DMCラボ・セレクション ~次を考える一冊~ #59

マーケティングはPDCAからOODAへ -シン・ゴジラも倒せる!?米軍最新式マネジメントで「任せて、勝つ」-

  • Dmc              1118
    五島 淳
    株式会社電通デジタル チーフ・プランナー
米軍式人を動かすマネジメント

見える化できる時代だからこそ、思考停止がまん延している?

―「KPI目標を達成するべく、全力でPDCAを回しましょう」―

デジタル時代のマーケティング業務において、 ①戦略とKPI設計、目標数字の設定 ②とにかく施策を実行 ③結果の可視化・レポーティング ④原因究明と打ち手の検討…といった、いわゆるPDCAサイクルがいたるところに浸透しています。

一昔前の「エイヤ!」なやり方に比べると、相当合理的になりましたが…、逆に私自身がさまざまなマーケティングの現場を見てきた中で感じるのは「PDCA病」のまん延です。

「病気? KPI目標達成に向けてPDCAに注力することの何が悪いのだ!」なんて、声が飛んできそうですが。ここで言いたいのは、PDCAのレールに乗ってさえすれば、他の可能性に目線を向けなくてよい、ある種の思考停止のような症状。これが至るところで起こっているのではないか、と私も個人的に危機感を持っています。

今回は『米軍式 人を動かすマネジメント』(日本経済新聞出版社)から、「優秀な人材と豊富な資源、完璧なPDCAサイクルを持った組織が、時としてなぜ簡単に負けるのか?」について、探っていきたいと思います。

PDCAの病…敗北したイラク軍と日本企業の抱える課題

敗者は、訓練された兵士と高性能の武器を持ちながら敗れた。
勝者は、相手に実力を発揮させない「新たな戦い」で勝利した。(P.2)

湾岸戦争において、イラク軍が米国をはじめとした多国籍軍に敗れたという史実については省略しますが、イラク軍は当時、大変優秀な人材と武器資源を保有していたとされ、その上での「完璧な軍事戦略計画」があったといいます。

ところが、実際は多国籍軍に簡単に裏をかかれた揚げ句、現場の機能不全に伴い敗北。

「計画による管理」は、一歩間違うと悲劇的な結果を招きます。(P.16)

本書では先に述べた日本企業の「PDCA病」について指摘しています。計画と管理はもちろん適切にされるべきですが、優秀な人が多い組織ほど、計画とその完璧な実行に溺れ、時に大敗を喫すといったケースが増えているといいます。PDCAの持つ根本的な課題が昨今、あらわになっているのではないでしょうか。

某出版社では、編集者に「たくさん企画書を出せ!」と命じて、それを達成すべく「月にいくつ企画書を出したか」をKPIとしました。すると編集者たちは、つまらない企画書しか出せなくなってしまいました。(P.86)

「無理な販売予算」の達成に向けて値下げを始めた会社では、少しずつ売上総利益率(=粗利率)が低下していきます。(P.87)

そもそも無理なKPI設定や、本質を見落としている「お間抜けKPI」設計を行っているケースが存在するのは、なぜなのでしょうか。

PDCA課題図

さて我々のビジネス界。多くの会社で組織のイラク軍化が進んでいないだろうか?
それどころか、計画と管理を強めすぎ、自らイラク軍化を進めていないだろうか?
だとすれば、一刻も早くそこから抜け出さねばならない。そのためのヒントが「機動戦」にある。(P.3)

予測できない世の中だからこそ、変化を前提とした「機動戦」へ

「機動戦:Maneuver Warfare」と本書で呼ばれているこの概念は、いわゆる「消耗戦」に対して、いかに現場が自律的に考えて行動することが重要かを、端的に表しています。

日本でいち早くPOSシステムを取り入れたセブン-イレブンを、POSデータの海に溺れることの危険をいち早く気付いた企業として挙げています。データに表れない何かに対しても意識を向け、発注には人間自身が手間と時間をかけることの重要性を説いているそうです。

また、LINEの元CEO森川亮氏は、これまでさまざまな「計画」を元にしたマネジメントを実施していたところ、市場の変化が激しいデジタル業界では、頻繁に不測の事態が起こり「計画」を何度も変更するということが起きていたそうです。そうなると、社長は気分屋でついていけないだとか、逆に計画を出さなければ何を考えているか分からないだとか、さんざんの言われようだったとか。結果、最低ラインの示達数字と大枠の方針のみを事業リーダーへ伝え、あとは「任せる」経営を行ってきたといいます。

「想定される攻撃」に対して、適切かつ機敏に行動が取れること。
「想定外の攻撃」に対しても臨機応援な対応が取れること。(P.31)

この二点の間には実は天と地ほどの差が存在し、うち後者実現のためのフレームワークの可能性に本書では触れています。

経営・マーケティングにおける「D-OODA」モデル適用の可能性

上記の機動戦をより実践的に落とし込んでいく上で、著者は「D-OODA(ドゥーダ)」モデルを提唱しています。「D-OODA」モデルのベースになっているのは、「OODA」フレームワークです。

「OODA」? あまり聞き慣れないと思いますが、実は機動戦の基本で「観察(Observe)→方向付け(Orient)→決心(Decide)→実行(Act)」の流れです。

このOODAフレームワークで、機動的な意思決定と実行のループを規定しつつ、目標設計段階フェーズにおいて、「正しい問題の設定」を行う「オペレーショナル・デザイン」手法との組み合わせを提唱しています。

D-OODA

きちんと人が動く戦略と組織へ―。「オペレーショナル・デザイン」のキモは、「D-OODA」における「D(Design)」である下記の三つだと著者は解釈しています。

①上司-部下の知識・知見を元にした『対話』
②作戦の『大筋』の合意
③正しい『目標設定』、柔軟な『実行権限』

①なんて当たり前では!?と思われる方も多いかもしれませんが、これ、意外とないがしろにされてはいないでしょうか。
対話プロセスから始まり、多角的な知見集積から紡ぎ出される戦略は“腹落ち”するイメージがありますね。

おわりに。~打倒シン・ゴジラに見るD-OODAの威力!~

はっきり言って、PDCAサイクルは非常に重要なフレームワークですし、私はそれを否定するつもりは全くありません。また、このD-OODAモデルといった考え方が、果たして本当に国内のマーケティング組織でワークするかどうかも、未知数です。

しかしながら、「D-OODA」モデルの可能性を非常に感じたのが、映画『シン・ゴジラ』です。

劇中では、ゴジラという国家危機に対して、これまでのPDCA的な組織対応ではなく、やむなく柔軟な「D-OODA」型組織対応へと変化し…と、これ以上はネタバレになってしまいますが、ご覧になった方にはすごく共感してもらえるのではないでしょうか。というか本当にすてきな映画でした。また、重要なことを忘れていましたが、言わずもがなヒロインの石原さとみさんはとてもすてきだと思います。

もしもこの先、現実のビジネスの世界でも「D-OODA」モデルが日の目を見るチャンスがあるとしたら…それは国家や企業がゴジラのような超危機的状況に相対するも、スクラップアンドビルドによって生き残った、まさにその時なのかもしれません。

以上、マーケティングの現場からでした。

電通モダンコミュニケーションラボ

プロフィール

  • Dmc              1118
    五島 淳
    株式会社電通デジタル チーフ・プランナー

    2010年、電通入社。これまでプランナーとしてデジタル領域を専門としつつ、広告主のマーケティング戦略構築、ソリューション導入と運用、キャンペーン企画および施策KPIの設計とPDCAを担当。
    直近のプロジェクトでは、カスタマージャーニーを起点とした、広告主のマーケティングプロセス変革支援プロジェクトに従事。
    現在、電通グループの新会社である電通デジタルに参画。主にクライアントの現場に半常駐しつつ、DMP/データ戦略構築を起点としたマーケティング高度化支援を行っている。

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