デジタルの旬 #27

限界集落という「未来」から見える、シビックテックの底力~ウィズグループ代表取締役 奥田浩美氏

  • 20160404 003 pr
    奥田 浩美
    ウィズグループ 代表取締役
「シビックテック」という言葉がある。ITなどのテクノロジーを使って地域の課題を解決していこうという動きで、例えば「道路が壊れている」「不法投棄がある」などの情報をネットを通じて市民が行政機関に知らせるような取り組みなど、実際にさまざまな活動が世界中で広がっている。日本でも試みが進んでおり、今回の奥田浩美氏もこの分野に長く取り組み、最近では限界集落で高齢者を対象にタブレット端末の講習やロボットの活用を進めるなど、IT化の流れからは取り残されがちな地方や高齢者を軸とした独自の活動を続ける。また一方で、興味深い「人生論」の本も執筆している。果たして、テクノロジーはより良い地域や社会、さらにはより良い「人の生き方」を可能にするのか、をテーマに奥田氏に話を聞いた。
(聞き手:電通デジタル・ビジネス局 計画推進部長 小野裕三)

マザーテレサとIT革命をつなぐものとは?

──大学での専攻はITとは関係のない福祉分野だったそうですが、インターネットやデジタルとの出合いはどのようなものでしたか。
奥田:学生時代はインドのムンバイ大学で社会福祉を専攻し、マザーテレサの研究に取り組んでいました。帰国後は国際会議の運営会社に籍を置き、そこで最初に担当したのが通信技術系の国際会議だったのです。これをきっかけに、IT分野の会議に関わるようになりました。1989年当時はまだ国際会議に出席するような方しかインターネットのことを知らない時代でしたが、Macworld ExpoやWINDOWS WORLD Expoなど、私の目の前にあった会議は、どれもすごいものばかりでした。
こうした会議で、熱を込めて「ITは世界を変えるんだ」と言っていたのが、当時30代から40代のエンジニアや経営者たち。後から振り返ってみると、その人たちが実はスティーブ・ジョブズやビル・ゲイツだったんですね。インドでは、福祉は社会を変えるために学ぶものだと教えられました。だから、マザーテレサが福祉として取り組んでいた社会基盤を変える変革と、ITプラットフォームでの社会の変革が、私の中でぴったりと結びついたのです。
奥田氏
──なるほど。福祉とITは、知識としてはつながっていないけれど、理念としてはつながっていたわけですね。当時のIT業界は、ご自身の目からはどのように映ったのでしょう。
奥田:みんながワクワクしていて、とても魅力的な世界だと感じました。常に日本の最先端で技術を開発している人の隣にいることができたので、私も分からないなりに、「ITの世界は、やがて人にとってものすごいものに発展していくのだろう」と実感し、そして「ITは人間を幸せにする」と考えました。それで1991年に、この技術をもっと世の中に広めるための事業を立ち上げようと決意しました。
──そのようにITなどのテクノロジーの力でより良い地域や社会をつくろうという「シビックテック」がここ数年一般にも注目を集めていますが、どう感じていますか。
奥田:私自身、ITに特化したカンファレンスサポート事業やスタートアップ支援、地域でのIT活用事例の紹介や地域活性化のお手伝いなどを長い間続けてきました。だから、シビックテックという言葉が現れたときはすごく不思議で、正直なところ「なんで今さら?」と思ったんです。「じゃあ今まで、ITは誰のためのものだったんだろう」って(笑)。人々の生活を変えるためにITの世界に入った私にとっては、最初から「ITはそもそも市民のために存在するもの」で、決して学術や研究のためのものではありませんでしたから。
──最近では、四国や鹿児島にある限界集落の多い町で高齢者に向けたタブレット端末の講習会を手掛けています。
奥田:「高齢者は先端のものに置いていかれている」と私たちは思い込んでいますが、置いていかれているのは高齢者だけではないと感じるようになりました。20代~50代の多くの方々は、「自分たちはパソコンが使えるから、先端のものに置いていかれることはない」と思っているのでしょうが、しかし既に、若者たちから見たら遅れ始めているのです。
というのも、高校生のうちの娘は、スマートフォン(スマホ)を使ったフリック入力でキーボード並みの、私から見たら驚きの速さで入力できる。娘は、「なんでわざわざ重たいノートパソコンを持ち歩いて、両手を使って入力するの?」って言っているくらいですから。恐らく今後、例えばまばたきや瞳の動きで情報を入力する仕組みが開発されていくとしましょう。どんどん手を使わずに済むようになり、10年後には私たちが、「おばあちゃん、まだ手を使って文字を入力しているの?」と笑われる世界になると思います。「手を使わなきゃ入力できないなんて、プププ!」みたいな(笑)。
つまり、ITが進化することによって、高齢者だけが置いていかれるのではなく、いろんな世代の誰もが置いていかれる可能性がある。だから、技術が進んだときに人々が助け合い、一緒になって“置いていかれない社会”をつくるために、技術の進化に人々がちゃんとマッチできる仕組みをつくっておかなければならないのです。
シビックテック
四国で行ったタブレットの講習会

ITの進化はむしろ「閉じていく社会」やコミュニティーの断絶を生む

──確かに、IT技術の進化がとても早いために、世代ごとにいろんな断層が生まれそうですね。
奥田:ITが進化することで、むしろどんどんコミュニケーションに断絶が生まれていると感じています。例えば、私の両親は鹿児島にいて、母親が父親の面倒を見ているのですが、孤独なのでコミュニケーションを取りたいとよく電話してくるんです。でも私は、とにかく電話が大嫌いで、できればメールで済ませたいし、むしろメールさえ使わずにメッセンジャーでやりとりしたい。でも、母親の時代は電話しかない。だとすると、そのうち電話がなくなり、家電がなくなったとき、高齢者はどうやってコミュニケーションを取るのでしょうか。もっといえば、20年後、何らかのガジェットが出てきたときに、私と孫はどうやって連絡を取るのでしょう。そう考えたら、全ての世代が技術の進化で断絶される時代になるんじゃないかという気さえします。
──なるほど。手紙の世代、電話の世代、メールの世代、メッセンジャーの世代、さらにその先の世代、と輪切りのような構造になっていくのかもしれませんね。
奥田:そう思います。きっと、同じクラスターの中であればどんどん便利にコミュニケーションが取れるようになっていくのでしょう。特にソーシャルメディアというのは、自分が言っていることに「いいね!」する人ばかりが集まる、共感だらけの環境になってしまう傾向がある。そうやって、狭い世代やコミュニティーが、鍵のかけられた環境の中で、いいね、いいね、と言い合うコミュニケーションを繰り広げる、いわば“超気持ちいい世界”に住むようになってしまう。こういうものが当たり前になっていくと、別のコミュニティーで話されていることとは完全に断絶されてしまう危険性がありますよね。そんなことが家族や村の中でも起きてきて、同じ家、同じ村に住んでいても、交流がなくなっていくのかもしれません。
私は、今のデジタル化が抱えている大きな課題のひとつに、そのように「閉じていくこと」があると思っています。つながりが広がり過ぎて、逆につながりを消していっているんじゃないかなと。

リアルを知っていること、そしてそれを求める好奇心が重要な時代に

──IT技術によってむしろ断絶され、閉じていく社会というのは、確かに危惧としてあると思います。それは、どうやったら乗り越えられるのでしょう。
奥田: ITの世界だけで生きるのではなく、リアルとITを行き来することで乗り越えられるのではないかと思います。私は、情報が多くなればなるほど、リアルが大切になると考えています。現代は、誰もが簡単に、安く、大量の情報を手に入れることができてしまう。だからこそ逆に、人に会うこと、直接見聞きすること、体験することに価値が出てくる。
例えば90年代の終わりには、情報はネットで全部入るようになるから、わざわざイベントなどに足を運んで聞きに行く人は将来はいなくなる、なんてことが言われていました。でも、実際にはそうはならず、今でもイベントはなくなっていない。なぜなら、ちょっと情報が入ると、その人に会いに行きたくなるからなんです。
あるいは例えば、スタートアップやシリコンバレーの働き方でも似たようなことが起きています。一時期は自宅やカフェなどどこでも働けるといわれ、ネットを使ったノマドワークが流行っていましたが、現在はオフィスに出社して豊かなオフィス環境の中で仕事をするスタイルが主流になっています。やはり、ある程度人の姿や空気が感じられるところでしか新しいアイデアやビジネスは生まれないんですね。
奥田氏
──やはりリアルが大切、というのはとても共感します。でも一方で、ネットがどんどん便利になって、その世界のなかだけで閉じて生きていくことも可能な環境になっているようにも思います。
奥田:最近注目されているバーチャルリアリティー(VR)などは、そういう考え方で開発されていますよね。でも、一度も体験したことがない未知の世界をヴァーチャルで感じることが、果たして本当に楽しいといえるんでしょうか。例えばVRの砂漠を楽しむためには、身近な場所でもいいから砂浜を体験してその感覚を知っていないと、VRの砂漠も楽しめないんじゃないかと。つまり、そういうリアルの芽みたいなものをたくさん持っていないと、結局はVRの仮想世界にも生きられない。振り返ってみると、私がITの世界でこれだけずっとワクワクしていられるのも、そんなリアルの芽を基点に好奇心を持って行動し続けているからだと思うんです。
ネット化が進んでVRなども盛んになってくると、好奇心の格差がものすごく広がるのでしょう。リアルに興味を持つ人と興味をなくす人に、どんどん分かれていく。テクノロジーが人から好奇心を奪うのと、好奇心を加算するのと、その両方に動いていく。だから、21世紀型の教育で一番大切なのは、好奇心を培うこと。小さな経験をできるだけたくさんやっている子は強い、と思っています。
──今の子どもたちの世代が大きくなったときに、そういう好奇心があれば、テクノロジーによる大きな変化にもうまく対応できるのかもしれませんね。
奥田:この先10年で世の中から約半分の職業がなくなるという予測がありますが、決してそれは悲観的なことじゃなくて、私はめっちゃいい時代だなと思うんです(笑)。だって、こんなに新しい産業や仕事を生み出せた世代ってないですよね。例えば、私が学生の時にはロボット開発者という職業はなかったけど、これからは職業になる。だから、子どもたちには、「あなたたちはとても面白い時代に生きている。いつでも新しい職業に行けるように、好奇心を持っておきなさい」と話しています。

日本人が持つ感性が、これからのロボット開発に貢献する?

──ところで、ロボットや人工知能の開発が進んで、世の中一般でも注目が集まっていますが、ご自身でもこの春から、高齢者の方とロボットを使った取り組みを始めていますね。過疎地域の課題解決のための製品共同開発を進めるということで、まずは地域の方とソフトバンクのPepperを活用したアイデアソンを開催したとのことですが。
奥田:鹿児島・肝付町での取り組みですね。実は、肝付町の人口構成図は、2060年の日本の構成図とほぼ同じで、まさに少子高齢化の最先端。ということはつまり私は、“未来”の日本として予想されるのと同じ姿の町で仕事をしていることになるわけです。その“未来”に今の最先端の技術を持って行き、地元の方とともに、家と家の間をテレビ電話でつないだり、タブレット端末での交流を促したりしています。
その肝付町では、地域の高齢者にPepperを使ってもらう取り組みも行っています。Pepperのようなロボットは、スマホやタブレットといった機器に比べ、知識が集積されていることを見せやすく、高齢者の方にとって分かりやすい。しかも発展途上にあるロボットは、とてもとっつきやすい存在です。Pepperを限界集落のおじいちゃん、おばあちゃんのところへ連れていったら、動かなかったときが一番盛り上がりました。なぜなら、そのときのPepperは、人間がお世話してあげなければならないような存在だったからです。「がんばれ、がんばれ!」と、多くの高齢者がPepperを応援してくれました。
シビックテック
多くの高齢者がPepperを応援
今はまだ、ロボットに対して人間が何かをしてあげられる時期なんです。だからこそ、介護施設などでロボットを活用することにはとても意味がある。これからは少子高齢化が進んで子どもが減り、面倒を見てあげる存在が減少する時代です。そういうとき面倒を見てあげたくなるロボットがいることで、人と人のつながりやコミュニケーションが生まれていくと思うんです。
私は、何かに貢献したいと思う気持ちこそが人間の本質だと思っています。多くの開発者は、完璧なロボットをつくろうとしがちで、だから介護ロボットというと、歩行を助けるロボットやおむつを換えてくれるロボットなど、面倒を見て「あげる」存在ばかり。私はそうではなくて、逆に人間から面倒を見て「もらう」ロボットがひとつの領域として絶対にあるべきだと思います。
実はロボットって、国や文化によってイメージが違います。日本人には、そういうふうに人とコミュニケーションして共存するロボットが受ける。アトムやドラえもんの世界が根底にあるからでしょうか。一方で、米国では、ロボットは戦うための兵器のようなイメージがあって、実際に開発現場を見ると、歩いてくるものを突き飛ばして起きてくる、走ってくるロボットを蹴り上げる、といったどこか戦闘的なロボットがつくられている。また、ヨーロッパでは移民の延長の視点で、人間の代わりの労働力になるロボットをつくりたいという発想が根底にあって、だから「そもそもロボットに顔は必要だっけ?」みたいな感じなんです。
──確かに、米国の民生用ロボットのメーカーも、もともとは軍事用の開発がメイン事業だったりしましたよね。
奥田:最近では「ストップキラーロボット」というキャンペーンなどもあり、ロボットや人工知能を武器や殺りく目的につくるのを今のうちにやめさせましょうという活動が広く行われています。そして、そういう殺りくロボットは、日本人が持っているロボットに対するイメージからは受け入れられない。だから、日本人が培ってきた何かが、これからの未来を考えたときにいい役割を果たす可能性はあると思っています。
シビックテック

IT化が進むことで、人が「美しい姿勢でいる」ことが見えやすくなる

──ロボットや人工知能などのテクノロジーが人類の脅威だという主張は最近根強くありますよね。本当に、ITは人間を幸せにするのでしょうか。
奥田: ロボットや人工知能は人類を滅ぼしますか、と問われたときに、滅ぼそうと思う人が、それを止める人よりも増えたら、滅ぼしますよね。あくまでもそれは人間が決めること。だから、ITは人間を幸せにすると信じる人を増やすために、私は今、リアルな世界を走り回って頑張っているんだと思います。
実は、限界集落の町で仕事をしていて驚いたことがあるんです。それは、「死んだ後に、一番大切にしている人に最初に見つけてもらえたら幸せだと思う」という意見があったこと。もちろん、倒れた瞬間に気付いてもらえるのが一番ハッピーなのでしょうが、そうでなくても早い段階で見つけてほしいということで、「孤独死したくない」とか「誰かに看取られたい」とか、そういうレベルを超えているんですよね。こういう“未来の限界集落”だからこそ、究極の幸せとは、本当に好きな人の気配を身近に感じることであり、その幸せのためにどうITの技術を生かすべきかという議論をしている。そういう視点は、技術と人のあり方の根本なんじゃないかなと思いました。
──ITは人の生き方みたいなものも変えるんでしょうか。例えば、ご著書の中では、ソーシャルメディアによって人生における「チャンス」のあり方が変わったと書いていますね。
奥田:ネットによって人がつながりやすくなって、人にチャンスを渡しやすくなったということはあります。例えば、「どこどこへの推薦企業にしといたよ」ってフェイスブックのメッセージたった一個でチャンスが渡せますね。ネットがなかった昔であれば、会社を推薦するにしても、会いに行って調べたり書面を用意したり、ものすごく手間が掛かった。でも今では、会社の実績も、人のプロフィールや活動も、ホームページを見れば全部わかるから、FBにリンクを3行くらい貼れば紹介できる。
つまり、ネットはその人が見えやすくなるから、ちゃんと生きている人にとっては、ものすごく紹介されやすい時代になっているんです。そして、信頼するに足りて、こんな能力があって、不器用でも真摯に努力しているとか、そういう人は紹介されやすい。だから、ネット化が進むこれからの生き方にとって一番大切なのは「美しい姿勢でいる」ことなんです。
──ネットでのチャンスということでは、「クラウドファンディング」なども盛んになっていますが、ネットの力によってチャレンジしやすい世の中になっていると感じますか。
奥田:感じます。ネットによって社会が情報過多になって、それにはマイナス面もありますが、一方で利点があるとすれば、情報が多過ぎて忘れられること。つまり、失敗してもいい時代なんです。そのことをうまく利用して、失敗してもその後にちゃんとトライを重ねていけば、自分が書き重ねたものだけが情報として残る。
ということは、活動をきちんとやっていることが人から評価されるようになり、その時の本質みたいなものしか見えない社会になる。いい意味でも悪い意味でも、とりつくろえない時代になるので、そういう意味では私はとっても好きな時代ですね。「美しい姿勢でいる」ってそういうことなんですけど、誰かに良く見せるためにやっているのではなくて、コツコツやっていることを誰かから評価されるような時代が、ネット化が進むことによってやって来ると思います。

プロフィール

  • 20160404 003 pr
    奥田 浩美
    ウィズグループ 代表取締役

    鹿児島県生まれ。1989年、インドのボンベイ大(現ムンバイ大)大学院で社会福祉課程を修了。情報技術系の国際シンポジウムに多く携わり、WINDOWS WORLD Expo、Mac world Expo、Interop、JavaOneなどの日本上陸をサポートする。2001年にウィズグループを設立。13年には、「日本中の地域を宝の山に!」を理念として株式会社たからのやまを徳島県に設立し、高齢者との共同製品開発の拠点となる「ITふれあいカフェ」を開設。情報処理推進機構の未踏IT人材発掘・育成事業の審査委員も務める。著書に『人生は見切り発車でうまくいく』など。

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