FASHION HACKED #02

ファッションとテクノロジーの未来(ムラカミカイエ×若林恵×京樂里奈)

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    ムラカミ カイエ
    SIMONE INC.代表
  • Wakabayashi
    若林 恵
    『WIRED』日本版 編集長
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    京樂 里奈
    SIMONE INC.

先日、原宿のVACANTで、ブランディングエージェンシー「SIMONE INC.」と雑誌『WIRED』日本版によるイベント「SXstyle 2015 Report」が開催された。イベントでは、SIMONEのムラカミカイエ氏と京樂里奈氏、WIRED日本版 編集長の若林恵氏が、アメリカで行われる音楽・映像・インタラクティブを組み合わせたイベントSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)のファッション・カテゴリーである「SXstyle」(サウス・バイ・スタイル)の紹介と、ファッションとテクノロジーの未来についてのトークセッションを行った。

前回もお伝えした通り、7月9日(木)、「Decoded Fashion Summit」(デコーデッド・ファッション・サミット、主催:コンデナスト・ジャパン)が日本に初上陸する。SXSWに新たに登場したファッション・カテゴリー「SXstyle」では、「Decoded Fashion」のメンバーが5日間にわたりパネルディスカッションやパーティー、メンターシップなどを行った。

現地に赴いたSIMONEの京樂氏は、ファッションとテクノロジーの融合事例として、「マテリアルフォワード」「マスカスタマイゼーション」「リテールレボリューション」について紹介した。

ファッション×テクノロジー1:マテリアルフォワード

マテリアルフォワードのジャンルには、デジタルファブリケーションやウエアラブル電化製品のほかに、ファブリック素材など次世代のウエアラブルといえるものが多く見られたという。

「ユニークだと思ったのが、ソフトサーキットと呼ばれる、いわゆるテクノ手芸のような、縫い物のなかに回路やLEDを仕込むというもの。あとは、体温や気温に応じて変化するようなファブリックで、スマートマテリアルと呼ばれているものがあり、パネルディスカッションにはスマートマテリアルの専門家が多く登壇していました」(京樂氏)

さらに京樂氏は「飛距離を延ばし、転倒時の衝撃を吸収するスノーボードウエア」「身体への負荷や衝撃を計測するトラッキングシャツ」「デジタルファブリケーションに対応する、ファッションに特化したコワーキングスペース」などの事例を紹介した。

ムラカミ氏は、「パリコレでIris Van Herpenというデザイナーが3Dプリンティングだけでヒールを作るなど、デジタルファリケーションの実践投入事例はすでに多くあって、今後も進化していく。いまアレキサンダー・マックイーンが生きていたら当たり前に使っているはず」と語った。

ファッション×テクノロジー2:マスカスタマイゼーション

マスカスタマイゼーションとは、オーダーメイドやカスタムメードを、大量生産(マスプロダクション)の体制で行うことを意味する。顧客ニーズに応じてパーツを変更することは自動車メーカーなどが行ってきたが、「SXstyle」におけるマスカスタマイゼーションは、3Dプリンターなどを使用してカスタマイズを行うことを指す。

「例えばEコマースで、Tシャツなど好きなアイテムに、自作のテキスタイルやデザイナーのグラフィックを全面プリントしてくれるサービスがあります。さらにプリントというカスタマイズだけでなく、スパンコールのような立体的な刺しゅうや、ボディーのパーツを選べるパターンオーダーのようなサービスもあります」(京樂氏)

ムラカミ氏は、Eコマースでプリントを行えるサービスについて「テクノロジーサイドの人たちがこういったアプローチをしていたことはあるけど、センスがいいものが少なく普及することはなかった。今日紹介したサービスは、ベースになるTシャツやトレーナーからもファッション分野の人が関与している出来栄え」と、ファッション性の高さを評価した。

ファッション×テクノロジー3:リテールレボリューション

「昨年のSXSWでは、Eコマースにどう送客するかというウェブ上のトピックがほとんどでしたが、今回はEコマースという言葉はほとんど登場せず、リテールという言葉がフォーカスされていました。重要なのはリアル店舗での体験で、デジタルでいかにリアルなショッピングエクスペリエンスを豊かにできるのか、という議論がさかんで、実際に百貨店やブランドと、リテールテック専門のスタートアップのコラボレーションも多く行われているようです」(京樂氏)

京樂氏はコラボレーションの事例として「試着時の写真を複数枚保存して比較ができるスマートミラー」「専用アプリをインストールさせずに、iBeaconでクーポンなどを配信する仕組み」などを紹介した。ムラカミ氏は、アプリのダウンロードという障壁を越える仕組みにより、コンタクトポイントの増加が見込めるという。

「小さなアクションの積み重ねが、ブランドに対する信用や、購買行動につながる。押し付けるのではなく、自然にコンタクトポイントを増加させることが効果的」(ムラカミ氏)


トークセッション:ムラカミカイエ×若林恵

次に、若林氏がムラカミ氏にインタビューするかたちで「ファッション×テクノロジー」について語った。

ノームコアとファッションのタグ化

若林:カイエさん的には、ファッション×テクノロジーにどういうものを期待しますか?

ムラカミ:消費者の目線では、ファッション×テクノロジーの恩恵というのは僕らの生活にすでに存在していて。例えばスニーカーって、ファッションで唯一、機能的にも文脈的にも目まぐるしく進化している。例えば、「歩きやすいから、一駅分歩いちゃおう」といった人の行動を変える力。これって単純なようで、他分野に置き換えると実はすごく難しいと思いませんか。テクノロジーによる進化というと、いわゆるイノベーションを期待する人も多いけれど、気づかないうちに生活に浸透して、それまでの様式を一変させていくことが、本質的に一番インパクトがある。

オンラインで個々に服をカスタムできるサービスはそもそもスポーツ業界発信だったけれど、パーソナライズされたクリエーションが、今後スニーカーやスマートファブリックに付帯する機能と融合したとき、これまでの生活様式を一変させる全く新しいファッションが生まれる。いまノームコアといった並列化しつつあるファッションへの価値観は、こういったかけ離れた分野の越境とトライアルの連続から、装飾性や風俗性といったこととは切り離された全く異なるものに変化していくでしょう。デジタルファブリケーションといったテクノロジーは、ファッションのあり方そのものに大きな影響を与えていきます。

若林:3Dプリンティングは、どうなっていくと思いますか?

ムラカミ:服を売るんじゃなくて、データを売るファッションデザイナーが出てくるでしょうね。それに近いことをやっているアクセサリーデザイナーって、すでにいるんですよ。

若林:SF映画とか見るとみんなピタピタの服着てて、どうやって作ったのかなと思ってたけど、あれってカスタマイズなわけで、3Dプリンター的な発想だなって。そういうことが現実になってくるんですよね。

ムラカミ:でも、ファッションの歴史を見ていくと、現代に近づくほどデザインは簡素化し、装飾性は年を追うごとになくなっています。すぐには無いとしても、人がファッションに求める情緒性を、環境が求める機能が上回ったら簡単にひっくり返る。ユニクロのヒートテックがいい例で、いまやニューヨーカーの冬のファッションはヒートテックの上に、情報というシェルを着ているのに近い。昨年ごろからノームコアっていう、ウェブが引き起こしたカウンターカルチャーが来ているけど、2014年にノームコアって言葉が生まれたのは、社会のなかでのファッションの役割が変わる基点になっているんだと思う。

若林:カイエさん自身はノームコア?

ムラカミ:ノームコアがすべてだとは全く思ってないけど、その由来や云わんとする精神性に共感はしています。ファッションでの自己表現は、このくらいで塩梅いいのかなあっていう。いまのファッションって服を着ているというより情報を着ているような感があって。たぶん、日本の多くの人たちの服の選び方って、記号やタグだと思うんですよ。例えばメードインジャパンであるとか、ブランドはどこか、デザイナーの名前、どんなセレブリティが着ていたとか、服はいろんなタグの集合体。ウェブによって、ファッションの捉え方がタグ的になって、そのなかでいま最もファッション的だと思うのがスニーカーでもある。

若林:逆にすごく記号的ということ?

ムラカミ:そうそう。例えば、藤原ヒロシさんがナイキと一緒に、過去のスニーカーを復刻させ、その何色を作り、ある限定されたスペシャリティストアでリミテッドで売られて…、それはファッション文脈上、上質なタグの集合体なんですね。それらのタグを掛け算していくとファッション的にとても価値のあるものになるから世界中のキッズ達は熱狂し、列をなすわけで。普段、いろいろなブランドのコンサルティングをしたり、自分でデザイン監修もしていますが、最近はスニーカーに合わせて服を作ることが多くなりました。

いま革底の革靴を履くってセンチメンタルな感じすらしますね。固有のクールさはあるし、たまに履きたくなるけど、よく考えると単に懐古的な感情でしかないことに気がつくわけです。いまファッション周辺に起こっていることは、そういった記憶や感情とは切り離された、産業的な革命なんです。

レコメンデーションとトレンド

若林:先ほどのリテールレボリューションの話とも関係するけど、レコメンデーションってどんな感じですか?

ムラカミ:やっぱり結果は出てますよね。でも、ちょっとノイジーだと思うこともある。

若林:そうですよね、別に悪くはないんだろうなって思うんですけどね。どう精度を上げていくかみたいな部分ですよね。

ムラカミ:それはありますね。たぶんターゲティングの精度は上がっていくと思いますし。ファッション業界にいると、常にトレンドっていう誰が作ったのかよくわからない不思議な現象と付き合っていかなきゃいけないわけです。トレンドの実体って、繊維メーカーが発信する「2年前後にはこんなムードになるよね」っていう上流で生成された事前情報と、リアルタイムな社会の空気感の二つから作られています。ただ、SNSによってスピード感や即時性が求められはじめ、デリバリー直前まで反応が分からない現象も出てきている。そういうなかで、今とは違うレコメンデーションのあり方が考えられるはず。

若林:どういうやり方があるの?

ムラカミ:例えば秋冬のファッションは、8月末くらいに店頭に並ぶけど、その服の展示会は、だいたい4〜5カ月前にあるわけですよ。そのときにだいたいの生産数が見えてくるから、半年後に起こり得るリアルなトレンドが予測できる。そこに、このまえ『WIRED』でも取り上げていた量子マーケティング(WIRED VOL.14)を融合すると、みんなが求めているもの、企業や産業自体が流行らせようとしていることのサインが出てくるはず。

若林:なるほどね。現時点では、マーケットのリアルタイム性に即して商品を作り替えることってできないの?

ムラカミ:109発信のファッションブランドは、かなり早くからそれを形にできていた数少ない例でした。あの頃はそのカルチャーを支持する狂信的なファンが作り手にもいて、身を粉にして働いてそれを実現できていたけど、いまはそういった熱狂的なマスカルチャーがないからやる人もいない。そこをテクノロジーが埋めていくのはまちがいなくて、生産から納品までを一括管理できる統合型のソリューションや3Dプリンティングなどが、生産タームを圧倒的に短縮してできるようになる。

ビジネスに貢献できるところからテクノロジーを導入するべき

ムラカミ:クライアントと話していて違和感を感じるのは、利益構造というか、原価率や販促費なんかの分配のされ方がインターネットの誕生前後で全く変わらないんですよ。変わらなきゃいけないはずなのに、変わってなくて。でも海外では、最初からそれを見越した新たなビジネス体系をもったブランドや店がたくさん出てきています。

若林:リテールレボリューションですね。

ムラカミ:そうですね。マテリアルフォワードとマスカスタマイゼーションは、商用利用に時間がかかるかもしれないけど、リテールレボリューションについては、いま取り組んでいかないと取り残されていく。これは断言していい。この話はDecoded Fashionのなかでも話させてもらおうと思っていますが、ファッション業界の特性として新しい取り組みに踏み出せない保守的な側面があるけど、ビジネスに貢献できるところからテクノロジーを導入していけばよくて。要はすぐに結果が出るものから投資していけばいい。ファッションとテクノロジーのミートアップって、これから当たり前に必要になっていく。Decoded Fashionをきっかけに目を向けてくれたらと思っています。

若林:ということで、今日はありがとうございました。

 

プロフィール

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    ムラカミ カイエ
    SIMONE INC.代表

    クリエイティブディレクター
    三宅デザイン事務所を経て、2003年、ファッションとビューティ分野に特化したブランディングエージェンシー「SIMONE INC.」設立。 国内外多数の企業のデジタル施策を軸としたブランディング、コンサルティング、広告キャンペーン等を手掛ける。 
    http://www.ilovesimone.com/

  • Wakabayashi
    若林 恵
    『WIRED』日本版 編集長

    平凡社「月刊太陽」編集部を経て2000年に独立。フリー編集者として、主にカルチャー雑誌で記事の編集、執筆に携わる。2012年1月より現職。音楽ジャーナリストとして広範なジャンルの記事も手掛ける。

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    京樂 里奈
    SIMONE INC.

    PLANNING DIV. CHIEF PLANNER

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