ろーかる・ぐるぐる #21

ぐるぐる思考 磨くモード②

(「死の谷」を越える)

アンミラのダッチアップルパイは、サクサクが美味い!

 

くら~い二浪生活を経てようやく迎えた大学初日、初めてできた友人が軽部くんでした。大阪出身の彼は人懐っこくておしゃべり。帰り道に寄ったアンナミラーズでダッチアップルパイに飲み放題のコーヒーをおかわりしながら延々とくだらない話をした記憶があります。ちょうどその頃売れていた『パワーシフト』のアルビン・トフラ―にちなんで「かるびん・とふらー」と呼ばれていた軽部くんもいまや一橋大学イノベーション研究センター准教授。第55回日経・経済図書文化賞を受賞した『イノベーションの理由 資源動員の創造的正当化』は彼の手によるもの(共著)です。

かるびん・とふらー先生

 

イノベーションを実現するには革新的なアイデアを事業化して世に問わなくてはなりません。しかしイノベーションは新しい取り組みであるがゆえ、事前に確たる成功の見通しを示すことは難しいものです。ここでよく起こるのが不確実性の高いイノベーティブな試みに対して企業がヒト・モノ・カネ・情報といった資源の投入を躊躇する、ということ。そうなるとせっかくのイノベーションも実現しません。頑張っている人がしばしば直面するそんな現実(これを「死の谷」というそうです)をいかにして乗り越えるかがこの本のテーマです。

ぐるぐる思考では「散らかす」モードで身体的思考を駆使して七転八倒、ありとあらゆる可能性を考え尽くした上で、一転「発見!」モードでは徹底的に「その視点で課題を解決できるのか?」論理的整合性を検証します。そうやって得られるコンセプト(アイデア)は「その手があったか!」という解決策を示す一筋の光明なのですが、とはいえどの組織にもいる「批評家さん」には格好の餌食です。「現状の方針よりそのコンセプトが優れていることを証明して見せてよ」「そもそもコンセプトの候補が三つくらいないと評価のしようもないじゃない」云々。「磨く」モードで様々な資源を導入して具体策をつくる直前に急停止することもしばしばです。いわゆる「コンセプト調査」というのは岡本太郎さんの作品を見せることなく、ふつうの人に突然「『芸術は爆発だ』って魅力的ですか?」と聞くようなものです。そんなことばかりを繰り返し、それでも決断できなくて「死の谷」を転げ落ちていくプロジェクトのいかに多いことか。

軽部くんの『イノベーションの理由』ではだからこそイノベーションを実現するには「多様な理由を駆使して、多様なルートを自ら主体的に開拓して、多様な人々に働きかけ継続的な資源動員を可能にする創意工夫と努力の総体」が必要であり、また「特に大企業のイノベーションへの依存度が高い日本社会は、イノベーションを起こしにくくなっているのではないか」と警鐘を鳴らしています。さて皆さんの身の回りではいかがでしょうか?

このコラムもおかげさまで年内は最終回。メリークリスマス&ハッピーニューイヤー。皆さま益々ご発展の一年となりますように、ご健康でありますように、そして「死の谷」を越えてひとつでも多くのイノベーションが実現するよう祈念いたしまして。

どうぞ召し上がれ!

プロフィール

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    山田 壮夫
    株式会社電通 第1CRプランニング局

    1969年生まれ。アイデアを核として広告キャンペーンはもちろん、店舗開発からテレビ番組の製作まで手掛ける。特に最近は全国の地方新聞社厳選お取り寄せサイト「47CLUB」と連携してローカルにおける商品開発作業にチャレンジしている。2009年カンヌ国際広告祭(メディア部門)審査員。慶應義塾大学(メディア・コミュニケーション)、明治学院大学(経営学)非常勤講師。著書に『〈アイデア〉の教科書 電通式ぐるぐる思考』(朝日新聞出版)。

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