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鍛えよ、危機管理力。No.5

「ギャップ」は「リスク」です。

2015/12/22

リスクマネジメントに求められる「外部環境」を把握する目
リスクマネジメントに関する現行の標準規格であるJIS Q 31000(リスクマネジメント―原則及び指針)において、リスクとは「目的に対する不確かさの影響」と定義されています。ここでは定義の詳細は割愛しますが、この「影響」には、好ましいもの、好ましくないもの両方が含まれていることが、大きな特徴となっています。要は、意図していた目的に対して、上振れすることも、下振れすることも「リスク」と捉えて、しっかりそれを管理していこう、というのが最近のリスクマネジメントの潮流となっています。

ではなぜ、上振れ・下振れの影響が生じるのでしょうか。一般論ですが、その一つの要因として外部環境を把握し切れていなかった、ということが多々あると推察されます。ビジネスプランはもとより、リスクの検討においても外部環境との「ギャップ」を把握し、より確実に将来の影響を見定めることが求められる時代となった、ともいえます。

「マスメディア」「他企業」とのギャップを検証する
ただし、企業内のリスクマネジメントや危機管理を担う部門のみの力で、こうした外部情報を収集・分析することは非常に大変です。そこで本稿では、電通パブリックリレーションズの企業広報戦略研究所と東京大学大学院情報学環総合防災情報研究センターが共同で実施した「企業の危機管理に関する調査」から当研究所が開発した、「3Dリスクマップ」をご紹介しながら、企業と外部にどのような「ギャップ」が生じ得るのかを考えてみたいと思います。

以下のグラフ(図1)は、過去の報道などを踏まえ、企業で一定程度発生していると考えられる28の危機項目について、マスメディア関係者の「関心度が高い項目」(縦軸)、企業が感じる「社会からの批判の強い項目」(横軸)、企業における「遭遇頻度の高い項目」(円の大きさ)の3軸で、分布を表したものです。

いくつかの使い方ができるこの「3Dリスクマップ」ですが、一歩踏み込んだ「リスクの洗い出し」における活用方法について説明したいと思います。

一般的に、世の中で多く報道されている危機や、企業で頻繁に発生している危機については、対策の目が行き届きやすいもの。一方で、そうでない危機については、見落としが生じる可能性が高いといえます。この「3Dリスクマップ」では、遭遇頻度の低い(円の大きさが小さい)危機項目に注目することで、自社で見えていないリスクを検討する材料として活用することが可能です。

マスメディアは 「時流・社会的インパクト」に注目
図1において、左上エリアに位置する項目(=企業よりもメディアの関心が高い項目)は「従業員が重大感染症に罹患」「海外でのテロ・暴動発生時の事業停止/顧客への危機発生」などが挙げられます。この調査を実施したのは2015年2~3月ですが、まさに「エボラ出血熱」や「イスラム国」などがニュースとなった時期でもあります。時流に沿い、社会インパクトが大きい危機項目が、関心の高いものとして表れた結果となっています。

多くの企業は 「組織的な不正の発生」を重要視
図1において、右下エリアに位置する項目(=メディアよりも企業の関心が高い項目)は「談合・独占禁止法違反」「不適切な決算・財務報告」などが挙げられます。特徴としては、他の危機項目(例えば「役員のプライベートスキャンダル」)と比べ、より法令違反色が強い項目となっています。このような種類の危機は、「コーポレートガバナンス元年」とも称される2015年以降、企業において引き続き高い関心が寄せられていくものと推察されます。

「外部」との「ギャップ」を把握するリスクアセスメントを!
今回の調査では、177人のマスメディア関係者の視点、392社の企業の視点、それぞれの分析から見えてきた「ギャップ」をまとめました。一般的にリスクアセスメントというと、自社内のアンケートデータに基づく分析を行っている企業も多いかと思います。そうした取り組みもリスクマネジメント・危機管理において非常に重要であることはもちろんですが、将来の「影響」の予見を行うためには、「外部」のデータを取り入れ、もう一歩深い分析を行うことが有効です。

今回の「企業の危機管理に関する調査」では、業界別の分析なども行っています。興味を持たれた企業の方は、ぜひご一報ください。