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Dentsu Design TalkNo.76

可変する建築(後編)

2016/08/06

IoT化された社会が実現されていこうとしている現在、建築領域でも加速度的に領域横断型の仕事が増えている。張り巡らされたデジタルネットワークがついに、空間や建築の分野にも浸食し結合し、建築家の仕事もコンベンショナルな建築物や構造・意匠設計から、もっと有機的な表現、業界外のプロフェッショナルとの協働型のクリエーションになってきている。今回のデザイントークは、建築家を経てライゾマティクスを立ち上げ、さまざまなアートやテクノロジーを使ったビジネスの実験を経て建築部門「Rhizomatiks Architecture」をスタートさせた齋藤精一さんと、日本と台湾を拠点に「コンピューテショナル建築」の第一人者として存在感が高まっているnoiz architectsの豊田啓介さんをお迎えし、電通イベント&スペース・デザイン局の西牟田悠さんが「可変する建築」というテーマで未来へのビジョンを聞いた。その後編をお届けする。

(左より)豊田氏、齋藤氏

 

IoTは建築や都市の未来をどう変えるか?

西牟田:お二人が考える建築や都市の未来について聞いていくために、いくつかキーワードを用意しました。IoTが注目されていますが、この流れと建築や都市が掛け合わさった時に、どんな変化が生まれると思いますか?

齋藤:建築って本当は経済、法律、政治などと切っても切れないものです。でも、これまでの建築は建築申請を終えたら無関係、というスタンスだった気がして。IoTがきっかけで、いろいろな業界に共通言語が生まれたり、つながり直していく動きが出るのではと感じています。ちなみに、僕がいま一番IoT化すべきだと思うのは、「倉庫に眠っているブツ」や「人の記憶」です。デジタル化されないで眠っているカセットテープや写真や文献…こういった歴史や記憶がデジタル化されていかないと、本当の意味でのIoT化は進まない。僕がIoTに関して“いの一番”で手をつけたいのはここですね。

豊田:家電メーカーと、10年後の家電がどうなっているか共同リサーチをしたことがあるんです。個々の家電にセンサーをパッケージングするのではもったいないので、おそらく共有化したセンサーを家に埋め込む形になるのではと話しました。同じことが、建物や都市のスケールにも言えるんじゃないかと思っています。だから、個別のIoTプロダクトの話というよりも、そこから取得したデータをどう処理して、複合的なニーズなり知能なりを呼び出すインフラやソフトウエアみたいなものを作っていくか、という話なんだと思っています。その方が断然ハードルが高いし、興味があります。

まずは小さなスケールからその実験ができればと、いま複合施設や大型ショッピングモールでの適用の機会を探っています。ただ、そのソフト開発までやるとさすがに設計事務所の枠をこえているなと…僕らはどこに行ったらいいんだろう?

齋藤:建築だけでも、デベロッパーだけでも、コンサルだけでもできない。建物のレベルでは建築家がイニシアチブを取れますが、街レベルになるとイニシアチブの場所が変わってきますよね。俯瞰で世の中を見ることができる人が、コンセプトとコンテンツをつないでいかなければいけない。俯瞰で見ているという意味では、広告業界は近いと思います。消費者動向や世の中や技術のトレンドを把握していますし、住宅メーカーとグーグルのような、懸け離れた業界をつなぐだって可能ですから。

西牟田:いろいろな分野の人をうまくつなぐ機能があれば、街の様子も変わってくるでしょうね。

豊田:建築物のメンテナンスのベースがデジタル技術になると、コンテンツやシステムも変わります。3次元の仕事から、時間も含めた4次元がデザインの対象になってくる。だけど、それをきちんとデザインしてパッケージで提出するという概念も、ノウハウもまだ建築の世界にはありません。そこを扱える形にして価値にしていくことに面白さを感じますし、マネタイズのポイントになるだろうと思います。

齋藤:まさに今、運営の課題に取り組んでいます。場所の運営をどんなチームで行い、テナントが物理的に入ったら同時にEコマースに格納されるにはどうしたらいいか?といったことを考えています。運営が一番マネタイズに関係しているんです。例えば、自治体では助成金が打ち切られたり、役所の担当者が異動してプロジェクトが崩れるケースが多いですけど、自走するシステムを作ることで解決できる課題だと思っています。

 

テクノロジーは公共空間をどう変えるか

西牟田:公園などの公共空間をどう活用していけるか。規制を緩和する流れがあったり、パブリックの形もまた変わりつつあるようにも思えます。テクノロジーが関わることで、パブリックな空間はどう変わっていくと思いますか?

齋藤:昔、偉大な建築家の方が「街を歩く一番の楽しみは、角を曲がった時に美人がいるかどうかだ」と話していて印象的だったんですよ。今はまだ、テクノロジーのコミュニケーションレイヤーが、街の物理的なレイヤーと合っていないのですが、これから合致してくる。すると、角を曲がって美人と出会うという体験も、デジタルで体験するようになるかもしれない。一方で、テクノロジーによって、街から何がなくなるか考えると、ポスト、電柱などいろんなものが淘汰されていく。そうなると、最終的に何もなかった時代の原風景に戻るのではないかとも考えられます。もしかすると、東京のど真ん中は田園風景になるかもしれません。僕のイメージに一番近いのはアニメ映画「サマーウォーズ」でスパコンが畳の部屋に氷で冷やされながら置かれているシーンです。テクノロジーが進化していくと、ああいう形に近づいていくんじゃないかな。

豊田:僕は埋立地育ちなので、古い集落にすごく憧れがあるんです。集落や都市は何千人という人々の意思と時間を積み重ねてできたもので、埋立地のようにコントロールしてできたものではありません。集落にはコントロールしようのないものが集積した圧倒的な面白さがある。今まではそれを結果として受け取ることしかできませんでしたが、技術によって、そういうあいまいな蓄積みたいなものを間接的ながらデザインできる可能性が出てきた。次の次元にぐりぐりと手が届き始めている感じがあって、すごく期待しています。これまで不可能だった蓄積現象としての集落や都市をコントロールできるようになった時、僕らは何ができるのか。デザイナーの感性や機能はどう変わっていくのか。すごく興味がありますし、自分でも率先して実験していきたいです。

西牟田:最後に、これからのチャレンジについて聞かせてもらえますか。

豊田:先ほども触れましたが、noizとは別の新しい建築のリサーチやコンサルティングを事業化するプラットフォームを作りたいと考えています。これまで散発的なリサーチやコンサルのような形で請け負ってきたものを、実施まで含めたプロジェクトとして、いろんな分野の人を受け入れながら請けられるようなプラットフォームの準備を進めているところです。

齋藤:僕が個人的に目指しているのは、分野を横断してものを考える「非分野主義」です。その実現のために絶対的に大切にしたいのが「プロトコル」。これがないために、同じ会社でも他の部署と話ができないということがあります。そこをまずつないでいくことが広告などの表現や仕組みに携わる方々の仕事ではないかと。2020年はその大きなきっかけになりますし、プラットフォームをつくるちょうどいい時期だと思います。そこに向けて、全員がひとつのプロトコルを持って、建築や都市と周りの業界をつなぐ意識で仕事をしていけば変わってくるはずだと、個人的に熱く思っています。

西牟田:電通イベント&スペース・デザイン局も、新しいチャレンジを始めていきます。ライゾマティクスさん、そしてTYOさんと一緒に、「ウルトラパブリックプロジェクト」という新しい街づくりのプロジェクトを立ち上げました。

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西牟田:そこで暮らす人、訪れる人にとってどんな街であるべきなのか、その未来の姿を、区画や建物の整備といったハードのアプローチではなく、一生活者としての「澄んだ目」で一度考えてみる。そして、われわれチームの得意分野である「テクノロジー×エンターテインメント」を活用し解決してみる、といったソフトアプローチで取り組む、街づくりのうプロジェクトです。ウルトラパブリックプロジェクト独自の視点で街の未来を描き、それを実現するための実証実験も行っていく予定です。
齋藤さんがおっしゃる「プラットフォーム」のひとつになるような、そんな活動になっていければいいなと、思っています。

西牟田:既存の概念やアプローチを新しい視点で捉え直し、いろんな方を巻き込み、領域を押し広げていくことで、あらゆる可能性が広がっていく。今日は、そんな未来を予感するお話が聞けました。ありがとうございました。

 
<了>
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企画プロデュース:電通イベント&スペース・デザイン局 金原亜紀