新明解「戦略PR」 #39

相談4:動画ってPR業界にとってゴジラ並みのインパクトじゃないすか?

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    井口 理
    株式会社電通パブリックリレーションズ コミュニケーションデザイン局 局長 チーフPRプランナー

タイトルになんとなくヒキの良い言葉を入れてくるあたり、私がPR業界にどっぷりなのがお分かりいただけますよね。今だったら、ゴジラですよね~。トレンドワードですもん! つまり、私のこのコラムタイトルの意図するところは、「外部の勢いに乗っかりたい!」ってことだけです! そして、もうお察しかと思いますが、この質問に対する私の回答は以下です。
「そうです。動画は、私たちPRパーソンにとってのゴジラです!」

ゴジラ

新たな存在に触れることで、旧来の物事の価値を考えるきっかけに

とはいえ、さすがにそれはゴジラの人気に乗りすぎじゃね? と批判も起きそうです。しかし私は、ゴジラがこれまでの人類の常識を覆す存在として世に現れ、これによって人間社会が混乱し、現状考えつくさまざまな対処法を試しつつもことごとく敗れ、わらをもつかむ気持ちから新しい対策をひねり出し、保証はないが覚悟をもってこれを試し解決に導くという、そのきっかけやプロセスをゴジラ出現に重ね合わせたいのです(ええ、無理やりでも言わせていただきますよ。ちなみにタイトルに出したかっただけなので、ネタバレはありません)。

動画と一口に言いましたが、特に「オンライン動画」は、今、なんでも解決できる魔法のようなソリューションとして、注目を集めていますよね。あがめ奉られているといっても過言ではないくらい! しかし、適切な目的、タイミングで使われてこそ、その効果が期待できるわけで、オンライン動画の中にはその目的を達することなく、ネットの世界に埋もれていっているものも多いのです。昨今取りざたされている動画を見ていると、「感情的なアプローチ」が強く効果を発揮しているようですが、そのような表現の仕方だけが求められているわけではないでしょう。

「表現」によって、「情感を鼓舞」「理解度を向上」「信頼感を醸成」

「表現」は、情感にだけ響くものではありません。この「表現の工夫」によって、言いたいことの理解度を上げたり、言っている側への信頼感を醸成したり。オンライン動画を使って、PR的なゴールを設定できることもあると思います。もちろん表現方法としては、これまでの写真やテキスト、あるいは音楽という形態もあるわけですが、これらを包括して扱える動画という存在は、確かに有効活用すべきですよね。さらに、時間や場所に制約なくオンライン接触できるようになった今だからこそ、生きるコンテンツともいえるでしょう。

動画コンテンツは、まだまだ進化が期待できそうですが、PR領域においても、これまでのベーシックな情報発信方法を動画コンテンツに置き換えることがもちろんできるわけです。ここでいくつか紹介してみたいと思います。

①機能や特徴を「映像的比喩」を使って解説

ちまたで言われる「Help動画」は、その製品などの使い方をさらに詳しく丁寧に説明する、いわばトリセツ的なものですが、それとは別に、それぞれの製品やサービスが持つ機能や特徴をさらに違う形で表現するのもありかなと。そのまま説明しても、その差異がいまいち明確に理解されない場合も多々あるので、より生活者の関心が高い領域にそれを置き換えてみて見せるということ。

よく製品の耐久性を説明するのに、非常に過酷な環境にそれを置き、その頑丈さを訴求するなどのインフォマーシャルなんかを見ますよね。えー?その製品、そんなヒマラヤの雪深いところで使わないよね?とか、そんな深海に潜って使うものじゃないよね?みたいな。ただし、その意外性から視聴に引き込みつつ、「確かにすごい」みたいな理解を得るという。そんな「映像的比喩」で、エンタメ感なんかも盛り込みながらの解説をするのもひとつの手なのではないでしょうか。

機能や特徴を「映像的比喩」を使って解説

②複雑な現象や数値を、分かりやすく表現

調査データを活用したパブリシティーもベーシックなPR手法ですよね。しかし、調査結果を解説する数字の羅列は、時に疲弊するようなボリュームになってしまうことも。サマリーで提示するなどの工夫はもちろんですが、インフォグラフィックスで直感的に見せたり、さらには映像で調査結果を具体的に提示して(時にドキュメンタリー的に見せて)、より理解度を高める取り組みも、最近増えていますね。

★Cannes Lions 2016 PR部門グランプリ 「The Organic Effect」

Cannes Lions 2016 PR部門グランプリ 「The Organic Effect」
Cannes Lions 2016

事例解説:

2016年カンヌライオンズPR部門のグランプリとなった、スウェーデンのスーパーマーケット「Coop」のオーガニックフードプロモーション「The Organic Effect」。ある家族が2週間にわたって完全オーガニック食で生活した結果、農薬(殺虫剤)成分が体からほぼ検出されなくなったというもの。通常の食品だと殺虫剤の有毒成分が体に残ってしまうが、オーガニックフードなら大丈夫、というメッセージを具体化し、オーガニックフードを積極的に選択させるキャンペーン。体にどのくらいの影響があるのかを明らかにするための実験は、被験者数を広げず、スウェーデンの典型的な一家族を対象に行われた。たった一家族だが男女の大人、子ども、そして幼児までも含む複数の年齢層で構成された家族を対象とすることで、各属性で同様の成果が生まれたと訴求している。通常、臨床試験でデータ抽出するときには、ある程度の被験者数を用意するのが定石。しかし、今回は一家族の2週間を詳細に追うというドキュメンタリータッチな動画という形をとり、生活者にダイレクトに情報伝達を行っている。その結果、その試験がオープンで信頼性あるものとして生活者の理解を得た。

③企業が自らの言葉で語る(ストーリーテリング)

昨今、マスメディア向けの記者発表会を開いても、言いたいことが記事や報道で紹介されないという不満が、企業側に増えているようです。とはいえ、メディア側のスペースや尺は限られているし、あくまでもメディアの視点からの報道・解説なので、企業側の都合など優先されるはずもありません。よって企業側は、報道の基となっている「伝えたいメッセージ」を示しておきたい、あるいは生活者がその情報に触れられる余地を残しておきたいと考えるケースが増えてきています。

そこで、オウンドメディア内に企業トップや製品開発者が、自らの言葉で考えやコンセプトを伝えるコンテンツを置こうという動きが出ており、また欧米では「ブランドジャーナリズム」という呼び名で自らの情報発信を自社メディアで行う潮流があります。なんとテレビ制作会社などの敏腕スタッフをPR会社がリクルーティングしてその専門組織をつくるなんてことも進んでいるんですね。実際、報道を通さず、スマホなどの検索によって生活者が企業のオウンドメディアにそのまま到達することも多くなっており、その際、生活者にダイレクトに情報伝達を行う分かりやすい手段として、動画は効果を発揮するでしょう。

 

企業が「動画」をコミュニケーション施策として取り入れる場合、世の中で成功したといわれる手法(たとえば、オモシロ動画で拡散など)を、そのままマネするだけでは、根本的な課題解決にはつながりませんよね。成功事例と呼ばれる動画を分析する場合でも、何を目的にし、何が達成されたのかをきちんと見ていく必要があることは、皆さんもすでにご承知のはずです。さらに言えばこれまでの情報発信方法に、もっと簡易的に動画を取り込むことで、これまでとは異なる成果を獲得することができるかもしれません。

動画のような新しい手法は、最初、どう使えばいいか分からないということもあると思いますが、いくつかのトライアルを経れば、活用の糸口が見えてくるものです。いち早くチャレンジするか、ある程度普及してから取り入れるか、自社での活用タイミングを見極めることが、今後は重要になるでしょう。

世界を破壊しかねないゴジラのような威力を持つ新手法は、待っているばかりでなく、世の中の環境変化に目を凝らして自ら発見していきたいものですね(あ、また最後に使っちゃった!)。

プロフィール

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    井口 理
    株式会社電通パブリックリレーションズ コミュニケーションデザイン局 局長 チーフPRプランナー

    1990年株式会社電通PRセンター(現株式会社電通パブリックリレーションズ)入社。コミュニケーションデザインを手がけるチーフPRプランナー。
     
    企業のコーポレートコミュニケーションから、製品・サービスの戦略PR、動画コンテンツを活用したバイラル施策や自治体広報まで、幅広く手掛ける。最近では、熊本県の赤い特産物をアピールするため仕掛けた「くまモンほっぺ紛失事件」のPRプランを手掛け、世界的なPR業界紙「Holmes Report」が主催するアワードで「世界のPRプロジェクト50選」に選出された他、多数の口コミを起こしたキャンペーンとして、世界的な口コミアワードである「WOMMY AWARD2014」を日本で初めて受賞。
    その他、受賞歴に、Asia Pacific PR Award、日本PR協会「PRアワード グランプリ」、国際PR協会「ゴールデンワールドアワーズ」、SABRE AWARDS ASIA PACIFIC、PR WEEK アワード・アジア、Asia Pacific SABREアワード、Spikes Asia 2014、Global SABRE アワードなど。
    実務のみならず、大学やトレードショー、PR協会での講義による若手育成にも従事。「Cannes Lions 2012」「Spikes Asia 2012」PR部門、「SABRE AWARDS ASIA PACIFIC 2014」「PRWeek Awards Asia 2015」「ヤングカンヌPR部門日本代表選考」審査員。「New York Festivals パブリック&メディア・リレーションズ部門」Grand Jury。2013年6月に「戦略PRの本質~実践のための5つの視点~」を上梓。

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