「プライシング」に新たな視点。「Marketing For Growth With Pricing」No.1
値上げ時代の価格戦略。
カギは「消費者の頭の中にある価格」
2025/03/17
原材料費や人件費の高騰などを背景に、多くの企業が商品・サービスの値上げを検討・実施している昨今。マーケティングの4領域(プロダクト・プレイス・プロモーション・プライス)の一つである「プライス(価格)」が注目されています。
2025年1月、電通は、価格を分析して科学するサービス「Marketing For Growth With Pricing(以下、MGP)」をローンチしました(リリースはこちら)。
MGPは、一言でいうと、「商品やサービスに対して、消費者が思い浮かべる価格」に注目し、「自社商品をいくらで売ればよいか分析する」というものです。
本記事では、MGPのサービス内容について、3つのポイントを解説します。
<目次>
▼新プライシング分析のポイント①:「RP」と「LP」
▼新プライシング分析のポイント②:RPとLPが需要に与える影響を分析
▼新プライシング分析のポイント③:RPに寄与する価値を可視化
新プライシング分析のポイント①:「RP」と「LP」
MGPは、「競合商品の傾向を加味した価格の設計」と「価格を構成している商品・サービスの価値の可視化」により、従来のプライシング分析では実現が難しかった、「企業と消費者双方に納得感をもたらす価格変更の意思決定」を支援していきます。
MGPでは、「RP」と「LP」という2つの指標を用いて分析を行います。RPとは、Recall Priceの略で、「ある商品に対して、お客さまが頭の中に想起する価格(想起価格)」です。一方、LPとは、List Priceの略で、「ある商品が店頭で実際に販売されている価格(販売価格)」です。

RPとLPが釣り合っている状態をFair Value Line(FVL)と呼び、グラフで表すと下記の赤線になります、FVLに対して自社商品がどこに位置しているかによって、LPが消費者にどのように認識されているかを推察することができます。例えば、消費者が想像した価格(RP:100円)よりも極端に高い価格(LP:200円)で販売されていた場合、顧客離れが起こりやすくなります。
新プライシング分析のポイント②:RPとLPが需要に与える影響を分析
では、RPとLPの関係性が、需要にどの程度の影響を与えるのでしょうか?電通は、「洗剤・柔軟剤」「ヘアケア」「アイスクリーム」「ビール」の各カテゴリーにおいて独自に調査を実施しました。ここでは、洗剤・柔軟剤カテゴリーを例に、MGPの分析手法を用いて、RPとLPが需要に与える影響を調べた結果を紹介します(下図)。

グラフの横軸は、RP/LP(数字が大きくなるほど、想像した価格に対して実売価格が安く感じられている≒割安感がある)。縦軸は、需要(100人あたりの購入数量)です。
いろいろな洗剤・柔軟剤を分析した結果、RP/LPが増えると指数関数的(要は、方程式にのっとって)に需要が増えることが分かりました。これにより、LPを変更した際の需要・売り上げへの影響を予測することが可能になります。
例えば、LPを上げるとRP/LPが下がるため、その下がり幅に応じてどの程度需要の減衰が見込まれるのかを推測することができます。また、需要とLPを掛け合わせて、想定される売り上げを算出することも可能です。

このような分析によって、冒頭にお伝えした「競合商品の傾向を加味した価格の設計」が可能となり、より妥当性の高い価格の意思決定につなげることができそうです。
新プライシング分析のポイント③:RPに寄与する価値を可視化
そもそもRPは、どのように決まるのでしょうか?MGPでは、ブランドに対して消費者が抱く、情緒・機能的な評価価値を、RPの決定要素として捉え、RPとの関連性を検証(※)しました。
※検証方法として、階層ベイズモデリングでのモデル化を実施し、これによる各評価価値の回帰式・貢献度を算出。階層ベイズモデリング:データにグループやサンプルごとに違いがある場合に、それぞれのグループやサンプルの特性を考慮しながら、共通の傾向も捉えることができるモデリング手法。パラメータやその事前の設定も確率で表し、データから得られる不確実性を考えながら推定するため、精度を高め、過学習を防ぐことができる。
分析により、RPに対して「情緒価値」と「機能価値」がどの程度影響を与えているのかを明らかにすることができました。例えば、洗剤・柔軟剤カテゴリーでは情緒価値6つと、機能価値2つによってRPが構成されていることが分かります。

中でも情緒価値の「安心感」や「定番・メジャー」という項目は、カテゴリー全体として、RPへの貢献度が高く出ています。つまり、洗剤・柔軟剤カテゴリーにおいては、これらの項目をうまく訴求していくと、RPの向上につなげられやすいと推察されます。
また、同じカテゴリーにおいても、商品ブランドによっては価値ごとの貢献度が異なるものがあることも見えてきました。商品AとBの価値別貢献度の違いをまとめたグラフが下図です。

商品Aは、機能価値である「しわができにくくなる」ことのRPへの貢献度が高く出ています。Aはおしゃれ着洗剤ですが、消費者が「シワができにくい」ことに特にお金を出す価値を感じていると推察されます。

一方、商品Bは、情緒価値の中でも「新しさを感じる」ことがRPに大きく貢献しています。
このように、商品ブランドによりRPを引き上げるポイントが異なるケースが見受けられます。そのため、カテゴリー全体の傾向に加え、商品ブランド固有の特徴を見定めて、RPの引き上げに向けた取り組みを進める必要があります。
RP引き上げに向けた具体的なアクションとしては、例えば、商品Aの場合は、「しわができにくくなる」ことを広告や店頭施策で一貫して訴求し続けることで、より一層RPへの貢献を強化していくことができそうです。訴求を検討する際には安心感や定番といったカテゴリー全体における重要要素を損なっていないか、検討も必要です。
「価格を構成している商品・サービスの価値の可視化」は、RPを引き上げる方法を検討するときだけでなく、価格改定の際にも価値を発揮できそうです。例えば、値上げリリースの際に、ただ「原材料高騰のため値上げします」と伝えるのか、それとも「RPに貢献している価値を守るために値上げします」と伝えるのかによって、消費者からの受け止められ方も大きく異なると考えます。
このようにコミュニケーション領域においても、本分析を活用して一貫した価値訴求を行うことで、消費者に愛され納得してお金を出してもらえるブランドを築くことにつながります。
プライシングは、企業がこれまで試行錯誤を繰り返してきた領域ですが、その取り組みの形式知化が進んでいないため、価格の妥当性に対する検証に悩みを持たれる企業も多いのではないかと思われます。その課題解決の一つの方法として、消費者の頭の中にある価格を紐解き、押し上げるコミュニケーションまで伴走支援する「Marketing For Growth With Pricing」をぜひご検討いただけますと幸いです。