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為末大の「緩急自在」No.3

アスリートブレーンズ為末大の「緩急自在」Vol.3

2020/07/02

為末大さんに「いま、気になっていること」について、フリーに語っていただく連載インタビューコラム。唯一、設定したテーマは「自律とは何か、寛容さとは何か」。謎の「聞き手」からのムチャ振りに為末さんが、あれこれ「気になること」を語ってくれます。さてさて。今回は、どんな話が飛び出すことやら…。乞う、ご期待。

為末さんフォト


──「自律と寛容」をテーマに、さまざまな角度から掘り下げていく本コラム。今回は「ケアレスミス」「ストレス」「コンプレックス」といった、人間が持っている弱点といいますか、ネガティブな側面について伺います。いずれも人間が、特にアスリートが克服しなければならないものだと思うのですが、いかがですか?

為末:そうですね。まず、ミスについてですが、「これが良いことなのだ」ということが明確になっていればいるほど、「何がミスなのか」ということがはっきりする。つまり、目標とか目的がはっきりしていないと、自分が今、ミスをしているのか、していないのかが分からない。

──いきなり、深遠なお話ですね。確かにそうだな。仕事でも、プライベートでも、惰性に流されている間は、ミスをしてる感覚って、ありませんものね。で、気づいたときには「熟年離婚」されていたりする(笑)。

為末:AIが絶対にミスをしないのは、アルゴリズムによる「最適化」に長けているから。つまり、目的を持たないAIは、存在しないんです。工場をいかに稼働させるのが効率的か。そのレイヤーを上げていくと、世界のどこに工場をつくればいいのか、さらにそのレイヤーを上げていくと、いずれ地球上に存在する人口の「最適化」ですら、AIが管理する時代が来るのかもしれない。

──もう、AIの話になっちゃいましたか。最終的に、そのテーマを振ろうかな、と思っていたのに…。

為末:AIは、あるレイヤーに収まっている分には「善」の存在。常に最適解を弾き出してくれる。でも、例えば野球で「良いバッティングとは?」という問いをしたとするじゃないですか。果たしてAIは、入団当時のイチローさんのバッティングを良し、としたか。おそらくは排除しちゃったのではないか、と思うんです。アスリートの世界では、ミスとは「例外」を見せてくれるもの。あえて修正をしない。「揺らぎ」のようなものと付き合うことで、個人やチームのパフォーマンスが上がっていく、ということもあるんです。

──「揺らぎ」ですか、面白いですね。

為末さんフォト

為末:ハンマー投げの室伏選手の場合、ある時、トレーニングで使っていたバーベルにハンマーをぶら下げだしたそうで。予想できないものを取り入れることで、予想できない結果が生まれる、ということがあるわけです。

──先ほど、個人やチームのパフォーマンスを上げるには、ある種の「揺らぎ」が必要、というお話がありましたが、そのあたりを詳しく教えていただけますか?

為末:ケアレスミスを防ぐには、秩序が必要ですよね。その一方で、発明とかイノベーションというものは、計画性や秩序の延長線上にはない。

──突発的な思いつきとか、ダイバーシティ(多様性)といったものが、イノベーションを生む。

為末:多様性、という言葉が急に注目され始めましたが、もともと多様性を持っている組織は、ピンチにもチャンスにも強いんです。答えはひとつじゃないわけだから、どんなことが起ころうと柔軟に、イノベーティブに対応できる。ところが、「多様性が大事」となると、途端に「女性活用」だとか「障がい者雇用の推進」といった答えありき、の方向へと企業も社会も動いてしまう。果たしてそれは、物事の本質なのだろうか?と思いますね。

──20XX年までに、女性管理職を何%以上にせよ、みたいな。

為末:そう。目標数字を掲げた段階で、AIに近い、とても知的な作業をしているような気になっちゃう。その数字を達成することが目標になっちゃうんですね。一切、揺らぐことなく、目標に向かって邁進しちゃう。
話が飛びますが…。

──出ましたね、そのフレーズ。楽しみだなあ。

為末:シンクロナイズドスイミングでの大切な審査基準に「同調性」ってあるじゃないですか?あれって、仮にAIが管理しても、感動的な演技にはならないらしんです。かすかな揺らぎがある中で、ある瞬間にぴたっと演技が合う。その瞬間に、人は「美しい」とか「心地いい」といった気持ちが湧き上がるのだそうで。

──それは、分かりますね。仕事をしていても「あうんの呼吸」でチームがまとまったときの感情は、いま効率が上がったぞ、なんてことではなく、単純に「心地いい」ですものね。

為末:アメリカに「アファーマティブ・アクション」という考え方があって、それが問うのは、個人の能力は、どの程度、本人に依存するものなのか、あるいは環境によるものなのか、ということなんですね。同じ能力があったとしても、低所得層で育った子どもは、高水準な教育を受けられない。それは、公平性に劣るし、社会全体にとっても大きな損失といえる。一方で、強い組織、強い社会には、多様性が担保されている必要がある。

──心地のいい「揺らぎ」が必要なんですね。

為末:「揺らぎ」は時間軸でも変わっていくんです。例えば多くのスタートアップ企業は、「同質性」から始まるんです。同じような能力、同じような目標を持つ気の合う仲間が集まって起業をし、新たな秩序をゼロから作り上げていく。ところが、ある程度の年月を経ると「多様性」が必要となってくる。秩序と混沌の間で、組織が揺らいでいく。そこから「デザイン思考」が生まれる。

──なるほど。

為末:話を「ミス」に戻すと、スポーツの試合なんかを見ていてワクワクする大元は、ミスするかもしれない、というドキドキ感にあるような気もしますよね。

(聞き手:ウェブ電通報編集部)



アスリートブレーンズ プロデュースチーム日比より


今回は「揺らぎ」がキーワード。アスリートは、自らのパフォーマンスを高めるために、あえて崩す、そんな練習もしている。揺らぎが成長につながると気づける成長への貪欲さと、成長するための練習をつくるクリエイティビティーがあるのかもしれない。発明やイノベーションは、計画性や秩序の先にはないという発言もあったが、ブレークスルーするためには、意図的に揺らぎをつくることが大切なんだと感じた。
そして、僕たちは、しばしば、完全なもの、完璧なものを求めてしまうし、AIのように絶対に失敗しないもの、に憧れてしまうが、そこに、心地よさはないのかもしれない。僕たちは、自然のリズムの中で、「揺らぎ」と共に生きている。
企業活動といったものに、その「揺らぎ」を取り入れることは難しい。だからこそ、普段の企業活動から遠く、そして存在し得ない「揺らぎを起こす存在」として、アスリートは、適切なのかもしれない。

アスリートブレーンズ プロデュースチーム電通/日比昭道(3CRP)・白石幸平(CDC)

為末大さんを中心に展開している「アスリートブレーンズ」。アスリートが培ったナレッジで、世の中(企業・社会)の課題解決につなげるチームの詳細については、こちら

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