インサイトメモ #44

スマホユーザーのことを深く知るためのログ分析(1)

~なぜ年を重ねた女性ほどゲームアプリをよく利用しているのか~

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    天野 彬
    株式会社電通 電通総研 メディアイノベーション研究部 研究員

■ どうしてログ分析なのか?

 

ビデオリサーチによるACR/exの2015年1月調査データによれば、スマートフォンの個人所有率は既に67.5%に達している(12〜69歳、東京50キロ圏内)。いまやスマホは、多くの人々にとって欠かすことのできない情報ツールとなっており、それは機能的なベネフィットにとどまらず、「自分の分身」であるかのような情緒的な存在感を有するものであるだろう(コンシェルジュのような存在としてスマホを擬人化した広告を思い返す人もいるのでは)。

そのスマホをなくてはならない存在にしているのが、各自のスマホにインストールされた種々の「アプリ」だ。予定の管理から知人友人との連絡、ちょっとした時間つぶしに至るまで、様々な機能を持つアプリが私たちの生活の利便性を高めてくれている。だがその半面で、多様化を続ける一方のアプリを人々がどう利用しているのか、実態を捕捉することは既にとても困難となっている。

これまでにも生活者のメディア接触状況を知るために、日記式調査や意識調査などが行われてきたが、秒単位で高頻度のオン/オフが繰り返されるスマホの利用実態をこれまでの方法論でカバーしきるのは難しい。

そうした背景を踏まえ、電通総研メディアイノベーション研究部では、今回スマホユーザーのアプリ起動ログを分析するという手法でオリジナル調査を実施した。
大量の起動ログデータを集積し整理することで、「誰が、何のアプリを、いつ、どのように起動しているのか?」を把握するというのが目的だ。
より精細な粒度で生活者のメディア行動をトレースした試みの一部を以下紹介していく。

■ 年を重ねた女性ほどゲームアプリでよく遊ぶ?

 

今回の調査では、Androidユーザーの起動ログデータベース「Cloudish by AppApe」を活用した(調査概要は本稿最下部を参照)。これによって、性年代別で、時間帯・日別にどのカテゴリーに含まれる何のアプリを起動したのかを把握できる。
そのデータをもとに、男女10〜50代以上のアプリ起動回数を集計したものが図表1である。 このチャートからは、例えば1日のアプリ起動回数は女性のほうが多く、男女とも10代がトップで若年層ほど多いことが分かる。10代男女は平均して1日に70回前後もアプリを起動しているのだ。
そしてアプリの中身に視点を移すと、全階層を通じ、ソーシャルネットワーク(黄緑の帯)の起動回数がトップである。ソーシャルネットワークにはLINEやFacebookなどが含まれるが(詳細は図表2を参照)、10代女子に至っては、1日の起動回数の半分以上を構成しており、友達などの周囲の人間関係とのコミュニケーションが非常に活発に行われていることが見て取れる。

図表1

なお、各ジャンルに含まれる代表的なアプリの内訳は下記の通りである。

図表2

ここで、図表1の女性・ゲームアプリの数値を注目いただきたい(一番上段の赤色で囲ったベルト)。なんと女性においては、中高年層ほどゲームの起動回数が多くなっているのだ。一方の男性ではどうかというと、若年層の方がゲームの起動回数は多く、上の世代ほどその回数は減少していく。
つまり年を重ねるほどゲームアプリでよく遊ぶようになるのは、女性に特有な現象であると言うことができる。
これは一般的な私たちの感覚に反する結果であるが、そうした「ズレ」にこそ探究するべきインサイトの種がある。
それでは、女性のゲームアプリ起動回数にフォーカスして、内訳を探ってみよう。

図表3

ゲームアプリの起動回数が多い30〜50代に着目すると、様々なジャンルのゲームに分散している10〜20代に比べて「パズル」と「カジュアル」の占める割合が大きいことが分かる。「カジュアル」に含まれるのは、その多くがいわゆる「育成&放置ゲーム」と呼ばれる複雑な操作や強いコミット性が不要なタイプのゲームであり、おおむね世界観もまったりしたものになっている。最近ヒットしたもので言えば、200万ダウンロードを突破し、特に女性に人気の高い「ねこあつめ」もここに含まれる。

こうしたターゲット層にはゲームがある種の癒やしとして機能しているのだろうか? あるいは、ゆっくりだが着実にゲームが進行していくので、手ごろな達成感(ハードルも低く、ギスギスせずにクリアできる)を味わえる点が良いのだろうか?
…などの様々なインサイトの可能性が見えてくる。そしてこうしたインサイトを踏まえることで、私たち自身のゲーム観(例えば、ゲーム=若者が刺激を求めて遊ぶもの)もまた更新する契機を得ることができるのではないか。
もちろん、これらインサイトの当否については別途調査を行い検証する必要があるが、ログを分析することによって、ある種の発見的推論を促すことができるという点が重要だと考えている。

■ リサーチャーはなぜユーザーの「無意識」に着目すべきなのか?

 

以上、簡潔にアプリの起動ログから見えてくるユーザーのインサイト分析をまとめた。 こうした調査手法はこれまでのような意識調査(意識を尋ね行動の実態を把握するもの)ではなく、逆ベクトルの「無意識調査」(行為や行動のファクトから意識や心理を浮かび上がらせる)と呼べると思われる。
マーケティングの分野では視線や脳波を観測し生活者理解に役立てることが、模索されているが、それも一種の「無意識調査」に分類できるだろう。一方、こうした大規模なログの分析は、一人ひとりの無意識を深く探るというよりはその無意識の集積から見えてくる大きなトレンドを見定めるものとして活用できる点に差異がある。
人々の行動や発言がログとして活用される高度情報社会においては、そうしたデータの固まりを前に適切なインターフェースを整えることで、いまだ見えていない現実の側面が像を結び始める。例えば東浩紀氏は『一般意志2.0 ルソー、フロイト、グーグル』(講談社、2011年)において、ネット上の人々の発言ログをある種の「固まり」として(一つひとつには子細に立ち入らず)活用することで、政策決定者たちの熟議をより良い方向へ促す材料になると述べた。これも、膨大な発言ログの広がりに透過された無意識を活用するという志向性において通底した見解だと思われる。
今回のCloudish by AppApeを活用した調査プロジェクトの紹介は紙幅の都合上「入門」的な位置づけにとどまるが、こうした無意識調査/分析こそ、インサイトの探索を生業とするリサーチャーやマーケターにとっての次なる鉱脈と言えるのではないだろうか。


【分析概要】

方法:スマートフォンアプリの起動ログデータ分析
データベースは「Cloudish by AppApe」を活用
対象:男女15歳以上のAndroidユーザー(全国)約1,000人
集計対象期間:2014年10月1~31日
実施機関:株式会社 ビデオリサーチ・インタラクティブ

プロフィール

  • 14580463 1225228107497344 1248304897 n
    天野 彬
    株式会社電通 電通総研 メディアイノベーション研究部 研究員

    1986年生まれ。東京都出身。東京大学大学院・学際情報学府修士課程修了。
    2012年電通入社後、マーケティング部門、新規事業開発部門を経て、2014年から現職。
    スマートフォンのユーザーリサーチを中心に、現在のメディア環境やオーディエンスインサイトを分析している。
    著書に『二十年先の未来はいま作られている』(2012年、日本経済新聞出版社、共著)、『情報メディア白書2016』(2016年、ダイヤモンド社、共著)。その他レポート執筆やセミナー講師など経験多数。

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