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◯◯展のつくりかた。「コンテンツ×体験」時代の展覧会って?No.1

25万人 が熱狂した「体験」。誰一人置いていかない「CLAMP展」のつくりかた

2025/06/30

左から電通 関俊作氏、講談社 松浦希氏、電通 南木隆助氏
左から電通 関俊作氏、講談社 松浦希氏、電通 南木隆助氏

展覧会は「鑑賞」から「体験」へ。

漫画やアニメに代表されるコンテンツファンは、「鑑賞」だけでなく「体験」を求める傾向にあり、展覧会のあり方も大きく変化しています。

そうした中、電通と電通ライブは「コンテンツの新しい体験の場」という視点で展覧会をプロデュースする「dentsu Exhibition Value Design」の提供を開始しました。

「dentsu Exhibition Value Design」広報リリース
https://www.dentsu.co.jp/news/release/2025/0207-010840.html
 

本連載では、両社が手掛けた新しい形の展覧会をご紹介していきます。今回取り上げるのは、「カードキャプターさくら展」(2018年)と「CLAMP展」(2024年)です。

東京・大阪で開催した「カードキャプターさくら展」は、東京展だけで総入場者数約14万人を記録。さらに同作の作者CLAMP(くらんぷ※)の全作品を取り扱った「CLAMP展」は国立新美術館で展開し、72日間で約25万人を動員しました。  

多くの来場者を惹きつけた「展覧会」という名の“体験”は、どのように生み出されたのか。

講談社でCLAMP作品の2次利用を統括する松浦希氏をゲストに招き、2展のプロデューサーを務めた電通の関俊作氏、空間デザインを担当した南木隆助氏に、舞台裏をお聞きしました。

※CLAMPとは

いがらし寒月、大川七瀬、猫井、もこなの女性4名で構成される創作集団。1989年「聖伝-RG VEDA-」で商業誌デビュー。以降、少女漫画、少年漫画、青年漫画と多彩なジャンルにわたり多くのヒット作を世に放つ。主な作品に「東京BABYLON」「X -エックス-」「魔法騎士レイアース」「カードキャプターさくら」「ツバサ-RESERVoir CHRoNiCLE-」など。

「カードキャプターさくら展」に見る、展覧会初動時の2つのポイント
 

 

電通 出版ビジネスプロデュース局 関俊作氏
電通 出版ビジネスプロデュース局 関俊作氏
 

──皆さまの自己紹介をお願いします。

関:電通に入社以来20年以上、出版社と関わる仕事をしてきました。現在は、展覧会事業を幹事として計画するなど、投資も含めた出版社の課題解決を中心に手掛けています。展覧会事業ではプロデューサーとして、企画立ち上げ時は社内外のチーミング、会場確保、収支設計などを。企画推進時は各所全体調整役や、製作委員会のとりまとめを行っています。

南木:私はアーキテクトとして、店舗や展示などの「場を作る」仕事を中心に担当しています。「カードキャプターさくら展」「CLAMP展」は、電通のクリエイティブディレクターである中野良一から声をかけてもらい、空間デザインの担当として参加しました。私自身CLAMPさんの作品には子ども時代から親しんでいましたので、とても嬉しかったです。

松浦:講談社で作品のグッズやタイアップ、イベントなどのライツアウトを行うライツMD部とIPビジネス部を兼務しています。なので基本は漫画やアニメのグッズやコラボ・タイアップのライセンス業務を行っています。

ただ、CLAMP先生の作品に関しては少し特殊で、「CLAMPルーム」という編集部横断の組織が編成されていまして、私はルームメンバーとして、グッズに限らずイベント・アニメ・実写・舞台など、講談社で出版されているすべてのCLAMP作品の2次利用に関するプランニングを統括してプロデュースしています。

──2018年に開催された「カードキャプターさくら展」(以降「さくら展」)立ち上げの経緯を教えてください。

関:まず前段として、2014年に上野の森美術館で、講談社さんのコンテンツである「進撃の巨人展」を開催したんです。その際に当時の「カードキャプターさくら」ライツ担当の方から、同作を展覧会で盛り上げてほしいとご相談いただき、2015年には稟議書提出や会場確保等に動き出しました。

展覧会を開催する際、初動のポイントは2つあります。一つは、展覧会を通して達成したい「目的とコンセプト」を決めること。ビジネスとしての成功は目指しつつ、それとは別に「何を成し得たいのか」を明確にすることが大切です。今回もまずは講談社さんとの議論を通して「目的」を掘り下げてから、クリエイティブ側がどんな展示で見せていくかを、チーミングを含めて考えていきました。

もう1つのポイントが「会場」です。大型の展覧会の場合、会場を押さえるには開催時期の3年半くらい前から動かないと、枠が埋まってしまう。さくら展の時は、開催時期がまだ確定されていない段階から、森アーツセンターギャラリーをはじめとしていくつかの会場候補と、条件などの相談を始めました。

原画にたどり着くまでの導線も大事に。「親子でも楽しめる体験型展覧会」への挑戦

電通 フューチャークリエーティブリード室 南木隆助氏
電通 フューチャークリエーティブリード室 南木隆助氏

──さくら展の「目的とコンセプト」とはどのようなものでしたか?

関:「カードキャプターさくら」は1996年から始まった長い歴史のある作品ですが、展覧会を開催した2018年はちょうど新シリーズの連載をしているところだったので、講談社さんには、このタイミングで実施する展覧会の意味合いをどこに置くのか考えましょうと話しました。

その結果、初期からのファンは、子どもがいれば展覧会に連れてこられるくらいの年齢になっているはずなので、その層へのアプローチを目指したい。参加型のイベントにして、親子でも楽しめる体験をつくりたいとの話が出てきました。

この相談をした当時、まだ展覧会というと、学術的な雰囲気で原画をしっかり見せるイベントに捉えられがちでしたが、もう少しエンタメ性を強くして、みんながハードルを感じずに楽しめる「体験型」の展示を目指すことにしたのです。

──「親子でも楽しめる体験型」の展覧会は、それまであまりなかったと思います。クリエイティブチームとしては、このコンセプトをどう意識しましたか?

南木:CLAMP作品は世界観がとにかく素晴らしく、本展では原画もお借りできることが決まっていました。生の原画に力があるのは大前提ですので、クリエイティブ側としては原画を見るまでの体験の導線や、楽しめる要素をどう入れ込むかを大事にしようと話していました。

具体的には、「カードキャプターさくら」やCLAMP作品の社会的な意味づけを感じられる導線を設けたり、映像を見てもらったり、「花(フラワー)の部屋」という、来場者が花の形のシールを壁に貼って、自ら展示に「足せる体験」ができる要素を加えたんです。

そうした流れを構築することで、熱量の高いファンはもちろん、初めて見る方でも、同伴されたご家族でも楽しめる構成を目指しました。

苦心した「体験」の設計。指針としたのは「ファンにさくらをどう思ってほしいか」

講談社 松浦希氏
講談社 松浦希氏

──松浦さんが電通からの提案を聞いた際の、率直な感想をお聞かせください。

松浦:ご提案いただいた展示方法やアプローチが「カードキャプターさくら」の展覧会としてベストなのか、また家族連れや往年のファンの方、新連載の読者など、それぞれ求めるものが違うであろう来場者の方々にどう刺さるのか、正直想像がつかない部分がありました。というのも、企画当時は漫画作品の原画展というもの自体が少なく、「良かった展示」の事例やイメージがあまりにもなかったんです。

最終的に「魔法にかけられた美術館」というテーマを据えたことで、各ブースの展示・体験の形が具体化されていきましたが、関係者みんながイメージを共有できるテーマの設定が難しくもあり、重要でした。

──当時は珍しかった「体験」重視の展示だけに、事前にイメージするのは困難だったのですね。

松浦:例えば南木さんのお話にも出た「花の部屋」は、来場者が花のシールを壁にどんどん貼っていくことで、部屋自体の様子が変わるというコンセプトです。ただ当初は、日常生活で私と同じくらいの大人世代がシールを貼る体験はあまりないため、企画書の文字で見ただけでは、貼って楽しいのかが想像できなくて。「そのスペースがあるなら原画を飾った方がいいのでは?」と最初は反対したりもしましたね。

花の部屋

南木:提案するわれわれの側も、「本当に想定通りにシールを貼ってもらえるのか」というのはかなり大きな挑戦でした。リアリティをどう共有できるかがとても重要だと思っていましたので、さくら展では紙の企画書だけでなくて、模型なども作ってご提案をしていました。それでも「花の部屋」だけは、模型でも伝えるのが難しかったです(笑)。

松浦:私の主務であるグッズ開発では、大体の場合、色校正など実物のサンプルを確認することができ、全体像を把握できます。ところが展示となると、例えば壁のサンプルも10cm四方くらいでしか見られない。

さくら展では作中のさくらの衣装を実際にリアルクローズとして制作したのですが、生地のサンプルも5センチ四方くらいの小さいサイズです。手元の小さなサイズの紙や布では良い色だと思えても、実物大になったらやっぱり濃すぎたりするのでは……など、想像だけでさまざまなことを判断するのは非常に難しかったです。

衣装にしろ空間演出にしろ、「漫画の中にしかないもの」を実際に作るのは大変です。とにかく試行錯誤を繰り返しましたね。最終的には、「さくらをどう見せたいのか」「ファンの方に来てもらった時、どう思ってほしいのか」が作り手側でしっかりイメージできているなら大丈夫だと信じて、進めました。

──実際に完成した展示物を見た時の印象はいかがでしたか? 

松浦:衣装を展示した「包囲(シージュ)の部屋」については、企画書上で見ていた以上に実物の作り込みが素晴らしく、「クリエイティブチームはここまでのものを想像していたのか!」と良い意味で裏切られました。先生の原画がない空間が、果たして「もつ」のか不安だったのですが、杞憂(きゆう)に終わりました。特に大変だった衣装もとてもかわいくできていて、先生方にも「非常によかった」と言っていただけました。

「花の部屋」についても、来場者が貼り付けたシールでハートなどの図形が現れてきて、日々見える光景が違ってくる様子を見た時には、とても感動しました。全く想像できていなかった光景だったので、私の想像が浅かったと思いました(笑)。絵ではない形で「魅せる」ことができるのも展覧会の魅力だと分かり、私自身も「体験」というものの重要性・可能性を非常に感じました。電通さんに相談してよかったです。

さくら展からCLAMP展へ。“総合展”の難しさを打破する「コアにもライトにも届く」テーマ

左から電通 南木隆助氏、電通 関俊作氏、講談社 松浦希氏、

──さくら展から約6年後の2024年7月、今度はCLAMPの全作品を取り扱った「CLAMP展」が国立新美術館で開催されました。こちらの経緯をお聞かせください。

松浦:大阪でのさくら展が終了した時に、担当編集と私とCLAMP先生4人の計6人で打ち上げをしたのですが、その際に「またこうした展覧会をしたいね」という話になりました。さくら展がすごく良かったというお言葉はとても嬉しかったですし、もちろんまたやれたらいいなとは思ったのですが、似たような展覧会を再度開催するだけでは工夫がないなと思ったので、その場で思わず「CLAMP展はどうですか?」と言ってしまって。

言ってしまった以上は動かなくては!とすぐ関さんにご連絡したら、「CLAMP展はなかなか難しいですね」とクールな返事をいただいたのをすごく覚えています(笑)。

関:そこは純粋にビジネスサイドのお話で(笑)、イベントの世界では、総花的な“総合展”は、集客が難しいとよくいわれるんです。例えば雑誌単位の展覧会よりも、作品単体の方が人が来るというのは、私自身の経験則でもありました。作家単位のファンは、作品単位のファンよりもコアなイメージがあるので、簡単ではないと思ったんです。

それでも松浦さんの熱意を受け、私自身もさくら展の経験を基にさらなるアップデートをして、新しいチャレンジをしたい気持ちがありました。「おそらく前回と同じチームでなくてはできないし、同じチームでやりたい」と言ってくださったことがうれしくて、難しいと言いつつも断る選択肢はありませんでしたね。

──CLAMP展では、作家展でよく見られる時系列の展示ではなく、「COLOR」「LOVE」「ADVENTURE」「MAGIC」「PHRASE」と、「C」「L」「A」「M」「P」を頭文字にした5つ+2のテーマで部屋を区切り、多彩な作品を並べて見せているのが魅力的でした。こちらはどのように決まったのでしょうか?

松浦:最初は年代ごとに分けて展示する案もありました。けれど「CLAMP展」となると、全作品を読んでいる方も、一部しか読んだことがない方も来場されます。後者の方が来たときに、「自分が見たかった作品の展示は少なかったな。物足りないな」と思われてしまうのは避けたい。一方で、「CLAMP展」と作家の看板を掲げた以上、作品を絞るのも違う。結果、電通さんには「コアもライトも満足できる展示にしてほしい」という無理難題を投げかけました。そのためか、この5つのテーマに至るまでがかなり長かったですね。

南木:何案あったか分からないぐらいでしたね。半年以上をかけて資料を読み込んだり意見交換をしたりして、最終的に中野が5つのテーマで展示を区切っていく案を出しました。

松浦:本展の開催にあたっては「コアなファンも、この展覧会でCLAMP作品を知った人も、誰一人置いていかない体験にしたい」「展覧会の後に『読み直したい・知らない作品を読みたい』と思わせたい」という2つの強い希望がありました。難しいテーマでありながらも、そこに向かって全員が考え、ディスカッションを重ねた結果、素晴らしいアイデアが生まれたと思っています。

「原画の力」を信じてつくりあげた、アートとエンタメの融合

左から電通 関俊作氏、講談社 松浦希氏、電通 南木隆助氏

──国立新美術館(以降、新美と記載)での開催という点にも、ハードルがあったのではないでしょうか?

関:新美は非常に広く、天井も通常の倍以上高かったので、元々計画していた予算感だと展示がチープに見えてしまいかねない課題がありました。それに国立美術館との共催ということで、予算に厳密な上限がある中、そう思われないための工夫をいかにうまくやるかがとてもチャレンジングでしたね。

南木:全体的には、CLAMPさんの作家性と世の中にもたらした面白さをどう伝えるべきか、といった視点を大事にして展示構成を考えました。広い空間をどうしたらうまく使えるか勉強するために、CLAMP展への参加が決まって以降の新美の展覧会は、全て見に行きました(笑)。また、学芸員さんにもお話を聞きながら勉強しました。

当初は、さくら展のようにもっと体験的な企画がいいのではという意見もあったのですが、新美だからこそできる展示をと思った時に、「原画の力」を前面に打ち出す方向に振り切れました。私自身もさくら展では「原画の持つパワーをもっと生かせたのではないか」という課題を感じていたのです。

結果的に、その判断は間違っていませんでしたね。CLAMPさんからご提供いただいた描き下ろしの一枚を見た時に、「すごい、これを最後に出せるなら、いける!」と思えました。

描き下ろし原画

松浦:とはいえ、描き下ろしを展示した最後の部屋のデザインについては、最後まで難航しましたよね。最終図面では、原画の横にある白いカーテンに展示原画を拡大し出力したタペストリーが飾られていたんです。ところが、いざ設置のタイミングで南木さんと中野さんから「タペストリーはいらないのでは?」と言われて。工夫を凝らした展示を抜けたら、最後は原画1点だけという潔い展示になり、とても印象的になりました。

最後の部屋
南木:今回は最終的に腹をくくって「足さない」ことを決めた。それが非常に良い展示になり、良かったです。

松浦:今回、プロジェクトを通して、電通さんの「馬力」も感じました。中野さん・南木さんはじめ、クリエイティブチームの皆さんは、全CLAMP作品を読破して作品を読み解き、分かりやすく言語化・視覚化して、展覧会をブランディングしてくださりました。この途方もない作業を、限られた日程の中、高いクオリティでつくりあげる力に本当に驚きました。企画のテーマ設定はもちろん、キービジュアル、空間デザイン、原画の配置に至るまでこだわり抜く姿勢が素晴らしかったです。

──「さくら展」「CLAMP展」共に、来場者数もさることながら、Twitter(現X)で何度もトレンド入りするなど、ファンの満足度がかなり高かったように思います。ファンが喜ぶ体験設計ができたポイントは?

関:こうしたクリエイティブチームの組成時には、対象者や作品のファンであるメンバーを入れているのですが、一方であまり詳しくない「ニュートラル」な人間も必ずアサインしています。両方のタイプがいてこそ、ニッチにもライトになりすぎないチームになる。幅広い層にいい展示だと思ってもらうには、そのバランスが大事です。

例えば、ファンの方々の2次創作的に喜ばれるようなシチュエーションを展示で出すと、「こういうことは公式ではやってほしくない」と言われることがあります。ファンにしてみると、想像の余地も残しておいてほしい部分もあるはず。公式から押し付けることがないよう、ラインを守ることが大事だなと。この線引きは難しいのですが、ニュートラルに見られる人が意見を言ってくれて、良いバランスを保てました。

松浦:この展覧会に関わることでCLAMP作品を初めて履修したメンバーも、昔からのファンだというメンバーも同等に意見を言い合える、良い雰囲気作りができていましたよね。例えば新美の学芸員さんからは「アートとして見たときに、押しの絵ばかりだと疲れてしまうから、途中に抜きの絵も必要」といった美術視点のご意見をいただきました。結果として、全体的なコントロールと個々の熱意がうまくマッチした空間になったと思います。

鉄壁の転売対策と“品切れなし”を目指し、日々改善を続けた物販

──展覧会をビジネスとして成功させる要素の一つに、物販があると思います。CLAMP展では幅広い種類、膨大な数のグッズを展開し、転売対策もかなり徹底して、来場したファンに届けられていましたよね。

松浦:展覧会での体験を、唯一「形」として持ち帰ることができるのが、グッズですよね。さくら展の時、実は2日目で結構品切れ状態になってしまったことが、担当者として大きな反省点でした。展覧会のグッズはその時しか買えないからたくさん購入いただける一方、売れ残ったときは全て在庫になるので、制作側のリスクがかなり高いんです。とはいえ、根拠を数値化してメーカーさんを説得し十分な量を確保するのが私の仕事ですので、この点については、説得できなかった私の力量不足に尽きると思います。

さくら展の時とほぼ同じメーカーさんにグッズ開発をお願いしたのですが、メーカーさんもさくら展の品切れを反省されていました。そこで、全員が反省を生かして、今回はしっかりファンの方に届けましょうと、一丸となりました。

関:こうしたグッズは、各メーカーの商品が似通ってしまいがちです。CLAMP展では、使用する作品・アート(イラスト)をバランスよく分けながら、グッズの種類も含めて全体的なポートフォリオを組んでいた。これは相当大変な作業なので、松浦さんたちの熱意を感じました。

松浦:23作品全部を扱ってほしいという条件や、商品化のルールを細かく設定し、歴代のエンタメ展覧会で出された倍の量を作るくらいの計画を立てました。私たちライセンス側が決めていたのは、「来た人全員を取りこぼさない」こと。自分が欲しい作品のグッズがなかった……となるのは絶対避けつつ、品切れを起こさない数を用意することにも気を配りました。

物販窓口のムービックさんとは、公式サイトでのグッズ発表後にアクセス数を分析して、たくさんクリックされた熱量の高い商品は、開幕前の時点で追加生産の指示を各メーカーさんに出しました。おかげで会期途中の追加投入もかなりできましたね。

関:それと同時に、大量買いをされる熱量の高いお客さんの対応をどうするか、私自身の知見を含めて、守ってもらえるルールと告知方法、運営方法を考えました。

できるだけ多くの方にご満足いただくために、「ランダム以外の商品は1種類につき1つまで」などの個数設定や、「ショップ滞在の制限時間を設ける」「待っているときに整理券を引き換える」といったお待たせしない工夫など、細かな対応を、直前ギリギリまで検討して整えました。この点は、臨機応変に対応してくれた運営担当の力も大きかったと思います。

松浦:転売対策は、SNS上の声や現場で起こっていることを毎日キャッチアップして、関さんと連絡を取りながら日々改善していました。対応の早さは、ムービックさんと運営担当の方々、電通さんにとても助けられた部分です。

また、製作委員会で都度合意を取ると時間がかかるので、CLAMP展では大方針は製作委員会全員で策定しつつも現場の日々の判断は関さんと私に一任いただき、即断即決で動ける体制をつくりましたね。  

デジタル全盛の時代にこそ、リアルな「場」が体験価値を生み出す武器になる

──「体験×コンテンツ」という取り組みにおいて、今後の目標を教えてください。

松浦:海外にも展覧会ビジネスを広げたいです。日本で開催したままの内容ではなくても、世界に届けられたらなと。CLAMP展を開催し、改めて海外のお客さまの多さを認識しました。CLAMPさんの作品は性別・年齢を問わず、さらに国も越えてとても愛されていると、改めて実感しました。

今、出版社として、作品のファンからの「体験」へのニーズは強く感じます。イベントに限らず、出版以外の取り組みを、電通さんと一緒にチャレンジしていきたいですね。

南木:私はミュージアム(博物館)にすごく興味があります。できればCLAMPさんのような作家の、常設のミュージアムが作れるといいなと。新たな空間モデルの設計を含め、そこに行けば対象の方の作家性や、素晴らしさに触れられるような「場」を作っていきたいです。

関:僕は2つの目標を持っています。1つは南木が言ったような常設の施設で、作品やコンテンツを入れ替えながら、自分でブランディングしてキュレーションしていける場を作りたい。講談社さんのようなコンテンツホルダー含め、作品に関わる方々から喜んでもらえる場を持てたらと思います。

もう1つは、そうしたビジネスを北米・ヨーロッパに広げることです。僕が手がけてきた展覧会だけでも、アジアであれば巡回できるルートとパートナー、実績がたまっています。それを北米・ヨーロッパにまで広げ、展示会ができる現場を作れたらいいなと。こうした海外展開は、グローバル企業である電通の強みでもあります。アジアに限っても、原作原画の展覧会で巡回できている例は、ほとんどありませんから。

コンテンツの配信やオンライン上の展開が広がる中で、リアルな「場」があることは、作品に体験価値としてのプラスを生み出す武器になります。今後も展覧会の強みを追求してきたいですね。
 

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