鍛えよ、危機管理力。 #03

「組織は頭から腐る」

  • Dpr pr sakai kanji
    阪井 完二
    株式会社電通パブリックリレーションズ コーポレートコミュニケーション戦略室 室長/企業広報戦略研究所 副所長

魚も組織も頭から腐る

「魚は頭から腐る」は西洋のことわざですが、企業や組織でも「組織は頭から腐る」という言葉が使われます。「頭」とは、社長など組織長を示しており、社長の社内での無理な業績要求や、目標達成を過度に追求する姿勢・発言が、組織(企業)を腐らせることを表現しています。要するにこの言葉は、危機管理におけるトップの重要性を訴えている言葉なのです。

実際に、われわれが企業の緊急時広報を支援している現場においても「上からの強い要請があった」「物を言えない社風が…」などの声が漏れ伝わってきます。

トップの過度なプレッシャーから組織文化が壊れていき、世間の常識と企業の常識にズレを生じさせ、結果、不正が行われてしまう。こうしたことは、多かれ少なかれ記事を目にしている企業人であれば感じたことがあるのではないでしょうか?

組織の頭(トップ)というのは、強いリーダーシップがあるものであり、その発言や文章は、自身が考えている以上に強い影響力があるということを、経営者や危機管理担当者はあらためて強く認識すべきでしょう。近年はメールやLINEなどでの指示や命令も増えていると思います。しかしテキストでのコミュニケーションは、淡泊になりがちでニュアンスが伝わらず、高圧的指示に受け止められやすいコミュニケーション手法であることを、あらためて考慮する必要があると考えます。

多くの企業のトップは危機管理の実践が伴っていない

電通パブリックリレーションズの企業広報戦略研究所と東京大学大学院情報学環総合防災情報研究センターと共同で実施した「企業の危機管理に関する調査」では、この「リーダーシップ力」についても詳しく調査しています。

本調査では、企業に必要な5つの危機管理力の一つに「リーダーシップ力」を掲げ「組織的な危機管理力向上に対するトップなど経営陣のコミュニケーション・実行力」と定義しています。要するに社長やCRO(チーフ・リスクマネジメント・オフィサー)などが、良い組織文化をつくっていく力を「リーダーシップ力」と考えているのです(図1参照)。

図1危機管理ペンタゴンモデル
しかし、「トップなど経営陣が率先して組織の危機管理力向上に資する行動・発言を行っている」と聞いた設問では、43.9%の実施率にとどまりました(図2参照)。
 
図2リーダーシップ力の項目別実施率
この設問は危機管理の専門家が、リーダーシップ力の中でも2番目に重要と答えた設問でしたが、6割近い企業のトップが危機管理に無頓着ということなのでしょうか。危機管理に資する行動や発言が行われていないという、やや残念な結果が明らかになっています。

さらに、ガバナンス改革で注目を浴びる社外取締役との関係性を聞いた設問「社外取締役等に危機管理について報告・提言している」では、さらに低い25.3%の実施率にとどまっています。いくら優秀な社外取締役でも適切なインプットがなければ、良い経営判断はできません。
危機管理は重要な経営判断事項であり、危機管理などを担う部門が良い情報も、悪い情報も分かりやすくまとめて、社内取締役はもちろん社外取締役にも伝えていくことは必要不可欠な企業行動ではないでしょうか。

一昔前のように、都合の良い取り巻きの意見だけで役員が経営判断を行えば、重大事故・不正が発生した場合には、「予見可能性」など法的責任を追及される危険性も否定できないことを、経営者や危機管理担当者は認識しておくべきでしょう。内部通報制度の適切な運用はもちろんのこと、その業種・企業の実態に合わせてリスク情報が集まりやすい仕組みを複数構築し、経営に生かされるようにしておくことが、組織の頭(リーダー)を腐らせないコツなのです。

危機が企業のリーダーシップ力を強化!

今回の調査では、企業に対して28種の危機事象に対する遭遇経験も伺っています。下の図は、直近2年間で危機事象への遭遇経験のある企業と、ない企業との「リーダーシップ力」を比較したものです。

図3リーダーシップ力の項目別実施率 危機経験あり・なし差分上位3項目
危機遭遇経験のある企業は、トップ以外の危機管理担当役員を設け(+24.1)、さらにリスク発生予測の報告を受け(+22.5)、そしてトップが危機管理力向上に資する発言を行います(+19.9)。危機に直面した企業の先行事例として、各企業が見習うべきポイントが多くあります。

リスクマネジメントは経営トップの責務

これからの時代、経営トップは事件・事故・自然災害にとどまらず、投資や為替・技術開発など自社に影響を与える可能性のある、あらゆるリスク事象を的確に見積もりマネジメントしていく仕組みと風土を構築していく義務が強まっていくと考えています。

安全・無難に経営をおこなっているだけでは、古くさい企業としてのレピュテーションが定着し、顧客や市場、さらには従業員からも見放されていくリスクが高まるのではないでしょうか。

「危機管理なくして成長なし」。企業広報戦略研究所では、このような言葉を掲げて危機管理について調査・研究を進めてまいります。次号では、危機を予見する力について、企業の活動実態などを踏まえてレポートします。ご期待ください!

プロフィール

  • Dpr pr sakai kanji
    阪井 完二
    株式会社電通パブリックリレーションズ コーポレートコミュニケーション戦略室 室長/企業広報戦略研究所 副所長

    企業ブランド・広報戦略のコンサルティングと実践を主に提供。企業ビジョン開発や経営戦略発表会実施、トップマネジメントのためのメッセージづくりやメディアトレーニング、KPI分析、また、危機管理体制構築支援・緊急時広報活動支援などを数多く実践。ICT、ヘルスケア、エネルギー企業などへのさまざまな実務経験をもとに、幅広いPRコンサルティングを提供。 一方で、「東日本大震災時の企業広報実態調査」や「2013年ネット選挙解禁による投票行動の変化」などソーシャルイシューの調査研究を実施・発表している。 日本PR協会「09年PRアワード」グランプリ受賞、国際PR協会2010 「Golden World Award」コミュニケーション・リサーチ部門最優秀賞受賞。アジアパシフィックPRアワードBusiness-to-Business部門受賞。2010・2011 PRアワードグランプリ審査員、日本PR協会認定PRプランナー。
    執筆:販促会議別冊「インターネットマーケティング完全ガイド」、広報会議「評判を調査分析する方法~レピュテーション調査を有効に活用するには」「今年のイシューを予測する」、経済広報「東証一部上場企業の企業広報力調査2014」など。

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