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為末大の「緩急自在」No.2

アスリートブレーンズ為末大の「緩急自在」vol.2

2020/06/18

為末大さんに「いま、気になっていること」について、フリーに語っていただく連載インタビューコラム。唯一、設定したテーマは「自律とは何か、寛容さとは何か」。謎の「聞き手」からのムチャ振りに為末さんが、あれこれ「気になること」を語ってくれます。さてさて。今回は、どんな話が飛び出すことやら…。乞う、ご期待。


為末さん写真

──「自律と寛容」をテーマに、前回は主に仕事まわりの話を伺いましたが、今回はその続き、ということで。

為末:最近、感じることは「時間の概念」が変わってきたなーということ。昔の職場って「暗黙知」で回っていたと思うんです。「あうんの呼吸」とでもいうんでしょうか。

──この人は今、きっとこんなことを考えているに違いない。

為末:だったら、先回りしてサポートしてあげよう。みたいな。先輩も後輩も、上司も部下も関係なく、それで職場が回っていた。今はメールやSNSのせいで「空気は読める」んだけど、明らかに「行間が読めなく」なってる。これは、想像力の欠如だけでなく、共に過ごす時間の欠如が原因だと思うんです。
時間を共有できていないから、不安になる。不安なものだから、相手に対する寛容さがなくなっていく。すると、心を平静に保たねば、自律しなければ、という強迫観念が起きる。

──いわゆる悪循環が生まれるわけですね。為末さんは、ご自身の成長や自律のために、どのような「目標設定の仕方」が有効だとお考えですか?

為末:そうですね。周りに対して「宣言すること」は、大事かな。宣言する力がコミットメントとして働く。命令から落ちてきたものでは、腹落ちしないからね。

──それは、選手を育てる、といった立場でも同じですか?

為末:そうです。いいコーチングをするには、とにかくコミュニケーションに時間がかかる。目標を小分けにしていくと、指導する側も指導を受ける側もやりやすいことはやりやすいんだけど、自発性が育たない。

為末さん写真

──企業においても、まったく同じことが言えそうですね。

為末:個の自発性が育たないと、企業のカルチャーがどんどん衰退していくんですよ。これ、日本のあらゆる企業が、今、最も悩んでいることだと思うんです。改革、改革、と言ってるわりに、同業他社となんら変わらないことをやっていたり、似たような商品、似たようなサービスが、似たような値段で提供されていたりする。

──マスメディアなんかも、同じことが指摘されていますよね。

為末:そう。似たような報道、似たようなコンテンツ…。

──われわれにとっても、耳が痛い話です。

為末:業種によっても、目標設定の方法は変わってきますよね。例えば、営業みたいな仕事が「定量的」なのに対して、クリエイティブな仕事は「定性的」と言えると思うんだけど、いずれの形にせよ、それをチームとして共有していく必要がある。個々人の自律を、寛容さをもって束ねていく、というか。

──なるほど。

為末:そのためには、チームでも個人でもそうだけど、「なりたい姿」がどれだけクリアか、ということが大事だと思いますね。「なりたい姿」のための目標と、アウトプットを得るための目標とは、微妙に違う。

──といいますと?

為末:例えば、営業職だと「売上額」みたいなアウトプットを得るために目標設定しますよね。でも、「なりたい姿」というのは金額ではなく、クライアントからの信頼感を獲得することだったりする。これは、定性的な目標ですね。

──加えて、組織の理屈や命令と、個人の自由、といったあたりの塩梅も大事になってくる。

為末:スポーツでも、まったく同じなんです。選手とコーチ、運営サイドと実際にパフォーマンスをする側、といったように。その融合の仕方が、大事。
話がまたちょっと飛びますが…

──なんだろう? そのフレーズの後が、いつも楽しみです。

為末:僕は渋谷に事務所を構えているんですが、電車に乗っていて、ある時ふと気付いちゃったんです。僕はそれを、「赤坂の壁」と呼んでいるのですが。

──「赤坂の壁」ですか。

為末:赤坂からこっち(渋谷側)で働いている人は、比較的ラフな格好をしているんですが、赤坂を越えて丸の内の方へ行くにしたがって、スーツ姿が目立つようになるんです。

──その境目が、赤坂あたりだと。

為末:そう。なんで「壁」かというと、渋谷のいわゆるIT系の企業で働いている人と、丸の内の大企業で働いている人って、意外と交流が少ないような気がしていて。人もそうだし、企業同士でも、そう。そのあたりの「融合」が進むと、社会も経済も、もっともっと活性化していくと思うんです。

──「赤坂の壁」、面白いですね。今度、見えない壁を意識して電車に乗ってみます。

為末:ぜひ。

(聞き手:ウェブ電通報編集部)



アスリートブレーンズ プロデュースチーム白石より

為末さんの話を伺うと、人や組織が持つ課題の普遍性や相似性、そしてその解決の糸口に気付かされることが多い。今回の連載でも、そのエッセンスが随所に散りばめられています。「赤坂の壁」はまさにその象徴。
私たちの周囲、そこここで作られている「赤坂の壁」を発見し、分断された社会を融合するというチャレンジには、人や組織が新たな成長・発展を遂げる可能性を感じます。
また、今は「効率化」の引力が強い時代。
「アスリートブレーンズ」プロジェクトを通じて、個の自発性や「なりたい姿」育てるきっかけづくりをご一緒させていただくことで、世の中の課題解決につなげていきたいと考えています。

アスリートブレーンズ プロデュースチーム電通/日比昭道(3CRP)・白石幸平(CDC)


為末大さんを中心に展開している「アスリートブレーンズ」。アスリートが培ったナレッジで、世の中(企業・社会)の課題解決につなげるチームの詳細については、こちら

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