新明解「戦略PR」 #07

「知ってるつもりで忘れがち」なPRのお作法

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    井口 理
    株式会社電通パブリックリレーションズ コミュニケーションデザイン局 局長 チーフPRプランナー

みなさま、こんにちは。前回、きのこのコラムでブレイクを果たしました井口(いのくち)でございます。ご機嫌いかがでしょうか。私は元気です。

さて、このコラムではカンヌの話から始まり、くまモンや「菌活」などさまざまな事例をご紹介しておりますが、私が手がけるものすべてがアイデア満載で華やかなものというわけではありません。もちろん情報拡散を図るには、人の口の端に上るためのサプライズ(驚き)やファン(楽しさ)がなければいけません。

しかし一方で、プランニングする際には、サプライズやファンを支える「PRのベーシックな作法」を押さえておく必要があるでしょう。今回はちょっと基本に立ち返り、つい日常の業務の中で“なおざり”にされがちなポイントについて、改めてみなさんと共有してみたいと思います。

今回は大きく3点、メディアを対象としたPRイベント・記者発表会開催の際の、

・「いつやるのか?」

・「どこでやるのか?」

・「誰が取材に来るのか?」

について、お話ししましょう。

まだまだテレビが求められる時代

ソーシャルメディアでの拡散は、クライアントからも求められる大きな指標となっていますが、ソーシャルメディアでつぶやかれる内容の大半は、マスメディアにおける報道などをリソースとしている事実はいまだ揺るぎません。確かにメディア接触時間は、20代以下を中心に男女共にウェブやスマートフォンの比率が増えていますが、丁寧に見ていくと、そこで語られる情報は、実はテレビ番組からのものが多いことがわかります。つまり、テレビで露出することが、まだまだ情報拡散の起点になっているということです。そこで、企業案件がテレビ番組に取り上げられる可能性を検討していくと、いろんな手法はあるものの、昨今多いのが芸能タレントを起用した記者発表会やPRイベントの開催となるのではないでしょうか。

PRは多面体!「芸能枠」でのアウトプットも意味がある!

以前は、大物タレントがイメージキャラクターに起用されていればこその芸能イベントだったのですが、現在ではCMに起用しない芸能タレントを連れてきて発表会をしてしまうことも。なぜこのようなことが起こるのかというと、いわゆる「芸能枠」というマスメディアのレギュラーコーナー/スペースでの露出を獲得するためなのです。

企業における新製品発表などは、原則「経済ネタ」と呼ばれるもので、順当に考えれば新聞の経済面やテレビのニュースで報道される内容です。しかし、巷のニュースが多ければ、その基本の枠からこぼれてしまうことも多々あります。そこで考え出されたのが「その他の枠に少しでも露出できないか?」ということ。ご存じのように、朝昼の情報・ワイド番組や、スポーツ紙/夕刊紙などには、レギュラー枠として「芸能枠」が存在するわけで、各社のPRパーソンたちは、そこに新たなアウトプット先を見いだしたのです。PRは多面体なので、製品・経済ネタでのアプローチに不足があれば、タレント・芸能ネタからのアプローチだって十分に意味があるわけです。

もちろん、タレントだけに焦点が当たって、まるで製品と結びつかない報道になってしまってはダメです。どうスト―リーを組み立てて、いかにタレントと製品を結びつけるか、そこはPRパーソンの腕の見せどころ。なんだかんだでタレントの口から製品に関連した情報が発信されれば、一定の価値を持ちますし、それに反応する生活者もいるはず。そういう多面的なきっかけを、いかに創っていくかということは、PRパーソンが常に持っていなければならない視点です。

メディア視点に立った設計が大切

では、このような芸能イベント含みの発表会で留意しなければならないこととはなんでしょう。実にシンプルですが、なかなか守れないのが「いつやるか、どこでやるか」というセオリーだったりするのです。

まず「いつやるか?」ということ。よく聞かれるのが「一番、情報・ワイド番組に取り上げてもらえる曜日や時間はいつですか?」というもの。その質問に、我々は「木曜日の午前11時です」と答えます。ワイド番組の芸能枠は、基本、当日および前日の話題しか拾いません。それはネタの鮮度が大切だからです。よって、当日、翌日に情報・ワイド番組があることが前提となるわけで、ここで「月曜、火曜、水曜、木曜」という曜日が候補に挙がります。

では、その4日間の中で、今度はどの曜日が最強なのか? これを考えるに、最近の週末の「まとめ番組」を念頭に入れねばなりません。ご存じのように、平日に比べて土曜や日曜には、このような芸能枠を持つレギュラーの情報・ワイド番組は少ないです。しかし、1週間のうちに起こった各種イベントの中から、特筆すべきものをまとめて紹介するこれらの番組には、視聴率が高いものも多いのです。しかし、まとめ番組とはいいながらも、やはり巷で語り尽くされたニュースより、記憶に新しいニュースの方がその選に残る確率が高いようです。そこで「最強なのは木曜日」という回答に至ります。もちろんニュースのバリューによって扱いの違いは出てきますが、まずはセオリーとして理解していただければと思います。

続いて「木曜日の午前11時」についての、時間帯について解説します。

芸能枠はもちろん狙っていくスペースですが、本来的には経済視点のニュース枠がメインなわけで、その意味では夕方のニュースなども露出の対象枠となってきます。ニュースを扱ってもらうには、発表会の取材を終えた各局の取材クルーが映像素材を局に持ち帰り、報道用にその映像を編集する時間まで想定してあげなければなりません。とすれば、夕方5時頃から始まる報道番組を対象にしたとき、最低でもその放送2時間前の午後3時くらいには取材テープをディレクターに届けておきたいはず。もちろんそのリードタイムは長い方がいいし、場合によっては午後の情報・ワイド番組で“とって出し”する可能性を考えれば、おのずとスタート時間は午前11時となるわけです。ゴールデンタイムはそこから午後2時くらいまで。

逆に、新聞のことを考えたら、午後2時ごろの方がベターの場合もあります。というのも、部数や紙面の関係から夕刊よりは朝刊に載せたいと思うのが当然ですよね。よって、夕刊にはあえて間に合わない、午後2時頃にイベントを開催し、次の日の朝刊での写真付き掲載を目指す、というわけです。もちろん、情報のバリューによって朝刊に載らない場合もありますが…。

どこでやるか? 「情報価値×メディアの移動のしやすさ」で相対的に設定

日時だけではなく、場所という観点からも配慮が必要です。昨今、誰しもが感じる問題ですが、マスメディアもご多分に漏れず人手不足です。取材に駆け回るクルーも、領域によりますが2~3チームがせいぜいなはず。そこで、彼らが1日にどれだけの取材先を回れるかを想像してみます。すると、先の午前11時~午後2時の3時間の間にしっかりと取材して回れるのは、2~3カ所くらいではないかと思うわけです。2チームであれば、4~6カ所がMAX。その中でプライオリティが高く、取材先としてリストアップしてもらえるかどうかを常に検証していかねばなりません。

自身のプランニングしたイベントの同日・同時刻に、不運にも「別の大きなネタ」が重なった場合、取材カメラが1台も獲得できないことも起こり得るし、逆に「報道すべき大きなネタ」を自身が持っていれば、「不便な場所」「不便な時間」にイベントを開催しても、取材に来てもらうことができるでしょう。ただし、ライバルネタというのは、予測・把握しきれないものです。としたときに、PRパーソンに最低限できることは「メディアが取材しやすい場所、そして時間」をなるべく優先して、発表会の仕様や構成を設定してあげることです。

時として、クライアント意向で「ちょっと遠いけど、新しくオープンしたランドマークでカッコ良くやりたい」「芸能タレントのスケジュール上、夕方以降に開催したい」など、いろんな外的要素が影響してくるとは思います。しかし、なるべくメディアが取材に行きやすい場所で、また取材しやすい時間帯で設定してあげるという、極めて基礎的ですがメディアが望む条件をいかに整えてあげるかが大切です。それによって、最終的な露出が大きく左右されるなら、そこは踏ん張って実現に向けて努力せねばなりません。

ちなみに、東京都心部の鉄道路線図に、各メディアの所在地をプロットしてみると以下のようになります。

東京の主要メディア所在地は、山手線内の南側に偏っていることがおわかりになるかと思います。もちろん近いだけで取材がくる理由にはなりませんが、取材対象として検討するに当たり、メディアの都合から言えば「近いに越したことはない」ということは、間違いなく言えるでしょう。

などなど、「露出を狙うならメディアの都合を知れ」ということで、いくつかの基礎情報を並べてみました。いやはや、基礎と言いながら諸々あるもんですね。意外と筆が進みました。

今回は、PRの基礎として「知ってるつもりで、忘れがち」な要素を共有しておりますが、次回は「誰のための発表会か?」という視点で、発表会に来るさまざまなメディアが何を求めているのか? についてご説明していきたいと思います。それではまた次回、お楽しみにー。

プロフィール

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    井口 理
    株式会社電通パブリックリレーションズ コミュニケーションデザイン局 局長 チーフPRプランナー

    1990年株式会社電通PRセンター(現株式会社電通パブリックリレーションズ)入社。コミュニケーションデザインを手がけるチーフPRプランナー。
     
    企業のコーポレートコミュニケーションから、製品・サービスの戦略PR、動画コンテンツを活用したバイラル施策や自治体広報まで、幅広く手掛ける。最近では、熊本県の赤い特産物をアピールするため仕掛けた「くまモンほっぺ紛失事件」のPRプランを手掛け、世界的なPR業界紙「Holmes Report」が主催するアワードで「世界のPRプロジェクト50選」に選出された他、多数の口コミを起こしたキャンペーンとして、世界的な口コミアワードである「WOMMY AWARD2014」を日本で初めて受賞。
    その他、受賞歴に、Asia Pacific PR Award、日本PR協会「PRアワード グランプリ」、国際PR協会「ゴールデンワールドアワーズ」、SABRE AWARDS ASIA PACIFIC、PR WEEK アワード・アジア、Asia Pacific SABREアワード、Spikes Asia 2014、Global SABRE アワードなど。
    実務のみならず、大学やトレードショー、PR協会での講義による若手育成にも従事。「Cannes Lions 2012」「Spikes Asia 2012」PR部門、「SABRE AWARDS ASIA PACIFIC 2014」「PRWeek Awards Asia 2015」「ヤングカンヌPR部門日本代表選考」審査員。「New York Festivals パブリック&メディア・リレーションズ部門」Grand Jury。2013年6月に「戦略PRの本質~実践のための5つの視点~」を上梓。

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