日立製作所×電通×電通デジタルが挑む、生成AIで社会課題解決!No.1
生成AIをパートナーに、幸せな社会を協創する。日立製作所と電通グループの挑戦
2025/06/26

ビジネスにおける生成AI活用と聞くと、今はまだ「生産性を向上させる効率化ツールでしょ?」と思われる方が多いのではないでしょうか。
しかし、生成AIのポテンシャルは、本当はもっといろんな社会課題を解決し、人をワクワクさせ、幸せにする用途に使えるはず──。
日立製作所と電通、電通デジタルの三社は、生成AIで社会課題を解決する取り組みとして「AI for EVERY」を発表しました。人間がAIとともにビジネス価値を創出し、“ワクワクできる方法”で社会課題を解決することをめざす協業プロジェクトです。
リリースはこちら:
電通・電通デジタル・日立製作所、生成AI領域で戦略的協業を開始/第1弾として食品ロス削減に貢献する新サービスの共同検討・提供を推進
プロジェクトを主導する日立製作所の吉田順氏、dentsu Japanの並河進氏、電通デジタルの山本覚氏に、「AI for EVERY」プロジェクト概要と今後の展望を聞きました。
<目次>
▼生産性向上だけじゃない!生成AIの本当の可能性とは?
▼生成AIが“想像力のスイッチ”を押すきっかけになる
▼「生成AIの予測がズレる」その先で、生活者視点のアイデアが生きてくる
▼家族や友人、同僚とは違う、“第3の仲間”に生成AIがなる!
生産性向上だけじゃない!生成AIの本当の可能性とは?

──「AI for EVERY」のプロジェクト概要と、発足のきっかけを教えてください。
吉田:得意分野が異なる電通グループと日立製作所(以下、日立)が協業することで、さまざまな社会課題を解決できる生成AIサービスを提供できると考え、2024年の秋ごろから三社一体で進めてきたプロジェクトが「AI for EVERY」です。
日立は創業以来100年間以上、社会課題の解決をミッションとしてきました。そのため、生成AIについても、より社会課題を解決するような使い方を追求しています。現在の日立では、金融、製造、流通、インフラなどの領域における需要予測や故障予測含め、幅広い分野にAIを活用しています。
──現在のAI活用は、どちらかというと人間でもできる作業を代替するなどして、業務の効率化などに生かすアプローチが主流ですよね。
吉田:たしかに、AI活用のトレンドは「生産性向上」、いわばボトムラインの向上にあります。しかしこれからは、新たな付加価値の創造といった、いわゆるトップラインの拡大に生成AIを活用する時代になっていくと私たちは考えています。
そして、トップライン拡大のためには生活者視点が必須です。当社はtoBビジネスをメインとしているため、生活者視点のノウハウが必要だと感じていました。そこで、生活者視点を取り入れた体験設計やサービスの開発ノウハウを持つ電通デジタル、そして電通にお声がけをしたのです。
山本:もともと電通デジタルが、日立の主催するオープンイノベーションプログラム「Lumadaアライアンスプログラム」に参画していたことで、ご縁があったんですよね。
並河:吉田さんからのお話にもあったとおり、電通と電通デジタルの強みは、生活者インサイトを捉えた体験やサービスの設計です。日立と電通グループの強みを掛け合わせることでイノベーションが生まれるという期待に加え、お互いに生成AIの力で社会課題を解決したいというビジョンも重なり合っていたので、ご一緒させていただきました。
山本:電通デジタルは、日立が開催した「Hitachi Social Innovation Forum 2024 JAPAN」と、日立市が主催した「日立市産業祭」で、日立市の魅力を伝える対話型AIを出展しました。そのとき、日立市の住民の方に「日立製作所はテクノロジーで街を変えられる、これってすごいことだよね」と言われたことが印象的でした。
普段、私はデジタル空間に向き合って仕事をすることが多いのですが、日立との協業を通じて、改めて人の生活や、物理的に肌触りを感じられるモノを作れるっていいなと思いまして。生成AI活用というテーマでも、そういう物理的な要素のあるモノを日立さんと一緒に考えていきたいですね。
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生成AIが“想像力のスイッチ”を押すきっかけになる

──「AI for EVERY」の目標はどういったものでしょうか?
並河:社会課題の解決に向けて、生成AIを使ってワクワクするようなアイデアを生み出していくことを目指しています。もう少し詳しくいうと、生成AIが生活者のクリエイティビティを拡張したり、あるいはクリエイティビティを発揮させるきっかけを作ったりしたいと考えています。
──具体的なサービスとしてはどんなものがありますか?
並河:今回「AI for EVERY」の取り組みの第1弾として発表したのが、「今日の気まぐレシピ」です。これは生成AIを活用し、「フードロス」という社会課題を生活者視点で解決しようというソリューションです。
具体的には、当日の気象状況などにより余剰在庫となりそうな食材を予測。それらの食材を使いつつ、さらにその時々の状況にあったレシピを生成し、「こんなレシピはいかがですか?」とアプリやデジタルサイネージを通じて生活者に提案することで、食材の売り上げを伸ばし、フードロスを解決します。
吉田:生活者にとって身近な社会課題でもあるフードロスの削減に、生成AIが使えるのではないかというところから、「今日の気まぐレシピ」の構想が生まれました。クライアント企業としては、スーパーマーケットなど、生活者に食材を販売する流通業者を想定しています。
──第1弾として「今日の気まぐレシピ」を採用した理由は?
吉田:いくつかあるのですが、まず日立では2035年に向けた「日立リテールサプライチェーンビジョン」を掲げ、リテールの未来に貢献するためのシナリオを描いています。そのビジョンの中で「廃棄ロスゼロ」という目標も掲げているんです。
そして何より、三社が持つソリューションの“掛け算”がしやすかったという点があります。日立では需要予測ソリューションを開発しており、スーパーマーケットなどの流通・小売領域で導入していただいている実績もあります。そこで、需要予測や在庫データの管理部分は日立が担う。そして、その在庫データと生活者データを参照してレシピを生成し、売り場のデジタルサイネージなどに表示する部分は電通グループが担う。こんな組み合わせが成立するのではないか、という発想に至りました。
山本:整理すると、「今日の気まぐレシピ」を第1弾として企画したのは、
- 「生成AIで社会課題を解決したい」というビジョンに合致している
- 三社がすでに持っているソリューションの“掛け算”で実現できる
- クライアント企業だけでなく、toCのお客様に向けたアプローチもできる
ということです。クライアント企業のニーズさえあれば、動き出せるところまでたどり着いています。
──レシピ生成の材料となる食材については、4月23日の「AI for EVERY」のメディア説明会で印象に残った発言がありました。山本さんの「今日は4月23日ですが、例えば日付けのような外的要素を取り入れて、『423=しじみの日』という語呂合わせにちなんだレシピも、AIで生成できるのではないか」というお話です(笑)。
吉田:まさに、この“しじみ”に至る話こそが、日立製作所にはない視点でした(笑)。こうしたちょっとした気づきから何かを生み出す山本さんの視点に、「あ、こういう言い方があるんや」と率直に思いまして。ちょっとしたことなんですが、それだけでも三社協業の相乗効果を感じました。
山本:今日はネタの準備がないのですが(笑)。私は電通デジタル以前にデータアーティストという会社をやっていまして、データの上に「アート」を乗せようという意思を社名にしたんですね。つまりサイエンスだけではない、「二度と思いつかないかもしれないけれど、ふと思い浮かんだピーキーなもの」をデータに乗せることができたらな、という思いを今もずっと持っているので、「しじみ」の切り口が出たのかな、と思います。
並河:まさに、今後実現したいAIと人間の関わり方の話ですよね。今のしじみの話のように、生活者の想像力のスイッチを押すような“きっかけ”を、生成AIが作り出す。スーパーに来るまでは予定もしていなかったような料理を作りたくなる「体験」を生み出すというのが、まさに“ワクワク”するような生成AIの活用法だし、生成AIによって生活者のクリエイティブが拡張されるということだと思います。
今回は食材の流通の仕組みと、生成AIのクリエイティブな面をうまくつなげられたので、私たちがめざす「社会課題を生成AIの力で解決するソリューション」として、とても分かりやすい形になったのではないかなと。
山本:生成AIがもたらすものに、「生活者個々人にパーソナライズされた体験」という要素があります。それって、どうしても個人に閉じた体験だと思われがちですよね。ただ、実は「同じメッセージでも、相手に応じてしゃべり方を変えてくれる」ということなので、長所でもあります。例えば小さい子どもに「サステナビリティって大切だよね」と言っても分からないじゃないですか。「地球がずっと元気で、みんなニコニコだといいね」って言った方がいいし、それで大事なことは伝わりますよね。
「今日の気まぐレシピ」でいうと、生成AIによって個々人にもたらされたパーソナルな体験の先に、「フードロスの解決」という大きなテーマがちゃんとあります。おいしそうなレシピを参考に買い物をすることが、社会課題の解決につながるわけです。つまり、言い方を変えてみると、「生成AIが、社会課題と生活者の間に立ち、一人一人に伝わりやすい形に翻訳したメッセージを伝え、課題解決を支援してくれる」ような取り組みでもあるんです。
並河:僕自身コピーライターとして「人の心を一つの言葉で動かす」という取り組みもしてきているんですが、「社会課題の解決に向けて作られた言葉」って、生活者とは少し距離があるんですよね。
なので、ただ「社会課題を解決しましょう」と伝えるのではなく、あくまでも生活者一人一人の「幸せ」につながるような「レシピ」という解決方法を、生成AIが翻訳して伝える。翻訳した内容で多くの人たちを幸せにしていくことで、社会全体の幸せにつなげていく……ということが、今回僕らがやりたいことだなと思っています。
「生成AIの予測がズレる」その先で、生活者視点のアイデアが生きてくる

──「AI for EVERY」の発表会後、社内外からはどのような反響がありましたか?
吉田:まず、社内の反応は上々でした。日立だけでは取り組めないクリエイティブな提案ができるということもあり、流通・小売に関係する部門はもちろん、金融領域の担当からもポジティブな反響を多くもらっています。
社外の反応としては、やはり「今日の気まぐレシピ」のこともあって、流通・小売りを中心に業界問わず、ポジティブな反応をいただいています。日立と電通グループが組むという座組を意外に思われるお客さまも多かったのですが、お客さまから「この座組ならどんなことができるか、一緒にブレストしましょう」というお話に発展しているケースも多々あるようです。
山本:意外な組み合わせなのかもしれませんが、そこから、「この三社が生成AIで社会課題を解決しようとしているから、今後社会的にもそういう方向に向かっていくかもしれない」という大きなメッセージとして、他の企業にも伝わるといいですよね。
並河:電通側も、社内外からいろいろとお問い合わせをいただいており、この三社ならではの取り組みへの期待は感じています。やはり生成AIで効率化だけを追い求めるのではなく、イノベーションを起こしたいとか、ワクワクすることをやってみたいと思う企業から、「一緒にやりませんか」とお声がけをいただいています。現時点で具体的な課題がなくてもいいので、ゼロベースでも、雑談からでも、ご相談いただければと思います。
吉田:それにしても、本当に電通・電通デジタルの皆さんと話せば話すほど、「AI for EVERY」の枠組みで取り組めることのアイデアがどんどん増えています。
例えばさっきお話しした通り、日立では、渋滞予測や人流予測、鉄道の乗降者予測、送配電予測、故障予測など、AIでさまざまな「予測」を行っています。でも、AIが100%本当のことを言うわけではありません。需要予測にしても「AIはときに予測を外す」という前提に立つ必要があります。そしてその「外れた」先で、電通グループの生成AIが生きてくるんですよ。つまり、「予測を外すから使えない」ではなく、「予測がずれたときのことを、生活者視点で解決する」という視点を持っていらっしゃるんですね。
生成AI活用について懐疑的な人もまだまだ多いですが、こうした視点を持てば、「AI for EVERY」の枠組みでご提案できる業界は山ほどあると思っています。
──具体的には、「予測を外した」先で、電通グループの生成AIがどう生きてくるのでしょうか?
山本:例えば、AIが「渋滞予測」をしていて、現実の交通の状態が予想からずれた状態になったときに、「渋滞の中でも快適に過ごすための解決方法」を示す……みたいなソリューションを「AI for EVERY」の中で生み出せるかもしれません。
実際にこの前、「旅行中の渋滞でストレスがたまっている運転手を1分で和ませてください」というお題で議論する機会があったんです。そこで生成AIが提案した答えというのが、「抜け道を提案する」だったり、「運転手が好きなタレントの声で話しかける」だったり、「歌を歌う」だったり、こういうアイデアを一瞬で大量に出してくれるんですね。
車内にいる時間が楽しくなれば渋滞もそう悪いものじゃなくなりますし、そうしたコミュニケーションのきっかけを、生成AIが提案できるのではないでしょうか。
吉田:いや、まさにこういう場面での生成AI活用はあり得ると思います。これから自動運転が普及するにつれて、自動車はどんどんエンタメの要素が増えていきます。車載システムに生成AIが実装されて、話し相手になってくれたりということは、当然増えていくんじゃないでしょうか。……なんていう話が、電通・電通デジタルの皆さんと話しているといくらでも出てくるんですよ(笑)。
家族や友人、同僚とは違う、“第3の仲間”に生成AIがなる!
──今後の生成AI活用の展望を伺えますか?
吉田:今日のお話は主にB2B、B2Cでの生成AI活用でしたが、ゆくゆくはB2EやB2B2E……つまり企業の従業員に対する取り組みも、「AI for EVERY」の中でできるのではないかと思っています。AIに苦手意識や抵抗感のある従業員もいると思いますが、そういう人たちのパートナーとして、例えば熟練のエンジニアが望むようなインターフェースを生成AIが提供してくれたりするということも考えられます。
また、日立では「技術継承」の部分でも生成AIを活用しています。ベテランの技術者やエンジニアが徐々に退職していく中、製造設備の保守方法や、COBOLのような技術者が減少しているプログラミング言語を生成AIに学ばせて、新しい社員がスムーズに対応できるようにする……といった形での活用はすでに始まっています。
並河:たしかに、従業員の生成AIの利用を後押しするための取り組み、B2B2Eの領域はこれから広がりそうです。AIに対する苦手意識や抵抗感みたいなものについては、電通グループでも研究しています。例えばキャラクターモチーフの生成AIが話すことで、従業員の方に親しみを持ってもらうとか、心理的な側面から生成AIの利用促進を促すようなソリューションを開発しています。
山本:いろんな人に積極的に使ってもらうためには、「AIが利用者に話しかけるタイミング」も大事ですよね。例えば、ゴルフで他のプレーヤーと移動中に、会話に困るタイミングで話題を提供してくれるとか。あるいは経費精算をしなければいけないタイミングで代理対応してくれるとか、そういうところから入っていく。そうすると、「なんかお前、いつも俺が困ってるときに声を掛けてくれるな」と生成AIを見直す機会にもなるんじゃないかなと(笑)。
実際、生成AIによって人々の生活が便利になるとか、助けになるという実感があることが大事だと思うんです。今は生成AIが、一部の人の利用にとどまっているし、あまり生活や社会課題に対して役立つものとして捉えられていない面があります。生成AIのおかげで移動が少し楽になったとか、少し残業が減ったとか、まずはそういう身近なところから始めていくために、「AI for EVERY」を活用してもらえたらと思います。
生成AIなら生活者一人一人に適したコンサルテーションも可能ですし、パーソナライズ化した幸せに貢献できると考えています。実際、私たちもChatGPTを自分に最適化させ、毎日使い倒しています(笑)。
並河:“壁打ち”のパートナーとしてもどんどん進化していますよね。最近思いついた言葉なんですけど、人々が安心できる場所のレイヤーを示す言葉としてファーストプレイス、セカンドプレイス、サードプレイスってあるじゃないですか。中でもサードプレイスは「それ以外の自分」の居場所を指す言葉ですが、その言葉になぞらえて、僕は普段使いしている生成AIを“第3の仲間”と呼んでいまして。
つまり、家族や友達、同僚に言えないことをAIには相談できたりするじゃないですか。でも、だからといってAIが家族や友達に代わるわけでもないし、同僚の役割を担うわけでもない。だから、第3の仲間です。
吉田:ああ、いい言葉ですね(笑)。
並河:今ある人間関係とは別に、まさに「困ったときに話しかけてくれる」くらいの心地よい距離感でいられる仲間として、AIを捉えられると良いですよね。すでに生成AI自体の技術は、そこまでは来ていると思います。
吉田:今のお話を聞いても思ったんですけど、やっぱり生成AIってトレンドだから、「AIを導入しないといけない」というやらされ感になりがちです。そうではなくて、AIが「一人一人に寄り添うものである」という議論がもう少し広がれば、「AI for EVERY」がめざす方向のようなこれまでとは違った価値が見いだせるかなと思います。
そのためにも、三社がさらに深く組むことで、「生成AIで本当に社会課題を解決できますよ」ということを証明したい。そして、そうした議論にお客様も巻き込んで、あるいはわれわれ三社がお客さまに巻き込まれながら、お話できるとうれしいですね。