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為末大の「緩急自在」No.5

アスリートブレーンズ為末大の「緩急自在」vol.5

2020/09/01

為末大さんに「いま、気になっていること」について、フリーに語っていただく連載インタビューコラム。唯一、設定したテーマは「自律とは何か、寛容さとは何か」。謎の「聞き手」からのムチャ振りに為末さんが、あれこれ「気になること」を語ってくれます。さてさて。今回は、どんな話が飛び出すことやら……。乞う、ご期待。

為末さんアップ

──「自律と寛容」をテーマに、今回は「食と健康」について伺いたいと思います。コロナ禍ということもあり、食とか、健康といったものについて改めて関心が高まっているように思うんです。まずは、非常にベタな質問で恐縮なのですが、アスリートと食、ということで何か聞かせていただけませんか? 

為末:体重制限に神経を使う競技といえば、まずマラソンですね。それも、男子よりも、女子。クルマの耐久レースと同じで、もちろんガソリンは必要なんですが、そのガソリンの重みが障害になってくる。なので選手は、ゴールした瞬間にガソリンを使い切ることから逆算して、食事を取っているんです。

──それは、どういうことなのでしょうか?

為末:炭水化物は、瞬発的なエネルギー源になる。脂肪は、持続的なエネルギーをもたらしてくれる。そのバランスを緻密に計算しないと、あそこまでの距離は走れないんですよ。われわれトラック競技の人間は、そこまでストイックに食と向き合ってはいない。でも、炭水化物と野菜と肉のバランス、みたいなことは常に考えていましたね。イメージとしてはワンプレートのお皿、あるじゃないですか。あそこにどうメニューを盛り付けるか。

──ああ、それは分かりやすいですね。コロナ禍において、いわゆるコロナ太りとかコロナやせといったことが話題になっていますが、免疫力を高めるといった点からも、食のバランスというのは大事なんですね?

為末:そう思います。

──コロナということで言うと、仲間と気軽に飲食ができなくなっていて、いわゆる「飲みニュケーション」というんですか?「同じ釜のメシを食う」みたいなコミュニケーションがとれない環境になっていますが、アスリートの世界でもそうしたことは、やっぱり大事なんでしょうか?

為末:ゴリラの研究で有名な京大の山極壽一総長によると、「分け合った」という感覚が大事なんだそうです。食事を分け合うことで、仲間意識が生まれる。チームの信頼感とか、一体感とかが生まれる。これは、外交とかにも言えることみたいで、「誰と、何を食べたか」それも、昼よりも夜の方が、圧倒的に重要らしいんです。逆に、相手の国と距離を置きたい場合は、あえて会食をしないで帰ってくる、みたいな。

──いやあ、深いな。

為末:日本のリレー競技が強くなったのも、そこに大きな理由があるみたいですよ。個の能力を伸ばすことはもちろんなのですが、チームとしての結束力を高めるには、やはり「同じ釜のメシをどれだけ食ったか」ということが重要。食って単純に命をつなぐとか、グルメな満足感を得る、といったこと以外に、大切なコミュニケーション手段なんですよね。

為末さん引き

──分かります。非常によく、分かります。

為末:ビジネスの世界でも、おそらくはそうでしょう?リモートで会議ができるのだからそれで十分でしょ、というわけにはいかない。コミュニケーションの本質について、そろそろ明文化する必要があると、僕は思いますね。 

──“なになにちゃん、おつかれー。また、よろしく頼むよー”みたいなコミュニケーションは、もう、通用しませんものね。

為末:食って、自身の活力の源であるとともに、仲間との心をほぐす手段でもあると思うんです。この連載のテーマで言うと、まさに「緩急自在」ですね。自身に自律を促すと同時に、仲間に対する寛容さを育てる、というか。

(聞き手:ウェブ電通報編集部)


アスリートブレーンズ プロデュースチーム白石より

本連載も今回からテーマが「食と健康」へ。話の切り口だけを捉えると、トップアスリートが考える栄養学や食生活など、より専門性の強い話に発展しそうなところ。しかし、ふたを開ければ、外交やゴリラ(!)といった話を経由して、「食」の本質ともいえる、チーム・組織におけるコミュニケーションの話に大発展。「チーミング・カンパニー」を標榜する電通のイチ社員としても、「飲みニュケーション」を有効活用(?)してきたイチ社会人としても、気づきと発見が多いインタビューでした。

アスリートブレーンズ プロデュースチーム電通/日比昭道(3CRP)・白石幸平(CDC)

為末大さんを中心に展開している「アスリートブレーンズ」。アスリートが培ったナレッジで、世の中(企業・社会)の課題解決につなげるチームの詳細については、こちら

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