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【続】ろーかる・ぐるぐるNo.77

「デジタル」ってそんなにエライのか?

2016/03/03

いや、デジタルを否定するつもりなんか、毛頭ないです。世の中いろんなことが急速に便利になってきているし。今後もあらゆる産業がデジタルテクノロジーとは無縁でいられないだろうし。いま皆さんに拙稿を読んでいただいていること自体、その恩恵ですし。

でも、ビッグデータでマーケティングの意思決定がすべて自動化できるなんて話はやっぱりアヤシイし、デジタルテクノロジーの粉をチャッチャと振りかければ「イノベーションが、一丁上がり」みたいな風潮があるとすれば、ちょっと違うんじゃないかなぁと思うんです。

経営学者の野中郁次郎先生はイノベーションの背景に「組織と個人」「形式知と暗黙知」、ふたつの相互作用を見いだしました。数値データに代表される客観的でデジタルな形式知だけでなく、直感や経験のような主観的で身体的な暗黙知がイノベーションには欠かせないことを明らかにしたのです。2013年に出版された『The Oxford Handbook of MANAGEMENT THEORISTS』でも、野中先生はフレデリック・テイラーやエルトン・メイヨ―、ピーター・ドラッカーなどそうそうたるメンバーと並んで24人の偉大な経営理論家のひとりと称されていますが、その大きな理由のひとつがこの暗黙知です。それを無視して「デジタル、チャッチャ」は安易過ぎやしまいか。

いまの時代だからこそ、あらためてイノベーションを起こす身体的な思考法について考える必要がある。デジタルに、論理的に、正しく考える「ロジカル・シンキング」とは違う経験や直感までをも駆使する方法論を明らかにしたいと思って『コンセプトのつくり方 たとえば商品開発にも役立つ電通の思考法』(朝日新聞出版・3月7日発売)を上梓しました。

マネジメント軸とコミュニケーション軸

 

この本では身体的な思考を二つの軸で整理しています。ひとつは「具体策のあるコンセプトで課題を解決することによってビジョンを実現する」という結び付きを求めるマネジメント軸。もうひとつはターゲットの気持ちを(コンセプトで課題解決して)動かして、商品・サービスと結びつけようとするコミュニケーション軸です。前者のような脳みそ主体の「論理的」アプローチと、後者のような身体主体の「直感的」アプローチを併せ持つのが身体的思考なのです。

イノベーションを「ひとの行動・習慣・価値観にもう元に戻れないような変化をもたらすモノ・コト」と定義するなら、やっぱりそこには、ひとの気持ちを動かす仕組みが必要です。そしてひとがアナログにできている以上、イノベーションを起こすためにはアナログな(そして広告クリエーティブが長年得意としてきた)方法論が欠かせません。

この本の解説をお願いした47CLUB(よんななクラブ)の栗田健一郎さんからは「この本は、まったくもってアナログだ!」という言葉を頂きました。アナクロ(時代遅れ)だとマズイですが、「アナログだ!」というご指摘は胸を張ってお受けしたいと思います。

もうひとつうれしかったのは、あの野中先生から「やさしく書いてあるが、簡単な本ではない。ここにはイノベーションの理論に基づく本質がある」という推薦文を頂戴できたことです。個人のノウハウやハウツーではなく、経営学の理論を実務家の目線で論じている点を評価していただきました。本当にありがたいことです。

分りやすいイラストを含むブックデザインは石崎莉子さんの、知的でチャーミングな装丁は工藤真穂さんの手によるものです。この本は脳みそで理解するだけでなく、身体で楽しく感じながら読んでいただくために「食べもの」のエピソード満載なのですが、それで表紙もこんな感じになりました。

石崎さん(左)と工藤さん(右)。ありがとう!!

 

そろそろ本屋さんの店頭に並ぶと思います。ぜひ一度、手に取ってみてください。

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どうぞ、召し上がれ!