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イノラボが生み出す協創のカタチNo.6

フランス人が串かつ屋に!?NFCと測位デバイスによる行動調査でわかった、意外な事実

2014/03/17

株式会社電通国際情報サービス(ISID)のオープンイノベーション研究所(イノラボ)は、いま、ITを利活用したまったく新しい街づくりにチャレンジしています。

連載6回目の今回は、ソーシャルシティの仕掛人、イノラボ研究員・鈴木淳一さんに、フランス人旅行者の意外な行動を調査したユニークな実験についてお聞きします。

富裕層のフランス人を日本に招いて、旅行時の行動を徹底調査!

――海外からの観光客を対象に、NFC(近距離無線通信)や位置情報を使ったユニークな実証実験を行ったと聞きました。詳しい内容を教えていただけますか?

鈴木:フランス人の富裕層を対象に、彼らが日本に旅行に来たらどのような行動を取るか調査しました。いままで、フランス人の富裕層は、「日本のカワイイ文化が好きで、お土産はほとんど購入せず、買うとしてもサンリオ系のキャラクターグッズに限定される」と思われてきました。しかし私たちは、「もしかしたらクレジットカードしか持っておらず、現金で楽しめる場所に行くことができないだけなんじゃないか」「正しいデータが取れていないだけなんじゃないだろうか」と思ったのです。

それで、大阪府と親交のあるフランス・バルドワーズ県と共同で、関西空港に両替カウンターを構える池田泉州銀行にも協力してもらい、フランス人旅行者の行動調査を開始しました。この実験では、MIT(マサチューセッツ工科大学)メディアラボや放送大学にも技術面で協力してもらいました。対象となる旅行者にWi-Fi測位端末とGPSロガーを渡し、まずは、フランスのシャルル・ド・ゴール空港で、NFCデバイスまたはICカードを端末に向けてタッチしてもらいます。同時に、日本で泊まる予定のホテル、両替したい現金額を、フランス語でアンケート。画面に表示されたホテル画像や金額をタッチ入力することで回答してもらったんです。

実は事前のヒアリングで、彼らが、日本ではフランス語がまったく通じないということにストレスを感じていることがわかっていたんですよね。だったら、フランスにいる間にフランス語で、ある程度の希望を入力してもらえばいい。彼らが飛行機で移動している間に、池田泉州銀行は、フランス人富裕層が希望するまとまった金額の現金を用意できるという、ありそうでなかったペーパーレス両替により、言語的なコミュニケーション・ストレスも抑制できるわけです。また、彼ら一人ひとりがどこのホテルに泊まろうとしているかもわかっているわけで、両替をする際に、ホテルへのアクセス方法を案内することもできました。

こうして、関西空港である程度まとまった日本円を持ったフランス人旅行者が生まれたのです。

串かつ屋や陶芸教室にハマるフランス人も! 行動調査で見えた、意外な動き

――富裕層のフランス人旅行者は、日本でどのような行動を取ったのでしょうか?

鈴木:串かつ屋にひとりで行ったり、陶芸教室に飛び入り参加したり、清水焼をしこたま買い込んだり…。現金がないと体験できないようなことを思いっきり楽しんだみたいです。さらに彼らは、マス媒体に載っているようなお店を避ける傾向がありました。日本語や英語が苦手だから、という事情もあるのでしょうが、ガイドブックに載っている情報よりも、SNSの情報を見て行動を起こすんですよね。

それで、MITメディアラボの技術協力で、どの情報をトリガーとして誰がどういう行動を取ったかを計測したんです。その結果、ガイドブックでも添乗員でもない、ごくごく近しいフランス人旅行者がSNSに上げた写真や動画情報をもとに、日々の行動を変えていくという顕著なデータを取ることができました。しかも、人によって、まったく取る行動が違う。「グランフロント大阪」にも滞在してもらったのですが、見事に興味の方向、訪ねる場所、滞在時間が異なりました。

実証実験では、フランス出国時にシャルル・ド・ゴール空港に設置された端末にかざしたICカードと同じカードを、「グランフロント大阪」に設置された36台のコンパスタッチにかざすことで、画面に表示されるマップ情報や店舗情報などを自動的にフランス語に切り替えたり、梅田を周回するコミュニティバスへの乗車時に同カードをかざすことで無料で乗車できるようにするなど、運用面の工夫もしていましたので、これがあったからこういう行動につながったんだと一概に言い切るのははばかられますが、事前に想定されるいくつかのストレス要因を取り除いてあげることで来日客の行動の幅をひろげ、行動変容を促していく可能性を感じることができました。

次は、「グランフロント大阪」でライフログが取れていてソーシャルグラフがわかっている日本人に、フランス旅行をしてもらう予定です。彼らがフランスに行って、誰の影響のもとでどういった行動を取るのかを見極めたいと思っています。こうした実証実験を重ねて、商圏の外から来た人になにができるかを考えたい。また、既に動き始めているフランスでの街づくりプロジェクトにも役立てたいと思っています。

あらゆるデータを個人が所有し、情報銀行に預ける時代がやってくる?

――まさに「ビッグデータ」ですね。今後は生体情報や、金融資産の情報など、あらゆる情報がデータ化されそうな気がします。

鈴木:そうですね。来店履歴や行動履歴は個人がもつものだという流れになっていますが、血圧や心拍数、脳波などの生体情報は、誰がもつかハッキリ決まっていないんです。医療機関ではなく個人が生体情報を管理する時代が来れば、生体情報を病院に送るだけで、自動的に診察結果が得られるようになるかもしれません。カルテが自分のところにあれば、セカンド・オピニオン、サード・オピニオンも、簡単に取得できますよね。ソーシャルという概念は、医療機関や金融機関の差別化にもつながっていくでしょう。

今後、誰が情報の管理主体としてふさわしいかという議論が、必ず起こってくると思います。東大の柴崎亮介教授が既に「情報銀行」という取り組みを行っているんですが、これは、中立的な立場の第三者機関に管理したい情報を集めておき、そこから情報を選択して開示するような仕組みになっています。それなりのデータ管理主体があり、加えて、そのデータに対して高度な専門性を持ったアドバイザリー機関があって、情報の出し方やメリットをしっかりアドバイスしてくれ、それから実サービスに移るというような社会が、やってくるんじゃないでしょうか。

いまはまだ、個人の履歴データを各事業者がクローズドに抱えてしまっているような状況です。それではせっかくのデータが他者と連携せずに埋もれてしまいます。新しい効果や価値は生まれませんよね。「データ管理の主体は自分なんだ!」と、個人がどんどん声を上げてくれるようになるといいなと思っています。