アタマの体操 #03

ピースに切り分けて「部分転換」する

  • 武藤 新二
    株式会社電通 CDC クリエーティブ・ディレクター/プランナー

4月下旬から2カ月間ほど、東京都心で開催された「旅するルイ・ヴィトン展」。

1000点もの作品が展示され、会場演出や構成にもさまざまな仕掛けがある。その上、入場無料のエキシビションだったこともあり、連日にぎわいを見せたようです。そんな評判を聞いたこと、記事や広告で何度か目にしたことも相まって、好奇心に駆られ足を運びました。

バブルを経験した世代にとって、ルイ・ヴィトンというブランドの存在は欠かせないものです。LVのモノグラムがデザインされた財布やバッグが街中にあふれ、海外のショップには日本人が大挙して押し寄せるなど、ちょっとした社会現象でした。そのころ、僕は貧乏大学生で、そうした華やかな世界をただぼぉ~っと眺めるだけだったといえます。

当時のミーハー気分を引きずったまま会場へ行ってみると、なんと浅はかな知識や思い込みだったのだろう…と猛省し、このブランドが文化やライフスタイルに与えてきた影響の大きさと深さに驚かされるばかりでした。

ルイ・ヴィトンはラゲージというモノを通して、旅のスタイルを革新的に創造していったブランド。頑丈でありながら軽く、機能的なデザインを施すことでそれを実現してきました。今回展示されている、19世紀半ばから現代までに製造されたオーダーメイドの1点ものの数々を見ているだけで、そう訴えかけてくるのです。

富裕層やプロフェッショナルたちが旅に持参したさまざまなもの―ドレスや靴、化粧品がいくつも収納できる大きなワードローブ型トランクや、書斎をそのまま持ち運べるようなデスク型のもの、たくさんの指揮棒や茶道具一式が運べるケース、歌舞伎役者のために作られた鏡台が施されたものなど…。

それらはどれも個性的なものばかりで、じっと眺めていると時代時代のシーンがアタマに浮かび上がってくる。それが合っているか定かではないものの、何はともあれ想像力がかき立てられる、刺激的なエキシビションでした。

ふだん流してしまうことを気に留め、アタマを働かす

こうした機会は、僕にとって貴重です。世界的ブランドの知識を得る、誤解を解くということ以上に、その場で空想の世界に浸ることができる。そういう状態になれることで、ついつい常識や思い込みで固くなってしまったアタマが解放され、次第に柔らかになっていくからです。

「日常の嗜好やシーンを、非日常の旅にそのまま持ち出せる」
という価値を実現させたルイ・ヴィトン。まさかそんなものまで持っていかないだろう、いくはずがないということが見事裏切られ、次から次へと想定外なことが起こる。自分が持っている常識に当てはめられないから、妄想が自然とわいて出てきます。

思い込みや知識の呪縛を解き、想像力を発揮することがアイデア発想の基本ですが、普段からそんな機会を意識的に持っておかないと、いざという時にすぐできません。集中的にトレーニングをする、日々起こる出来事をうまく活用しながらメンテナンスする、いずれもアタマのストレッチ、いわば「アタマの体操」と呼び、僕がお勧めしていることです。

それでは、今回もオンライン動画学習サービス「schoo WEB-campus アタマの体操(全6回)」の、2限目の授業(6/24放送)と連動した内容をもとに、話題を進めていきましょう。毎回、電通のプランナー3人とアイデア大喜利を行っていますが、今回のお題は「踏切を待っている間が楽しくなること」でした。 

普段から気にかかり、どうにかならないものかと思っても、面倒だからとそれ以上考えず流してしまっていることは、誰にでもよくあるはずです。そういう場面で、考えることを諦めず、ちょっとアタマを働かせるようにするだけで、日常生活に「アタマの体操」が組み込まれていきます。

答えをすぐ出そうとせず、ましてや優れたアイデアなど求めず、妄想してみること。こんなものがあったらいいなぁ。こうだったら楽しいなぁ。と想像を膨らませてみるだけでいい。大人になってサビついている想像力を少しずつでも磨くことが大切なのです。

今回のお題は、こうした意図を持って設定しました。周りを見渡し、いつもの生活を思い返し、同様なお題を色々と考えてみるのもよいでしょう。一度まとめてたくさん書き出しておけば、折に触れ今までとは違った意識が芽生えてくるようになります。

誰よりもしつこく、泥くさく、考えて考えて考え尽くす 

前回のオンライン授業では、躊躇せずアイデアを出し切るところをリアルタイムで公開しました。今回はさらに進んで、一度出し切ったアイデアを類似した発想視点で分類し、このあたりが鉱脈になりそう、まだ掘っていないエリアがありそう、という認識を持って、もう一度アイデアをしぼり出すことに挑戦したのです。

こうして生まれたアイデアをいくつか紹介しましょう。

アイデアを分類すると、踏切機や横切る電車に着目したものが多い中で、対面で待っている人たち同士を楽しませるものという視点がユニーク。実際に、ドイツでは「STREETPONG」と呼ばれる信号機が実用化されています。待っている間に向こう側の人と対戦ゲームができるというもので、信号無視を減らす効果が出たようです。

Illustrated by Hirochika Horiuchi

あらゆる分野でIT化が進む中、踏切の自動遮断機は60年ほど前から存在し、その姿かたちはあまり変わっていません。とはいえ、踏切の未来形はどんなものか、あるいはその仕組み自体を変えていこう、などと大上段に考えても実現性に乏しい。今あるものを生かし、少しだけIT要素を加えるだけで変化が起きるだろうという着想が、可能性を感じさせてくれます。

実際の仕事においては、提案できるアイデアに行き着くまで何度も何度も繰り返し考えます。あっちを掘ってこっちを掘って、掘ったところをもっと深く掘る、とことん掘り続けるのです。最初のころに思いつくものは、誰でも同じことを考えるもの。それを出し切ってからが勝負。誰よりもしつこく、泥くさく、考えて考えて考え尽くします。

ただやみくもにせず、考える術やひな型を駆使する

とは言っても、そんなに考え続けて、アイデアは枯渇しないの?と疑問を持つのではないでしょうか。ただやみくもに想像を巡らせ、行き当たりばったりではそうかもしれません。そこで、僕たちはどのようにアタマを働かせると、アイデアが量産できるかという術、ひな型をいろいろと駆使しているのです。

前回のコラムにあった「極端化」に続いて、「部分転換」について紹介しましょう。
たとえどんなに違和感があっても、場所や時などのシチュエーション、人、モノ……、その一部を他の何かに部分的に転換(入れ替え)してみることから、発想します。

実は先ほど紹介した大喜利のアイデアも、こんな方法で考えられたものをピックアップしました。それぞれ、シチュエーションを「街中→運動場」、モノの一部を「自動遮断器のバー→電光掲示板」と転換してみることで生まれたアイデアといえます。

身のまわりのモノやコトについて「どんな発想から生まれたんだろう?」と読み解いてみると、「部分転換」的な事例もさまざま浮かび上がってきます。

昨年のヒット商品や流行語でよく目にした「おにぎらず」。時間も手間もかけず作れ、ネーミングが親しみやすいというのもヒットの要因ですが、SNSの中で広がっていったのはその見た目のおしゃれさとバラエティー感だったといわれています。具材を色とりどりに見せられるのが、無骨に見えるおにぎりとは違うところです。パンの部分をごはんに転換して、それ以外のところはあたかもサンドイッチのように作り見せていくことで、若い女性層のハートをつかんだのではないでしょうか。

雑誌を読んでいたら見つけた「スゴい電話」という商品。その発想はとてもユニークです。見た目は固定電話機なのに、実は携帯電話。通信は無線なので、電話回線を引く必要などなく設置できるというもの。オフィスや家に置かれているというシチュエーションを転換してみると、必要不可欠なニーズが見えてきます。避難所や工事現場、選挙事務所などでは、期間限定ですぐに設置でき、みんなが共有して使える電話が必要となります。携帯電話はコンパクトで持ち運べるものという常識を見事に打ち破った発想です。

小説や漫画、映画などのエンターテインメントでも、部分転換の発想はよく使われます。多いパターンは、歴史上の人物が現代にタイムスリップする、逆に現代の誰かが歴史上の人物に入れ替わるといったもの。古くは「戦国自衛隊」、新しくは「信長協奏曲」といったところがそれに当たります。テレビCMでも多用する発想法ですので、ぜひ読み解きしながら探してみてください。

どんな人でも、偶然を必然に変えることができる

「部分転換」するためのコツは第一に、ある対象をジグゾーパズルやプラモデルのように、ピースやパーツに切り分ける、分解することです。日々の「アタマの体操」では、ここから始めます。

目の前にあるモノやコトを、すぐに要素分解できるようなトレーニングをしておくこと。ただ漠然と見ているのではなく、アタマを働かせて、その対象がどのように構成されているのかを考えてみてはどうでしょう。そして時には、その要素を何か違ったものに転換するところまで想像してみると、アタマはさらに鍛えられます。

このような「アタマの体操」のひな型を使って、ふだんからメンテナンスしておくことで、何度も何度もアイデア発想を繰り返し、あの手この出で研ぎ澄まされたものへと発展させていく力がついていきます。ある時、突然ひらめいたという奇跡はそうそう起こりませんが、こうした少しずつの積み重ねをすれば、どんな人でも偶然を必然に変えることができるのです。

「アタマの体操」のオンライン授業3限目は、今週7/22(金)19時から生放送します。大喜利のお題は「初対面でも思わず会話がはずむ名刺」のアイデアです。よろしければ、ぜひどうぞ。


授業詳細:「schoo WEB-campus アタマの体操 -電通の現役プランナーが実践するアイデア発想トレーニング3限目-

プロフィール

  • 武藤 新二
    株式会社電通 CDC クリエーティブ・ディレクター/プランナー

    1992年、電通に入社。入社後3年半の静岡支社営業経験を経て、東京本社企画プランニング部門に異動。以後、広告企画制作にとどまらず、コミュニケーション全般の設計、商品や新規事業の企画、コンテンツのクリエーティブディレクションなど、仕事の領域は多岐にわたる。現在CDCに所属。これまでに、慶應義塾大学SFC研究所員(訪問)、大学や小学校での講師など、教育機関での活動も多数。出版関連では、重松清『夢・続投!』(朝日新聞社)、清水浩『脱「ひとり勝ち」文明論』(ミシマ社)、パパイヤ鈴木『カズフミくん』(朝日新聞出版)の企画に携わったほか、子ども向け絵本の制作も行う。著書に『アタマの体質改善』(日本経済新聞出版社)、『おじいとおばあの沖縄ロックンロール』(ポプラ社)。

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