ろーかる・ぐるぐる #60

和牛をエポケーする(後編)
~和牛文化の多様性~

コンセプトやアイデアの材料となるのは目の前の課題だけでなく人生経験すべてにかかわる「知識」です。そのために情報の一つ一つを正しいかどうか判断することなく、カッコ付きで受け取ることが有効です。そこで今回は老舗和牛卸小島商店の副社長の小島康成さんから伺った前回のエピソードの続きです。はたして皆さんのお役にたつでしょうか?


 
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小島商店 副社長 小島康成氏

「A5だから美味いってのは嘘だよ」「実際、未経産のメス牛と去勢牛(オス)とでは同じA5でも市場の金額が全然違うよ」って話は知ってるでしょ。(以前コラム)そんなことよりプロが評価するのは「血統」なんです。「育て方も産地も、結局は血統を越えられない」なんてことをいう人もいるぐらい。

よく言われるのは「但馬牛」の系統がどのくらい濃いかどうか。でも但馬牛って食味は良い代わりに、なかなか大きくならない、って特徴もあって。結局和牛は「キロいくら」って商売なわけだから敬遠されることも多いんです。
それで味もそれなりで育てやすく、すぐに大きくなる鳥取あたりの気高系の血統が一時期、大流行したんです。文字通り、大流行。で、全国の和牛の半分くらいにその血統が入っちゃったんですよね。

気高系がダメだなんて言うつもりはないんですけど、各地域地域にあった和牛文化の特徴が、そうやって失われてしまうのが悔しいんです。雪深い地域は大きな牛舎を建てられないから小柄で美味しい牝牛を育てるのが上手。南方系は温暖な気候で大型の牛を育てるのが得意。そういった特徴で地域が切磋琢磨して初めて全体のレベルが上がると思うんです。

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北里八雲牛

面白い牛づくりをしている方はたくさんいますよ。たとえば北海道の北里大学八雲牧場 が実行しているのは完全循環型。自分のところの牧草だけで牛を育て、その堆肥で牧草を育てる。当たり前だけれど、いまの日本では誰もやっていないことへのチャレンジです。牧草のカロテン が脂に溶け込んでいるから、ちょっと黄色っぽくなるのが特徴ですかね。それなりの価格がしちゃうんですが、この前、神奈川の百貨店で販売したら、それこそ行列ができる勢いでした。消費地の人にもきちんと説明すれば、やっぱり理解してもらえるんですよね。だから今度は「こういう風な和牛も評価されてますよ。脂がギトギトの牛を安く出荷するだけが和牛づくりじゃないですよ」というメッセージを生産者に届けるのが、ぼくたち卸の役割なんですよね。

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和牛はふつう、仔牛を買ってきてそれを育てるというビジネスなんです。でも子牛を輸送するれば、それはストレスになる。ストレスがかかれば、肉質には良くない。それで子牛を産むところから肥育まで、一貫してやっている農家さんも大勢います。

牛は虫が苦手。でも自分たちの体をなめることがあるから殺虫剤は使いたくないと、牛舎にたくさんハエ取り紙をぶら下げている人もいます。

昔の「ベコ」は美味かった。それなら、昔と同じ育て方をしようと、生米じゃなくて炊いたご飯とか、ふかした芋とか、人間の食事と同じものをエサにしている人もいます。

黒毛だけじゃなくて、褐色、無角、短角という品種の違いもある。純血の黒毛和牛である見島牛や口之島牛なんて、めちゃくちゃ珍しいのもある。ほんといろいろあるから和牛の問屋は面白いんですよね。


 
shopもし機会があったら銀座三越の片葉三か、新宿伊勢丹の小島屋をのぞいてください。運が良ければ小島さんおススメのマニアックな(?)お肉に巡り合えるはずです。そしてその味わいも含めて「エポケー」すれば、きっとコンセプトづくりにも役立つことでしょう!

どうぞ、召し上がれ!

プロフィール

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    山田 壮夫
    株式会社電通 第1CRプランニング局

    1969年生まれ。アイデアを核として広告キャンペーンはもちろん、店舗開発からテレビ番組の製作まで手掛ける。特に最近は全国の地方新聞社厳選お取り寄せサイト「47CLUB」と連携してローカルにおける商品開発作業にチャレンジしている。2009年カンヌ国際広告祭(メディア部門)審査員。慶應義塾大学(メディア・コミュニケーション)、明治学院大学(経営学)非常勤講師。著書に『〈アイデア〉の教科書 電通式ぐるぐる思考』(朝日新聞出版)。

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