カテゴリ
テーマ
公開日: 2023/02/03

デジタル社会を支える、日本のDX人材育成最前線(後編)

「DXを進めたいけど、それを担える人材がいない」「優秀なエンジニアを採用したいが、どこで出会えるか分からない」といった悩みを抱える企業は少なくないのではないでしょうか。急速に社会のデジタル化が進む中、人材不足が叫ばれている日本のエンジニア領域。世界を変える力を持った才能あふれる人材が、もっと日本に増えるようにと、エンジニアのキャリア支援や、企業とのマッチング事業を展開しているのが、株式会社サポーターズです。

前編に引き続き、代表取締役CEOの楓博光氏にインタビュー。エンジニア育成のために必要なこと、そして克服したい課題や今後の展望などについて聞きました。

独自のプロジェクトで優秀なDX人材の育成に成功

Q.日本におけるエンジニア不足を解決するためには、どのようなことが必要なのでしょうか?

楓:生産性の高い優秀なエンジニアをたくさん育てる必要があると思いますね。現在、エンジニアを志す学生は年間2万人程度しかおらず、その中でも学生時代から実際に手を動かして、ものづくりに取り組んでいる学生は10%程度(サポーターズ学生プロフィールデータより算出)といわれています。私たちは、この10%を20~30%、さらには50%程度まで増やしたいと考えています。

ただ学校で言われるままにプログラミングを学ぶ、コードを書く、というだけでは優秀なエンジニアは育たないと思っています。何のために作るのか、どうやって作るのかを自分で考えて、実際に手を動かして作ってみる経験が必要なんです。それによってスキルが磨かれますし、自分が学んでいることの価値や楽しさにも気付くことができます。ですから、私たちが注力しているのは、そういう機会をなるべく多く、学生に提供することです。

Q.そのために、サポーターズではどのような取り組みをされているのですか?

楓:当社がおよそ3年前から取り組んでいるのが、「技育プロジェクト」(ギークプロジェクト)です。「技術者を育てる(技育)」と英語の「GEEK(卓越した知識がある、という英語のスラング)」が掛けられており、さまざまな学生に専門的なスキルを身に付けるための「インプット」と「アウトプット」の機会を提供し、そのサイクルの中で未来のエンジニアを育もう、というものです。

プロジェクトは主に4つの柱で成り立っています。まずは「技育CAMP」(ギークキャンプ)。月1回のハッカソン(短期間に集中して、プログラミング作業などを行うイベント)や勉強会を開催し、ものづくりを楽しむ経験をしてもらいます。2つ目は、「技育展」。これは、世の中に対して価値があるものをつくり、発表してもらう経験を提供するピッチコンテストです。3つ目は学生向けとして国内最大級のテックカンファレンスである「技育祭」。著名な研究者、技術者にもゲストとして登壇いただいています。そして最後は、「技育博」。エンジニアを目指す学生団体が集まって、それぞれの活動内容を共有する交流イベントです。

高校生や大学生のうちから、このような経験を積み重ねると、社会人になるときには通常のエンジニアの何百倍ものアウトプットができる、DX人材が創出されるのです。

Q.普通は社会人になって初めて経験するようなことを、学生のうちから体験できてしまうわけですね。実際、「技育プロジェクト」を通して若手の人材が育っている実感はありますか?

楓:プロジェクト開始から3年ほどが経過しましたが、間違いなく育っていると感じています。また、1人の学生の人生を変えるような働きかけになっている、という実感もありますね。例えば、ある学生は友人が「技育展」に登壇したのを見て興味を持ち、技育プロジェクトに参加してくれるようになったのですが、周りの友人を巻き込みながら「技育CAMP」のハッカソンに何度も挑戦。着実に力を付けていって、ついには「技育展」で最優秀賞を獲得するまでに成長。その後は就職活動でも名だたる企業から内定をもらい、希望する進路にも進むことができたそうです。

これはあくまで1つの事例に過ぎませんが、このようなことは実際に増えてきています。技育プロジェクトが、DX人材として社会に出るきっかけになっている。そういった学生の話を聞くと、ここまで取り組んできて良かったと手ごたえを感じますね。

株式会社サポーターズ 楓 博光氏

外からの見られ方を変えれば、エンジニアの世界が変わる

Q.エンジニア不足を解消するだけでなく、学生個人の「人生」にまで、良い影響を与えている、素晴らしいことですね。そんなサポーターズの今後の活動の展望や、目標とする世界観を教えてください。

楓:もっと多くの学生、多くの企業に広げていきたいですね。このような活動は企業の協力が不可欠ですから、企業にカンファレンスをしてもらうとか、「技育CAMP」でメンターや審査員をしてもらうとか、そんな企業×学生の機会を、もっと増やしていきたいと考えています。採用活動には力を入れていても、学生を育てることにまで手が回らない、と考えている企業も多いかもしれませんが、DXを進めていくなら、エンジニア育成は「経営課題」と考えてもいいくらい、重要な話だと私は思っています。

また、私たちにとって今メインのターゲットは、社会に出る一歩前の就活生ですが、将来的にはもっと手前のところからエンジニアの卵を育てることも視野に入れています。つまり、現状は高校生や大学生が中心ですが、ゆくゆくは小中学生のレベルまで啓発をしていかなければならないと考えているということです。一方で、就職した後の学びも重要。社会人になってからも学び続けてスキルを磨いていく環境を整えるのも、サポーターズの役割かなと。しかし、そこはやはり、当社だけでは難しい部分でもありますから、企業の皆さんと協業して、取り組んでいきたいですね。

Q.ここまでお話を伺っていると、エンジニアが世界を変える可能性を持った魅力的な職業であることは明白ですよね。しかしその事実は、まだまだ学生側に認識されていないような気もします。そんな課題に対し、サポーターズで取り組んでいることはありますか?

楓:おっしゃる通りで、エンジニアの見られ方からまずは変えていかないといけないと思っています。エンジニアをスター化すること、かっこいい仕事なんだというイメージを持たせることは非常に重要です。どちらかというと、エンジニアは「縁の下の力持ち」という認識があるかもしれませんが、エンジニアを目指す学生たちに対して、「君たちはど真ん中で活躍できる人材なんだよ」と伝えることも大切ですし、世の中にもそういう発信をしていかないといけないと考えています。

エンジニアの育成と彼らが活躍できる環境づくりを、企業や国の力を借りながら、日本の大きなうねり、大きな変革にしていきたいですね。2030年に80万人のIT人材が不足するともいわれていますが、この日本の大きな社会問題を解決することに、力を尽くしていきたいです。

 


 

IT人材の育成は、1社のプロジェクトだけで解決する小さな課題ではありません。各企業や国が積極的に解決へと乗り出さなければならない、日本社会における大きな課題です。

もし、「自社にはIT人材が足りない」「優秀なエンジニアを獲得できない」という悩みを抱えている経営者や人事担当者がいれば、「人材を育成する」という視点を持つことも、1つの手かもしれません。短期的な課題解決にはつながらないかもしれませんが、中長期的に見たときに、自社の将来に良い変化をもたらすのではないでしょうか。

※掲載されている情報は公開時のものです

この記事は参考になりましたか?

この記事を共有

著者

楓 博光

楓 博光

株式会社サポーターズ

代表取締役

慶應義塾大学在学中に、就活支援を行う株式会社レセオを仲間とともに創業。大学卒業後、大手広告代理店に入社し、営業を担当。ベンチャー企業に転職し、人事を経て2012年に株式会社サポーターズを創業。現在は国内最大のエンジニア学生ユーザーを抱える採用支援サービスを運営する傍ら、未来の “技” 術者を “育” てる「技育プロジェクト」など育成にも取り組む。これまで7万人を超えるエンジニア学生の就活、約1,000社の新卒エンジニア採用を支援。

あわせて読みたい