新明解「戦略PR」 #08

好評続編「知ってるつもりで忘れがち」なPRのお作法2

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    井口 理
    株式会社電通パブリックリレーションズ コミュニケーションデザイン局 局長 チーフPRプランナー

みなさま、こんにちは。今回は、前回好評だった「『知ってるつもりで忘れがち』なPRのお作法」の続編をお送りします。このシリーズは、「PRのベーシックな作法」をおさらいしていくのですが、今回は前回書き切れなかった、メディアを対象としたPRイベント・記者発表会開催の際の3つのポイント

・「いつやるのか?」
・「どこでやるのか?」
・「誰が取材に来るのか?」

のうち、最後の「誰が取材に来るのか?」について、お話しいたします。

タレント発表会に集うメディアは混成部隊

タレントを活用した発表会自体は、そもそも競争激化によって「経済ネタ」として取り上げられる機会が激減した環境下、企業情報とは少し異なった枠でも露出していこうと編み出された手法です。これまでの経済記者向けの発表会や説明会といったベーシックな手法が、このタレント発表会に統合されていったわけです。

常識的に見れば、タレント活用の発表会と経済部向け発表会は、参加するメディアの特性が異なり、さらに「文化芸能部」「経済部」という異なった属性の記者が集まります。できれば別々に発表会を開き、それぞれの参加メディアに最適化した情報を丁寧に渡してあげるのが筋でしょう。発表会での説明の仕方においても、業界に知見を持つ記者と芸能記者とでは、使う言葉さえも変えていかねばならないこともあります。すなわち、業界用語も相手によって理解が異なるため、「使える/使えない」という話になってくるわけです。

しかし発表会には、会場や装飾、運営・進行に至るまで、なんらかの費用やマンパワーが関ってくるわけで、企業側とすれば「そこはメディアの方々もご理解いただけないでしょうか?」となるわけです。一部のメディアからすればこの「タレント発表会」は、取材の貴重な時間を領域外の内容で拘束されるわけで、それはやはり辛いわけです。ただクライアント事情もわかるわけで、「そこは仕方ないか」と折れることになります。

 絵を撮りたい「芸能」、数字が欲しい「経済」

というわけで、結局、発表会には大抵「経済部」「文化芸能部」という2種類のメディア群が共存することになるため、それぞれにアピールする内容が盛り込まれることになります。これは得てして「てんこ盛り」になることが多く、それぞれの記者が領域外の情報に「時間の浪費」を感じてしまう原因ともなります。そういったネガティブ感を減少させ、いかに効率的にそれぞれのメディアに取材をしてもらうのか、これがPRパーソンのスキルとなります。

特に留意しておきたいのが「文化芸能部」は分かりやすい「絵」を撮りたいということ。一方の「経済部」は企業としての「数字」を欲しがるわけです。これを、それぞれにテンポ良く提供することが必須となります。そのためには、さまざまな工夫が必要です。ステージ導線しかり、進行台本しかり、そして会場づくりまで、いろんなシーンを想定していくわけです。

さらに、1回こっきりの進行ですから、「ここぞ!」という場面を撮りっぱぐれないように、開会に先駆けてステージ上での登壇者の動きを取材に来たカメラマンに事細かに説明したり、「撮って出し」のために途中退席するテレビ取材班が多いようであれば、タレントのフォトセッションを進行の中盤でやってしまったり。基本構成をベースにしながらも、臨機応変に対応し、現場のディレクターやMCが常に連携できるように準備します。

ここはわれわれも一番気を遣うところでして、その代わりこれが上手くいくと強い高揚感に包まれます。こういうときのエクスタシーったらもう、たまりませんね。実は、リスクがある中での成功ほど、その快感が高まるというのは科学的にも証明されているようです。

話がそれましたが…。さらにいえば、よくテレビで見かけるタレントへの集中インタビューなんかも仕切りが大切です。タレントにさまざまな質問を浴びせる、通称「ぶら下がり」は、メディアの取材意欲がもっともアガるタイミングでもあります。やはりタレント本人のリアルな言葉での反応が視聴者の関心を高めるため、ここに食い下がるメディアは少なくありません。ただし、進行全体やタレントのスケジュールといった理由で、うまく幕引きしなければなりません。複数のメディアが最高の「絵」を撮れるよう、質問や撮影を仕切っていくのも大切な役割となります。

タレント発表会のクライマックスは「囲み取材」。限られた時間で、各メディアがきっちり「絵」を撮れるように、その進行には細心の注意を払います。


実は、会場づくりもPRに最適化されている?

実はこの「ぶら下がり」、芸能のみならず経済記者も大好きです。でも、ぶら下がる対象が違うんです。経済記者は、タレントの囲み取材を横目に、企業のトップ・役員・担当責任者へ取材攻勢をかけます。進行の中で語られた「用意されたセリフ」のみならず、こちらも「生声」を取ろうと躍起です。その発言のウラ側に隠された今後の事業展開や、想定される経済的影響など、経済部は未発表の「数字」を狙います。

このための質問を浴びせるわけですが、特にここで重視されるのが「自分だけのネタになるか」です。経済記者がもっとも重要視するのは「スクープ」。芸能だけでなく、経済ネタにもスクープはあるわけで、さまざまな周辺情報から組み立てた構成の、最後のピースを埋めるべく、企業担当者の言質を取ろうとするわけです。実はここにも激しい攻防があるのですが、情報の守り手は企業の広報担当者ということになります。もちろん、度を超した取材攻勢には我々も注意しますが、企業とメディアの関係は持ちつ持たれつだけではない、シビアな局面もあるわけで、この生態系(?)をわれわれが壊すことはできません。

そして、このような熾烈な取材合戦が上手く進行するよう、実は会場づくりにも工夫があります。タレントさんや企業の担当者を、別々のエリアで囲み取材させるよう誘導します。これもステージ上の混雑を避けるために最初から設計されていなければいけないポイントです。ステージ上がいかにきれいにできているかという見栄えのみならず、その後の取材活動を見越した装飾や導線設計は、メディアが企業を評価する際に大きく影響するのです。

ちなみに撮影にくるカメラマンは、静止画を撮るスチールの方と、テレビなどで動画を撮るムービーの方がいます。これらも撮影場所をきちんと設定してあげることが重要です。スチールの方はステージ近くのスペースを確保し、間近での撮影が可能な状態にしておきます。しかし、これが狭すぎては撮影しづらいですし、ステージが高すぎると下からあおった写真ばかりになってしまい美しくないので、その時その時の会場やステージサイズに合わせた設定が必要です。

またムービーの場合は三脚を使うので、その他のメディアの邪魔にならないよう、しかしきちんとした絵が撮れるように会場後方にカメラ台を用意します。このカメラ台も出席メディア数によっては、場所取りの修羅場となるのでここの仕切りも大切です。受付順にきちんと場所を割り振り、カメラ台でスペースを確保できないカメラには台を別途用意し、用意できなければその他のベターアングルを探し提供します。こういった気遣いが、気持ちのいい取材を実現するわけで、いわゆる「おもてなし」の心ともいえるのではないでしょうか。

いかがです? 結構細かく見ているでしょ? PRパーソンは気配り必須な職業なのです。

現場を一歩引いて見れば、こんなにみっちりと取材陣が密集。この取り仕切りスキルは、場合によってクライアントの評判にも影響するため、気が抜けません。


変わる発表会の演出いろいろ

最後に最新のトレンドをご紹介。以前は発表会にブロガーの方々を招き、発表内容をブロガー目線で紹介いただくという取り組みも行ったことがあります。ここでは、やはり既存メディアとは関心が異なることから、質疑応答などするとまるでレイヤーの違う質問が飛び交い、混乱を来すこともありました。そのため昨今では、質問者を限るなどの対応がされているようです。

最近目にするのは、一般生活者も同時参加する記者発表会というやり方。これは一般生活者向けのイベントにメディアを取材誘致するということとは異なります。このやり方を採用する目的は、「企業側が提示する新たな価値観」について、その価値を尊ぶ生活者の姿を見せ、これを通じてメディアの理解を促進するという試みなのです。

いかに感性豊かなメディアの方々としても、追い切れないトレンドや現象というのはあるはずで、それが全くの新概念だったりすれば、なおのことです。しかし、そういう製品やサービスが生まれていることは事実。そして、それらに対していち早く評価をする生活者もいるわけで、このような生活者が多数存在すること、さらにその楽しんでいる様子を直接メディアに見てもらうことで、事象の顕在化を図るわけです。確かに、一方的に語るよりも、生活者のリアルな声が聞ければ納得感も高まりますよね。

このように最近の発表会は、さまざまな形態を有し、またいろいろな工夫がされています。われわれPRパーソンも常にこのようなトレンドに関心を寄せ、またトライし経験を積んでいます。ベーシックな施策ともいえる記者発表会さえ日々進化しており、刺激にあふれています。PRなんて基礎さえ分かっていれば、とおっしゃるみなさま、最近のトレンドを一緒に共有してみませんか?

プロフィール

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    井口 理
    株式会社電通パブリックリレーションズ コミュニケーションデザイン局 局長 チーフPRプランナー

    1990年株式会社電通PRセンター(現株式会社電通パブリックリレーションズ)入社。コミュニケーションデザインを手がけるチーフPRプランナー。
     
    企業のコーポレートコミュニケーションから、製品・サービスの戦略PR、動画コンテンツを活用したバイラル施策や自治体広報まで、幅広く手掛ける。最近では、熊本県の赤い特産物をアピールするため仕掛けた「くまモンほっぺ紛失事件」のPRプランを手掛け、世界的なPR業界紙「Holmes Report」が主催するアワードで「世界のPRプロジェクト50選」に選出された他、多数の口コミを起こしたキャンペーンとして、世界的な口コミアワードである「WOMMY AWARD2014」を日本で初めて受賞。
    その他、受賞歴に、Asia Pacific PR Award、日本PR協会「PRアワード グランプリ」、国際PR協会「ゴールデンワールドアワーズ」、SABRE AWARDS ASIA PACIFIC、PR WEEK アワード・アジア、Asia Pacific SABREアワード、Spikes Asia 2014、Global SABRE アワードなど。
    実務のみならず、大学やトレードショー、PR協会での講義による若手育成にも従事。「Cannes Lions 2012」「Spikes Asia 2012」PR部門、「SABRE AWARDS ASIA PACIFIC 2014」「PRWeek Awards Asia 2015」「ヤングカンヌPR部門日本代表選考」審査員。「New York Festivals パブリック&メディア・リレーションズ部門」Grand Jury。2013年6月に「戦略PRの本質~実践のための5つの視点~」を上梓。

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