新明解「戦略PR」 #35

PRにもブティック会社があってもいいかな? いいとも!

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    井口 理
    株式会社電通パブリックリレーションズ コミュニケーションデザイン局 局長 チーフPRプランナー

懐かしいフレーズとともに帰ってまいりました。一月一度のお約束、井口でございます。今回はクリエーティブやデジタル領域で存在感を増す専門領域特化のブティック型プロダクションのように、領域特化型のPR会社があってもいいよね? いや、あるんじゃね? というお話。今回は前置き短く、イッテミヨ!

そろそろPRも領域特化型に?

総合広告会社の中でも、ある領域に強いクリエーティブブティックを外部につくってきた経緯があります。もちろん社内にもそういう人材がいくらでもいるのでしょうが、対外的にはその「顔」がよりとがって見えた方が依頼する方も期待が増しますし、また特化することでさらにノウハウが加速度的に蓄積していくという受け手側のメリットもあるのでしょう。以前から女性特化型のマーケティング会社やCRM特化型のマーケティング会社などはありましたが、クリエーティブに限っては昨今、デジタルテクノロジーに強いとか、ウェブソリューションに強いとか、はたまたサブカルチャー活用がうまいなどの変わり種まで出てきていますよね。同じ視点で見てみると、PR業界にもそういう「特化型ブティック」がもっともっと出てきていいのではないかと思うのです。

PRブティック

ご承知のようにPRはパブリシティーだけではありません。非常にコアな、そして効果のある手法には違いありませんが、なんでもかんでもパブリシティーでどうにかなるわけではありません。それを補完するような、あるいはそれに置き換わるようなさまざまな施策が日々生まれているし、またレガシーと思われるような手法でも、時と場合により一番効果を発揮することだってあるのです。

要はいかに意識をニュートラルにして課題に向き合い、解決策を導き出せるかが重要なのです。しかし、おのずとある領域、あるいはある課題で用いられている手法がコンスタントに結果を出すということであれば、そこに特化し、さらに効率的・効果的にその手法を進化させるというのも一つの判断です。いわば専門領域に特化して深掘りしていくという対応です。そして、そういうきっかけから生まれている「PRブティック」的存在も増えるべきだし、ジェネラルな総合PR会社との使い分けもされていくべきだと思うのです。

PR巧者の会社のみならず、PR初心者だからこその使い分けもあるはず

「領域特化型PRブティック」などと言うと、「そういうところに頼めるのは、PRにめっちゃ慣れてて、目的に応じてPR会社の使い分けができる企業だけよね」なんて思っちゃいそうですが、先に述べたように領域や課題によっては、よりシンプルでわかりやすいソリューションを持っているほうが付き合いやすいってこともあると思うんです。例えて言うなら何でも入っている「スペシャル工具セット」よりも、「超便利!六角レンチ20種セット」みたいな方が、使い勝手が良いってことありますよね。そういう自社に適したソリューションを狭くても深く持っているPR会社とうまく協働できたら、それは非常に効率良いものになることでしょう。

PRのメインソリューションの一つであるメディアリレーションズにおいてもそうです。特に専門誌・業界紙などが多い産業領域では、その領域におけるお作法や専門用語もあるでしょう。これまで情報提供対象をジェネラルに広げていくには、そういった専門用語などは極力避けるべし、あるいは専門領域におけるコアファンのみにアプローチしていては業界が衰退する、などと書いてきましたが、極めてニッチなところで飛躍的成長を遂げている領域での活動プロセスにおいては、そういった制約の中での関係構築もありだと思います。

かつての自動車、化粧品、ファッション、ゲーム、金融などなど、生活者自体もそれらの専門誌を情報入手の中心に据えてきたわけです。この業界では一般メディアで扱われる情報はまだまだ内容的にも表面的で薄く、ステークホルダーにも重要視されるレベルになかったと言えましょう。

さらに現状では、その専門力も多岐にわたっています。例えばインバウンド・アウトバウンド市場に特化したPR会社。得てしてグローバル企業のインバウンドPRなどは、グローバル契約しているPRネットワークで日本国内のPRブランチを通じて活動しようとすることが多いのですが、まだまだ日本国内のメディアやPR施策においてはグローバルスタンダードとの間にギャップが残り、うまくいかないことが多いようです。これらのギャップをクライアントに理解してもらい、いかにクライアントの意向を反映させていくかという、日本市場とクライアント意識の橋渡しを含めたPR作業に強いPR会社があるわけです。

もちろんディスカッションや報告書類も現地語で行うのは当たり前。報告内容がグローバル仕様とは若干異なるかもしれませんが、資料の作り方などのお作法はきちんと押さえているから安心ですよね。このようにグローバルアライアンスの中で日本のみがネットワークの異なるエージェンシーであることはよくあることです。

ロビーイングからマンガの活用まで

はたまた日本国内ではあまり聞かない活動ですが、法規制などを改定していくためのPR活動として欧米で盛んなロビーイング(政治家などへの情報提供やアプローチ)、あるいはガバメント・リレーションズに強いPR会社もあります。もちろん政治家そのものにアプローチしようとすると、まだまだ日本国内では難しいところもあるのですが、まずは公的機関との協力により目指す法規制の制定・改定など議論のベースとなるような調査データを紹介し、世論を盛り上げながらそこに賛同する政治家と協働していくなどのやり方はあるわけです。

例えばグローバルの競争市場において、業務効率を上げたい各企業が属する経済団体と協働して、調査データを基にしながら政府への陳情書をまとめるなどし、意図に賛同してくれる政治家に継続的な情報提供をしていくなど、外堀を埋めていくわけです。まさに企業を巻き込み世論を盛り上げていくという活動はPRならでは、の手法ですよね。

一方、強力なソリューションを軸足に置きつつ、裾野を広げていくというPRノウハウに富んだPR会社もあります。例えばマンガ。クールジャパンにおける注目コンテンツと称されて久しいアニメやマンガですが、その強みはテキストのみの伝達方法に比べて、若年層に理解しやすいコンテンツとして成立しやすく、またストーリー性をまとうことで読み手の納得度を高めることができます。

その特徴を最大限に生かせる領域はどこなのか。非常に堅い、グローバルにおける差別、紛争などの社会問題を子どもたちにも理解してもらうにはどうすればいいのかという課題に対して、このソリューションを中心に活動提案し成果を上げたPR会社もあるのです。ここでは、一次的なゴールに向けての成果のみならず、マンガというコンテンツの特徴がうまく自走し、これらの社会課題を自国の子供にも伝えたいと考える各国の関係団体によって各国語版に翻訳され配布されるなどの副次的拡張が達成されたと聞きます。

これらの事例はまだまだ一部に過ぎません。もちろん総合的なコミュニケーションを目指す企業では、逆に企業の各領域、すなわちコーポレートコミュニケーションからマーケティング、PR、トップメッセージの策定からリスク対応まで、網羅的に対処できるPR会社と一元的に情報管理しながら進めた方が効率的・効果的ということもあるでしょう。広告、イベントも含めた全コミュニケーション施策とのより深い連携を求める場合もそうかもしれません。

しかし、一領域に秀でたPR会社のノウハウを体感するのも今後の刺激にはなるはずです。一方の網羅的サービスを提供するPR会社こそ、こういったPR会社と連携を取り最適チームを構成してコトに臨むべきなのかもしれません。今後、このような最新事例が出てくることに期待したいですね。というか、私、やらなきゃですよね!

プロフィール

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    井口 理
    株式会社電通パブリックリレーションズ コミュニケーションデザイン局 局長 チーフPRプランナー

    1990年電通PRセンター(現電通パブリックリレーションズ)入社。コミュニケーションデザインを手掛けるチーフPRプランナー。
     
    企業のコーポレートコミュニケーションから、製品・サービスの戦略PR、動画コンテンツを活用したバイラル施策や自治体広報まで、幅広く手掛ける。最近では、熊本県の赤い特産物をアピールするため仕掛けた「くまモンほっぺ紛失事件」のPRプランを手掛け、世界的なPR業界紙「Holmes Report」が主催するアワードで「世界のPRプロジェクト50選」に選出された他、多数の口コミを起こしたキャンペーンとして、世界的な口コミアワードである「WOMMY AWARD」を日本で初めて受賞。Holmes Report「The Innovator 25 Asia-Pacific 2016」(アジア太平洋地域のイノベーター)選出。
    その他「Cannes Lions」「Spikes Asia」PR部門、「SABRE AWARDS ASIA PACIFIC」「PRWeek Awards Asia」「ヤングカンヌPR部門日本代表選考」審査員。2013年6月に「戦略PRの本質~実践のための5つの視点~」(朝日新聞出版)を上梓。自治体PR事例をまとめた「成功17事例で学ぶ自治体PR戦略」(共著:時事通信社)も好評発売中。

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