。そういう中でどうやって潜在ニーズの顕在化、新しい消費者の掘り起しを行うのですか?

青木:ともかく、まず良質なコンテンツを用意して、アウトブレインのようなディスカバリープラットフォームで配信してみます。そうすると、潜在的な興味を持っていたユーザーがコンテンツを発見して向こうから来てくれる。そしてコンテンツに触れることで興味が顕在化され、アクションしてくれることによって、新規ユーザーが可視化されていきます。

郡司:ここで最初のコンテンツが良質かどうか、を客観的に見極めるのは難しいのですが、そこをあまりぐちゃぐちゃ悩んだりしないでともあれ自分たちが「良質」と信じるコンテンツをいったん配信して結果をみてみることが必要なのですよね。ちょっと怖いですけど(笑)

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青木:デジタルの時代になってから「拡散」から「集客」へとアプローチが変わりつつあると思います。従来のようにキャンペーンを始めるにあたってユーザー像のペルソナを事前に設定して、それに基づいた想定ターゲット群に対してアプローチするのではなく、まずコンテンツを流してみて、誰がどのように反応するかをテストすることを通じてユーザー像を把握する。つまり、反応した人がターゲット。そういう方法が、デジタルだったら低予算でもやれる。

郡司:こうしたデジタルならではのアプローチを有効活用するためには、私たちはやり方から変えていかなければならないということですね。


【Gunji's eye】

嶋瀬さんとのお話のポイントは、3つありました。ひとつは、コンテンツを作るだけでなく、届けることが重要ということ。もう一つは、広くリーチするより深くエンゲージすることをめざすべきであるということ。3つめは、コンテンツをどんどん世の中に届けながらターゲットを見極めていく、という新しいやり方。広告とはまた違う、コンテンツマーケティングの一面を教えていただきました。嶋瀬さんとの対談第2回では少し具体的な事例にも触れる予定です。お楽しみに。