生体信号が拓くコミュニケーションの未来 #06

生体情報で気持ちを記録できるカメラneurocam

  • なかの かな
    株式会社電通 CDC クリエーティブ・テクノロジスト/コミュニケーション・プランナー
  • 竹内 祐太
    株式会社電通 CDC

今回はneurowearの新しいデバイスneurocam(ニューロカム)について、企画・ディレクションを担当したなかのかなさんと、プロトタイピングとテクニカル・ディレクションを担当した竹内祐太さんにお話を伺いました。

気持ちを記録できるカメラneurocam

──neurowearの新作neurocamが発表されましたね。

なかの: はい。neurocamというのは、生体情報を使って気持ちを記録できるカメラのシステム名です。プロトタイプで使っているセンサーは、この連載でもたびたび出てくるニューロスカイさんの脳波センサーで、チップはmicoと同じ最新のものを使っています

──ということは、慶応義塾大学の満倉靖恵先生の…。

なかの: そうですね。micoと同じく満倉先生のアルゴリズムを使ってプロトタイピングしたものです。以前person to personのコミュニケーションから、machine to personやcontents to personへ進化するのではという話をしましたが、neurocamはperson to cityというコミュニケーションができるのではないか、というところからスタートしました。

──そこでカメラになったんですね。

なかの: 20世紀末、カメラがデジタル化されて、撮影情報やタイムスタンプが写真に記録されるようになりました。さらに21世紀になって、携帯電話にカメラがつくようになり、写真に位置情報が書き込まれることが普通になりました。それまでは、写真に位置情報がつくなんて誰も思わなかった。じゃあ、次に写真に書き込まれるものは何だろう? と考えたときに、感情タグというものが有り得るんじゃないかという仮説を立てました。そしてできたのが、気持ちを記録できるカメラのプロトタイプneurocamです。

──スマートフォンを使うんですね。

なかの: カメラも解析機能もあるスマートフォンを、そのまま使ってしまうのがプロトタイピングとしては早いので、この形状に落ち着きました。実際に付けてみると、側頭部にあるスマートフォンの画面に「気になる度」が出るので、まるで頭の中をのぞいているようになります。

──気になる度?

なかの: はい。満倉先生のアルゴリズムの「好き度」と「興味度」をかけ合わせたものを「気になる度」と名付けました。1秒ごとに計測されて0~100の数値でリアルタイム表示されます。60以上になると自動的に録画が始まり、録画されたものはgif動画として保存されます。

──ということは数秒の短い動画ということですね。

なかの: マイクロビデオといって、VineやInstagramなどのアプリで流行りつつありますね。Neurocamには、そういった短い動画が、気持ちを含めた個人的な記憶としてクリップされていきます。今は「気になる度」で保存をしていますが、理想としている未来はneurocamで個人の幸せの総量を増やすことです。1日をふり返ったときに、幸せだったなぁと思えるシーンや好きなものだけを見返すことができたら、それだけで日々の感じ方が変わると思いませんか? コンセプトムービーではそんなちょっと未来の女の子の1日を描いています。

(neurowear "neurocam" concept movie (気になるシーンを記録するウェアラブルカメラ) http://youtu.be/CDgkX-JY_wM)

 

手作業の工程が多いプロトタイピング

──このプロトタイプはいつから作り始めたんですか?

なかの: 2013年の6月頃ですね。竹内さんが加わってから。

──竹内さんは、どのように関わり始めたんですか?

竹内: 僕は初期のプロトタイプの実装と、アプリのテクニカル・ディレクションを担当しました。入社前は工学系の研究をしていて、ハードウェアやソフトウェアを問わずモノを作るのが好きだったので、プロトタイピングに加わることになりました。

──ちなみに大学ではどのような研究をされていたんですか?

竹内: いわゆる触覚の伝送技術です。触り心地って触らないと分からないですけど、それを遠隔地の人に伝えることができないかと。触感を記録したり再生したり検索できたりすると、例えばAmazonのリストの画像と触覚を紐付かせれば、触り心地を確認してから買えますよね、みたいな研究が僕の修士論文でした。

──今回のプロトタイピングで苦労したことはありますか?

竹内: プロトタイピングで何度も作り直すわけですが、社内にあまり設備がないので…。

──例えばどういう設備が必要なんですか?

竹内: 3Dプリンターやレーザーカッターがあれば、本来ならモデリングして造形して、仕上げにヤスリがけ…というような流れで済むところを、ゼロからパテで形を作ってヤスリをかけて、塗装してという流れを繰り返すアナログな工程が多くて(笑)。そういうところはちょっと大変でした。でも出来上がったので結果オーライです。

なかの: これを機会に機材をおねだりしましょう(笑)。竹内さんがプロトタイプ初号機〜2号機を作ってくれたおかげで基礎実験ができて、よしコレでいけそうだぞ!と、プロジェクトの進行に弾みがつきました。

テスト用の初号機写真。当初はスマホと分かれていたが、小型化が難しかったため一体型に
テスト用の初号機写真。当初はスマホと分かれていたが、小型化が難しかったため一体型に
 

最初は「ほっぺが赤くなる」カメラをつくりたかった

なかの: 本当は最初、ほっぺが赤くなるカメラを作りたかったんです。

──ほっぺ?

なかの: はい。micoを作るときに満倉先生のアルゴリズムをいろいろ見せていただいて、「好き」や「興味」を測れることが分かりました。それと、ビデオカメラの録画ランプは一般的に赤いじゃないですか。だったら、好きなものや興味のあるものを見ているときに、ほっぺが赤くなって自動的に録画するカメラができたらいいなと。もしそんなカメラができたら、機械と人間が一体化した状態というか、半分サイボーグというか、未来として有り得るなあと思ったんです。

で、赤色LEDをメガネの下につけてほっぺを赤くさせる実験をしてみたのですが、なんだか酔っ払いみたいになっちゃって(笑)、あまりにも可愛くなかったので断念しました。neurocamには、数値が閾値に達すると赤くなるという録画のサインとしてエッセンスだけ残してあります。

──赤くなることは実現したんですね。

なかの: そうですね。赤くなることは大事な点だと考えています。グーグルグラスが出てきたときに、いつ写真を撮っているか分からないというプライバシーの問題が議論されました。大きな問題ですが、単純に他者からも撮影されていることが分かりやすくなっていれば解決するかもしれないと感じました。であれば、撮影時にカメラ自体が赤くなっていると分かりやすい。赤くなっていることを他者から指摘されることで「恥ずかしさ」が蓄積されて脳が学習していくことにもなります。気になる気にならない、撮る撮らないといった脳の回路自体も変わっていくんじゃないかと。

これまではソフトウェアとハードウェアと操作者がそれぞれ独立して存在していたのですが、これからは「操作者の脳や身体の情報がシステムと一体化」する方向に向かうと考えています。その1歩目がnecomimiで、2歩目がmico、3歩目が今回のneurocamなのかな。

──なかのさんのお話を聞いていると「気持ちを漏らす」とか「ほっぺが赤くなる」とか、恥ずかしがらせたいみたいなコンセプトがありますよね。

なかの: そうですね。言われてみると裏テーマかもしれません。コミュニケーションを考える上で「恥ずかしい」という感情は欠かせないと思います。他者がいないと成り立たない感情ですし、文化によって領域や閾値が変化しますから。

竹内: 研究室では理詰めでモノをつくるプロセスが多かったので、最初にコンセプトがあって、そこにモノを近付けていくというプロセスってあまりない。とても面白いです。

なかの: 面白がってもらえるのはうれしいですね(笑)。私自身は理系出身ではありませんので「充分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない」というアーサー・C・クラークの言葉を借りると、魔法側からアプローチしているのだと思います。SFやジュブナイルや神話やファンタジー小説育ちなので。

 

サンフランシスコではMITメディアラボ所長の伊藤穰一さんが…

──neurocamは、まず10月23~25日に横浜で開催された「Human SENSing 2013」への出展が最初でしたね。

なかの: はい。「Human SENsing 2013」では、希望者にneurocamを付けてもらい、スライドショーをお見せして何が映るかという実験を行いました。現場でアンケートをとったのですが90 %の方から面白いという評価を、68%の方から「納得感があった」という評価を頂いています。まだまだ精度のブラッシュアップは必要ですが、デビュー戦としてはなかなかのものかと。

("neurocam" first demo at Human Sensing Japan 2013  http://youtu.be/7sHoetvYMH0

──その次に…。

なかの: 11月上旬にサンフランシスコでデモを行いました。電通サイエンスジャムにも出資されているデジタルガレージさんが、サンフランシスコにとても素敵なインキュベーションセンター「DG717」(http://www.garage.co.jp/ja/dg717/)を開設されまして、そのオープニングイベントです。現地でも、とても好評でした。MITメディアラボ所長の伊藤穰一さんにも試していただきました。お腹がすいていらしたのか、食べ物の画像が記録されていましたね(笑)。

neurocamを試すMITメディアラボ所長の伊藤穰一さん
neurocamを試すMITメディアラボ所長の伊藤穰一さん
 

──neurocamは、今後どのようになっていくんでしょうか?

なかの: 第1フェーズとしてはBtoBで活用していただくことを考えています。例えば店内の調査ですとか。neurocamは位置情報も記録できますので、都市計画などの調査にもご利用いただけるのではないかと。市販されるのはまだ少し先の話になりそうですので、まずはそういった調査などで活用いただきたいと考えています。

取材場所:BiCE TOKYO

プロフィール

  • なかの かな
    株式会社電通 CDC クリエーティブ・テクノロジスト/コミュニケーション・プランナー

    インターネット広告会社勤務を経て2009年より電通。
    AR(拡張現実)と位置情報を利用したクーポンアプリ「iButterfly」、脳波によるコミュニケーションツール「necomimi」など、テクノロジーを用いたちょっと未来のコミュニケーション体験を企画している。

  • 竹内 祐太
    株式会社電通 CDC

    2013年電通入社。コミュニケーション・デザイン・センター次世代コミュニケーション開発部所属。テクニカルディレクター、プランナー。デジタル領域におけるプランニングからテクニカルディレクション、ソフトウェア、ハードウェアの実装まで統合的に担当。

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