鍛えよ、危機管理力。 #12

リスクマネジメントは経営だ!

  • Dpr pr kuroda akihiko
    黒田 明彦
    株式会社電通パブリックリレーションズ 企業広報戦略研究所 主席研究員

リスクとは「不確実性」

「リスク」という言葉から浮かんでくるイメージは、人によってかなり異なるのではないでしょうか。日本では一般に、「危険」という意味で捉えられることが多いようです。

自然災害や事件・事故、犯罪被害など、当事者に損害を与えるものがリスクであり、近づきたくないもの。できれば避けて通りたいですし、避けられないとすれば事態に備えて準備をすることになります。このような前提に立つとすると、リスクマネジメントはコストであり利益を生まない行為ということになります。

しかし、リスクの本来の意味は違います。欧米において、リスクは「不確実性」と捉えられています。つまり、ある行為によってもたらされる結果が不確実であるということ。予想通りの結果が出ることもありますが、悪い方向に振れることも、良い方向に振れることもあります。こうした結果の不確実性に備えること、不確実性を管理することがリスクマネジメントです。

「リスクを取る」という表現がありますが、これは不確実な未来において、良い結果を得るために何らかのリソースを投入すること。新規事業を始めるとき、あるいは新工場をつくるときに、必ず成功するとは限りません。結果は不確かであるけれども、成長や利益のために投資を決断する。ビジネスにおいては、それがリスクを取るということです。

企業経営とリスク

もちろん、企業はやみくもにリスクを取るわけにいきません。身の丈を越える投資をして、思惑通りに事が運ばなければ企業の存続が危ぶまれます。このように、リスクを一定以下に抑えることもリスクマネジメントの一部です。

リスクマネジメントの対象となる要素は多岐にわたります。事業機会の判断、製品の企画・開発、人材や財務など、ビジネスのあらゆる要素を網羅したものにならざるを得ません。この意味で、リスクマネジメントは経営そのものということもできます。

しかしながら、こうしたリスクマネジメントの考え方はあまり日本企業に根付いていないようです。多くの業界に「護送船団方式」が残っていた時代、「業界横並び」で成長できた時代には、「危険の回避がリスクマネジメント」という考え方が有効だったかもしれません。しかし、今や横並びは衰退への道です。他社がやらないことに挑戦し、イノベーションを創出しなければ勝ち抜けないと多くの経営者は考えています。

イノベーションを生み出すためには、トライアル&エラーが欠かせません。何度も失敗を繰り返す中から、本物のイノベーションが花開きます。ただし、失敗の中には許容できるものと、許容できないものがあります。リスクマネジメントが機能していなければ、許容限度を超える失敗を見過ごしてしまうかもしれません。本来の意味でのリスクマネジメントの重要性は、ますます高まっているといえるでしょう。

リスクはより複雑に

リスクマネジメントが重視されるようになったもう一つの理由は、リスクの複雑化・多様化です。背景にあるのは海外との取引の増加、ビジネスにおけるデジタル化の進行、法規制の改変といったさまざまな環境変化です。

単純かつ明白なリスクへの対処は、比較的容易です。「どこに、どんなリスクがあるのか」を各部門がよく知っているので、部門長によるリスクマネジメントには一定の効果があります。これまで多くの日本企業は、こうした手法によってリスクに対処してきました。

ところが、複雑化・多様化したリスクには、単一の部門では対応しきれません。部門と部門の守備範囲の間に落ちる“ポテンヒット”のようなリスク、あるいは部門間にまたがるリスクが、やがて大きな危機をもたらすかもしれません。企業には部門横断的な取り組み、あるいはグループ企業を巻き込んだリスクマネジメントが求められます。トップの関与とリーダーシップは不可欠です。

ただし、いくらリスクマネジメントを強化したとしても、顕在化したリスクが想定以上のダメージをもたらすことがあります。それが、企業としての危機(クライシス)に発展するかもしれません。リスクマネジメントによって、その発生確率をゼロにすることはできないのです。このことを認識した上で、企業はリスクマネジメントに取り組む必要があります。

リスクマネジメントは経営の意思決定そのもの

クルマに例えると、リスクマネジメントはハンドルとブレーキのようなものです。目的地に安全に到着するために、それは欠かせないもの。確かなハンドルとブレーキがあるから、必要なときにアクセルを踏み込むことができるのです。

ドライブに出かける前の準備もリスクマネジメントの一環です。家族とのドライブの前日、あなたは明日の天気予報を調べるでしょう。目的地までの道のりや休憩場所の候補を調べ、自分の体調管理にも気を付けているはずです。全ては家族と楽しい時間を過ごすための準備であり、こうした準備によって、あなたは結果の不確実性を管理しているのです。

企業経営もこれに似ています。どの程度のリターンが期待されるのか、そのリターンを実現するためにどのようなリスクを取る必要があるのかを検討し、自社の体力で許容できるリスクかどうかを評価する。それは、経営戦略や事業戦略を進める上での基本的なプロセスです。

市場環境の悪化が予想されれば、リスクテークそのものを延期すべきかもしれません。天気予報が大雨のときに、ドライブを諦めるようなものです。市場環境を読み、自分たちが向かう方向の障害の有無を見定め、目的地に到達するためのリソースを備えているかどうかをチェックする。経営戦略を実行に移すためには、確かなリスクマネジメントが求められます。

 

プロフィール

  • Dpr pr kuroda akihiko
    黒田 明彦
    株式会社電通パブリックリレーションズ 企業広報戦略研究所 主席研究員

    MBA( 経営管理学修士)。日本PR協会認定PRプランナー。
    1986年入社。イシュー・マネジメント、ファイナンシャル・コミュニケーションなどのアドバイスとコミュニケーション・トレーニングを行う。専門分野は、経営戦略、事業戦略などに関わるステークホルダー関係論、広報組織論。
    多くの企業の広報戦略のアドバイザーを務める。

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