ろーかる・ぐるぐる #05

コンセプトの定義(秋田のしょっつる)

今回のテーマはイノベーションの原動力となる「コンセプト」。
広辞苑によれば「①概念②企画・広告などで、全体を貫く統一的な視点や考え方」とあります。アメリカの社会学者タルコット・パーソンズは「暗黒の中でわれわれはサーチライトによって、初めて事物を見ることができる。これと同じように『概念』というサーチライトによって、照らされた事物を、われわれは『事実』として認識する※1」と説明しているそうです。

にもかかわらず現実のビジネスの世界では何も照らし出さないただの商品説明のようなものまで「コンセプト」と呼んでいることがあります。

そこで、このコラムではイノベーションの原動力となる「コンセプト」を「目標に向け課題を解決する新しい視点」と定義します。広告の世界で使われる「ビッグ・アイデア」と同じです。新しい世界を照らし出すサーチライト。ワクワクするような言葉を意味します。

あれ?今回は冒頭からちょっと力み過ぎですかね。えーと。
昨年来、わが家の定番調味料に加わったのがハタハタの「しょっつる(塩魚汁)」。その名の通り塩と魚を原料につくられた秋田名物の「魚醤」です。かなりしょっぱいですが分量さえ間違えなければ色々なメニューに使えます。オリーブオイルとドレッシングにしてもよし、鶏肉を漬け焼きしてもよし。何と言ってもお気に入りは枝豆。茹で立てに振りかけると、さやを口に含んだ瞬間独特な旨味がジュワリと広がって、手はベトベトになるけれどちょっとクセになります。

 

 

47CLUBで見つけたしょっつる。これは高級品です。

 

 

 

秋田出身のK女史にこの話をしたら「そうなのよ! わたしはしょっつるが『食べるラー油』みたいに大ブームになると思っているの!」。

なるほど。たしかにしょっつるは素晴らしいですが、「食べるラー油」はよく出来たコンセプトだからこそ「ひとの行動・習慣・価値観にもう元に戻れないような変化をもたらした」と思うんです。

コンセプトとは「新しい視点」。いままで世の中に存在しなかったものです。存在しないものを表現する言葉なんてありませんから、メタファー(隠喩)を使うことになります。実際「ラー油」は調味料なので、それをおかずのように食べるものではありませんでした。「食べる+ラー油」という新しい組み合わせによって、この商品が持っているユニークな視点を直感的に共有することができています。

また、コンセプトは課題を解決します。最近、日本の食文化で特徴的な「口中調味(味の淡い米飯と味の濃いおかずを口の中で調節しながら食べる習慣)」ができなくなっている、味のしない(?)白いご飯を食べられないこどもが増えているといわれています。また、次第に出汁に代表されるアミノ酸旨味よりもわかりやすい油脂旨味が嗜好されるようになってきている、という話を聞いたことがあります。そんな生活者にとっては、白いご飯にザクザクとのせるだけで旨味たっぷりのメニューになる「食べるラー油」は見事な解決の手段です。

さて、しょっつるは何か新しい視点になりうるのか? 何か課題を解決するのか? ひとの行動・習慣・価値観にもう元に戻れないような変化をもたらせるのか……。

 

 

にんにくトマトラー油

 

 

 

まぁ、そんなややこしいことを考えなくても旨けりゃいいわけですが。そろそろ枝豆の季節。今年もしょっつるで手をベトベトにしながらビールを飲もっ!と。

どうぞ、召し上がれ!


※1 高根正昭『創造の方法学』講談社現代新書、1979年より抜粋。

プロフィール

  • 4
    山田 壮夫
    株式会社電通 第1CRプランニング局

    1969年生まれ。アイデアを核として広告キャンペーンはもちろん、店舗開発からテレビ番組の製作まで手掛ける。特に最近は全国の地方新聞社厳選お取り寄せサイト「47CLUB」と連携してローカルにおける商品開発作業にチャレンジしている。2009年カンヌ国際広告祭(メディア部門)審査員。慶應義塾大学(メディア・コミュニケーション)、明治学院大学(経営学)非常勤講師。著書に『〈アイデア〉の教科書 電通式ぐるぐる思考』(朝日新聞出版)。

バックナンバー

関連記事

続きを見る
ページ先頭へ