新明解「戦略PR」 #28

「PR、使い倒せていますか?」の巻/その2:報道用基礎資料を使い倒してみた

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    井口 理
    株式会社電通パブリックリレーションズ コミュニケーションデザイン局 局長 チーフPRプランナー

「使い倒してみた!」シリーズの第2弾、さっそく開幕です。前回は「記者発表会」のやり方を、ちょっと工夫して拡張しちゃおうぜ! ってなことでしたが、今回はメディア・プロモートのベース・ツールとなる「報道用基礎資料」をちょっとした工夫で拡張仕様にしてみるよ! ってことです。題して、「開発者も、メディアも、営業マンも、みんなが満足するアレ、いかがですか?」です。

分厚い資料なんて置いてかれても、誰も見てねーし

我々PRパーソンがメディアに情報提供する際、報道用基礎資料ってのを作ります。それは我々が売り込みたい製品やサービスの特徴をうまく整理し、簡潔に伝えるためのベースとなるツールなんですね。USP(Unique Selling Point)を分かりやすく伝えるため、他社製品やこれまでの自社製品との比較データをどう見せるべきか、またそれらを直感的に理解できるようにイメージやキーワードをどう付加していくかなど、趣向を凝らすわけです。

もちろん、きちんとした客観的データであることを示すためのバックグラウンドや、識者のコメントなどもあるといいですよね。でもそんなこんなしてるとですね、むっちゃ分厚い資料になってくるんですよ。私が作った過去最高に分厚い報道用基礎資料は140ページほどあったなぁ…。あの頃はアカデミック・マーケティング全盛期だったから、医学的・科学的データなんかも包含していて、ついつい厚くなっちゃったんですよね。A4で140ページですから、へたすりゃ一冊の本になっちゃいますよねぇ。いやぁ、大変な時代だったわ。しみじみ。

もちろん、いいんですよ、そういうきっちりとした資料があるってことはね。でも毎度毎度そこから説明するのって結構な時間と根気が必要ですよね。「えーっと、じゃそこのデータを解説するための項目が121ページ目にありますんで、56ページの図版と一緒に見てもらえますか?」なんて。「もー少し簡潔にならないかなー?」ってメディアの人にも飽きれられちゃったりして。そんな苦い経験を数多くしてきた生粋のドブ板営業的PRパーソンだったんです、ワタシ。えぇ、もちろん謙遜です。

しかし、このような資料は以前にも述べましたが、いわば手前ミソとも捉えられがちなわけです。「で、お宅のアピールは分かったけど、生活者にとってこれってどうなのよ?」なんて言われちゃったりするんですね。そこで、我々がこのようなベース資料を作るときにセットで考えるツールをここでは共有いたしましょう。それが「プロモート用資料」です。

社会や生活者目線から見た当該製品・サービスの価値とは?

先の「報道用基礎資料」は、いわば企業側が発信したい情報をまとめたものですよね。この制作現場で課題となるのが「あれも、これも、それも言いたい!」という企業開発側の気持ちです。前のめりになってくれるのはありがたいのですが、プレゼンテーションというのはいかに簡潔にパワーをもって伝えられるかだ! なんて言うじゃないですか。そう、あまりに冗長になってしまってはどこがポイントなのかさえ、わかりづらくなってしまいます。やっぱ強弱つけないとね。

しかも、そこには社会や生活者から見たリアルな価値ってやつを説明してやらねばならないと思うんです。「この製品の、この機能によってこれまでお客さまが困っていた○○を解決できるんですよ!」みたいな。そうして初めて「ああ、この製品を伝えることによって、価値ある情報として読者に受け入れてもらえるな」というメディア側のメリットが生まれてくるわけです。そりゃ企業側の言いたいことだけを記事にするなんて、広告じゃないんだからメディアの記者は嫌がりますよね。そういう意味でのWIN−WINをつくっていくのが私たちのオ・シ・ゴ・トなんですね、えぇ。

で、その「プロモート資料」ってのは、いわゆる社会の動きや生活者におけるトレンドなどの周辺情報もとりまとめてあるわけです。「現在の社会背景からすると、生活者にこんな関心がありそうですね」とか「この辺りの生活者グループでは、たしかにこんなことに取り組んでいる方々が増えてきているんです」など。そういったいくつかの情報の組み合わせで、今後のトレンドみたいなことをイメージしてもらいつつ、当該製品・サービスが受け入れられる素地というか可能性ってものを示してあげるわけです。

もちろん情報提供した先のメディアの方々によって「なるほどねー」とご理解いただける場合もありますし、「いやー、そこまでは言いきれないかもねぇ」となる場合もあります。ただ、トレンドなんてものは、ルールや定石といった正答が必ずしもあるわけではないので、ここはいくぶん我々の考える理想的な将来像というものに頼らざるを得ません。ただし、この想像力こそがPRパーソンの経験値から生み出されるものだと思いますし、その組み立ての緻密さ、構成力によって、いかにリアリティーをもって伝えられるかということになっていくのです。

よく聞かれるのは、「じゃー、どうやってそういう組み立てをするんですか?」「情報はどこから取ってくるんですか?」といったこと。よく広告畑のみなさんは勝手にストーリーを作って、「これにPR的な肉付けしておいてくださいね!」なんてことを無茶ぶりでオーダーしてきたりするんですが、そもそものストーリーが荒唐無稽だったら、当然のことながら「そんなのムリっしょ!」となります。いかにノンフィクションの顔をしてても、読んでいくうちに「こりゃ、できすぎだろう」「盛りすぎてませんか?」となるわけです。

ほんじゃ、我々がどうしているかというと、常にさまざまな視点でデータやトレンドを収集、整理しておき、それら個別のファクトを紡ぐ形でストーリーを組み立てるんですね。自分が仕事で関わっている領域に関連するデータというよりは、今後狙っていく新たなターゲット層に思いをはせながら、こんな生活者って実際増えてるんじゃないかな、という想像を片目で見つつ、もう一方の製品やサービスのベネフィットとの接点をシミュレーションする、ということを常にやっているんです。

そして自分なりに納得のいきそうなストーリーをおぼろげながら構成し、あとはそれらに足りない情報ピースを探してくる、または自ら調査などをやって検証してみるのです。なのでベースの準備は、おぼろげなストーリーから磨き上げるのに、やはり3カ月程度は欲しいところなんですね。

せっかくのトレンド情報をセールストークに生かせないか

そんな世間のトレンド情報をまとめつつ、それに乗せてメディアへのアプローチをして記事なんかにも取り上げてもらうことを目指すわけですが、前述のように意外に事前の準備期間が必要だったりするわけです。そりゃきちんと緻密なもの目指してますからね。当然ですよ。でもね、この3カ月で集めていくファクトを五月雨でクライアントと共有していたときに、こんなことを聞いたんですね。「いやー、うちの営業部隊がね、こういう情報があると商談しやすいよなーって言うんですよ―。今から楽しみですねー、この資料♪」って。

うんうん、そうだなぁ。2~3カ月前から流通との商談を始める営業部隊って、確かに武器がないんですよね。商品発売時に、広報部や宣伝部が、記者発表会やイベントなどを仕掛けて、商品がニュースになれば「メディアで話題のこの商品!」なんて店頭POPで販売促進を図ることもできるけれど、それは店頭に商品あってのことですもんね。そこで私、考えました。プロモート資料も完成形を前に、セールストーク用のツールにできないかなってね。

これまでの商談におけるメーカー側の武器ってのはインセンティブだったり、はたまたそのシーズンのプロモーション計画だったりしますよね。プロモーション計画ってのは、「こんだけCM打ちますから、認知度は上がると思うんですよ。だからたくさん並べてくださいよー」ってな感じのやつ。でも、それって流通の方ではリアリティーがないらしいんですよね。そして競合商品に対しても販促費の数字だけの競争にしかならないんで、そこまでの大きな差がなければ結局判断としても横並びになっちゃう。

でも、このような生活者インサイトからトレンド予測した情報を営業が話し始めると、流通の担当者も「なるほろなるほろ、確かにそういう人たちっているよね」ってな感じでリアリティを感じていただけるんだとか。まさに提示したストーリーに共感を覚えていただけるということなんだと思います。別にメディアに載ったわけではなくとも、内容に納得感があればその方が流通側も売りやすいし、売りの対策も立てやすいってことなんでしょうね。

ってな感じで、今は情報収集や取材などの一連の作業で、「報道用基礎資料」「メディア向けプロモート資料」「営業用商談資料」までをご用意するというのが我々のメニューとなっています。もちろんここに生活者の意識調査を付加したり、データをより直感的に見せるためのインフォグラフィックスを用意したりと、さらなる工夫もしておりますが。もしそのような資料を作ろうと考えている段階でしたら、そのようなマルチに使える資料への拡張を一度トライしてみるといいかもしれません。なにより、社内で営業から感謝されるって相当気持ちいいらしいんで。これも、とあるPRご担当者から漏れ聞いたお話で(笑)。

プロフィール

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    井口 理
    株式会社電通パブリックリレーションズ コミュニケーションデザイン局 局長 チーフPRプランナー

    1990年電通PRセンター(現電通パブリックリレーションズ)入社。コミュニケーションデザインを手掛けるチーフPRプランナー。
     
    企業のコーポレートコミュニケーションから、製品・サービスの戦略PR、動画コンテンツを活用したバイラル施策や自治体広報まで、幅広く手掛ける。最近では、熊本県の赤い特産物をアピールするため仕掛けた「くまモンほっぺ紛失事件」のPRプランを手掛け、世界的なPR業界紙「Holmes Report」が主催するアワードで「世界のPRプロジェクト50選」に選出された他、多数の口コミを起こしたキャンペーンとして、世界的な口コミアワードである「WOMMY AWARD」を日本で初めて受賞。Holmes Report「The Innovator 25 Asia-Pacific 2016」(アジア太平洋地域のイノベーター)選出。
    その他「Cannes Lions」「Spikes Asia」PR部門、「SABRE AWARDS ASIA PACIFIC」「PRWeek Awards Asia」「ヤングカンヌPR部門日本代表選考」審査員。2013年6月に「戦略PRの本質~実践のための5つの視点~」(朝日新聞出版)を上梓。自治体PR事例をまとめた「成功17事例で学ぶ自治体PR戦略」(共著:時事通信社)も好評発売中。

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