ブランド・グロースハック―ビジネスの成長を約束する「マーケティング×IT」新手法− #03

デジタル時代のブランディング、どうしてますか?-ブランドの育て方をハックする―

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    谷澤 正文
    株式会社電通デジタル データアナリティクス事業部長/マーケティングディレクター

Ⅰ「デジタル・トランスフォーメーション」の波が押し寄せている

先日、ファーストリテイリング(ユニクロ)が、顧客のビッグデータを分析して、提案型サービスをしていくというニュースがありました。顧客の購買データを分析し、好みを把握、他の商品を薦めたり、トレンド予測をして新商品開発をしたりするなどの構想です。さらに、その少し前に、セブン&アイ・ホールディングスが、リアルとネットを融合させるオムニチャネル構想を発表しています。また、カゴメなどの日用品メーカーもアマゾンと検索ワードを活用した商品開発に取り組んでいたりしています。

このように、これまでマス広告、店頭プロモーションがメーンだった業界や企業が、デジタル情報化社会の進展で、マス広告が効きづらくなった中、テクノロジー、データを活用した顧客との新しい関係構築を本格的に進めていくケースが増えています。テクノロジーやデータを商品/サービスやビジネスプロセスに適用することによって顧客との関係構築を強めていく取組みは「デジタル・トランスフォーメーション」といわれ、スマホ利用などで先行していた生活者のデジタル化に対応するために、多くの企業が動き始めています。

Ⅱデジタル化時代のCMOの不安と期待

そんな転換期の今、企業のCMO(チーフマーケティングオフィサー:マーケティングの最高責任者)や事業部長などの間では「顧客とどのようにつながっていくべきか?」という不安と、デジタル・トランスフォーメーションによる「マーケティングのデジタル化」への期待が高まっています。マーケティングのデジタル化は、3つの大きな環境変化をもたらします。

顧客の行動データが集めやすくなり、データで企業と顧客がつながるので、①顧客理解が進む、②さまざまな状態の顧客(潜在/見込み/新規/既存顧客など)とつながりやすくなる、③施策の効果検証がしやすくなる、です。この3つの環境変化を活用し、電通ブランド・グロースハックでもCMOの不安解消と、マーケティングのデジタル化への期待に応えるために、3つのサービスを提供しています。(参考:連載第1回

①顧客資産の拡張

まずは「お客さまが増えること、たくさん買っていただくことが事業の成長」と捉え、顧客資産の拡張(新規~既存の顧客が増える、たくさん買っていただく、継続するなど)をしていきます。さまざまな行動データが入手しやすくなっているので、マスキャンペーンによる新規顧客の動きだけでなく、見込み顧客を顧客にしたり、既存顧客を優良顧客化させたりする過程も見える化され、顧客に関する360度の動向を追える環境が整いつつあります。そのため、顧客のフェーズごとにどのようなチャンスや課題があるか診断しやすくなりました。

②ブランド資産の拡張(接点、コンテンツ、体験の拡張)

次に、これら「生活者~新規顧客~優良顧客」の360度の顧客に対し、デジタルを活用した接点拡大、コンテンツ提供、新たなブランド体験の提供でブランドの価値を高めます(=ブランド資産の拡張)。ここではマス広告だけでなく、ブランドサイトやSNSなどのオウンド/アーンドメディアの活用をしたり、リアル店舗での接点拡張をしたり、動画コンテンツを配信したり、新たなサービスや機能を提供したりといった施策を行います。情報過多時代にマス広告が効きにくくなっている環境下で、既存顧客、特にファン層とコンテンツなどで継続的な関係構築を図り、SNSを通じた口コミなどで新規顧客を獲得していくことが、顧客資産の拡大には大事です。最終的には、360度の顧客に対し、どの企業もデジタルとリアルを融合させた独自のカスタマージャーニーを設計し、それぞれの段階で顧客に対しデータやシステムでつながる世界が遅かれ早かれ訪れることになるでしょう。

顧客の段階別の課題と活用すべきデータ

 

顧客の段階別の戦略アイディアと具体策

③拡張のKPIマネジメント

そのようなシステム環境下で顧客の様々なデータを集め、顧客資産や、ブランド資産の拡張が順調になされているかKPIを設定し、管理していきます。360度のそれぞれの顧客フェーズに合わせてKPIを設定しPDCAを回していきます。

Ⅲデジタル化時代のブランドのつくり方

このようなマーケティングのデジタル化に対し、ブランドが持つ世界観が、複雑で多種多様なマーケティング活動の指針として見直されています。誰とでもつながりやすい環境になっているからこそ、「そのブランドにふさわしい顧客は誰なのか?」が逆に大事になります。また、色々なデジタルコンテンツを作ることができる時代だからこそ、「そのブランドにふさわしいコンテンツは何か?」が大事になります。さらに、どんなデータでも入手でき、短期視点で効果検証できる時代だからこそ、もう少し「中期視点で、ブランドの行く末をマネジメントする」ことが大事になっています。つまりブランドは、目まぐるしく移り変わる環境変化、生活者情報変化の中で、緩やかに環境に合わせながら、自身の価値を保ちながら、生活者と関係構築の進化をし続ける、動き続ける資産になりつつあります。

これまでのブランド戦略はどちらかというとイメージ重視で、かつ一方的な伝達形式によってそのブランド・ビジョンの達成を果たそうとしていました。

しかし今後はブランドのファンを起点にデータ、テクノロジー、システムなどで様々な顧客と継続的につながることによる顧客資産の拡張と、デジタルを活用した接点、コンテンツ、エクスペリエンスといったブランド資産の拡張によりブランドをグロースしていくことが重要です。そのため、これからのブランドは顧客との持続的な活動で価値が変化・蓄積されていくという意味で、終わりのない改善が続く継続したブランド活動になります。いわば「ブランド活動」から「ブランディング活動」への変化ということでしょうか。

それに伴い、広告会社の役割もCMOに対しブランドの成長、事業の持続的成長にコミットするものになっていきます。グロースハックというと「高い技術力を駆使して課題解決をする」「成長の請負」「成長のためのコツ」という意味で捉えられることが多いですが、「ブランド・グロースハック」ではデータ、テクノロジーを積極活用し、顧客資産、ブランド資産の拡張でブランドの成長、事業の成長を請け負うサービスという位置付けで考えています。具体的なサポートは大きくいうと先ほどⅡで挙げた3つで、①どこに顧客資産拡張のチャンスがあるのか、360度さまざまな行動データで探索し、優良顧客候補を「見つける」サービス、②その顧客候補に対し、デジタルを活用した接点拡張・コンテンツ・ブランド新体験の提供で、顧客をファン化し「育てる」サービス、③ブランディング活動のKPIを設定し、その活動データを集め、PDCAのためのダッシュボードを構築し、売り上げを最終目的としたマスとデジタルの最適化・ブランディングの方向性を確認する「整える」サービスです。

①の「見つける」サービスは、前回のコラムでご紹介しましたので詳細はそちらに譲りますが、新たな顧客を見つけるにはウェブ調査などの意識データだけでなく、顧客が実際に行動した「実行動データ」で捉えていくということでした。購買データ、テレビCM視聴データ、デジタル行動データ、SNSデータ、CRMデータなどです。細かなセグメントにより、ターゲットを決め、デジタル施策でアプローチできるのでマス中心だった時代に比べ、より本格的にマーケティングのSTP(セグメント、ターゲティング、ポジショニング)ができる時代になっています。

これからご紹介するのはその次のステップの、その見つけた顧客候補を「育てる」フェーズです。ここでは、ターゲットにデジタルを活用して、新しいコンタクトポイント・コンテンツ・ブランド体験でブランド資産を高め、人に伝えたくなる状況をつくっていきます。今、コンテンツやエクスペリエンスが重要といわれているのは、ブランド体験をデジタルによる口コミで拡散してもらうために有効な手段だからです。

マーケティングのデジタル化により、360度の顧客資産を育成、拡大させる方法は、多様な手段が存在しています。潜在顧客レベルの人に対し、例えばSNS上のおもしろデジタルコンテンツから、そのブランドサイトに誘導し、好意を持ってもらい、見込み顧客レベルにする。デジタルコンテンツは今、動画が次のトレンドになりつつあり、今後もさらに多様な動画コンテンツが増えてくると思います。

また、見込み顧客レベルの人に対しては、例えばキャンペーンの募集で入手したメールアドレスをベースにデータベースを構築し、デジタルコンテンツなどで個別にアプローチし、新規顧客化することもできます。ここではMA(マーケティングオートメーション)というコンテンツの自動配信技術を使って個別の趣味嗜好に合わせたコンテンツを出し分け、反応率を高めることも可能です。

さらに新規顧客レベルの人に再購入してもらったり、優良顧客化したりする場合は、例えばマイページを作成し、その人だけの特別なブランド体験をオファーしたり、顧客と企業の共創によるサービス開発をしてブランドのロイヤルティーを高めたりします。このCRM領域は、顧客資産拡大の側面から最重要視されていて、熱狂的なファン層の口コミがSNSなどのデジタルコンテンツを通じて生活者、潜在顧客に拡散し、新規獲得につながる可能性も高まっています。

ここで注意しなければいけないのは、あくまで上記は「手法の設計」の話で、本当に生活者に反応してもらい、行動を促すには、「なにそれ?」「おもしろそう!」「これは友達に伝えたい!」などの反応を計算した、気持ちやモチベーションの設計が必要です。これに関しては、広告会社がマス広告でも実施している、人を動かす技術(インサイト、モチベーション、クリエーティビティーなど)が必要です。仕組みを導入しただけでは、生活者は反応しません。その中身である、ブランドの特別なコンテンツ、エクスペリエンスが人々の心を動かし、行動を喚起し、人にも教えたくなる口コミを生むのです。アドテクの効率も大事ですが、ここでは顧客一人一人に対し、どれだけ深くブランドを好きになってもらうことが大事になってきます。

変化の激しいマーケティングのデジタル化時代、強いブランド、賢いブランドが生き残るのではなく、ダーウィンの法則のように環境に合わせて変化し続けられるブランドが生き残る時代です。マス広告が効きにくくなっているといわれる昨今、マーケティングのデジタル化により新規顧客獲得にこだわらない360度の顧客資産の育成・拡張が、事業成長のキーになっています。また、ブランドの特別なコンテンツやエクスペリエンスなどのブランド資産を拡張するとともに、ブランディングし続けることが主流になっていくと思います。そしてその活動を支えるのが、デジタル(データ、テクノロジー、システム)です。

次回は最新の知見もご紹介しながら、育てた顧客資産やブランド資産をどのようなKPIでマネジメントし、次の戦略・施策につなげていくかという「整える」プロセスをご紹介します。お楽しみに。

プロフィール

  • Profile tanizawa
    谷澤 正文
    株式会社電通デジタル データアナリティクス事業部長/マーケティングディレクター

    2002年電通入社。以来、さまざまなクライアントの社長プロジェクト、CMOプロジェクトに参画し、広告領域にとどまらず、経営・事業戦略やブランドのコンサルティング、最先端のデータベースマーケティングから、統合キャンペーンプランニングまで、戦略から実施の両輪をこなすコンサルタント&グロースハッカー。商学修士。
    プランニングモットーは「緻密に計算し、大胆に実行!」。

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