全国のローカルテレビ局の動画コンテンツを集積・整理する「ローカルコンテンツバンク」
2025年11月19日(水)~21日(金)、幕張メッセでメディア&エンターテインメント産業分野における日本最大級の総合イベント「Inter BEE 2025」が開催された。会場では、業界のエキスパートが意見を交わす「Inter BEE FORUM 特別講演」を実施。本記事では、19日(水)に行われたカンファレンス「ローカルコンテンツが拓く、地域価値最大化戦略 ~テレビ発地域イノベーションの可能性~」の模様をお届けする。
セッションには、各地のローカル局の動画コンテンツを集約し、その魅力を可視化・体系化する「ローカルコンテンツバンク(LCB)」に関わるメンバーが登壇。放送サービス高度化推進協会(A-PAB) 業務執行理事 安田隆二氏、北海道テレビ放送社長室 阿久津友紀氏、毎日放送 経営戦略局 齊藤浩史氏、テレビ西日本 事業企画局 尾野上敦氏、テレビ宮崎 コンテンツビジネス局 大山真一氏をパネリストに迎え、dentsu Japanグロースオフィサー須賀久彌氏の司会により、実証実験を通して見えてきたローカルコンテンツの可能性について議論した。
ローカルコンテンツを“ためて、ととのえる”
「LCB」は、全国各地域の民放テレビ局が制作するローカルコンテンツを横断的に集積。特定のキーワードに基づき、“局を横断したコンテンツの束(プレイリスト)”を生成し、配信プラットフォームに提供する、ローカルコンテンツプラットフォームだ。「LCB」はA-PAB協力のもと、2023年度から実証実験が行われ、全国ローカル局の情報コンテンツをテーマ別に集めた動画をTVerで配信している。
「LCB」の企画背景には、民放ローカル局が果たす役割の変化があると、毎日放送 齊藤氏は言う。これまでローカル局では、首都圏の情報にご当地情報をプラスし、放送エリア内の視聴者に向けて発信する“内向き”の地域性により広告費を獲得してきた。だが、近年はテレビ広告費の縮小、高齢化や人口の減少にともない、ローカル局のあり方が変わりつつある。外国人観光客や地域に多様かつ継続的に関わる関係人口を増やして活性化を図るためにも、その地ならではの特性を深く理解し、魅力を生かした地域ビジネスの振興が求められている。
こうした現状を踏まえ、齊藤氏は「これからのローカル局には地域外に向けて情報を届ける“外向き”の発信力が必要」と主張。「ローカル局が制作する情報番組は、『この店に行ってみよう』と視聴から行動を促すコンテンツです。こうした地域情報コンテンツをデジタルで扱いやすくし、国内外にネット配信すれば新たな価値が生まれるのではないか」と語った。
そこで始まったのが、「LCB」の取り組みだ。一言でいうと“コンテンツをためて、ととのえる”。ローカル局の番組から食べ物や店舗、観光スポットなどの地域情報を抜き出して“ためて”、AIを活用してタグやキーワード、概要文を付与して“ととのえる”。そのうえで、タグに基づきプレイリスト化した“コンテンツのメザシ(串を通して束ねたもの)”をTVerなどの配信プラットフォームに提供するという仕組みだ。今後の新機能として、AIによるコンテンツの全文書き起こしや字幕データの生成も検討されている(本号発行時点で実装済み)。
「LCB」は、動画をアップロードしてメタ情報を付与する「メタサポートシステム」と、プレイリストの作成・編集・出力を行う「カタログサイト」、2つのシステムで構成されているのも特徴だ。壇上では、テレビ宮崎 大山真一氏による両システムのデモンストレーションも行われた。
実証実験で見えてきた、行動喚起の可能性
北海道テレビ放送 阿久津友紀氏からは、TVerにおける実証実験について説明があった。2025年度は全国63局が参加し、「特選!“街ネタ集”」として約150本の動画を公開。中でもエリア別の「全国ラーメン図鑑」はPV数が伸び、約3カ月で4320回とローカル局の情報コンテンツとしては評価すべき再生回数に達した動画もあった。また、お盆の時期にPV数が増える、エリア外の視聴者も一定の割合を占めているといった傾向も見られた。
この結果に阿久津氏も、大きな手ごたえを得たと言う。「ドラマなどのプレミアムコンテンツではないローカル情報コンテンツは、これまでは一度放送したら終わりでした。ですが、地域別、テーマ別にまとめれば、地域にとっても地域を訪れる人、関心を持つ人にとっても価値がある。正しく翻訳すれば、インバウンドや外国人居住者のニーズも見込めますし、たまたま流れてきたコンテンツとの偶然の出会いが、その地域を訪れるきっかけになるかもしれません。さらに、SNS短尺コンテンツやデジタルサイネージへの活用にも期待できます」と意欲をのぞかせた。
1局ではできないことを、みんなの力で
セッション後半では、実証実験を踏まえ、「LCB」の今後についてディスカッションが行われた。新規事業開発やスタートアップ支援に携わるテレビ西日本 尾野上敦氏は、「LCB」は「全国のローカル局の思いから生まれたスタートアップ」だと分析。「従来のテレビ放送は継続しつつ、配信エリアをさらに拡張するためには業務効率化(DX)と新たなインフラへの投資が必要です。1局ではできないことを、各局で力を合わせて実現し、ローカル局の課題解決につなげられたら」と提案した。
一方、須賀氏は「LCB」の社会実装には、2つのポイントがあると指摘した。1つは各局による費用負担。これに対し、阿久津氏は「月額5万円以内に抑える」と明言し、大山氏は「『メタサポートシステム』にアップロードした動画コンテンツは、自社のホームページやYouTubeチャンネルでも配信できる。外部への提供だけでなく、自社サイトをリッチに見せるといった活用価値もあります」と費用対効果の高さをアピールした。
もう1つのポイントは、ビジネスパートナーの開拓だ。実証実験ではTVerでの配信を行ったが、尾野上氏によると国内配信サービス以外にも旅行会社、交通系企業からの引き合いがあるそう。
さらに、海外展開にも可能性があると阿久津氏。10月に開催された映像産業の国際カンファレンス「Northeast Asia Video Summit 2025 -Japan and Korea」の講演では、大きなリアクションを得たという。「海外の方からは『日本の映画やアニメ、ドラマを観る機会は多いが、地域情報コンテンツはほとんど海外に流通していない。あなたたちはプレミアムコンテンツではないと言うが、情報をまとめればプレミアムな価値が生まれる。自信をもってほしい』と言われ、すでに商談も進んでいます。私たちはプラットフォーマーではなくコンテンツバンクです。より多くの提供先を増やすことで利益拡大を目指していきたい。また、『LCB』の仕組みを使い、災害時などの配信強化にもつなげられたら」と語った。
営業や商談を進める過程では、企業からの要望もあったという。大山氏は「海外でコンテンツを配信している企業からは、各国のトンマナに合わせた動画を求める声も。テロップが入っていない素材、素材の一部だけがあったらうれしいとの要望もありました。さまざまな意見を聞きながらビジネスにつなげる方法を検討しているところです」と話した。
実証実験の機会を提供したA-PAB 安田隆二氏も、「2024年度は55局、2025年度は63局、つまり全国のローカル局の半数以上が系列を超えて参加してくださいました。これだけ集まれば、『LCB』は公器になり得ます。各社とリエゾンしながら新しい仕組みを作っていきたい」と期待をのぞかせた。
セッションの最後には、「LCB」の社会実装に向けて登壇者からメッセージが寄せられた。尾野上氏が「ローカル局は日本だけでなく世界各国にあります。『LCB』が世界のローカル局にとって、ビジネスのヒントになればうれしいです」と語れば、大山氏は「ローカル局が社会の信頼に応え、地域社会に貢献することは最重要課題。ローカル局が地域情報を発信し、視聴者が実際に足を運んで購買行動を起こすことで、地域経済の発展にもつながります。ローカル局が地域プロデュ―サーになれるよう、『LCB』がハブになれたら」とコメント。
齊藤氏は絵本を例に、「ローカル局が1局でできることには限界があります。ですが、『スイミー』で小さな魚が集まって大きな魚を追い払ったように、同じ課題を持つローカル局がまとまることで可能性が大きく広がります。『LCB』がローカル局と海外をつなぐハブになり、展開を広げていけたらと思います」と語った。
阿久津氏も、各局が手を携えることの大切さを主張。「SDGsを簡単に言い換えると“みんなで協力、みんなで幸せ”です。『LCB』がローカル局の強みの1つとなり、持続可能な活動となるよう、放送局はもちろんそれ以外の皆さんとも協力していきたい」と意気込みを述べた。
最後に、ファシリテーターのdentsu Japan 須賀久彌氏は、より多くの企業が協力することで「LCB」の価値も増すと強調。今後もセミナーなどの機会を通して、「LCB」の理解を深めていきたいと抱負を語り、特別講演は幕を閉じた。
これまで、ローカル局が取材・制作した情報番組のコンテンツの多くは一度放送されたあとは日の目を見る機会がなかった。また、その一度の放送を観ることができる人も限られていた。だが、「LCB」を通した情報コンテンツの再利用により、新たな価値が生まれることが期待される。視聴者離れやリソース不足など、ローカルテレビ局が抱える課題を解決する切り札となりそうだ。
開催概要
名称:Inter BEE 2025
主催:一般社団法人 電子情報技術産業協会
開催日時:2025年11月19日(水)~21日(金)
会場:幕張メッセ
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