カンヌライオンズ2015③
CMOの本音に迫った
「Wake up with The Economist」

  • Daniel profile
    Daniel Franklin
    英エコノミスト誌 エグゼクティブエディター

マーケティングにおいてデータやテクノロジーの比重が増すにつれ、広告主企業のクリエティビティへの向き合い方にも変化が生じている。広告主企業からのカンヌ参加者は増加の一途で、今や3000人と全体の4分の1を占めるまでになった。マーケティングの最高責任者であるCMO(Chief Marketing Officer)ら幹部も続々カンヌ入り。 

英エコノミスト誌(http://www.economist.com/)は今年、セッション「Wake up with The Economist」でカンヌデビュー。171年の歴史を持つ名門メディアの求心力で、グローバル企業を中心に業界注目のマーケティング責任者を毎朝3人ずつ5日間、計15人集めた。業界や自身が直面する課題、クリエイティビティへの挑戦をめぐるディスカッションの模様を、モデレーターを務めた同誌エグゼクティブ・エディター、ダニエル・フランクリン氏に聞いた。

―エコノミスト誌がカンヌでプログラムを主催するのは、今年が初めてということですが、なぜカンヌに参加しようと思ったのか、そこから聞かせてください。
理由は二つあります。まずは、カンヌのダイナミクスを理解すること。それから逆に、私たちエコノミストについても理解してもらいたい、と思いました。皆さんがご存じなのは、週刊経済誌としてのエコノミストですよね。でも私たちは、イノベーティブなことにもたくさん取り組んでいます。例えば、毎朝ニュースを届けるスマホ向けアプリ「エコノミスト エスプレッソ」(http://www.economist.com/digital)。これは、昨年11月にスタートしました。また、ドキュメンタリーフィルムの制作も行っていて、この6月に「エコノミスト フィルム」(http://www.economist.com/films)を立ち上げました。こうした取り組みについて知ってもらい、ブランド認知を高めたいと思ったのです。

英エコノミスト誌
エグゼクティブエディター
ダニエル・フランクリン氏
ビジネスと政治を専門分野とし1983年からエコノミスト誌記者として活躍。ソ連崩壊からマーストリヒト条約調印、クリントン政権などの取材に当たる。2006年から現職。世界40カ国以上で毎年発行の同誌特集「The World in・・・」(今年はこうなる)の編集も担当

―そのためのアイデアが、Wake up with The Economistということですね。
はい。エコノミスト エスプレッソと同様に、1日の始まりに刺激となるコンテンツを提供したいと考えました。カンヌのビーチで毎朝、CMOら3人をゲストに招き、カンヌのメインテーマであるクリエイティビティに対する挑戦について考えを聞きました。テクノロジーの進化により環境変化が著しい今日、彼らが直面する問題に対してどのように取り組んでいるのか、素晴らしいセッティングとリラックスしたムードの中、オープンかつ率直な意見を聞くことができました。毎日定員いっぱいとなり、なかなか突っ込んだ質問も出て、評判になったと思います。ゲストの顔触れを見ればそれも当然かもしれません。デル、ハイネケン、ハーシー、マース、マスターカード、マクドナルド、ミラークアーズ、モンデリーズ、ネスレ、G、ウォルト・ディズニーといったグローバル企業をはじめ、空き室賃貸サイトの米エアビーアンドビーといった革命的な企業も紹介しましたから。

―文字通り、世界をリードするCMOらが集まりました。共通して聞かれた課題は何ですか。 
いろいろありました。まずは単純に、変化のスピードが速くて、ペースについていくのがとにかく大変だということ。皆、口をそろえて漏らしていました(笑)。大変だけれども、デジタルをマーケティングの中心に据えねばならない、という考えで一致していました。とはいうものの、データやテクノロジー以上に大切なことがある、それは消費者インサイトだ、ということでした。素晴らしいキャンペーンには必ず優れたインサイトがあるものだと。
それから、クリエイティブな人材確保が共通の課題として挙がると同時に、組織として、クリエイティビティを制限する壁を打ち破る必要がある、ということが強調されていました。その壁というのは、保守的な考え方やアプローチといったものから、官僚的な組織体制や手続きなど、そのレイヤーはさまざまあると意識されていたようです。かつて大企業で働き独立して新規事業を成功させたあるCMOは、「以前の会社に戻って変えるとすれば何を変えたいか」と出席者から質問され、「クリエイティビティを邪魔する何層ものお役所的な体制を変えたい」と回答しました。象徴的ですね。

―こうした課題に、CMOたちはどのように対応していると感じましたか。
CMOを悩ます課題は確かに進化し拡大していますが、多くの場合、折り合いをつけることができるという印象を持ちました。問題はいかにバランスを取るかです。例えば、膨大なデータを活用しても、データが「クリエイティビティを抑えつけるハンマー」にならないように注意する必要があります。大胆さは大事だけれども、愚かであってはなりません。グローバルなスケールメリットを強化しつつ、ローカライズすることも大切なことです。同時にはっきり示されたのは、基本を忘れてはならないということ。その基本とは、コアインサイト、消費者の心に響くアイデア、ブランドの一貫性に他なりません。

―ディスカッションを通じて、数多くの名言が発せられたと思います。とりわけ刺激を受けた言葉を紹介してください。
たくさんありましが、そうですね、二つ紹介しましょう。一つはマクドナルドのシニアディレクター、マット・ビースピール氏が言った「If you’re safe, you’re dead.」(安全と感じるようなら死んだも同然だ)。慎重になり過ぎず勇気を持って行動しなければ、進歩はない。しかし、ブランドを見失ってはならない。「ブランドストレッチ」をしながら「ブランドフィット」させることが大事だと。とても共感しました。そして、P&Gのチーフ・ブランド・オフィサー、マーク・プリチャード氏の「テクノロジーが多くの扉を開けてくれたおかげで、私たちはマーケティングの黄金期にいる」という言葉。大きなチャンスが目の前にあるが、環境変化が激しく競争も激烈なために、このチャンスを生かすことはなかなか容易ではない、という認識を示したものですね。これはまさに、一連のディスカッションの本質を突いていると感じました。

―セッションの終わりには、大勢の参加者がパネリストを囲むなど、カンヌの日差しよりも熱く議論が交わされましたね。カンヌでの初の試みについて、最後に、手応えを教えてください。
もともとトライアンドエラーというか、うまくいくかどうか試しにやってみて、反応を見ながら勉強しようと思って始めました。カンヌでは、急速に進化するメディアのランドスケープを実感しました。大きな収穫は、私たちのチャレンジ―示唆に富んだコンテンツをさまざまな形で提供しようというチャレンジが、この風景に合致することを確認できたことです。エコノミストのブランド認知の点でも、成果があったと感じています。とても良い実験になりました。

―また来年、さらにパワフルになったセッションを期待しています。ありがとうございました。

 

 

パネリストの印象的な発言の数々を紹介します。
*Wake Up with The Economist に関する記事は、エコノミストグループのマーケティングブログ「Lean back」(http://www.economistgroup.com/leanback/)に掲載されています。


Pete Blackshaw, Global Head of Digital & Social Media, Nestlé S.A
“The consumer journey is the new heart and soul of marketing. The CMO of the future plays a very important role in defining that.”
消費者との関わりはマーケティングの新しい核心要素だ。これからのCMOはその定義を決める重要な役割を担っている。


Bruce McColl, Chief Marketing Officer, Mars
“The way the world shops today is changing at a rate that is unprecedented. Especially for FMCG the lines between sales and marketing have never been more blurred.”
世界中で人々の買い物の仕方が過去に例のない速さで変化している。特に日用消費財業界では、セールスとマーケティングの境界線がこれまでにないくらい曖昧だ。


Jonathan Mildenhall, CMO, Airbnb
“Global brands are being born from young organisations because there are the political frictions and legacies that stop older organisations driving ideas forward.”
グローバルブランドは新規事業から生まれている。なぜなら、古い企業にありがちな、アイデアを形にすることを阻む政治的摩擦やレガシーがないからだ。


Laurent Faracci, SVP, Global Marketing and Digital Excellence, RB
“Who is the boss? The consumer is the boss, and the consumer is local.”
ボスは誰だ? 消費者がボスだ。そして消費者は、地域に根差した存在だ。


Anna Hill, Chief Marketing Officer, The Walt Disney Company UK and Ireland
“Data has helped us show up with the right solutions for people. But how you build resource to interpret data is an enormous challenge.”
人々が求めるソリューションを提供するためにデータは大いに役に立っているが、データを分析・解釈するためのリソースを構築するのは、とてつもなく大きな挑戦だ。


Gannon Jones, Head of Brand Marketing, Miller Coors LLC
“The beer industry has spent a lot of time on the broadcast side of the business – each year, that is becoming less and less relevant.”
ビール業界はこれまでにテレビ広告に膨大な時間をかけてきたが、その適切性が年々少しずつ薄れてきている。


Allison Dew, Vice President, Client Solutions Marketing, Dell
“We are still in the game of changing people’s minds. Without a good idea we will never do that – regardless of the technology or media.”
今でも人々の考え方を変えるというゲームに挑戦しているが、優れたアイデアなしでは、どんなテクノロジーやメディアを使ってもそのゲームには勝てない。


D. Michael Wege, Senior Vice President, Chief Growth and Marketing Officer, Hershey
“Ideas flourish when the mission is clear, well scoped and not constantly changing direction.”
ミッションが明確で徹底的に調査され、方向性がコロコロ変わらなければ、アイデアは花開く。


Chris Miller, DVP Global Brand Strategy and Innovation, Abbott
“Data can remove us from the human connectiveness that is essential to marketing.”
データは、マーケティングに不可欠な人間同士の絆からわれわれを切り離してしまうことがある。


Marc Pritchard, Chief Brand Officer, P&G
“I have a very simple test. Does it make my spine tingle? With #LikeAGirl, it was tingling all over.”
私には非常にシンプルなテストがある。背中がゾクゾクするかどうか、というテスト。#LikeAGirlを見た時は、背中全体がゾクゾクした。


Soren Hagh, Executive Director Global Marketing, Heineken
“Keep clearly in mind that the basics of marketing are not going to change, but realise that everything we know about consumers will change. Unless we get under the skin of what’s changing, we will lose.”
マーケティングの基礎は変わることはないことをしっかりと頭に入れておきながら、消費者に関する知識は変わることを認識しよう。変化の根底に迫ることができなければ競争に負けてしまうだろう。


Dana Anderson, Senior Vice President and Chief Marketing Officer, Mondalëz International
“If you don’t like the rollercoaster, don’t be in marketing.”
ジェットコースターが嫌いな人はマーケティングには向かない。

 

プロフィール

  • Daniel profile
    Daniel Franklin
    英エコノミスト誌 エグゼクティブエディター

    ビジネスと政治を専門分野とし1983年からエコノミスト誌記者として活躍。ソ連崩壊からマーストリヒト条約調印、クリントン政権などの取材に当たる。2006年から現職。世界40カ国以上で毎年発行の同誌特集「The World in・・・」(今年はこうなる)の編集も担当。

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