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Good JAPAN InnovationNo.5

【新潟】木製のウイスキーボトルを作る。

2015/09/15

「伝統工芸×デザイン」をテーマに、優れた日本のものづくりと電通のアートディレクターがコラボレーションして作品を制作し、新たな価値を世界発信するプロジェクト「Good JAPAN Innovation」。

第5回の伝統工芸は「指物(さしもの)技法」を主に用いた木製のウイスキーボトルの制作です。

完成品(バレルタイプ)
完成品(バレルタイプ)

今回のプロジェクトで何を作ろうかと、行きつけのバーでウイスキーを飲みながらあれやこれやと悩んでいましたが、結局大好きなお酒にまつわるコラボができればと考えました。

では何を作るのか? ウイスキー樽を作る? これは大掛かりで予算と合いそうにないし。

うん? ウイスキー樽の材料でボトルを作ったらちょっといいかも…。

自分だけのテイストが味わえるウイスキー。ブレンダーになった気分にもなれる。バーのカウンターから、そんなちょっと大人の夢のあるボトルコラボが始まりました。

コラボ先はネットで出合った1枚の写真から

早速イメージをラフデザインにしてみましたが、こんなものを作れる人がいるのかなとネットで探していたところ、1枚のスピーカーの写真と出合いました。

その形や寄せ木、旋盤すべてが私の描いたデザインに近かったのです。その方は、新潟にお住まいのmaple工房の宇野勝巳さんです。この人にお願いしようとラフスケッチとメールを送りました。

出合った1枚の写真。削り出しているスピーカーが理想のデザインに近かった。
出合った1枚の写真。削り出しているスピーカーが理想のデザインに近かった。
宇野さんの技術が生み出すスピーカーはフォルムも音も素晴らしい
宇野さんの技術が生み出すスピーカーはフォルムも音も素晴らしい
上のスピーカーの完成品
上のスピーカーの完成品

感動の試作品から、さらに美しさを追求したデザインへ

宇野さんにはスケジュールや予算についても快諾いただき、ラフデザインを送るとすぐに試作に入りますという心強いメールが届きました。その後試作品の画像が送られてきたのですが、それは試作品でこの出来栄えかと驚く、想像以上の素晴らしい木製ボトルでした。

試作品(バレルタイプ・左、シェーカータイプ)
試作品(バレルタイプ・左、シェーカータイプ)

次は、実際にお会いしての打ち合わせです。工房のある新潟県上越市にお邪魔しました。試作は工房にあったホワイトアッシュを仮に使ったもので、実際の材質の検討とデザインの詰めに入りました。

今回は樽を縦長にした曲線のフォルムのバレルボトルと、直線的なイメージでシェーカーを意識したボトルを制作。バレルタイプのものは主にオーク材(なら)を、シェーカータイプはサクラ材を使用。さらに他の木材も取り入れ木の質感や色を楽しめるデザインにしてみました。

試作を経て落とし込んだデザイン
試作を経て落とし込んだデザイン

シェーカータイプの材質ですが、薄い方からアイボリー色(縦に細いラインとネック真ん中の部分)はホワイトアッシュ材、黄土色(縦長の部分)はサクラ材、薄茶色(胴体上面、真ん中、底面)は月桂樹、茶色とこげ茶色はオーク材を使用。

バレルタイプの材質は、ネック部上から、月桂樹、オーク、ホワイトアッシュ。胴体部上から、1層目オーク、サクラ。2層目花梨、サクラ。3層目(縦長材)オーク。4層目(細いライン)ホワイトアッシュ。5層目エンジュ。6層目ケヤキ、ホワイトアッシュ、月桂樹、ブビンガ、エンジュ、花梨。7層目エンジュ。8層目(細いライン)ホワイトアッシュ。9層目(縦長材)オーク。10層目花梨、サクラ。11層目オーク、サクラ。こだわるあまり非常に手の込んだ設計に。

材料
制作過程
材料
制作過程

今回の工法について

指物とは、一般に金釘を使わずに組み上げられる木工品を指します。板と板、板と棒、棒と棒を組み、指し合わせる仕事のことをいい、板や角材を削り、接合部が丈夫になるように組み合わせて箱や棚などを作る技法です。

さらに、今回は海外で普及しているウッドターニングという技術(木工旋盤という機械で材料を回転させ、木の塊から自由に形を創り出す加工技術)を取り入れており、高速回転のウッドターニング技術はバイト(刃物)の切れ味と集中力の維持、熟練が必要となります。

ウッドターニングの技術
ウッドターニングの技術

実際に旋盤の工程に立ち会わせていただきましたが、ウッドターニングで木の塊から形を削り出していく作業は、静かな工房で旋盤が回転する音とバイトが木を削る音だけが響き、宇野さんと木の緊張感のある、まさに真剣勝負でした。今回はこの寄せ木と木工旋盤加工の二つの技術の融合による作品といえます。

木目の組み合わせを考えて、木を16角形に合わせ正確な角度に切ること、少しずつ削りながら隙間なく合わせていくといった、指物的な技法が生かされています。

制作過程
制作過程

上の画像の部材は、2枚以上の木を合わせる「矧ぎ手(はぎて)」の方法の1つ、V形の凹凸の加工を施した矢筈矧ぎ(やはずはぎ)の技法を参考にして加工しています。

こうすることで接着面が広くなり接着強度は高くなります。接着剤を塗布しても組み立て時にズレにくい形状で、部材同士を圧着させて隙間なく、より強固に組むことができます。高速回転で旋盤加工をするときに遠心力が作用し崩壊しないようにするためでもあります。

制作を終えて

今回は指物工法の幾つかの技法で制作をしましたが、この他にもさまざまな技法があり、伝統技術の奥深さを知る機会となりました。そしてこの伝統的な工法は現在もさらに進化を続けており、今回仕上がった作品も、光り輝いていました。

私の無理難題を解決するために新たな工具まで制作し、アイデア力と技術力そして精神力で乗り切っていただいた宇野さんには感謝の気持ちでいっぱいです。宇野さん、ありがとうございました。最後に、伝統工芸は堅苦しく敷居が高いイメージですが、実際は自由で楽しく優しいものでした。機会があればまた挑戦したいと思います。

完成品(シェーカータイプ)
完成品(シェーカータイプ)

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