新明解「戦略PR」 #44

相談7: 着物などの高額商品ってリ・ポジショニングできるんですか?

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    井口 理
    株式会社電通パブリックリレーションズ コミュニケーションデザイン局 局長 チーフPRプランナー

できます! リ・ポジショニングに価格の高低は関係ありません!!!

あ、いきなり飛ばしちゃいましたね。えー、本年もなにとぞよろしくお願いいたします。はてさて、人気シリーズ「#教えて井口さん」ですが、年末にPR業界のアワードがございまして、こちらのコラムにも速報挟んだもんですから、本来の「リ・ポジショニング3連作」が途切れてしまいました。申し訳ありません。「それって何じゃったかいな?」と思い出すために「リ・ポジショニング」のおさらいをチョコっとだけ。

大まかなご相談内容としては、「定番化商品はなかなかニュースがなく、話題となりにくいのだがなんとかなんねーのか?」というものが多かったのですが、これに対するアドバイスとして、「①ターゲットを変えてみる」「②シチュエーションを変えてみる」「③使い方を変えてみる」といった思考で製品を捉え直してみたら、なにか新しい価値が生まれるんじゃね? とお答えしてきました。すなわち、製品やサービスが持つ特長の一部を、本来的なものから少しズラすことによって、これまでの既成イメージを大きく変えることができるわけで、そのようなPR的発想法が「リ・ポジショニング」なんだということ。今回はその最終回「③使い方を変えてみる」について事例を交えてご紹介してみましょ!

「えっ?なんかいつもと違うわね、アナタ!」の意外性がおもしろい

こういう意外性を伴う驚きって、みなさんも意外と頻繁に感じることがあるのではないでしょうか。例えば、テレビで地方の面白い習慣を紹介する番組が人気です。国内のそれぞれの地域の面白い風習などが紹介されると、同じ生活者といえど、ここまでエリアによってモノの取り扱いが違うんだなとあらためて思いますよね。

お雑煮の常識とは?

例えばお雑煮(正月ネタ合わせてみました!←遅い?)。こちらも「お雑煮の常識」がそれぞれのエリアで違うようです。関東のお雑煮はすまし汁をベースにお餅は四角、これを焼いて入れる。一方関西は白みそ仕立てでお餅は丸餅、焼かないで煮る感じなんですね。中には突拍子もない(失礼)ものもあって、香川県では黒あん入りの丸餅を白みそベースで食べる「あんもち雑煮」なんてのもあります。このように同じメニューや食材でも、自身が育ってきた環境によって「当たり前」と思うその姿はそれぞれ大きく異なり、「えーっ!そんな食べ方(使い方)あったの??」という状況になるわけです。

自分の考えていた範囲を超えたものって、ついつい気になって「一度試してみたい!」と思わせる力をはらんでいますよね。このように、あえて定番として一定のイメージで捉えられているモノを、こちらから少しズラしたポジションで提示してみると、それなりの関心が喚起できるのでは? ということなんです。

「着物」の使い方を変えて、新たな「体験」へつなげる

実はこの手法、定番商品だけでなく、すなわち「体験創出型」のコミュニケーションと捉えた方がいいのかも知れません。定番商品ってのは、なんとなく一度は体験したことがあって、そのうち目新しさを感じなくなり、なんとなく縁遠くなっているケースってよくありますよね。そのように縁遠くなってしまっているモノに対して再度関心を持ってもらいたい場合に、この戦法は効果を発揮します。もちろん「定番大好き!」って方が脇目も振らずひたすらご愛顧商品として使用している場合もあるでしょう。ド定番中のド定番。カラオケで言えば十八番(オハコ)のような…。あれっ? 違うか? 

はい、ここでご質問いただいた高額商品の「着物、振り袖」です。皆さんの着物のイメージはどんなものでしょう。私自身が純粋想起してしまうのは、「高い」「着るのがめんどい」「窮屈そう」なんてネガティブなイメージばかり。でも成人式に振り袖なんかを購入するとなると、やはり数十万円かかるってのはよく聞く話ですよね。将来的にどのくらい振り袖を着る場面が生まれるのか、そんな計算をしつつ「買おうか、買うまいか。やっぱレンタルか、それとも洋服で済ますか…」など、ぐるぐると悩み倒しそうですよね。結果、購入もせず、レンタルもせずの方々は「成人式に着物を着るという非常にモメンタムな体験」を逃してしまうわけです。

そしてこのような最初に意思決定は、実は後を引くものなんですよね。次に同様の機会が発生したとしても、最初の意志決定したときの検討要素が同じく頭をもたげてきて、やっぱ「高い、めんどい、窮屈そう」と同じ判断になってしまう。いやもうね、着物屋さんも大変ですよ。みんなにもうちょっと前向きな消費に取り組んでもらわないと、いくら着物の良さを説得しようとしても難しいですよね。そんな時に「リ・ポジショニング③:使い方を変えてみる」を試してみましょう。

既存イメージの重たい呪縛を解き放つ新たな提案を

実はこれ、すでに皆さんもご存じのサービスかもしれませんが、最近若い女性に人気なのが「レンタル着物」なんです。もちろん以前から着物のレンタルは存在しましたが、それらのサービスでは、やはり着物自体は高価でメンテナンスも必要で、なんだかんだ購入する際の3分の1~2分の1くらいの料金になってしまう、というものでした。しかし、今のレンタルはなんと数千円で借りられるんですって!(ひゃー、えらいこっちゃ!)そしてこれに人気の火を付けたのが実は外国人観光客の方々なんです。

日本の文化を肌で感じたい、特に京都など歴史ある土地を着物で歩いてみたい、写真を撮りたい、SNSで発信したいって方が多いわけですね。で、そのトレンドが情報として拡散していきます。「なにより安い、着付けも手伝ってくれて簡単、着てみたらそんなに苦しくないしむしろ楽!」ってなって、さっきと180度異なる情報がばんばん発信されてくるわけです。いやー、既存イメージ壊れちゃいますよね、うん、壊れちゃった。しかもまさに同じような迷いを持っていた生活者群にSNSつながりでうまい具合に情報が届くわけです。そこには「体験」を通じて、さらに「満足」が伝わってくるコメントが。そりゃ「早速私も♪」ってなるでしょ、フツー。

さらにメディアでは、このような一時的な変身スタイルを「着物コスプレ」として紹介し、さらなる自分ゴト化が進みました。うん、言い得て妙だわ。コスプレとして着物を捉えちゃうわけ。でもってですよ、「着てみたら結構かわいくて、なんか欲しくなっちゃった!」って人も自然と出てくるわけですよね。かなり遠い存在だった着物を「格安レンタルでコスプレ提案」することで生活者にハードル低く体験を創り出し、満足を導き出し、ひいてはファン化して実際の購入にまでつなげてしまうというステップ。まさに練られたマーケティングともいえるのではないでしょうか。

これまで気後れしていたような高額なモノを気軽に体験させてファン化していくという道もあれば、高級マンションに住みながらも、100円均一の商品を使って工夫バリバリの収納スペースを整えるアイデアなんてのもよくあるパターンかと思います。実は結構身の回りで、こういった「リ・ポジショニング」って行われているんですよね。

皆さまも自社商品について、新たな使い方を考えてみると頭の体操になるかも、です。また自身で「これは意外だな」と思ったモノについて、背景をひもといてみるなんてのも、いかに人が既存イメージにとらわれているかを知る良い機会になるのではないでしょうか。ぜひ非一度お試しくださいませ。

私も既存イメージを払拭すべく、ポジションの取り方について年始より熟考している最中でございます。それではまた答えが出ましたら、お会いいたしましょう!

プロフィール

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    井口 理
    株式会社電通パブリックリレーションズ コミュニケーションデザイン局 局長 チーフPRプランナー

    1990年株式会社電通PRセンター(現株式会社電通パブリックリレーションズ)入社。コミュニケーションデザインを手がけるチーフPRプランナー。
     
    企業のコーポレートコミュニケーションから、製品・サービスの戦略PR、動画コンテンツを活用したバイラル施策や自治体広報まで、幅広く手掛ける。最近では、熊本県の赤い特産物をアピールするため仕掛けた「くまモンほっぺ紛失事件」のPRプランを手掛け、世界的なPR業界紙「Holmes Report」が主催するアワードで「世界のPRプロジェクト50選」に選出された他、多数の口コミを起こしたキャンペーンとして、世界的な口コミアワードである「WOMMY AWARD2014」を日本で初めて受賞。
    その他、受賞歴に、Asia Pacific PR Award、日本PR協会「PRアワード グランプリ」、国際PR協会「ゴールデンワールドアワーズ」、SABRE AWARDS ASIA PACIFIC、PR WEEK アワード・アジア、Asia Pacific SABREアワード、Spikes Asia 2014、Global SABRE アワードなど。
    実務のみならず、大学やトレードショー、PR協会での講義による若手育成にも従事。「Cannes Lions 2012」「Spikes Asia 2012」PR部門、「SABRE AWARDS ASIA PACIFIC 2014」「PRWeek Awards Asia 2015」「ヤングカンヌPR部門日本代表選考」審査員。「New York Festivals パブリック&メディア・リレーションズ部門」Grand Jury。2013年6月に「戦略PRの本質~実践のための5つの視点~」を上梓。

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