分散型メディアが作るブランドの未来

  • Portrait tanaka dentsuho
    田中 準也
    株式会社インフォバーン 執行役員
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    小西 圭介
    株式会社電通 マーケティングソリューション局 コンサルティング・ディレクター

 

前編では、分散型メディアが求められる背景、それに対しメディアはどう対応していくべきかについて議論が展開されました。後半ではさらに、ブランドのマーケターの立場から、分散型メディアをどう活用して、コンテンツを配信していくべきか、インフォバーン・田中準也氏と、電通・小西圭介氏が語ります。


前編:分散型メディアが作るパブリッシャーの未来

それでもオウンドメディアが必要な理由

−−従来はメディアにバナー広告を出して、自社サイトに誘導するというのがブランド側の戦略には欠かせないものでした。海外のパブリッシャーの動きをふまえて、これからオウンドメディアを運営するブランドはどうしていくべきでしょうか?

田中:仮説ではありますが、ユーザーエクスペリエンスを起点にして発想すると、オウンドメディアもコンテンツを分散化して出していかないといけなくなります。

これまでは「自社サイトへの集客」に重きが置かれていましたが、これからは「コンテンツの閲覧」が重要になってきます。ブランデッドコンテンツ(企業が宣伝・PRを目的に制作したコンテンツ)も、自社ドメインへの流入効果より、コンテンツ自体がどれだけ見られたかを評価していく必要があります。

ユーザーエクスペリエンス起点で、と言いましたが、ここにきてユーザーエクスペリエンスは大きく変化しています。その変化を後押しする要因としては以下の五つが考えられます。


①スマートフォンの普及
②SNS中心の生活
③キュレーションメディアの台頭
④検索行動の変化
⑤オンライン動画閲覧数の増加

 

小西:前編でも紹介した、コカ・コーラが提唱した「Liquid and Linked Content」というコンテンツ戦略はまさにこれらが背景にあるのだと思います。今日のブランドは、コンテンツを通じてユーザーのいる場所に自ら出て行き、積極的につながっていかなければならない。

田中:ブランドマーケターとしては、ブランドの認知、興味・関心は分散型コンテンツで獲得できますが、顧客化する、ファンになる、エンゲージするというところでは、オウンドメディアが必要で、ファンを大切にするユーザーエクスペリエンスを設計していかないといけないですよね。

小西:ブランドにとって、メディアを使った集客は手段であり、オウンドメディアを運営することが目的ではありません。目的はお客さまと関係を作って広げることですから、適切なメディアを選ぶ必要があります。既存顧客との深いコミュニケーションであればオウンドメディアが必要でしょうし、新しい顧客との関係を作る、出会うためには、分散型が適切かもしれません。情報発信の役割を全体最適で考える必要があります。

特に昨今、コンテンツマーケティングがトレンドになり、「ブランドはパブリッシャーになるべきか」という議論があります。国内では二極化していますが、グローバルで見るとパブリッシャーになることを選ぶブランドは減っています。

コンテンツを自社で作るという選択肢、メディアと組んでより効率的に制作するという選択肢がある中で、ブランドはどちらを選んでもよく、生活者に役に立つ情報を届けられて初めて価値があります。ポイントは、投資に見合う価値があるかどうかが重要です。

田中:オウンドメディア化を推進するブランドの中には、単にパブリッシャーになるだけではなく、運用を通して得られたデータをマーケティングに活用するなど、メディアとは別の視点で活用しているところもありますね。社外のプラットフォームに依存し過ぎると、データが得られない、直接リーチできないというデメリットもあります。例えばFacebookページなどでも、アルゴリズムの変更でファンへのリーチ率が下がったという話もあります。

生活者にエンゲージ(参加)してもらうにはオウンドメディアが適切かもしれませんが、その前の認知獲得はどうすればいいのか。マスマーケティングが強かった時代にテレビCMでできたことが、今はやりにくくなっています。特にデジタルネイティブ、ミレニアル世代にブランドはどう情報を届けるかという課題に対して、二つのアプローチがあると考えています。

一つは、メディアごとに適したフォーマットをとことん追求していくこと。コミュニケーションするためには、アイデアを考えなければならず、それはマスマーケティングで活躍した先人の知恵も参考になります。

もう一方で、マスマーケティングが届きにくい時代に、認知してほしい層に適したプラットフォーム上にコンテンツを配信し、興味を持ってもらうことです。つまり、すでにお客さまの導線をつかんでいるプラットフォームを活用することで、最初の認知を獲得していくのです。

マスメディア時代は、GRP(Gross Rating Point:延べ視聴率)やアウェアネスを見ていればよかったのですが、今のマーケターは短期的、中長期的の両方のサイクルで、コンテンツがどこで見られているのか、それがどう影響しているのかを見ていく必要があり、より大変になっているという実情があります。

あらゆる“コンテンツ”に分散化が求められる時代に

小西:もっと言うと、ブランドにとってはメディアが分散型になるだけでなく、コマースも分散化していますね。生活者は自分が買いたいところで買いますから、Facebookメッセンジャーのボットなども含めて、オンライン・オフラインのチャネルがどんどん増えています。分散化はメディアに限った話ではありません。

また動画広告も今はテレビCMの代替のような感じで広がっていますが、動画もコンテクスチュアルになっていて、CMとは違う発想で作られているものが増えています。ブランドコンテンツを作る上では、もっと生活者に寄り添っていくというのが大事です。例えば時間軸、タイムラインの発想も重要です。今を共有する価値はテレビにもありましたが、今起こったことをコンテンツ化していくTwitterのようなライブ感覚は大事にするべきですね。同じコンテンツでも、いつ届けるかというタイミングで大きく反応が変わります。

−−ブランドとして、分散型コンテンツの効果測定をどうしていけばいいでしょうか?

田中:「分散型という生活者の情報消費行動に対応する」ことが重要です。まずは、どのメディアでどのコンテンツがどのぐらい消費されているのかを可視化。次にそれがどのぐらいエンゲージメントされているのか。また、コンテンツ間のユーザー重複がどのぐらいあるのか、相関分析やアトリビューション分析が必要になってくると思われます。

前編でも触れましたが、目的を明確にした上で「意思決定のための分析」とすべきです。また、当社がブランドのオウンドメディアを運営する場合、滞在時間、ソーシャルメディアへの拡散、他メディアへのリーチなど、ユーザーアクションからコンテンツを質的に評価し、コンテンツ面からのメディアグロースハックを行っています。

オウンドメディアはマーケティングか、事業か?

−−ブランドは、オウンドメディアを今後どのように運営していくべきでしょうか?

小西:ブランドの特性、戦略、業界内のポジション、顧客とのエンゲージの度合いなどによって変わるとは思いますが、自分たちの価値や差別化がモノ以上の顧客・ファンとの関係性や課題解決の領域にあるとすれば、自らメディアを持ちパブリッシャーになることは、自分たちのコミュニティーを作りコンテンツを配信できるという点で、マーケティング活動の一環として、投資対効果に見合う可能性があると思います。

田中:「CLUB Panasonic」が広告事業を開始するというニュースが話題になりましたが、オウンドメディア単体として事業を確立できるように、パブリッシャー側に舵を切るところも出てくるでしょう。

オウンドメディアをマーケティングコミュニケーションの一環として運営するのか、収益化を目指す事業として捉えていくのかは、経営判断になります。経営判断、ゴールがないままに始めてしまうのは良くないですね。まずは始めよう、ということであっても、運営しながら知見をためて、マーケティングコミュニケーションとしてどう位置づけるのか、直近・短期・長期のゴール設定が必要です。

小西:今のところ、メディア事業として成立している例はまだ少ないですね。一方で従来の広告宣伝費がコンテンツ制作費に移行していくトレンドは顕著で、これからのコミュニケーションの中で必須になるとは思います。

田中:全てのブランドがパブリッシャーになる必要はありません。繰り返しになりますが、ユーザー体験を考えたときに、新しい人に情報を届けるには分散型で各プラットフォームに合わせたフォーマットで出していかないと届きにくくなっています。

ブランドは「オウンドメディアを捨てて分散型メディアを作ろう」ではなく、手法の一つとして、パブリッシャーに習いつつ、マーケティングコミュニケーションの中での位置付けを考えればいいでしょう。

小西:ブランドにとって、分散型のコンテンツ配信は手間とコストがかかりますから、誰がやるかが課題になります。そこは私たちエージェンシーなどが協力するところでもあります。

田中:そうですね、全て内製でやるのは難しい側面もあると思います。編集的なスキルの他にも、各プラットフォームに精通している必要がありますし、技術的なトレンドをどう捉えていくかも課題です。

ターゲットや伝えたいメッセージはブランドマーケターが中心となって考えるにしても、クリエーティブは外部の力も必要ですね。

小西:電通でも、プラットフォームパートナーとしての立ち位置を生かしています。広告主のためにクリエーティブを制作して、メディアで流すだけでなく、プラットフォーマーと組んで最新の知見・テクノロジーを駆使しながら、新たなブランド体験をクライアントに提案するという動きが増えています。

どういう体制を作るかということは、組織論にも関わってきますね。ブランドとプラットフォーマー、またブランドとメディアがもっと話をするべきですね。テクニカルなことも分かるエージェンシーは、ファシリテーター、プロデューサーの役割が求められていくでしょう。

良きマーケターは良き編集者

田中:最近はバズを狙ったコンテンツはたくさんありますが、どちらかというと、バズることよりもコミュニティーに合ったコンテキストでコンテンツを作ることを考えていかなければなりません。そこから先は、企業ではなくユーザーが選び、拡散していきます。

小西:たとえバズが起きても一時のフローで終わることも多く、ブランドにとってコンテンツをストックの価値にどうつなげていくかという議論も出ています。一時的に話題になるだけでなく、ブランドの深いエンゲージメントを構築するという考えですね。

田中:自社ではなく、常に生活者を中心に置いて、コンテキストを考えながらテーマを決めるという視点が重要です。その意味で、よい編集長とよいマーケターは、考え方が近いと感じることがあります。

揺るぎなく生活者を見続けている人は強いですが、そのためにはすごく努力も必要です。よい編集長、よいマーケターを体系的に育成することはとても難しいと感じています。

小西:デジタルの場合、お客さんの反応が直に帰ってくるので、そこで鍛えられていくことが特に重要かもしれないですね。さらに「もっとこうした方がいいのでは」、と自問自答し続けられる感覚も必要ですね。

統合的なストーリーテリングで、分散してもぶれないブランドストーリー

田中:テレビも、ビジネスがデジタル対応する中で、変わってきています。生活者のために、心を動かすということはどういうことかを考えていますね。

小西:実際にはマス広告でも、枠の中で枠を超えることができます。昔はなかったようなチャレンジも行われています。例えばauの三太郎シリーズのように、CMの中のコンテンツだけでなく、デジタルの拡散も含め、いろいろなメディア・プラットフォームで展開できる統合的なストーリーテリングを設計している事例といえるでしょう。

田中:広告もストーリーテリングが重要になっていて、何度も視聴してもらって認知させるという時代ではありません。かつてのメディアミックス、クロスメディアにあったような、共通のクリエーティブで横串にするのではなく、各コミュニティーとコンテキスト、様式に合わせてメッセージをコンテンツ化し、統合的にストーリーテリングする想像力が必要です。ターゲットも、ここにいる人はこういう人、とくくるのではなく、ここにいる人も気分が変わればこうなる、というような想像をしなければなりません。

小西:メディアが分散化していく中で、ブランドの一貫した世界観・人格、ぶれないストーリーの重要性はむしろ高まっています。デジタル時代には既存の広告フォーマットを超えて、さまざまなコンテンツの核となるブランドの世界観の明確化、そして顧客との関係性を軸にしたぶれないブランドづくりがますます大事になってくるでしょう。

プロフィール

  • Portrait tanaka dentsuho
    田中 準也
    株式会社インフォバーン 執行役員

    総合広告代理店、鉄道系エージェンシー、IT企業、デジタルエージェンシーを経験した後、2015年インフォバーン入社。企業のマーケティング支援業務におけるアカウントプランニングを統括。マスからデジタルまで精通し、オンラインとオフラインを横断する総合的なコミュニケーションデザインが得意。近年ではスマートフォンデバイスアプリケーションのプロデュースから、Web番組企画などのエンターテインメント領域、B2Bサービスデザインまで幅広く手がけている。

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    小西 圭介
    株式会社電通 マーケティングソリューション局 コンサルティング・ディレクター

    1993年入社。2002年米国プロフェット社に出向し、デービッド・アーカー氏らとグローバル企業のブランド戦略構築に携わる。現在はコンサルティング・ディレクターとして、数多くのクライアントのブランド・マーケティング戦略サポートを行うとともに、多数の講演、執筆などで、デジタル時代の新しいブランドおよびマーケティング戦略モデルを提唱している。著書「ソーシャル時代のブランドコミュニティ戦略」、訳書に「顧客生涯価値のデータベースマーケティング」(いずれもダイヤモンド社)他。

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