デジタルの旬 #25

「学ぶ力」を学んだデジタルネイティブの創造力が世界を変える~CANVAS 理事長 石戸奈々子氏

  • 石戸 奈々子
    CANVAS 理事長

幼少のころからデジタルやネットに慣れ親しんだ世代は「デジタルネイティブ」と呼ばれ、それまでの世代とは全く違う視点・発想や可能性を持つ世代として大きく期待されている。だがその半面、デジタルは子育てや教育に弊害をもたらすと指摘する識者も決して少なくはない。生まれた時からスマホやタブレットに触っているような、真の意味で「デジタルネイティブ」と呼び得る今の子どもたちは、その環境の中で何を感じ何を学び、どこに向かおうとしているのだろう。デジタルと子どもたちとの関わりをテーマに多彩でユニークな活動を続ける、石戸奈々子氏に話を伺った。
(聞き手: 電通デジタル・ビジネス局計画推進部長 小野裕三)

デジタルやテクノロジーの力で、学校を変え、学びそのものを変える

――子どもや教育というテーマに取り組まれたきっかけを教えてください。

石戸:子どもが好きですが、それ以上に新しい表現やコミュニケーションに興味がありました。そして、実際にそれを作っていくのは、次の世代であるデジタルネイティブの役割ではないか、と思ったのです。

きっかけとしては、マサチューセッツ工科大(MIT)メディアラボとの出合いが大きかったと思います。研究内容もさることながら、新しい何かが生まれてくる「場」のつくり方を目の当たりにし、衝撃を受けました。世界最高峰の専門家や、デジタル系の企業が昼夜問わず議論し、新たな価値を生み出すためのチャレンジに最大限の賛辞が贈られる。そのメディアラボが、研究のテーマの一つに掲げていたのが「子どもとメディア」でした。デジタルの恩恵を一番受けるのは開発途上国や子どもたちなんだ、という思想が背景にありました。メディアラボがテクノロジーの未来を生む場を提供しているように、子どもたちに場やツールを用意することこそが今の大人の役割なのではと考え、今の取り組みを始めました。

――その取り組みの中では実際に、デジタルテクノロジーを教育に取り入れることに力を入れていますね。

石戸:私自身は「教育」ではなく「子どもたちの学習」という言葉を使っています。今の子どもたちが大人になるころには今ある職業の65%はなくなる、というデューク大学の先生の予測がニュースになりましたが、デジタル時代を生きる子どもたちが必要とする力は、大きく変わってきています。少なくとも、検索でさまざまな情報がすぐ手に入る環境になり知識を暗記することの優位性は下がってきている。今の常識は10年後の非常識かもしれません。子どもたちが、この未だ人類が経験したことのないような変化の時代を生きていくためには、世界中の多様な価値観とコラボレーションしながら新しい価値を生み出していく、「つくる力」としての創造力とコミュニケーション力こそが大事になってきます。

そのように子どもたちが必要とする力が変われば、当然ながら、学びの方法もまた変わることを求められます。でも例えば、MITメディアラボのシーモア・パパート氏は、150年前の外科医を現代の手術室に連れてきても全く役に立たないけど、150年前の教師を今の教壇に立たせても同じように教えられる、そのくらい教授法は変わってこなかった、とおっしゃっています。その状況は日本も同じで、江戸から明治になるときに寺子屋から一斉授業になり、それから約150年の間、全く形態は変わらないままきています。

CANVASの立ち上げは2002年。機運はあるもののなかなか学校でテクノロジーを使った創造活動が入れられない中で、それは社会全体が担うべき役割だとの思いから産官学連携で推進する課外活動として始めました。そして、学びを変化させるには、テクノロジーやデジタルの力をまず学校という場に入れていくことが、やはり一番のきっかけとなると感じています。

石戸氏

――デジタルを取り入れることは、学びにおいてどのような影響があるのでしょうか。

石戸:デジタルを取り入れるメリットは三つあります。一つ目は、楽しく創造的に学べること。天体や図形の授業など今まで伝えるのが難しかったものが、動画やゲーム的な要素を入れたりして分かりやすく楽しく学ぶことができて、さらに子どもたちが学んだことを表現することもできます。

二つ目は、共有できること。今までだったら手を挙げる子だけが発言できたのが、タブレットを通じて先生が全員の意見を把握できる。また、生徒同士で教え合ったり学び合ったりもできる。さらには、世界中の人とリアルにコミュニケーションを取ったり、家庭や地域ともつながることができます。

三つ目は、効率的にできること。ビッグデータを積み重ねていくことで、個々人に合わせて最適な学習を提供することができます。また、採点を自動化することで、その分先生は生徒と向き合う時間が取れます。

これを私たちは、創造、共有、効率の三つのメリットと言っていますが、私自身が一番期待しているのは創造の部分です。クリエーティビティーこそがこれからを生きる子どもたちに一番必要なこと。デジタルを使うことの最大の価値は、やはり「創造できる」ことだと思います。誰もが新しいものをつくり出すことができて、情報の生産者となり、そして発信者になれる。最大限に発揮してほしいと願っています。

知識やスキルを学ぶことより、学び方自体を学んだ子がこれからは強い

――これまで、ワークショップに35万人以上が参加したということですが、そこで感じた手応えとはどのようなものでしょう。

石戸:例えばサマーキャンプなどで4~5人のチームを組んで、子どもたちだけで映画や音楽をつくるのですが、休憩時間やお昼を食べる時間ももったいないと言って、熱中します。始めたころには、「それはゆとり教育ですね」と周囲に言われたりしましたが、私は「本質的な詰め込み教育です」と答えています。だって、こんなに集中力を発揮する授業が他にあるでしょうか。

そして、終わった後に保護者の方からの感想で多いのが、生活態度が良くなったということです。初めて出会った子とチームを組んで何かを完成させたということは、大きな達成感を得る「成功体験」なんですよね。その積み重ねが子どもたちに自信を与えて、前向きで積極的に取り組むという姿勢をつくる。学校で手を挙げられるようになった、自分で起きられるようになった、家での会話が増えたとか、意欲的に勉強するようになったという子がすごく多いんです。

それはとても大事なことで、変化が激しい今、子どもたちに求められているのは、生涯にわたって学び続ける力だと思います。「学び方を学んだ」子が一番強い。だから私たちは何か具体的なスキルを教えるのではなくて、学ぶことは楽しい、ということを子どもたちに実感してもらえ、学び方を知ってもらえれば、それこそが最大の成果だと考えています。

アニメーション
サマーキャンプ

 

――そのように子どもたちが積極的な姿に変わるのに、やはりデジタルという手段が大きな役割を果たしているのでしょうか。

石戸:例えば、自然の中でみんなでキャンプするのだって自信の醸成にはつながりますし、デジタルでないとできない、ということではない。ただ、デジタルはアウトプットの敷居を下げてくれるのが大きな長所です。自分の能力にとらわれることなく、絵が不得意でもデザインができますし、スキルがなくても作詞作曲ができる。さらに、コラボレーションを前提に発想することによって、可能性が無限大に増えます。やりたい、やってみようと思えることがすごく広がるのです。

ただやはりバランス感覚は大事ですから、ワークショップを通じて、リアルとバーチャル、デジタルとアナログ、そのバランスの中で両方の世界を体験し、融合させて、新しい価値を見いだすことにチャレンジしてほしいと考えてやっています。でもこれからは、モノがネットにつながり始めて、その境も分からなくなってくるのかもしれませんね。

――いわゆる「ネットいじめ」など、子どもたちがネットやデジタルを使うことで起きてしまう問題も少なからず指摘されていますが、どう受け止めますか。

石戸:負の側面があるのも事実で、社会としての対処法が未成熟であることが課題だと感じています。今できることとしては、リテラシー教育がとても大事です。交通ルールを教えるように、守らなければいけないルールを伝えなくてはいけない。怖いものにふたをするのではなく、親や先生が介入できる幼いうちに、きちんとした使い方を教えてあげることが大人の責任だと考えています。家庭の中で親と子どもが、あるいは学校で先生と生徒が、というふうに、大人と子どもが一緒にルールとその理由をつくり、守っていく姿勢が大切です。

いまだに、子どもにモバイルを持たせるな、と言う人たちがいるのも事実。でも、あまり使ったことがない人が反対していることも多いようです。あくまでツールの一つですから、使い方次第だと思います。今の子たちにとっては、生まれながらにクレヨンがあって、紙があって、タブレットがあって、スマートフォンがあるにすぎない。公園で走り回って遊ぶことも、五感を使って何かをつくることも、みんな大事。全てはバランスです。

デジタル絵本

――デジタルネイティブ世代の子どもたちに、何か特徴的なことなどを感じますか。

石戸:特に日本の子どもたちは、やはり漫画、アニメなどを通じてのビジュアル表現にたけていると感じます。今の文化は文字での表現が中心ですが、次の世代ではビジュアルでのコミュニケーションが基本という文化になる気がしています。そのとき、日本の子どもたちが持つ可能性はすごく大きいのではないでしょうか。

また、コンテンツとの向き合い方も変わってきています。例えば音楽が好きなら、昔は好きなアーティストの系譜をたどって誰の影響を受けているかなど考えたりしましたが、今の子たちは情報があり過ぎるので、ザッピング的に聴く。発想が全然違います。これからも全く違うライフスタイルが出てくるでしょうし、さらにIoTや人工知能が浸透してきたらと考えると、もう想像がつかないですね。

それにしても、デジタルネイティブの世代の子どもたちはやっぱりすごい。テクノロジーが自分の力を無限に拡張してくれるということを、肌感覚として分かっています。中高生のころからITを使いこなして、ネットで仲間を募って起業したとか、プログラミングの好きな子を見つけてクラウドサービスをつくってみたとか、そういうことを始める子どもたちがたくさん出てきています。65%の職業がなくなるのであれば、新しい65%をつくり出さないといけない。この子どもたちの世代が、新しいテクノロジーを真に身体化して駆使して、新しい仕事や表現やライフスタイルを生み出してくれるだろうという期待をすごく持っています。

石戸氏

30年後の未来の姿を、子どもたちと一緒に空想して形にしたい

――そのように子どもや教育の在り方が変わってくるとすれば、学校の先生たちの姿もやはり変わりそうですね。

石戸:学校の授業は、先生の頭の中にある知識を生徒に伝達するということではなくなってきます。知識はネットにあるわけで、それを使ってどういうふうに議論をし、理解を深めていくか、それをもとに人とコミュニケーションをし、何をつくりだしていくかといったことの方が大事です。これからの先生は、何かをつくったり、議論したりするためのファシリテーターとなり、学校はそういう場所になっていかなくてはいけないと思います。また同時に学びを学校だけに閉じることなく、学校外にもそのような学びの場が多数生まれて、家庭や地域での活動ともシームレスにつながっていくことで、子どもたちが真に主体的、協調的で創造的な学びが得られるように変わっていくと考えています。

日本がこれだけの教育水準を保ってきたのは、ひとえに日本の先生たちの優秀さと真面目さと熱意によるものだと思います。先生がITを使いこなせないというのは、課題として必ず挙がりますが、実際にツールを手にすると十分に使いこなしているというデータがでています。鶏が先か卵が先かの議論。もちろん、鉛筆を持ったら頭が良くなるわけではないように、タブレットを持ったからと言って成績が上がるわけではない。やはり、どういう授業をしていくかというところがポイントです。日本の先生たちは本当に優秀で熱心ですから、ツールがあれば21世紀にふさわしい、世界に誇れる授業を生み出してくれると思います。本質的なすばらしい授業ができる先生ほど、ICTを上手く使いこなすというのは、いろんな現場で言われています。

――これからの教育ではプログラミングを子どもたちに学ばせることが重要だという指摘をする識者がいますが、やはりそのように考えますか。

石戸:私たちは14年前の設立当初からプログラミングの教育が必要だと言ってきていますが、やっとこの2年ぐらいでムーブメントが起きつつあります。日本政府の成長戦略の中で初等中等教育段階からのプログラミングの必要性が記載されたり、諸外国で必修化の動きがあったりすることが影響していると思いますが、習い事ランキングにもランクインし始めているなど、やっと保護者に受け入れられるようになってきました。

私たちは、プログラミング「を」学んで欲しいのではなく、プログラミング「で」学んで欲しいと考えています。プログラミングの過程を通じて、論理的に考えて問題を解決する力や、他者と協働して新たな価値を生み出す力を身に付けてもらいたいですし、何よりも新しい表現手段を身につけてもらいたいと思っています。コンピュータは、パソコンを超えて、あらゆるモノ、分野、環境に溶け込んできています。子どもたちからしても、ご飯を炊くときも、洗濯をするときも、テレビを見るときも、コンピュータやネットが入ってきています。生活・文化・社会・経済の全てをコンピュータが支えることとなり、そしてそれらのしくみは全てプログラミングによって生まれています。だからこそ、コンピュータに関する原理的な理解があるかないかによって、社会のありとあらゆる場面での対処能力が変わってくるのです。これからの子どもたちに必要なことは「読み書き、プログラミング」。どのような人生を送るにしても必要な基礎教養となると思います。

プログラミング
プログラミング

――デジタル時代に現れてくる創造力には、それまでの時代の創造力とは違う何か特徴的な点があるのでしょうか。

石戸:デジタルを使うことで、一つの出来事に対して、多角的な視点での情報が手に入ります。世界中のさまざまな立場に置かれた人たちの考え方を聞くことで、一つの事象を複合的に見る目を養い、思考を深めることができます。

創造力を評価することは難しいですが、少なくとも当たり前のように映像や音楽をつくるようになった子どもたちの、全体としての創造力もやはり底上げされるのではないでしょうか。デジタルによって便利になることで、人間の持つある一部の能力は退化するかもしれませんが、逆に例えばコラボレーション型の創造力や、映像や音楽を組み合わせたマルチな表現のようなデジタル時代に適した能力は向上すると思います。それに、裾野が広がれば、ピラミッドの頂点も上がります。すごい才能が出てくるかもしれませんね。

何かを表現する、つくることって、生きることと同じで、すごく幸せな行為じゃないでしょうか。子どもたちが生きる上で、もっとたくさんの場所を用意してあげたいですね。

――例えば、人工知能の進化は人類の脅威だと指摘する識者もいます。デジタルテクノロジーが進化する中で、デジタルネイティブの子どもたちが大人になった時につくり上げる未来の社会とは、どのような姿のものだと思いますか。

石戸:テクノロジーは、人類の欲 望が生み出しているものであるからには、人類の希望でもあるはずです。私自身はそこに可能性を見いだしたいと願っています。「バック・トゥ・ザ・フュー チャー」の未来に現実が追い付いた今、次の未来をなかなか想像できていない状況なのかもしれませんね。

今の60代はグーグルや Facebookを想像できなかったと思いますが、日常にデジタルがある環境で育った子どもたちの、今の大人が想像もつかないイマジネーションから生まれ る新しい産業にも、すごく期待しています。30~50年後に社会を支える今の子どもたちと、私自身も一緒に空想し、それを形にしていくことにチャレンジし ていけたらと願っています。

世界で一番クリエーティブな国はどこという、あるアンケートで、実は日本が一番だったんです。世界中で受け入れ られるコンテンツを多く生み出している日本のクリエーティビティーを、日本人自身もっと誇りにしていいのではないでしょうか。これからの国際社会で創造力 がますます重要になってきますが、日本のデジタルネイティブの子どもたちが、世界をあっと驚かせるようなものを生み出していく可能性は、すごく高いと感じ ています。

石戸氏

 

 

プロフィール

  • 石戸 奈々子
    CANVAS 理事長

    デジタルえほん代表取締役。東京大工学部卒業後、マサチューセッツ工科大メディアラボ客員研究員を経て、NPO「CANVAS」を設立。これまでに開催したワークショップには約35万人の子どもたちが参加。総務省情報通信審議会委員、デジタル教科書教材協議会理事などを兼務。慶応義塾大准教授。著書に『子どもの創造力スイッチ!遊びと学びのひみつ基地 CANVASの実践』『デジタル教育宣言 スマホで遊ぶ子ども、学ぶ子どもの未来』など。

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