鍛えよ、危機管理力。 #04

「予見力」が、危機管理力の決め手!

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    北見 幸一
    株式会社電通パブリックリレーションズ コーポレートコミュニケーション戦略部長/企業広報戦略研究所 上席研究員

危機の「予知・予測」がダメージを軽減する

例えば噴火・地震などでは、これまでに経験したことのないような大規模な損害も発生します。しかし、社会から批判を受けるのは、その災害・損害は本当に「想定外」であったのかという点でしょう。予見可能性と対応策が問われています。

人間の関与によって引き起こされる危機には、犯罪行為、破壊活動などに代表される人間の意図的な行動によって引き起こされる類いのものと、偶発的に起こってしまう事故があります。しかし、危機管理学者のイワン・ミトロフ 南カリフォルニア大学マーシャル・スクール・オブ・ビジネス主幹教授(当時)によれば、事故であっても、人間によってもたらされ、避けることができた危機の場合には厳しい評価を受けると指摘しています(注1)。

確かに、地震、洪水、台風などによる自然災害で起こってしまった損害は避けようがないものであり、誰も責めることができない部分もあります。しかし、危機発生の要因に人間が絡んでおり、危機を予知・予測できる事柄によって損害を被った場合、例えば、対応の遅れによる被害の拡大などは、人災による危機ということになるでしょう。

危機を未然に防止するためには、あらかじめ事故や事件の予兆を「予見」し、さらに、さまざまな対策を施し、ダメージ吸収力を高めておく「危機回避」「被害軽減」の行動が重要となります。

認識・注目・対応の3つの不足が招く予見可能な危機

マイケル・D・ワトキンス・ハーバード・ビジネススクール准教授(当時)とマックス・H・ベイザーマン・ハーバード・ビジネススクール教授によれば、「予見可能な危機」は、「認識の不足」「注目の不足」「対応の不足」によって生じると示唆しています(注2)。

「認識の不足」は、組織のトップがぼんやりとしていたため迫りくる危機や問題にそもそも気付かない場合です。第二の「注目の不足」は、組織のトップが危機に気付きながらも、いまさら慌てる必要はないと判断して、真剣に考えなかった場合です。そして第三の「対応の不足」は、組織のトップが迫りくる問題に気付き、それなりの注意を払っていながらも、効果的に対応できなかった場合です。

これらの三つの一つが欠けていても、それらは「予見可能な危機」であったとして、組織トップの責任が問われることにもなります。つまり、危機管理の決め手は「予見力」だといっても過言ではありません。

危機に遭遇した企業は「自分たちは社会からどのように見られているのか」を分析する

当企業広報戦略研究所では、「予見力」を「将来、自社に影響を与える可能性がある『危機』を予見し、組織的に共有する力」と定義しています。例えば、業界・競合企業で発生した「危機」を分析する、自社でも発生し得る「危機」が万一発生した場合に自社に与える影響(金額・社会的影響など)を見積もる、自社の経営リスクの予測リポートを作成して、定期的に役員に報告するといったようなことをイメージしていただければよいでしょう。

先に実施した「企業の危機管理に関する調査」の結果では、「予見力」(38点/100点満点)のスコアは低く、「予見力」に力を入れている企業は少ないのが現状です。「予見」することができなければ、「回避」「被害軽減」といった行動がいいかげんなものになるので、危機管理力を高めるためにも、「予見力」の強化は、企業の最重要課題ということになるでしょう。

「予見力」に関する設問を、危機の遭遇経験がある企業群と、危機の遭遇経験がない企業群とに分けて、分析を行いました。危機の遭遇経験の有無で、その差が最も大きかったのが、「自社に対する、新聞やテレビなどの報道内容や、記者の意見を、定期的(年に1回以上)に調べている」というものでした。危機に遭遇した経験のある企業は、「自分たちは社会からどのように見られているのか」に注意を払い、危機を予見し、対策を講じるために、外部の視点を加えています。

危機を予見する際には、自社内の価値観だけでなく、変化の激しい社会環境にも十分に配慮して、何が危機につながるのかに注視すべきでしょう。意外と、自社内では問題ないと思っていることでも、危機につながるようなケースはたくさんあります。社内の組織風土・価値観だけでは気が付かないのです。

 

「予見力」を高めるために

では、予見力を高めるためには、具体的に何をすればよいのでしょう。まずは、自社に関するさまざまな情報を社内・社外から収集し、分析することから始まります。外部からの情報取得も重要です。「予見力」を高めるための手法の主なものには、次のようなものがあるので、参考にしてください。

・リスクアセスメント(社員調査/ヒアリングなど)  
自社が抱えるリスクをより適切に把握します。
・ステークホルダー調査/消費者モニター/グループインタビュー
社外のステークホルダーに対して調査を行い、自社のイシューを洗い出します。
・世論調査(定量・定性)
世論とのギャップに潜むリスクを発見します。
・他社事例収集(同様の事件・事故情報の収集)
他社で起きたリスク事案について情報収集し、自社の危機管理の検証材料とします。
・報道状況分析&メディアヒアリング(自社・競合・ベンチマーク)
報道の論調をモニターし、競合比較などから自社のおかれた最新の状況を分析します。
・風評把握(ソーシャルリスニング)
インターネット・ソーシャルメディア上の風評をモニターし、早期に把握・対策立案します。
・外部オピニオン(ex:記者・弁護士・大学教授・専門家など)による特定イシュー評価
当該業界を取り巻く情勢・国内での社会動向・海外での社会動向などの情報を収集し、危機の予兆
となる事象を抽出・整理したレポートを作成します。

(参考文献)
注1:Mitroff, I, I. with Anagnos, G.(2001), MANAGING CRISES BEFORE THEY HAPPEN: What Every Executive and Manager Needs to Know About Crisis Management, AMACOM,上野正安・大貫功雄訳(2001)『危機を避けられない時代のクライシス・マネジメント』、徳間書店)
 
注2:Watkins, M.D. & Bazerman, M.H.(2003), Predictable Surprise: The Disasters you should have seen coming, Harvard Business Review, 西尚久訳(2003)『ビジネス危機は予見できる』『ダイヤモンド・ハーバードビジネスレビュー』、ダイヤモンド社、 pp.64-75)

プロフィール

  • Dpr pr kitami2
    北見 幸一
    株式会社電通パブリックリレーションズ コーポレートコミュニケーション戦略部長/企業広報戦略研究所 上席研究員

    電通PR入社後、北海道大大学院准教授を経て現職。立教大学大学院兼任講師。博士(経営学)。MBA(経営学修士)
    マーケティング戦略、コーポレート・コミュニケーション戦略における理論と実践でPR戦略を推進。
    著書・論文に『広報・PR論-パブリックリレーションズの理論と実際』(共著、有斐閣、2014)、『企業社会関係資本と市場評価』(単著、学文社、2010)、「コーポレート・レピュテーションとCSR」(2008)、「米穀農産物におけるブランド効果の実証的研究」(2009)など。
    第5回日本広報学会優秀研究奨励賞。第10回日本広報学会教育実践貢献賞、2014年度PRSJ「PRアワードグランプリ」部門最優秀賞。

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