アタマの体操 #04

妄想を膨らませて「変身」させる

  • 武藤 新二
    株式会社電通 CDC クリエーティブ・ディレクター/プランナー

隣には振付師のパパイヤ鈴木さん。目の前にはダンス教室の先生たち。
こんなシチュエーションの中で、ダンスの指導法について語る自分。広告会社のプランナーがなぜそんなことしているの?と不思議に思うのではないでしょうか。もちろん、僕はダンスの経験など全くありません。

実は今、教育事業の「セイハネットワーク」が新規に展開しているダンス教室に関わっています。事業の柱は英語教室で、その規模は全国で1000拠点を超えるほどです。そのノウハウとネットワークを活用し、ダンス教室を第二の柱にしようとしています。

2014年から「パパイヤ式ダンスアカデミー」と銘打ち、幼保園への講師派遣とショッピングセンターへの出店を開始。2年が経過しようとしている今、拠点数200、生徒数1万人に届こうかという規模に発展しています。

さらにさかのぼる、2010年の秋。もともとお付き合いのあったパパイヤ鈴木さんと雑談をする機会がありました。2012年度から中学校の体育科目にダンスが必修化されるが、指導できる先生がなかなかいないという状況を懸念していました。

「もうこれ以上、ダンス嫌いな子どもを増やしたくない…」
良い指導がされないと、踊ることの楽しさや振り付けをつくる面白さが子どもたちにうまく伝わらない。振付師として若いダンサーや歌手などに長年指導してきた中で築いた、経験知や方法論を世の中に広めていきたい。

こんな話を受けて、すぐさま電通社内のプランナーに声をかけ、クリエーティブチームを結成。ダンスのメソッド化に向けたアイデアをパパイヤ鈴木さんと互いにぶつけあうことになりました。クライアントからの依頼ではなく、自発的にプロジェクトを立ち上げたのです。

iPhoneアプリ→本→ダンス教室と次々に進化した

それぞれが考え、みんなで集まってアイデアを発散し、話し合い、収束させる。それを試すためにスタジオに入って、実際に体を動かす。そこでの成功や失敗をもとに、またみんなで考える。半年にわたって何度も繰り返し、メソッドとしてカタチにしていきました。

こうして出来上がったのがダンスメソッド「カズフミくん」です。正方形に配置された1・2・3・4の数(カズ)の書かれたマットを踏んでいく(フミ)だけで、ダンスの基本ステップが誰でも簡単に身に付けられます。まずは「左・右・右・左」「両足・両足・左・右」といった10のひな型を体得。特定のテンポに合わせてそれらをつなげる。上半身は自由に。そうすれば、自然と体が動いてダンスの基礎ができるというものです。

「カズフミくん」を世の中へデビューさせるために、iPhoneアプリを開発。その設計やコピーワーク、デザインを僕たちのチームで行いました。リリースしたところ、朝日新聞出版から書籍化のお話を頂き、2012年4月には全国の書店に並び、ダンス必修化のタイミングにぎりぎり間に合わせることができました。

さらに、この本を目にされた「セイハネットワーク」から声が掛かり、「カズフミくん」をベースにしたカリキュラム開発に発展し、冒頭の話につながっていくというわけです。こうした経緯があって、ダンス経験など全くない僕が、その考え方やアイデアについて、教室の先生たちに話をする機会を得ることができました。

ふだんからちょっと気になることをそのまま流さない

雑談をきっかけにして、全く無だったものがみんなのアイデアをぶつけ合うことでカタチになり、それがコンテンツ化されビジネスに変わっていく。この醍醐味を味わうためのファーストステップは、まず考えることです。何度も何度もしつこくアタマを働かせること。常識や固定観念を打ち破って、想像力をフル回転しなくてはいけません。

そうするためには、日常的な準備が大切です。ふだん過ごしている中で、ちょっとしたスキマの時間をつくってあれこれと考えてみる。お題を決め、アイデアを集中して出すトレーニングをする。かたくなりがちなアタマを柔らかくするためのストレッチ、「アタマの体操」を普段から取り入れてみてはいかがでしょう。

5~10月の6カ月間、毎月第4金曜日に、オンライン動画学習サービス「schoo WEB-campus」で授業を行っています。そこでは、電通のプランナー3人とアイデアを集中して出すトレーニングを大喜利風に大公開。併せて、アタマの体操のひな型となる「発想法」や心がまえ、極意もお披露目しています。

先月7月22日に放送された授業でのアイデア大喜利は「初対面でも思わず会話がはずむ名刺」というお題にしました。ちなみに、電通の名刺は100色のバリエーションから、社員一人一人が好きな色を選ぶことができます。

初対面で名刺交換をするとき、色のことに触れるだけでちょっとした話題が生まれます。さらに、自分のイメージカラーだったり、担当するクライアントのコーポレートカラーだったり、それぞれが選んだ理由をネタに話が弾むこともあるのです。

シンプルなアイデアですが、相手に印象を残すことができ、社のクリエーティビティーを感じとっていただく効果があるのではないでしょうか。かしこまって緊張する場面がアイデア次第で和む場に変わる、という小さな実体験の積み重ねが、僕たち社員にとってアイデアの大切さを実感する効果も生み出しているといえます。

ふだんからちょっと気になることがある、こんなものがあったらいいなぁ、こうしたらいいのになぁと感じたら、それを流してしまわずお題にして考えてみる。時にはそんな時間を少しつくるだけで、「アタマの体操」になります。あわよくば、考えたアイデアで何かを本当に変えられたら、ちょっとした達成感も味わえます。

「極端化」「部分転換」に続く、第3の発想法は「変身」

それでは、今回のオンライン授業で生まれたアイデアをいくつか紹介しましょう。

ビジネス上、名刺は自分の分身のような存在。渡した相手が見返した時に、メールアドレスや電話番号だけではなく、自分のことをもっと思い出してほしい。そんな思いを名刺に託すとしたらと考え、自分の一部を実寸大でデザインするというアイデアにつながりました。渡すときに「実はこれ僕の右目なんです」と語りかければ、印象に残ること間違いなしです。

Illustrated by Shinya Inoue

初対面の人との会話を盛り上げたいと思ったら、きっと共通の話題がないかを探るはず。もしかしたら同郷じゃないかな?趣味が一緒だったりして?同年代?お互いに想像するばかりで悶々とするなら、いっそのこと名刺がチェックシートになっていればいいというアイデアです。たとえ共通項がなくても、話のネタになり会話が弾むことでしょう。

オンライン授業では電通のプランナーがリアルタイムにアイデアを考えていきますが、同時に授業を受けている皆さんにも考えてもらっています。今回で3回目ですが、回を重ねるごとにアイデアの投稿数も増え、盛り上がってきました。五つ六つと書き込んでくれる人もたくさんいます。ただ、プランナーの発想スピードは圧倒的に違うのです。1時間のあいだに数十本のアイデアをつぎつぎに考えていきます。

なぜ、そんなことができるのか。それは、独自の発想法をさまざまな経験から体得しているからです。本連載では毎回「アタマの体操」のひな形として、さまざまな発想法を紹介しています。

前回までの「極端化」「部分転換」に続いて、今回は三つ目「変身」。ありえないと思っても擬人化する、別の違った人や生物に置き換える、物象や現象に例える…モノやコトを人へ、人をモノやコトへ「変身」させてみることから発想していく方法です。

まわりから「変身」してできているものを探してみる

アタマの体操として、すでに周りにあるものを「これはどんな発想法からできたのだろう?」と読み解くことが効果的です。または、「変身」から生まれたであろう事例を見つけてみるのも良いトレーニングになります。

アニメでも、グッズでも、広告でもよく目にするキャラクター。それらは「変身」の発想で生まれたものが多くあります。「schoo WEB-campus」のオンライン授業を一緒にやっている後輩のアートディレクター堀内弘誓くん(関西支社マーケティング・クリエーティブセンター)が手掛けたミスタードーナツの「ポン・デ・ライオンと仲間たち」もしかり。

ドーナツを動物に変身させてキャラクターに。ドーナツの形状と動物の身体の共通点を見つけてビジュアル化し、ネーミングも含め、商品ラインアップを楽しくかわいらしい世界観で訴求しています。

冒頭に紹介した「カズフミくん」。このネーミングも擬人化、つまり「変身」させたものです。パパイヤ鈴木さんから「ダンスや踊りという言葉を使わない方が、従来のイメージにとらわれず広くみんなに親しまれるはず」という話を受けて、考えたものです。

テレビCMもそんな視点で見ていると、いろんな発見があるでしょう。皆さんが知っている事例でいえば、ソフトバンクのお父さん犬。人間を犬に「変身」させて、一躍ソフトバンクの代名詞的存在となりました。

こうした読み解きをしていると、想像力がアイデア発想の原点だということが実感できます。ドーナツを眺めて動物を思い浮かべたり、お父さんがもしも犬だったらと考えたり、そんな妄想や空想から人気キャラクターやヒットCMが生まれてくるものなのです。

潜在能力として誰もが持っている想像力。大人になってくると、なかなか発揮する機会がなくなり封印されていきます。そこで、アタマの体操を日常生活に取り入れることで、妄想や空想する時間を積極的につくっていこう!とお勧めしているというわけです。

アタマのスイッチをオンにしているかどうかが大事

「アイデア発想をする場所や環境で、お勧めはありますか?」
オンライン授業の中で、こんな質問を受けました。シャワーやお風呂に入っているとリラックスしてアイデアが湧くとか、オフィスの中にお洒落な空間をつくってブレストルームにするとか…場所や環境とアイデアの関係は、よく語られるテーマです。

場所や環境はあまり関係ない、というのが僕の答え。電通のオフィスには決められたブレストルームもありませんし、デスクも会議室もいたって普通です。そんな環境の中でもアイデアは量産されています。では、何が大事なのでしょうか?

どこでもいつでもちょっと空いたスキマの時間に、すぐに考えられるような状態に準備をしているかどうか、つまり、アタマのスイッチをオンにしているかどうかが大事だと考えています。だからこそ、シャワーやトイレ、電車の中でふっとアイデアが湧く。アルキメデスは風呂の中だから偶然ひらめいたわけではなく、ずっと考え続けていたからこそ必然として風呂の中で原理を思いついたのではないでしょうか。

僕はアタマのスイッチをオンに切り替えるために、何かお題が与えられたらカフェにこもって集中し、そのことだけをひたすら考えることにしています。カフェといってもおしゃれなところではなく、よくあるチェーン系のカジュアルな場所。決まった店も特にありません。長くやっても集中できないので、1時間を目安にしています。

一度こうしておくと、アタマの片隅で無意識のうちに考え続けている状態になり、ふとした瞬間にアイデアが浮かぶようになります。これはアタマの体操に通じるものです。ふだんからトレーニングをしておけば、いざという時にアタマが働くようになる。僕たち人間のアタマはメンテナンスさえしてあげれば、ちゃんと応えてくれる優れものなのです。

「schoo WEB-campus」の4回目のオンライン授業は、今週8月26日(金)19時から開催。大喜利のお題は「もっとみんなが選挙に行きたくなる」アイデアです。よろしければ、ぜひどうぞ。

プロフィール

  • 武藤 新二
    株式会社電通 CDC クリエーティブ・ディレクター/プランナー

    1992年、電通に入社。入社後3年半の静岡支社営業経験を経て、東京本社企画プランニング部門に異動。以後、広告企画制作にとどまらず、コミュニケーション全般の設計、商品や新規事業の企画、コンテンツのクリエーティブディレクションなど、仕事の領域は多岐にわたる。現在CDCに所属。これまでに、慶應義塾大学SFC研究所員(訪問)、大学や小学校での講師など、教育機関での活動も多数。出版関連では、重松清『夢・続投!』(朝日新聞社)、清水浩『脱「ひとり勝ち」文明論』(ミシマ社)、パパイヤ鈴木『カズフミくん』(朝日新聞出版)の企画に携わったほか、子ども向け絵本の制作も行う。著書に『アタマの体質改善』(日本経済新聞出版社)、『おじいとおばあの沖縄ロックンロール』(ポプラ社)。

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