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インサイトメモNo.48

ネット動画を見るデバイスは家庭のテレビ受像機にまで広がるのか?

2016/02/19

スマートフォンやタブレットの普及に伴いネット動画は身近なものとなっています。電通総研メディアイノベーション研究部では過去に通勤通学中や就寝前など典型的な生活シーンにおける動画視聴の実態に関する調査を行い、さまざまな場面で幅広いジャンルの動画が視聴されている様子を明らかにしてきました。

※参考記事:「通勤・通学時における動画視聴 ~電車やバスの中で、 何を視聴しているのか?~」「夢見る前に、何を見る? ~寝る前メディア行動の最新事情」)
 
 

ネット動画が視聴される状況を考える場合、ネットに常時接続していることが多いスマートフォンやタブレットが主たる視聴デバイスと想定されることが多いようです。テレビ受像機はモバイル機器と比較するとモビリティーに欠けるというハンディがある一方で、大画面で迫力のある映像や音を楽しむことができます。マルチデバイスでの視聴を前提とする設計がなされた動画配信サービスの広がりを見据えると、テレビ受像機もネット動画視聴の重要な受け皿になり得ると考えられます。

そこで当部では、2015年12月にテレビ受像機を使ったネット動画視聴の実態に関するインターネット調査を実施しました(調査概要は末尾)。

※なお本稿において「ネット動画」とは、定額制動画配信サービス(Hulu、dTVなどの定額で見放題のサービス)、都度課金制動画配信サービス(アクトビラなど作品ごとに課金されるサービス)、無料動画配信サービス(GYAO!など)、共有系動画サービス(YouTube、ニコニコ動画など)のいずれかで視聴可能な動画を指します。
 
 
 

テレビのネット接続はまだ少数派

家庭内インターネット環境の向上やWi-Fi内蔵型テレビ受像機の普及を受けてテレビ受像機をネットに接続する障壁は低くなる傾向にあります。それでは、テレビ受像機をネットに接続した上でネット動画を視聴している人はどれぐらいいるのでしょうか。

図表1 テレビ受像機でのネット動画サービス利用

今回の調査ではテレビ受像機所有者の約4分の1(23.8%)がネットに接続したテレビを利用していることが分かりました。現状ではテレビ受像機をネットに接続している人はまだ少数派といえそうです。

なお、テレビ受像機でネット動画を視聴している人を対象に、どの機器をネットに接続しているか聞いたところ、テレビ受像機本体を直接ネットに接続する人が最も多く(69.0%)、次いで録画機(28.6%)、ゲーム機(26.2%)、外付けチューナー(22.8%)と別機器を介したネット接続が行われています(複数回答)。

さらに、ネット接続されたテレビ受像機で実際にネット動画を視聴する人はテレビ受像機所有者の11.7%でした。さまざまな動画配信サービスの本格参入が相次いでいる現時点では、この数値自体の大小を論じるよりは、ネット接続したテレビ受像機を所有する人において、ネット動画サービスを利用する人が半分にとどまっている点に注目すべきと思います。

ネット動画サービスそのものの魅力や利便性の向上がテレビ受像機でのネット動画視聴を増やす方向に直接的に働くことは容易に想像できます。しかしテレビ受像機におけるネット動画視聴の受容性を考える際には、スマートフォンやパソコンなどのデジタル機器の利用状況や放送コンテンツ・DVDなどのパッケージ映像への関与の度合いなど、さまざまな外部要因が複雑に作用する点も見逃せません。伸びしろが大きいように見えるテレビ受像機でのネット動画視聴ですが、この視聴スタイルの将来的な広がりに関する見通しを得るためには、多様な視点に立脚した考察が必要となります。

テレビを介してどんなネット動画を見ているの?

テレビ受像機ではどのようなネット動画が視聴されているのでしょうか。今回の調査では共有系動画サービスが最も多く、テレビ受像機所有者に占める比率は6.9%でした。サービスの多くが無料であることが影響していると考えられます。共有系動画サービスにおいては音楽やアニメがテレビ受像機でよく視聴されるコンテンツジャンルの代表例です。

次いで、有料動画配信サービスが続きます。その利用者がテレビ受像機所有者に占める比率は5.9%で、映画、ドラマ、アニメなどが多く視聴されています。

なお、有料動画配信サービスには定額制動画配信サービスと都度課金制動画配信サービスが含まれますが、その利用率はテレビ受像機所有者のそれぞれ4.9%と1.8%でした。

無料動画配信サービスの利用者はテレビ受像機所有者の3.1%を占めています。よく視聴されるコンテンツジャンルはアニメ、映画、音楽などでした。

今回の調査では2つ以上のネット動画サービス類型の重複利用の実態も明らかになりました。詳細に見ると、有料動画配信サービス利用者の重複利用率は約36%と最も低く、自身が契約しているサービスをテレビ受像機において集中的に利用している様子がうかがえます。その一方で、ごく少数ながらも有料動画配信サービス、無料動画配信サービス、共有系動画サービスの全てを利用している人の存在も確認できます。

複数のデバイスを介して一つの動画を見る新しい視聴スタイル

ネット動画の利点の一つは特定のデバイスに視聴が限定されない点です。特に有料動画配信サービスにおいては、例えば移動中にドラマをスマートフォンで途中まで視聴し、自宅に戻ったら続きをテレビ受像機で見られることをサービスの魅力としてアピールしていることが多いようです。

本調査では有料動画配信サービス(定額制動画配信サービスもしくは都度課金制動画配信サービス)をデバイス横断的に利用できる環境にある人、すなわちテレビ受像機に加えて、スマートフォン、タブレット、パソコンのいずれかでも有料動画配信サービスを利用するという人を対象に、テレビ受像機で見ていた動画の続きを他のデジタル機器で見ることがあるか、また逆に他のデジタル機器で見ていた動画の続きをテレビ受像機で見ることがあるかを聞いてみました。

図表2 デバイス横断的な動画視聴

その結果、いずれのパターンでも「非常によくある」「よくある」「たまにある」と回答した人の合計は70%を超え、程度に差はあるものの、多くの人が複数のデバイスを介して一つの動画を視聴する行動を取っていることが分かりました。

技術が可能としたこのような視聴スタイルは、視聴環境が拡散していると捉えるよりは、むしろ異なる環境にあって一つの動画に継続的に集中することができるようになり、動画に対する関与を高める側面に注目すべきと考えます。

動画視聴スタイルのこれからを考えるに当たって

テレビ受像機でネット動画を視聴する人に関する今回の調査は、世の中全体から見たらごくわずかな層を対象としていますが、多様化する視聴スタイルの一端を明らかにすることを目指しました。デバイス横断的な視聴行動に見られるように、新しい技術やサービスが生活者のニーズと合致すると新しい視聴スタイルが定着する可能性があります。

動画を視聴する際には、どのような気分で動画と向き合うのか、誰と一緒に見たいのか、などといった生活者の意識も大きく影響します。従って動画視聴スタイルの将来を考えるに当たっては、あらゆる可能性を排除することなく生活者の行動様式とマインドを包括的に理解する心構えが一層求められているといえます。



【「テレビ受像機での動画視聴調査」概要】
●スクリーニング調査(ウェブ調査)
対象者:全国の男女15~59歳
回収サンプル数:10000
(全国の男女比・年齢階層別人口比に応じて比例回収)
本調査対象者抽出条件:自宅のネット接続したテレビ受像機でネット動画を視聴している人
●本調査(ウェブ調査)
対象者:全国の男女18~59歳
回収サンプル数:1200
(スクリーニング調査における本調査対象者抽出条件合致者の男女別年齢階層別出現率に応じて比例回収)
実施日:2015年12月18日(金)~12月22日(火)
実査協力機関:電通マクロミルインサイト