ろーかる・ぐるぐる #76

「マーケット・イン」じゃダメな理由

ぼくが電通に入ってよかったな、と思う理由の一つに「築地市場」があります。もうすっかり昔話ですが、土曜の朝7時に総勢6人くらいで築地本願寺前集合。この町にある仲良しの焼鳥屋さんに連れられて「場内」(いわゆるプロ向けのエリア)に行き、ヒラメ、アンコウ、ウニ、サバなどなど最高に新鮮な買い出しをした後、その焼鳥屋さんの厨房を借りて料理大会。「ヒラメは五枚におろすんですよ」とか「〆サバはね…」なんて教わりながら肴を準備してお昼の鐘が鳴るころには乾杯。刺身に日本酒、焼き魚にワイン。いやはや、思い出すだけでもぜいたくなパーティーでした。

これほど特別な機会でなくても、この魚河岸には本当にお世話になりました。今年の11月には移転が決まっていますが、その後も人情味あふれるこの町の文化が永く続くといいな、と願っています。

今日も美味しい焼き鳥屋さんのお刺身
 

市場で思い出しましたが「マーケット・イン」という言葉があります。「商品やサービスの開発において消費者のニーズを重視する方法」といった意味でしょうか。これはたいてい「メーカーサイドの論理や技術を優先させる方法」を表す「プロダクト・アウト」とセットで使われています。

かつては「メーカー発想=プロダクト・アウトじゃダメなんだ!もっとお客さまの声に耳を傾けて=マーケット・インで!」という文脈が多かったのですが、最近は「プロダクト・アウトか、マーケット・インかなんて二元論自体、そもそも意味がない」という論調が増えているようです。いわく「生活者の声も大事だけど、技術の革新で劇的に競争のルールが変わることもある。だからケース・バイ・ケースだよ」ということだそうで。なんかそれでは一周まわって元に戻っちゃった感じですよね。

ぼくが考える「マーケット・イン」の限界は「思考が一方通行にしか進まない点」にあります。典型的には生活者調査をし、分析を通じて課題を抽出し、それを解決するコンセプトを設定し、それに従って具体策をつくるという流れです。ここにあるのは決して後戻りを許さない、「かくあるべし、が故にかくあるべし」という直線的なロジックです。「プロダクト・アウト」も同様。革新的な技術を出発点に一方通行で思考を進めていきます。

生活者発想という一方通行
 

本来「その手があったか!」というコンセプト(アイデア)を開発するためには、「こうしたらターゲットは動くかな?」「動かすためには商品・サービスをどうしたらよいかな?」という「行ったり、来たり」が欠かせません。にもかかわらず、現実には大多数の商品開発プロジェクトが(プロダクト・アウトにせよ、マーケット・インにせよ)直線的な流れで設計され、進められています。

どうもその原因は、直線的に、正しく考えるロジカル・シンキング以外の方法論を、ぼくたちがよく知らないからではないか?と思うのです。そういえば学校でも会社でも教えてくれたのは、脳みそで正しく、客観的、論理的に考えるやり方だけでした。

この状況を打破するためには、ぼくたちがもっとイノベーションを起こすための思考法を理解しなければなりません。それはきっと理性的な脳みそだけでなく、主観的な直感や経験までをも駆使するアプローチです。生活者分析や技術開発から一方通行で進むのではなく、プロダクト・アウトとマーケット・インを同時に実現させる身体的な思考です。

あらためてその方法論の全体像を解き明かすべく、3月に朝日新聞出版から新しい本を出そうと思っています。詳細は次回以降で。

どうぞ、召し上がれ!

 

プロフィール

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    山田 壮夫
    株式会社電通 第1CRプランニング局

    1969年生まれ。アイデアを核として広告キャンペーンはもちろん、店舗開発からテレビ番組の製作まで手掛ける。特に最近は全国の地方新聞社厳選お取り寄せサイト「47CLUB」と連携してローカルにおける商品開発作業にチャレンジしている。2009年カンヌ国際広告祭(メディア部門)審査員。慶應義塾大学(メディア・コミュニケーション)、明治学院大学(経営学)非常勤講師。著書に『〈アイデア〉の教科書 電通式ぐるぐる思考』(朝日新聞出版)。

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