loading...

電通報ビジネスにもっとアイデアを。

カンヌライオンズ2015⑤
「ハイネケン」がクリエイティブ・マーケターに
選ばれる理由

2015/08/06

    2015年カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバルで、「クリエイティブ・マーケター・オブ・ザ・イヤー」の栄誉に輝いたハイネケン。同社のクリエイティビティの源泉について、グローバル・コンシューマー・ブランドPRマネジャーのデービッド・ピュー氏に聞いた。

    ―クリエイティブ・マーケター・オブ・ザ・イヤー受賞、おめでとうございます。クリエイティブに対する取り組みや成果が高く評価されたわけですが、ズバリお聞きします。ハイネケンにとって「クリエイティビティ」って何ですか?
    ズバリお答えします(笑)、私たちのDNAです。わが社の活動全てに通じる基本理念、創業の精神ともいうべきものですね。人材の発掘や育成においてもクリエイティビティを大変重視してきました。その点で、マーケティング戦略以上の意味を持っていると思います。社員の好奇心や創作力、起業家精神を奨励し、常に革新的なアイデアに投資をしています。その結果、ブランドにしっかりとしたストーリーが生まれ、世界中の消費者と関わり合い、関係性を広げ深めることができました。まさに、わが社にとって、競争優位の原動力といえますね。  

    ―ライオンズフェスティバルのフィリップ・トーマスCEOは授賞理由の一つに、「組織の隅々まで息づくクリエイティビティと、ブランドのコア・エッセンスを保ちながらさまざまな実験を可能にする組織体制」を挙げています。
    はい、私たちはコミュニケーションやブランディングに取り組む場合、クリエイティビティを抑制するのではなく、それを促進するユニークなアプローチを取ることを常に心掛けています。ブランドの核となる価値を守りつつ、人々の好奇心をかき立てるような革新的でパワフルなアイデアに挑戦する。私たちはそうした新しいアイデアの力を信じています。

    ―新しいアイデアに挑戦したり、それを実現するための社内制度も大変充実していると聞きます。
    そうですね、いろいろあります。代表的なものでは「Global Commerce University」という学習プログラムですね。クリエイティビティを中心に据えた内容で、グローバルに実施しています。既に6000人近くの社員が修了しました。
    この他、イノベーションプログラムも継続的に実施しています。新たに導入したものとしては「TALENT LAB: Moderation」というプログラム。5カ国から若い才能を選出し、クリエイティブな発想を促すものです。課題はシンプルで「責任ある飲酒をカッコよく見せる」こと。バーやクラブなどでの節度を持った飲酒を啓発するためのアイデアを競わせます。発想の革新性やクリエイティビティ、実効性を評価し、最も優れたアイデアを実際にキャンペーンとして展開します。

    ―クリエイティブ案を議論するとき、10段階で各案を評価するそうですね。それが、高いクリエイティビティを維持していると。
    ええ。「クリエイティブ・ラダー」という評価スケールのことですね。低い方から順に、1.Destructive(ブランドにとって悪い意味で破壊的な)2.Hijacked(制御不能な)3.Confusing(紛らわしい)4.Cliché(陳腐な)5.Ownable(成立し得る)6.Fresh(新鮮な)7.Groundbreaking(斬新な)8.Contagious(拡散する)9.Cultural Phenomenon(文化的現象)10.Legendary(伝説的な)となっています。クリエイティブに対する感じ方はとても主観的なものですから、それぞれが意見を言うだけでは議論はなかなかまとまりません。そこで、評価を言語化したスケールを取り入れたのです。4以下はあり得ないという厳しい評価です。私たちは7以上のものを追求するようにしています。

    ―その他に、成功の秘訣のようなものはありますか。
    私たちはとにかく、人をあっと言わせることが好きなんですね。インパクトがあって、人々の記憶に残るコンセプトやキャンペーンをつくることが楽しいんです。エンターテインメント性に富むけれども、振り返ってもう一度考えさせるような、あるいは、社会さえ変えてしまうきかっけにもなるような、そんな体験とストーリーを提供したいと思っています。

    ―カンヌでも、刺激的なセミナーやセッションを精力的に展開されていましたね。
    「Thirst for Creativity」(クリエイティビティへの渇き)をテーマに、大会場でセミナーを開催した他、小会場でもボトルデザインに関するワークショップを行いました。参加者のネットワーキングの場「カンヌ・コネクト・バー」では、灼熱の太陽の下、冷えたビールを今年も振る舞いました。初めての試みとしては、ライブ動画アプリ「ペリスコープ」でライブQ&Aを実施したこと。ワークショップでもプレゼンテーションをした、デザイン部門のグローバルヘッドが出演しました。

    ―とても奇抜なコスチュームとヘアメークのキャンペーンガールが目立っていましたね。ブランドデザインの一貫性、そして、普遍の中に革新をもたらすクリエイティビティを、強く感じました。最後にひとこと、カンヌ体験を充実させるためのアドバイスを。
    オープンマインドで、いろいろな企業や人々の話を先入観なく聞くこと、でしょうか。カンヌでの1週間は、ビジネス界のトップたちが集う最高の場所ですから。

    ―今日はありがとうございました。


    ハイネケンの代表的なキャンペーン

    「ニューキャッスル・ブラウン・エール」ビールの「If We Made It」(2014年1月23日~2月2日)

    広告料金が世界一高額といわれる米NFL(全米プロフットボール)の王座決定戦スーパーボウル。2014年の30秒スポット料金は400万ドルだった。この舞台で巨額の広告費を掛けずにコミュニケーションを展開するために編み出されたのが「If We Made It」(もしも制作したなら)。予算が潤沢にあったなら作ったであろう、架空のスーパーボウル広告のストーリーボードやメーキングビデオなどをフェイスブックで展開し、大きな成果を挙げた。フェイスブックを効果的に活用した作品を顕彰する、2014年「フェイスブック・スタジオ・アワード」の最高賞「ブルーアワード」に選ばれた。

     


    バックナンバー
    ♯01 Year of Convergence~集結の年
    ♯02 電通社員スペシャルリポート~太田祐美子&日塔
    ♯03 CMOの本音に迫った「Wake up with The Economist」
    ♯04 先駆者ジム・ステンゲル氏に聞く、カンヌ参戦成功への方法論