鍛えよ、危機管理力。 #13

会見の開催基準とは?

  • 池上 翔
    株式会社電通パブリックリレーションズ コミュニケーションデザイン局 コーポレートコミュニケーション戦略室

危機発生時の会見、やればいいというものではないようです

企業活動において危機が発生した際、慎重に判断する必要があるのが、公表(情報開示)の手段です。もちろん事案の性質によっては、静観すべきときもあります。しかし、ステークホルダーや社会に対する影響力を勘案し、説明責任を果たす必要性がある事案のときは、公表をしなければなりません。

その際の説明責任とは、迷惑をかけたことに対する謝罪の意の表明であったり、例えば個人情報の漏えいがあった場合などは注意喚起のためであったり、起きている危機によって変わってきます。

さて、ここで前提として気を付けたいのが、何もかも会見を開けばよいというわけではないということです。前述のように、静観して「公表しない」という判断をすべきときもあれば、企業のウェブページにのみ情報を掲載することで十分と考えられるときもあります。

より広くステークホルダーに対して説明を行う必要があるときにはメディアの力を利用し、リリースを用いるという選択肢もありますし、文章だけでは伝わりきらない、あるいは誤解を生みかねないときには記者クラブなどで「レクチャー付き資料配布」を行うという選択肢もあります。会見は、いくつかある選択肢の中の一つであるという認識をまずは持ちたいものです。

「会見」とは何かを知る

ではその会見(危機発生時には急きょ開催することも多いことから、緊急記者会見とも呼びます)とは、一体どのようなものなのか。

それは、危機発生時の公表手段の中でも、最も多くのメディアに、同じ場で、同じ情報を、一度で伝えられる方法と捉えると分かりやすいかもしれません。すなわち、それだけ急いで、広くあまねく社会に情報開示を行い、説明責任を果たさなければいけないときに用いる手段です。これは、とりもなおさず多くのメディアから批判的に報道される、バッシングされる可能性があるということも意味しています。

メディア関係者177人の意見

私たち企業広報戦略研究所が実施した「企業の危機管理に関する調査」では、メディア関係者(記者や論説委員、ジャーナリストなど)177人に、メディア視点で考える会見の開催判断基準を聞きました。日々社会動静や企業活動を取材し、報道する立場からして、「おいおい、こういうときは会見を開くべきだろうよ」という率直な意見をグラフ化したものが以下です。

 

1位は「人的被害がある」で88.7%。死亡者が出ていたり、負傷者が出ていたり、企業として人命に関わる危機を発生させてしまった場合には、強く説明責任を求められます。例えば自社工場での事故(爆発など)、航空機や鉄道事故、工事現場での事故、食中毒や医療事故など、あらゆる場面で想定されますし、これまでも実際に多くの危機が起きてきました。その都度、当該企業は何が起きたのか、なぜ起きてしまったのかなど、多くのカメラの前で説明を迫られてきました。

2位は「多発・拡大する可能性がある」で85.9%。これは注意喚起の意味合いが強いと考えられます。パンデミック(新型インフルエンザ等)や食品への異物混入、大規模な個人情報漏えい、自動車のリコールなど、多くのステークホルダーに危険性を伝えなければいけないという説明責任が求められるときには会見を開く必要性があるということでしょう。

3位は「違法性がある」で74.0%。粉飾決算や贈賄、カルテル、国が基準を設けている各種検査での不正など、企業活動を行う上で守るべき法律を破ったときには社会から厳しい目で見られます。それを生活者に伝えなければいけない報道機関としても、しっかりと説明責任を求めてくるということです。

これらは誰しもが納得できる、トップ3といえると思います。

同じ事案でも時と場合によっては…

注目したいのは、4位につけている「社会的インパクトがある」(68.4%)という基準。さまざまな解釈ができる基準であり、他のものに比べてもやや曖昧に聞こえます。しかしこれがもっとも見極めたい、というよりも見極める必要がある基準でもあります。

曖昧さはあまり解消されないかもしれませんが、言い換えれば「社会の空気感」あるいは「時流」に乗ってしまっているか否か、のようなものだと考えています。もう少しかみ砕くと、立て続けに似たような事件・事故・不祥事が起きており、社会の関心が向いているようなとき、あるいは新たな法規制ができ、注目が集まっているときなどです(これだけに限りませんのでご留意を)。

例えば自動車のリコール。例えば食品への異物混入。食品偽装。個人情報漏えい。事故。労災。

過去のケースを丁寧にひもといてみると、被害や損害の規模感、悪質性といったようなものが近しい事象であったとしても、それが起きてしまったタイミングによってはリリースでの情報開示で十分と捉えられるときもあれば、社会からの関心=メディアからの関心が非常に高まり、会見での説明を求められることもあります。この傾向は、結果としての報道を見ていても顕著に表れており、この「空気感」や「時流」に乗らずに済んだものはベタ記事やストレートニュースで終わるケースも多々あります。

危機が発生した際の公表手段をどうするか。会見をすべき事案なのかどうなのか。これを正確に見極め、的確な判断を下すためには、危機管理においても日々アンテナを張っておくことが重要です。

 

プロフィール

  • 池上 翔
    株式会社電通パブリックリレーションズ コミュニケーションデザイン局 コーポレートコミュニケーション戦略室

    2008年電通PR入社。イシュー・リスクマネジメント部にて企業・団体の平時および緊急時のリスク対応に従事。2011年に電通プラットフォーム・ビジネス局に出向し、ICTサービスのプロモーション、プラットフォーム関連事業のリスクマネジメントに従事。2012年から2年間、ディレクション局にて通信会社、食品会社、スポーツ関連企業等、さまざまなセクターのクライアントのPR戦略立案・実行に携わる。2014年から現職。企業広報のコンサルティングおよびPR戦略のプランニングに従事。

バックナンバー

関連記事

続きを見る
ページ先頭へ