東京防災 #01

ターゲットは全都民!
「東京防災」はこうしてできた(前編)

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    榊 良祐
    株式会社電通 第3CRプランニング局 デザインストラテジスト/アートディレクター

2015年9月から、東京都の各家庭に1冊ずつ配布された「東京防災」。実際にご覧になった方も多いだろう。今回は、「東京防災」プロジェクトのクリエーティブ施策全体のプロデュース・クリエーティブディレクションと、冊子部分の編集を統括した電通第3CRプランニング局(電通コミニケーションプランニングセンター)のデザイン・ストラテジスト榊良祐氏に話を聞いた。

 

■本を配って終わりのプロジェクトではない。そこから防災力を上げていく

−−まず、東京防災のプロジェクトにはどのような形で携われたのですか?

榊:デザイン・ストラテジストとして、企画、構成からデザインの細部まで全体に携わってきました。防災は、極めて重要な情報で正しく届ける必要があるものですが、これまで国や自治体から送られてくるものは、デザインに気を使われていなかったり、内容が硬過ぎたりで情報がきちんと届いていたとはいえません。そこで、今回のプロジェクトではまず最終的なデザインを描いてから、逆算して詳細を企画し実際の制作に落とし込んでいきました。

企画自体は、舛添要一都知事の英断から始まっています。都知事が学生時代にスイスに留学したとき、スイスでは一家に1冊「民間防衛」という本が配布され、“国民が自分で身を守るための啓発”がされていたことに感銘を受けたことが、このプロジェクトのきっかけになっています。

私はこのプロジェクトの話を聞いたときに、自分がやらなくてはいけないと強く思い、本業務の企画コンペ作業に自ら手を挙げ、無事勝利し業務に携わることになりました。というのも私は実家が兵庫県宝塚市で、阪神・淡路大震災の被災者です。自宅周辺の建物が倒壊したり、学校の体育館が避難所になったりということを体験しました。大災害では、想像を絶することが次々に起こります。だからこそ将来確実に起こる大災害に備えて、防災の情報は全ての人が知っておくべき極めて重要な情報であり、一人でも多くの都民が、興味を持ち、理解しやすい編集、デザイン、言葉で届けなければならないという思いで作りました。

さらに東京防災は、東京都のシティーブランディングとしての位置付けもあり「世界ナンバーワンの防災都市東京を目指す」一歩でもあります。

−−どういうことを目標にして作られましたか?

榊:提案の段階から継続して訴えていることは、このプロジェクトは本を作って読んでもらう、だけで終わってはダメだということです。防災活動が、都民の日常になり、継続的な活動になって初めて成功したことになるのです。

そのために、東京防災では「防災力」を上げることを目指しています。「防災力」とは、知識力、想像力、団結力の3つからなると定義づけています。

知識力=防災の(正しい)知識がある。
想像力=実際の災害時に何起こるのか?どう行動すべきか?を想像出来る。
団結力=日頃から周囲の人々と防災について話し合い、災害時に団結する準備がある。

この3つがそろって初めて「防災力」となるのです。

 

■手に取ってもらう、想像してもらう、実行してもらう。そのためにどんなデザインが必要か?

−−「防災力」を上げるという目標を本の中にどう落とし込んでいったのでしょうか?

榊:まず、今回はターゲットが「東京全都民」です。老若男女、ライフスタイルもバラバラ、地域特性も多種多様、都市部もあれば山間部、島しょもある、さらに障害のある方、配慮が必要な方、外国人の方など、あらゆるセグメントが含まれます。

ここまで多様性に富んだ都市は、世界的にも他に例がありません。そして、このプロジェクトでは、誰1人無視する訳にはいかないのです。それを踏まえて、デザイン方針、編集方針を考えました。

大前提になるのが、東京都が税金を使って作る意義です。すでに市販の防災本はたくさんありますから、それと同じ物を作っても意味がない。なぜ、今この本を作らないといけないのかを考え抜いた結果、徹底的に東京仕様であることにたどり着きました。

 

−−制作に当たってチームではどのような方針を共有しましたか?

榊:「4つの編集方針」と「5つのデザイン要素」を決めました。4つの編集方針からお話ししましょう。

1つ目が「エンターテインメント型」。防災は、硬い、重い、という印象がありますよね。それは当たり前で、災害が発生するというネガティブなことを想像して行動を起こさないといけないからです。最悪の状況を想像することを人間は本能的に避けますから、その精神的なハードルを乗り越えて、自ら防災する仕組みを作らないといけないんです。

この本はまず「面白そう」と気軽に手に取って読んでもらうこと、そして気付いたら防災の知識がついた、という順番を大事にしています。

手に取ってもらうためには、読みたくなるようなビジュアルが重要で、見た目へのこだわりは随所にあります。まず、表紙にも登場する「防サイくん」。このキャラクターが表紙にあるのとないのでは印象が全く異なります。

 

そして、本の中の大量のイラスト。硬過ぎず柔らか過ぎないタッチのイラストを配置してパラパラと眺めるだけでも伝わるようにしています。さらに、漫画家かわぐちかいじ先生の漫画を入れています。漫画は気軽に読めるコンテンツですから、まずは開いて読んでもらうためのフックになります。

細かい工夫では、ページの端に防サイくんのパラパラ漫画を入れています。この漫画は、発災から、身の保護、出口の確保、初期消火、自宅待機という流れになっていて、ここからも防災の知識が身につくんです。他にもクイズを入れたりと、エンターテインメント要素をたくさん盛り込み、まずは手に取ってもらうことを目指しています。

2つ目が「災害疑似体験型」であること。実際の災害をまずは想像させる、今起きたらどう行動するかをシミュレーションすることを目指しています。漫画のストーリーも、何げない日常で大災害が起こった瞬間を描いていて、今この瞬間に起きるかもしれないリアリティを強く意識させる内容にしました。

1章は、まるまるシミュレーションで、発災、発災直後、避難、避難生活、そして復興までの、一連の出来事を書いています。「死と向き合う」という項目では、死というデリケートな部分も取り上げています。民間・公的機関含め、防災の本で死を扱っているものはほとんどありません。あらゆる人が読むことを踏まえて、刺激的なことは書かない方がいいという意見もありましたが、リアルな危機感を持って自分ごと化してもらった方がアクションにつながりやすいということで入れました。ただショッキングな話で終わるのではなく、次に未来につながる復興の話を続けるという構成にしています。

そして3つ目が「行動喚起型」。大災害は明日起こるかもしれない。だから、「今」行動を起こすことが大切です。このプロジェクトのスローガンは「今やろう。」。本の中の今すぐアクションに移せる需要な項目には「今やろうマーク」をつけています。忙しい人は全部読むことが難しいので、マークのついたページだけ読んでももらい、最低限の防災力が身に付くように計算しています。

さらに、家族・地域で集まり、話し合うきっかけになる「防災ワークショップ」も入れました。防災で抜けがちなのが「コミュニケーションの備え」です。ワークショップを行うことで、家族や地域とのリレーションが強化されるようにしました。

本の中には書き込めるページも多く用意していますし、それは付属の防災マップも同様です。防災マップはコンパクトでいつでも持ち歩けるので、家族の情報、連絡先、避難場所などを書き込めるようにしています。「書き込む」と言うプロセスを入れる事で、家族で集まり、災害をリアルに考えるきっかけを作っているのです。

4つ目が徹底的に「東京仕様」ということ。東京に住む人のライフスタイル、都市構造などを徹底的に分析して、どの場所にいても対応できることを目指して書いています。

多種多様な人々が暮らす東京で、「誰も切り捨てない。」ことを目指したユニバーサルデザインの考えのもと、2つの認証を取得しています。1つがカラーユニバーサルデザイン機構のCUD検証で、こちらは視認性、配色の分かりやすさに配慮しています。そしてもう一つがユニバーサルコミュニケーションデザイン協会のUCDA認証で、文章の読みやすさ、伝わりやすさをチェックしています。

 

■最小限の要素で最大効果を出す。細部までこだわったデザイン設計

−−細部までこだわった編集方針で作られているのですね。では、デザインのポイントを教えて下さい。5つのデザイン要素とは?

榊:まず、今回のデザインは、おしゃれ過ぎてはダメだと思っていました。というのも、都民全員に配布されるので、例えば一人暮らしのおじいさんの家に届いたとき、若者向けのようなおしゃれなデザインだと「間違えて届いた」と思って見ないかもしれない。だから特に、郵送パッケージのデザインにはこだわりました。届いたときのインパクトも大事だけど、公的な配布物感も残したい。そして中身を開けたくなる。全ての人が自分のものだと思えるデザインを目指しました。

5つのデザイン要素に関しては、

①ネーミングは東京都の防災であることをシンプルに伝えるために「東京防災」とし、タイトルをアイコン化しました。
②キーカラーは、黄色と黒にしました。この組み合わせはグローバルデザインの警告色とされており、最も視認性の高い配色です。部屋のどこに合っても一瞬で目につくように計算しています。黄色なのでポップで明るいイメージもありますね。
③キーアイコンとしては、防災ストライプを用意。キャンペーン全体に使う共通アイコンとしてシンプルで使いやすく、黄色と黒の組み合わせで、危険を表す印象になります。
④キャラクターの防サイくんですね。彼はイベントにも登場できますし、みんなのアイドル的な存在です。これは僕が描きました。可愛いでしょ?(笑)
⑤キャッチコピーの「今やろう。」は行動喚起のムーブメントの合言葉になります。

 

以上5つのデザイン要素で、本だけではなく、プロジェクト全体を統一させ、最小限の露出で最大限の効果を出すことを目標に、デザイン設計しています。
デザインに関しては、「ノザイナー」と言うデザイン会社が深く関わっており、代表のデザイン・ストラテジスト太刀川英輔さん始め、優秀なデザイナーと細部まで話しながら作っています。

 

−−キックオフのイベントも非常に注目されましたね。

榊:電通のイベント&スペース・デザイン局中心に企画しました。ももいろクローバーZを起用して、舛添都知事にも出演頂き、キックオフイベントを都民広場で実施しました。普通の防災イベントではなかなか人が集まりませんが、アイドルを呼ぶことで普段防災に興味のない人にも関心を持ってもらえるようにしました。イベントではTシャツを配りましたが、その写真などがSNSなどで拡散されました。

次回は、この本の具体的な制作方法、将来の展開などについてお話を伺います。

 

プロフィール

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    榊 良祐
    株式会社電通 第3CRプランニング局 デザインストラテジスト/アートディレクター

    2004年電通入社。
    アートディレクターとして数多くのクライアントを担当。その経験とデザインスキルを生かし、アウトプットから逆算した、より戦略的で幅広いソリューションを開発・実行する「デザインストラテジスト」として活動している。
    主な仕事に、「東京防災」総合プロデュース、「東京長期ビジョン」デザイン・編集、「JAPAN LEATHER」ブランディング、「民放公式テレビアプリ“TVer”」アートディレクションなど。CLIO・ロンドン国際広告祭シルバー、Adfestブロンズ、Cannes Lionsファイナリストなど受賞多数。グローバルクリエーティブチーム「VIRUS TOKYO」代表。

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