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為末大の「緩急自在」No.14

アスリートブレーンズ為末大の「緩急自在」vol.14

2021/11/09

為末大さんに「いま、気になっていること」について、フリーに語っていただく連載インタビューコラム。唯一、設定したテーマは「自律とは何か、寛容さとは何か」。謎の「聞き手」からのムチャ振りに為末さんが、あれこれ「気になること」を語ってくれます。さてさて。今回は、どんな話が飛び出すことやら……。乞う、ご期待。

為末さん寄り

──前回、前々回と「ありがたみとは、何か?」というテーマで話を伺ってきましたが、今回はいよいよ「現代にとって、ありがたいものとは何か?」ということについて切り込んでみたいと思います。震災やコロナ禍を経験する中で、僕らは今、「人生にとって、本当にありがたいものとは、一体何なのか?」ということを、深く考えさせられていると思うんです。
前回のお話の続きで言うと、「当たり前のように思っていたものが、実は当たり前なものではなく、とてつもなくありがたい(有り難い)ものなんだ」という……。

為末:ありがたいの本質は希少性にある、と申し上げましたが、実は希少性だけではないんだと思います。抽象的な言い方をすると「有限性(刹那性)」や「独自性」に気付かされる、みたいな。つまり、この感動は永遠のものではなく、誰もが手に入れられるものでもなく、今、この瞬間、自分だけが味わうことのできるものである、ということ。

──それは確かに、ありがたい。

為末:別の言い方をすると、「自分にとって、かけがえのないもの」を見せられると、人は「ありがたみ」を感じるのだと思います。たとえば、オリンピックで活躍する選手を見るのは、確かに感動するけれど、それよりも、息子の運動会の姿を写した動画とかに、感動しちゃうじゃないですか。実際、その動画を撮ってくれたパパ友には、心から「ありがとう!」という気持ちになりました。

──マーケット上の価値はゼロなのかもしれませんが、確かにそれはグッときます。

為末:そう。ガキんちょが、ただ単に、走ったり飛んだりしているだけ、ですからね(笑)。でも、僕にとってはかけがえのない「ありがたいもの」なんです。

──分かるなあ。

為末:僕自身の仕事でいうと、「為末さんでないと」と言われて引き受けた仕事と、「誰でもいいからアスリート出身の人」みたいなことでブッキングされた仕事では、かける熱量が違ってきます。これは、僕みたいな特異な経歴をもつ人間だけじゃなく、すべての働く人のアイデンティティというか、モチベーションにつながる話だと思うんです。

──もっといえば、ブランドとかもそうですよね。

為末:「あなたじゃないと」は必然性がある、ということですから。その必然性が、価値を生む。加えて、昔のイノベーションって、なんでもかんでも「易しく(優しく)してくれること」に価値があったと思うんです。洗濯板を使わずに、洗濯ができるの?まき割りをせずに、風呂が沸かせるの?ああ、ありがたい、みたいな。

為末さん引き

──便利=ありがたい、という価値観にわれわれはまだとらわれていますよね。

為末:その分、ありがたみというものが、薄れてきている気がする。複写機やファクスができた時には、ああ、ありがたい!と思ったものだけど、何メガ何ギガの大容量!とか言われても、正直、ありがたみは感じない。

──分かります、分かります。

為末:その分、商品やサービスを提供する側は、僕自身も経営者なのでその一人ですが、もっとうまく「説明」をしなければいけないと思う。あなたの人生にとって、かけがえのないものなんですよ、という説明を。誰にとっても「ありがたい」もの、なんていうものは、そうそう出てこない。だからこそ、あなたにとって「ありがたい」ものなんですよ、と言われるとグッとくる。

──アイドルなんかも、そうですよね。世の中の女性全員が、なんとかちゃんカットをしていた時代とは、明らかに違う(笑)。

為末:面白い話があって、日本のとある出版社がエルメスのことを題材にしたマンガをつくりたい、という提案をエルメス本社にしたところ、「それは構わないが、一つだけ質問させてほしい。その漫画家は、馬には乗れるのか?」と言われたのだそう。

──ああ、それはグッとくる話ですね。

為末:ブランドの本質は「こだわり」なんだと思います。その漫画家は、馬具メーカーとしてのエルメスを、本当に愛してくれているのか?という。

──今回もまた、「ありがたいお話」の数々、ありがとうございました。

為末:こちらこそ、ありがとうございました。楽しかったです。

(聞き手:ウェブ電通報編集部)


アスリートブレーンズ プロデュースチーム 日比より

ありがたみから始まり、ブランドに帰結しました。ブランドの本質は「こだわり」。こだわりがあるからこそ、結果として、希少性があり、有限性と刹那性につながる。また、ゆずれないこだわりを、きちんと言語化すること、きちんと体現すること。その結果、ブランドは築かれていくのだと思います。自分たちが大切にしたいこと、こだわりたいこと、それは、なかなか、一言で表現するのは難しいと思います。だからこそ、外部から、アスリートとの対話で、こだわりを表出させ、それを、クリエイティブの力で、言語化・可視化していく。そんな形で、企業が抱える課題に応えていきたいです。

アスリートブレーンズプロデュースチーム 電通/日比昭道(3CRP)・白石幸平(事業共創局)

為末大さんを中心に展開している「アスリートブレーンズ」。
アスリートが培ったナレッジで、世の中(企業・社会)の課題解決につなげるチームの詳細については、こちら

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