新明解「戦略PR」 #37

相談2:今頃、体験型イベントが人気って? バブルに逆戻りっすか?

  • 10
    井口 理
    株式会社電通パブリックリレーションズ コミュニケーションデザイン局 局長 チーフPRプランナー

さー、みんな覚えてくれたかな? そう、新シリーズ「#教えて井口さん!」。皆さんの素朴な疑問にどんどん答えていきますよ! 今回は「最近、体験型イベントとかってやたら増えてんですけど、バブルの頃の大がかりなイベントに逆戻りな感じですよね? そこんとこ、どーなんすか?」という渋谷区のYさんからのご質問。いやいやいいとこ突いてマスよー。確かに最近、バブルの頃の規模感とまではいきませんが、確かにイベントってのが増えつつある気もしますよね。そいじゃー、そこんとこ、教えちゃおっかなー!

「生活者イベント」と「PRイベント」は別物と理解せよ

よく私が申し上げるのは、「生活者向けイベント」と「PRイベント」はまるで異なるもの、それぞれの目的をきちんと理解して設計しなければ、目的に対して非常に中途半端なものになってしまいますよ! ということ。確かに一昔前は何千人、何万人を集めるイベントが開催されたり、はたまた数十万規模のサンプリングを行なったり、でかい規模の生活者イベントってのがいたるところで実施されてましたよね。「人が集まっている」=「人の欲求がある」というイメージで、イベントの主体となっている製品・サービスとか、はたまた企業や人の価値を定量的に訴求していたところがあるかと思います。

一方、「PRイベント」というのはマスメディアにその情報を載せてもらうのが主目的で、新聞記者やテレビの報道担当者がニュース素材としてそのイベントを「絵」として切り取り、紙面や番組用に持って帰ってもらうことが重要なのです。すなわち、メディア向けの「絵づくり」がポイント。もちろん前述の「生活者向けイベント」で「こんなにヒト、集まってますねー!」というのも一つのニュースではあるのですが、行列は行列でしかなく、生活者にしてみたら「それで?」「だからどうした?」という反応にもなりかねません。そこで「PRイベント」ではニュース映えする「絵」を想定・用意することで、メディア報道されたときにもわれわれが伝えたい情報を瞬時に理解できるよう整えていくわけです。場合によっては、イベントと言いつつ生活者が誰も参加していなくてもいい、というくらい極めてメディア向けのしつらえになっているのです。

時には「生活者イベント」にメディアを動員してほしいという依頼もありますが、主目的が参加者の満足度に寄りすぎていては、実はメディアの欲しい「絵づくり」が不足するということも多々あり、結果メディアの方も「来たはいいけど、報道するにいたらない」という、マンパワーを大切にするメディアにとって最悪なパターンに陥ってしまいます。大切なのは最初に「何を目的とするイベントなのか」「誰をターゲットにしたイベントなのか」をきっちり決めておくこと。

これによりイベントの基礎構図を誰に考えてもらうべきなのか、例えばイベントプロダクションなのか、PR会社なのかというのもはっきりしてくるはずなんです。しかし、諸事情からメディアおよび生活者向けのイベントをどうしても一つの形でやらねばならないということもおきています。その場合は、それぞれのパートを切り分けて時間差で開催する、もちろんそれぞれの目的に適したスタッフが各パートを取り仕切るといった工夫で乗り切ることが大切です。

「体験型イベント」の勃興

じゃー、昨今言われる「体験型イベント」とは何なのでしょうか。私たちPRパーソンにとっては、イベントは「メディアであり、またコンテンツである」と言えましょう。ちょっと解説しますね。

①メディア
イベントを通じて生活者にダイレクトに情報を手渡す、という段階では「イベント=メディア」です。

②コンテンツ
イベントの様子をマスメディアに載せて情報拡散する、という段階では「イベント=コンテンツ」となっているわけです。これがイベントのハイブリッド利用という形。しかし、ここにもう一つの要素が最近付加されているわけです。

③情報拡散
イベント後に、SNSなどソーシャルメディア上での情報拡散というフェーズがあります。つまり①に参加した生活者が自らのメディア(SNS)においてこれを発信し、これが拡散、また受信側の疑似体験をつくり出す、話題への共感を生み出すことにつながっていくわけです。

イベント後に、SNSなどソーシャルメディア上での情報拡散というフェーズがあります。つまり①に参加した生活者が自らのメディア(SNS)においてこれを発信し、これが拡散、また受信側の疑似体験をつくり出す、話題への共感を生み出すことにつながっていくわけです。

イベント

メディアを通じた情報と同様、リアルな体験が大切に

こちらは当社の企業広報戦略研究所が調査した「企業魅力度調査」の結果からの引用となりますが、「企業の魅力度をどのような経路からの情報で感じますか」という質問に対し、「番組や記事」「企業が直接発信する情報」などの「メディアを通じて」魅力を感じるのが54.4%となりました。われわれPRパーソンが普段活用する各種メディアを通じた情報発信がこれに寄与する、という結果かと思います。

しかし、一方で「商品・サービスを直接体験して」「社員・店員などを通して」といった「リアルな体験を通じて」魅力を感じるという生活者も45.6%に上っているのです。これを見るに、情報戦のみならず生活者における「体験」が重要になってきており、そういった「直接の触れ合いの場」の見直しがこれから進んでくるのではないかと思うのです。そしてそれは「社員の日常行動」や「店舗での接客」「カスタマーサービスでの対応」などなど、幅広い接点の有効活用ということにつながってくるのではないでしょうか。

出典:企業広報戦略研究所 2016
出典:企業広報戦略研究所 2016 ※上記グラフはMA(選択式)の解答を集計したものです。

そして「体験型イベント」も、その「リアルな体験」の場として、企業の魅力度訴求につながる大事な接点として見直され、有効活用され始めているのかもしれません。先の調査結果をもう少し見ていくと、実は「メディア」としてくくってはいますが「ウェブを通じた口コミ」や、「リアル」にくくっている「身近な人から」という項目もポイントが高いです。すなわち「身近な人からのウェブを通じた口コミ情報」は、まさにこういう「体験型イベント」などを通じて発生すると考えれば、この手法が重用され始めているのも納得ですね。

はてさて、イベントの目的や手法について書いてまいりましたが、最後に一つご紹介。サンフランシスコで行われた「EXPERIENTIAL MARKETING SUMMIT 2015」でのマクドナルド社のセッションでは「見たことの20%しか人は覚えられないが、体験したことは80%覚えていられる」ということが語られました。まさに「しっかりとした体験で記憶に刻むということが、中長期のエンゲージメントには不可欠」ということなのではないかなと。

VR(バーチャルリアリティー)機器を活用したイベントも至るところで行列ができていたりしますが、今後そのような仕組みもPRに絡んできそうで、ますます最新技術には目を見張っていかねば、ですね。すみませーん! 社長、来週もちょっと海外カンファレンス、見学行ってきまっす!!(皆さま、しばらく不在にしますので、あしからず)

プロフィール

  • 10
    井口 理
    株式会社電通パブリックリレーションズ コミュニケーションデザイン局 局長 チーフPRプランナー

    1990年株式会社電通PRセンター(現株式会社電通パブリックリレーションズ)入社。コミュニケーションデザインを手がけるチーフPRプランナー。
     
    企業のコーポレートコミュニケーションから、製品・サービスの戦略PR、動画コンテンツを活用したバイラル施策や自治体広報まで、幅広く手掛ける。最近では、熊本県の赤い特産物をアピールするため仕掛けた「くまモンほっぺ紛失事件」のPRプランを手掛け、世界的なPR業界紙「Holmes Report」が主催するアワードで「世界のPRプロジェクト50選」に選出された他、多数の口コミを起こしたキャンペーンとして、世界的な口コミアワードである「WOMMY AWARD2014」を日本で初めて受賞。
    その他、受賞歴に、Asia Pacific PR Award、日本PR協会「PRアワード グランプリ」、国際PR協会「ゴールデンワールドアワーズ」、SABRE AWARDS ASIA PACIFIC、PR WEEK アワード・アジア、Asia Pacific SABREアワード、Spikes Asia 2014、Global SABRE アワードなど。
    実務のみならず、大学やトレードショー、PR協会での講義による若手育成にも従事。「Cannes Lions 2012」「Spikes Asia 2012」PR部門、「SABRE AWARDS ASIA PACIFIC 2014」「PRWeek Awards Asia 2015」「ヤングカンヌPR部門日本代表選考」審査員。「New York Festivals パブリック&メディア・リレーションズ部門」Grand Jury。2013年6月に「戦略PRの本質~実践のための5つの視点~」を上梓。

バックナンバー

関連記事

続きを見る
ページ先頭へ